Not Friends
第5話 戦乱の足音
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「え? シリアがそんなことを?」 リンが卵白を泡立てる手を止めて言う。 「え? ええ」 予想外の反応にバナナの皮を剥く手がとまってしまうフェイル。 格納庫とは別世界のような、感情のこもった言葉が行き交うキッチン。そこでリンとフェイルは料理をしていた。 作っているのはバナナマフィン。最初はリン一人で作っていたが、そこにヒョッコリとフェイルが現われたのだ。 フェイルはいつも今ぐらいになるとキッチンに来る。その理由はリンと会話をするためだ。 このトレーラーで生活し始めてからは、普通の会話をする機会が少ない。リン以外の女性たちとの会話は妙な緊張感があり、心が休まらないのだ。だから、リラックスするためにリンのもとへ訪れ、会話を交わしにくるのは、自然だと言えるのではないだろうか。 もちろんリンは彼に好意を持っているのだから、話し相手になるのが嫌な訳はない。そんなことが数日続くうちに、料理をしているリンに、ただ話をするだけでは申し訳ないという気持ちを持ったフェイルが手伝うと言い出した。もちろんリンは遠慮したが、頼み込むフェイルを断りきれもしない。 結局、夕方近くになると、夕食を作っているリンを手伝いにいくというのが日常になっていた。 「本当なんですか?」 リンはもう一度確認するように言う。 「ええ……」 リンが驚いたのは、格納庫での出来事をフェイルから聞いたためだ。 「そんな驚くことなんですか?」 「驚くことですよ!」 フェイルの問い掛けの返事は、言い終える前に興奮した口調で返ってきた。 「シリアが質問をしてもいいなんて……、私なんて半年も一緒に暮らしてたのに、まともな会話すらしてないんですよ?」 「そ、そうなんですか?」 興奮して言葉を続けるリンに対して、フェイルはどう反応すればいいのかわからない。自分はこんな会話しかできなかったんだと言うつもりだったので、ここまで驚かれるなんて夢にも思っていなかったのだ。 「もしかしたらシリアはフェイルさんに心を開いてくれてるのかもしれませんね」 「……え?」 リンのその一言を聞いた直後は、驚きが優先していてキョトンとしていたが、少し時間が経つと顔がほころんでいく。 「……そうですか」 自分の努力は無駄ではなかった。そう思えたフェイルは、目の前の道がパッと開けたような気がした。 しかしリンが使った表現、心を開いてくれているというのは的外れである。 もっともリンは、的確な表現力を持ち合わせていないのでしかたのないことだ。心を開く、つまり自分をさらけだす、それは相手を信頼しなければできないことだ。そして弱い心の持ち主であればあるほど、相手を信頼することができない。また、信じていた人間に裏切られた経験のある者も同様だ。 それを考えると、シリアが心を開くことは皆無に等しい。自分の感情を誰にも見せることができない、そんな少女なのだから。 その日の夜。シリアの部屋ほどではないが、殺風景なネイの部屋に来客があった。そしてネイは、その来客を何のためらいもなく部屋に通した。 ネイが自室に誰かを入れるなんてことはほとんどない。リンが、ネイのいないときに掃除をしに入ってくるぐらいだ。ミルカに至っては、よっぽど重要な用が無い限りは門前払いを食らう。ましてやつきあって日の浅いフェイルを、ネイがためらいもなく部屋に通すとは思えない。となると考えられる人物は一人だ。 「珍しいわね」 ネイは使っていたノートパソコンをスタンバイ状態にし、座っていたイスごと反転してドアの前で突っ立っているシリアの方に向く。 「……座ったら?」 ネイのその言葉を待っていたかのようにベッドに腰掛けるシリア。ネイはベッドの方向にイスを向ける。 ネイが座るよう促したのは長い話になると踏んだため。ネイはシリアの様子からそういうことを感じ取ることができる。逆にシリアは、それを察してくれるかどうか試すために、ドアの前にただ立っていたのだ。 そんな人を試すような行動は、相手に不快感を与える。しかしシリアは、おそらく一番心の距離が近いネイにさえ、随時そういうことをしてしまう。そしてネイはそれがわかっていても決して拒絶しない。 そんな2人だからこそ、彼女たちは一緒にいることが苦にならないのかもしれない。 「それで? 何の用?」 ネイは頭の後ろで手を組み、イスに寄り掛かる。 「……確認」 シリアはポツリと答えた。 「……何の?」 「……あの王子様についての……」 同じような口調で会話を続ける2人だったか、そこで一端会話が途切れる。 「……気に食わない?」 「……苦手」 再び会話が始まるもまたすぐに途切れる。 「追い出したい?」 「……その気は無い。だって……」 もう四回目になる、ネイの問い掛けに答える途中で、大きめに息を吸い込むシリア。そしてゆっくりと口を開く。 「始まるんでしょ? 戦争が」 ネイはその言葉を聞くと難しい顔をしてイスをキシキシと鳴らした。 「……あくまで予想だけど」 「そう……」 そこでまた会話が途切れる。しかし二人の間ではかなりの情報が交換された。 彼女たちの会話は圧倒的に言葉が少ないので補足をしておく。シリアは王子様、つまりフェイルをここに置いておく理由を確認しにきた。その理由とは、戦争が始まるということから。 そもそもこの戦争が始まるというのは、ネイとシリアが直感的かつ、論理的にはじき出した予想だ。直感的根拠は表現できないが、論理的根拠はフェイルの弟、ジェイルにある。 兄を殺してまで王位に就きたいという強い野心。証拠を残さず消し去ろうとする狡猾さ。そんなジェイルが王位に就いたとき、少なからず問題が起こるだろう。なぜならこういう人間は、ほぼ例外なく政治を厳しくする。圧倒的に厳しいダグスの政治がドゥルクによって緩められてきていた今に、政治を再び厳しくする存在が帝王になれば、支配される側に不平と不満が生まれるのは明確である。それによって反乱が起こる可能性は否定できない。 そして戦後二年という時期も加わると、その可能性も上がってくる。二年の期間があり、武装も自由であれば、先の戦争で負けた国も兵力を整えられる。実際に、ある国が反帝国組織を極秘につくっているという噂もある。 もちろんその組織が、帝国と対等に戦える戦力が整えられているかどうかは疑問だが。しかし民衆を説得できる大義を持ち、多くの民衆を味方につけることができれば勝機はある。だからそんな組織は、それを手に入れるために虎視眈眈と帝国の様子を窺っているであろう。 もし、そんな組織が実在したとして、ジェイルが帝王となり、政治を厳しくしたとしたらどうなるであろうか。おそらく不平不満をもつ民衆を味方につけ、帝国に反乱を起こすだろう。今までの歴史の流れから見てもそうなると予想できる。 ネイとシリアはその可能性がかなり高いと考えていたのだ。 これが戦争が再び起こるという理由であるが、フェイルが王位に就くとなれば、その可能性はかなり低くなるであろう。フェイルの人格からして、ドゥルクよりも政治を緩めることはあっても、厳しくするのは考えられない。これまで共に生活をしてみて、彼が民衆を敵に回すような人物だとは思えない。だからネイは、自分の手元に置いてでも生き延びさせることを選んだ。 そして今まで自分たちが帝国の刺客に狙われていないのだから、ここに置いておけば彼はしばらくは生き延びられるという確信もあった。だから追い出さない。ネイがここにフェイルを置く理由はそんなところである。 「……帝国はいつ動きだすのかしら?」 シリアの独白に近い一言で、途切れていた会話が再開する。 「……私の推測だとそろそろよ、そうなればあの王子様とおさらばできるわ」 また一言ずつの言葉で会話が交わされる。 帝国が動きだせばフェイルと別れられると言ったのは、帝国が動きだせばこのトレーラーに居るフェイルが、第一王位継承者であるフェイルだということが証明されるからだ。 ネイはジェイルがフェイルを影武者として暗殺した後、実は死亡した方が本物だと公表し、王位に就こうとしていると読んでいる。 そして行方不明の状態が続いた場合も、同じことをすると読んでいた。 いつまで続くかわからないその状態を、延々と大人しく待ち続けられる人間はそうはいない。 つまり、行方不明の状態のままで、城にいるフェイルを影武者と公表し、王位を手に入れる行動をとると踏んでいるのだ。そこで本物のフェイルが出てくれば言い訳できない。ネイはそれを狙っていた。 ジェイルがそんな浅はかな行動をすぐとるとは限らないが、ドゥルクが死ねばまず間違いなくジェイルは王位に就くために行動を起こす。そうなってしまった場合、王位はフェイルの影武者が手に入れることになる。 安全策としてはフェイルの死を確認するまで、影武者に王位を就かせておくのが妥当なのだが、権力を欲して止まない人間は、たとえ策略のためでも、他の誰かに王位に渡すことを嫌う傾向にあるためそうはしないだろう。 そしてドゥルクの病もジェイルの策略の一つだと勘繰っているネイとしては、ドゥルクが死に至るまでそんなに時間はかからないと考えている。 10日間。 ジェイルが気の短いタイプならそろそろ動きだす頃だ。 これらは全部ネイの推測なのだが、ネイの推測は恐ろしいほど信頼性がある。 「……それで治まるかしら?」 「人の心はわからない。まして会ったことのない人間の胸のうちなんて。 ……あくまで推測。ジェイルの人格が推測と大きく違っていたら治まらないでしょうね」 シリアの問いに、頭をかきながら困ったように答える。 「……ネイが推測できる範囲の性格の持ち主であってほしいわね」 ベッドにゆっくりと倒れこみながら、弱々しい口調で言うシリア。ネイはその言葉に対する答えを口にする前に、両手を天井に真っすぐと伸ばし、やや縮こまった体を暖める。そして一息つくと共にシリアの方に視線を向け、「……私が推測しきれる性格の持ち主なんてこの世に存在しないわよ」と言った。 これきり二人の間に会話が無かったが、シリアはこの後ネイの部屋に一時間も居座った。ただ座っているネイとベッドに横たわっているシリア。 同じ空間に二人でいることに意味がある。 そう思わせられずにいられないほど、彼女たちは何もしなかった。 ロッシャル帝国帝王、ドゥルクが病死したむねがマスメディアによって報道されたのはその翌日の正午だった。 司令室に集っていたNotFriendsの5人は同じモニターに視線を向けている。 フェイルは父親の死に対してただ呆然としている。 リンはそのフェイルに何か言葉をかけようとしているが、そのあまりに悲痛な表情に、何もできないでいる。 ミルカはそのニュースが映し出されているモニターを食い入るように見つめ、ネイとシリアは無表情に情報を受け取っている。 この放送は、全世界の報道機関の、全チャンネルで流されている。つまりテレビのどのチャンネルでも、ラジオのどの周波数でもこの情報が得られるわけだ。 病死の原因は患っていた心臓が発作。発作後即死に近い状況だったので、手の施しようがなかったということだ。 一通りの大まかなことがニュースキャスターの口から報じられると、ある場所のライブ映像が流れる。 そこは死去した帝王の住んでいた場所。帝王の城、カイザーズであった。 城と言っても、中世の城のイメージとはかけ離れた、鋼鉄で出来ている機械的な城。城とは名ばかりで、要塞と呼んだほうがふさわしいほどの武装が施されていた。 城を映していたカメラから、庭園の方を映していたカメラの映像に切り替わる。 カイザーズの広大な庭園は十キロ平米以上あり、普段は綺麗に映え揃った芝生によって、壮大なイメージを生んでいるのだが、今は真っ黒な軍服に身を包んだ兵隊に埋め尽くされている。 城の方向に少しのズレもなく整列し、石のように動かない兵隊たちは、命が宿っているようには見えない。 時が止まったかのような静寂。 高さ10メートル、幅8メートルはある扉が開かれる音で静寂が壊される。それとともに、壮大というよりも荘厳なイメージを持った黒い集団が一斉に動きだした。 まるで一つの固まりが中心で割れたかように見えるほどの、異常なまでにまとまった動きをする兵隊によって、一筋の道が創られる。偉大なる帝王、ドゥルクが進むべき道だ。 直線といっていいほど綺麗に道を創った集団がまた動きだす。バッバッという小気味よい音と共に、二つの固まりがそれぞれ道の方を向き、持っていた銃剣付きライフルを掲げる。例のごとく僅かなズレも無い。 それが合図だったかのように、ドゥルクの顔が城の扉からゆっくりと現われた。 その正体は高さ六メール以上も引き伸ばされた帝王の写真だった。 この写真は、葬儀ために作られた特殊な霊柩車の一部分で、車本体の上に作られているステージのような場所の後方に飾られている。その前に白い花で綺麗に飾られた棺桶があった。 棺桶の周りには、喪服に身を包んだ美しい女性が数名跪いており、ずっと祈りをささげ続けている。 「な……何で……? 何考えてんのこいつら?」 モニターの前で見ていた5人のなかの1人が、驚きの声をあげる。 「ミルカ……?」 ミルカに視線を移すネイ。 「あの花はニューバって言って、白いヤツの花言葉は『不適格、不相応、不釣合……』、そんな意味なの! どう考えても葬儀に使う花じゃない!」 今度はミルカ以外の4人が驚きの声をあげる。 人間は花にも意味をつけているため、花を飾るにも知識がいる。その場所、行事にあわない意味をもつ花を使うのは、知識が無いことを曝け出してしまうのと同じことだ。 だから全世界で放送する葬儀で、そんな花を使うなんて普通は考えられない。 帝国をあげてやる大行事なのだから、そんなところに落ち度があるなど尋常ではない。 「わざとね」 ネイはポツリと呟く。 ロッシャルは全世界を支配している帝国だ。そんな馬鹿なミスをする訳が無い。 つまりわざとやったと推測するのは、ネイでなくてもできる。 「どうしてそんなことをするんですか!」 その言葉を耳にしたフェイルは立ち上がって興奮気味に言う。 フェイルは偉大な父親を敬愛していた。それが自分のいない間に死去し、しかもその葬儀で相応しくない花をわざと使われたとなれば、冷静でいられなくなるのも無理はない。 「さぁ? それはこれから喋ってくれるんじゃない?」 それに対してネイはモニターを指差して言う。 そのモニターには、城のお立ち台などと呼ばれる、正門のすぐ上の大きなテラスに、正しい姿勢で立っている人物が映し出されていた。 驚くべきはその人物の顔がフェイルと同じだったということだ。 ジェイル。 しかし面識の無いフェイル以外の4人もそうだと確信できた。ただ顔のつくりが同じというだけなら、フェイルの影武者ということも考えられる。 しかし表情が違い過ぎる。 フェイルは柔らかい表情が多く、優しく明るい雰囲気があるのだが、今モニターに映っている人物は違う。付け入るスキがまったくないような堅く険しい表情で、厳しく冷たい雰囲気がある。 フェイルとはまったく正反対。光と影。陰と陽。そんな言葉で形容できるような対照的な二人だ。 「私はロッシャル帝国第二王位継承者。 ジェイル・ロッシャル・カイザーズである」 4人の予想を裏付けする言葉が、ジェイルの落ち着いたよく響く声で告げられる。 「本来ならばここに立つ人間は、第一王位継承者である、フェイル・ロッシャル・カイザーズ。 私の兄であったと思う。 ……なぜ私がここに立っているか。 その理由は私の父の棺に飾られた花が示している。 白いニューバの花言葉。少し知識のある人間なら知っているだろう。 不適格、不相応、不釣合。 ……つまりそういうことだ。私の兄はこの場所に立つ人間としては適格ではない」 この放送を視聴している何人の人間が響動めいていることだろうか。 「ああ……ここで多くを語る前に各メディアで流れている間違った情報を訂正しなければならないだろう。今城を抜け出し、賞金が懸けられている兄の影武者だが。あれは本物のフェイル。 第一王位継承者だ。彼は私の部下に何度も殺されかけたことで城から逃げ出したらしい……」 トレーラーにいた全員の表情が変わる。無表情なネイとシリアの顔色を一変させるほどの力が今の言葉にはあった。自分が兄を殺そうとしたことを公共の場で明らかにする。 前代未聞、空前絶後。雑誌などで使い古しにされた熟語が、本当の意味で使うことのできる状況だ。 ジェイルは政治を行っていく上では重要な、世論というものを完全に無視している。彼の行動は恐らく誰もが予想しえなかったものだろう。 「私の名誉に傷がつかないために言っておこう。私は兄を、暗殺という形で葬り去ろうとは思っていなかった。あれは血気盛んな若い部下がやったこと。私の意志ではない。 立場上表舞台に立つことができず説明が遅れたことは詫びよう」 言い訳のような言葉だが、おそらくそれとは違うことが雰囲気から感じられる。 「私はもっと違った方法でこの場に居たかった。すなわち兄と戦い、帝王の座を勝ち取ってだ。 ……まぁ、兄が城にいた時も、すでに私がロッシャルを掌握していたのだから、早いか遅いかの問題だったのかもしれないが……。 だが私は納得していない。 だから彼が行方不明という状況のまま行動を起こした。この場を私的なことに使うのは忍びないが、どこにいるかわからない彼にこの場を借りて言わせてもらおう。 フェイル! もし生きていて、私に王位を奪われるのが嫌なのなら……この私の前に現われて王位を奪い返すがいい!」 ガダン! 全世界放送を使っての挑戦状にフェイルが熱り立つ。 「モニターの前で興奮しても意味がないわ」 しかしネイが睨みを効かせて制止すると、強く拳を握り締めたまま音を立てて着席した。その間もジェイルの演説は続く。 「……話が私的なことに走りすぎてしまった。 では、おそらくこの放送を観ている人間が知りたいであろうことを話そう。 即ち、これからの帝国のこと、否、これからのサガのことだ。 まずこれまでの話から推測できると思うが、ロッシャル帝国の王は今から、このジェイル・ロッシャル・カイザーズだ。 そのことをしっかりと頭の中に入れ、これからの話すことは帝王の言葉。絶対的な言葉として受け止めてもらおう」 ジェイルの演説は、一つ一つの言葉がはっきりとしていてどっしりと重みがあり、ジェイルの言う絶対的な言葉と形容しても決しておかしくないほどの威圧感を持っていた。 トレーラーの五人は固唾を飲んで彼の絶対的な言葉の続きを待つ。 「サガ、これはこの星の名前を示す単語だ。それをたった今から廃止する」 ジェイルが何を言っているかわかる人間は少なかった。星の名前を示す単語を廃止する。こんなことを突然言われてすぐに理解できるはずもない。 ジェイルの話は一般人から見れば大きすぎる。 「代わりにこの星の名を……ロッシャルと変える」 彼の言った言葉の意味はこういうことだ。星に自分の国の名を付ける。 これは偉業とも言えるものでもあるが、馬鹿げてもいる。彼のこの行動がどっちにとられるのかをすぐには判断することは出来ない。 数年か後、この行動が大きな意味を持ち、この星を揺るがすものと評価されたのなら、前者として受け止められる。しかし大した意味を持っていなかったと評価されるならば、後者として受け止められるだろう。 少なくとも今現在は、ロッシャルを大きく揺るがしているのだが。 彼はそれだけでなく、帝王だからこそ実行できることを実際に行動する旨を、絶対的な言葉で綴り続けた。 新帝王ジェイルの演説の内容。一つは各国の自治権の廃止。 ドゥルクが帝王の時には、各国が自治権を持っており、各国で政治の方法を決めて国を運営することができた。帝国の逆鱗に触れないかぎりはある程度自由があったのだ。 しかしジェイルはそれさえも取り上げ、各国の政治をすべて帝国が管理するというのだ。反論する場は設けるつもりだが、基本的に絶対服従。これにより、ドゥルクが帝王になってからはだんだんとぼやけてきた、支配する側と支配される側の立場が浮き彫りにされた。 そして通貨の統一と言語の統一を実施することを語った。 かの有名な独裁者であるダグスさえも、ロッシャル語の教育を義務付けただけでここまではしなかった。しかし教育を受けさせられている分、言語の統一は実現可能かもしれない。 問題なのは通貨の統一である。国と国との通貨が違っていたために成り立っていた商売がすべて無くなってしまう。これだけでも大問題である。 さらに通貨を統一するということは、紙幣や貨幣も大量に作り直さなければならない。他にも多々問題は起こり得るだろうが、これだけでも充分大事だろう。 新帝王はこの三つを三大改革と称した。他にも細かい取り決めを考えているらしいが、まずこの三つを実現するというのが彼の演説の内容である。 そして彼はこの演説をこう締め括った。 「この私の改革に反対する者は多いだろう。しかし最初に述べたとおり帝王である私の言葉は絶対だ。それが聞けないと言うのなら反乱を起こすがいい。全力をもって相手をしようではないか。 逆に私の意志に賛同し、協力してくれる者は帝国の民として歓迎する。 どちらを選択するのも自由だ。 だが私は後者を奨める。全世界の人間が、このロッシャル帝国の民となるのなら、私の寿命が尽きるまでに、この星を最高の楽園に変える自信があるからだ。 私がこれを実現した時、白いニューバが兄に送るものだと言ったこと、そして父の棺に飾ったことが正しかったと証明されるだろう。 なぜなら、真の帝王として相応しい人間が、父のドゥルクでも兄のフェイルでも無く、この私だとわかるからだ!」 彼の演説が終わると共に黒い固まりと化していた軍人が、一斉に感情を取り戻して怒号にも近い歓声をあげた。 帝国暦1年5月19日。この新帝王の誕生によって、再びサガが激動の時代に突入することになった。 |