Not Friends

第4話 開かれぬ少女の瞳

「フンフンフン♪」
 キッチンで昼食をつくるリン。相変わらず機嫌が良く、鼻歌を唄いながらおにぎりを握っていた。
 リンの機嫌がいいのは、またフェイルのおかげだった。恋する少女というのは、想いを抱いている男性の一つ一つの行動で、幸せになったり不幸になったりするものだ。
 そしてフェイルの優しい性格が、彼女を幸せにする比率を多くしている。
 しかしこれは同時に、彼が大きな不幸をも運ぶ存在であるのだ。
 もしフェイルが彼女を受け入れなかったら。
 他の女性を選んでしまったら。
 その時のリンが大きな傷を負うことは目に見えている。
 しかし幸せの中にあった彼女は、そういう想像はできないでいた。
 そんなキッチンに相応しくない機械音が突如起こる。これが、トレーラー内全部を対象とした放送を流す前の機械音であることを知っていたリンは、スピーカの方に目を向ける。
 目を向けたからといってどうなるわけでもないが、それをしてしまうのは人間の性であり、リンはそれが意味のないこと自体気が付いていない。
「こちらネイ。みんな、仕事よ。
 司令室に集まって。リンは昼食が出来しだい司令室へ。以上」
 相変わらずの事務的な口調で放送をするネイ。
「……仕事……か。司令室に集まったってことは、また私は力になれないだろうな……」
 リンはそう呟くと、ほとんど出来上がっている昼食の完成を急いだ。


 リン以外が集まった司令室。シリアがコンピュータを操作し、ネイが説明。そしてミルカとフェイルがそれを見るかたちになっている。
「はいしつもーん」
 まだ何も始まっていないにも関わらず、ミルカが手をあげる。ネイは少し呆れながらも「何よ」と言い、質問を許した。
「この前仕事したばっかりでしょお?
 それも高額の。
 それなのに何でこんなに早いペースで仕事をするんですかぁ?」
 ミルカは間延びした口調で言う。それは自分が乗り気ではないという意志表現でもある。
「どっかのバカが弾薬をすべて撃ちつくして帰ってきちゃってね……、かなり厳しいのよ」
 冷たい視線を送りつつ言うネイに対して、ミルカは何も言えない。
「まぁそれもあるんだけど、今回は緊急の依頼なの。
 依頼者は泣く子もだまるザナリタ財閥の当主。カンタール・ザナリタよ」
 ザナリタ財閥。ロッシャル帝国の中でも指折りの財閥である。
「カンタールからの依頼?」
 その名を聞いたフェイルが驚いた声をあげる。
「知り合い?」
 フェイルの口調が、カンタールを知っているかのようだったので、ネイが聞く。
「ええ、バースデーパーティーとかの席で会いますよ」
「さっすが王子サマねぇ、お金持ちのお友達が多いですこと」
 ミルカは皮肉を込めて言ったが、フェイルはそれがわからずに、「そうですか?」と笑顔で答えた。
「カンタールに面識があるとなるとまずいわね」
「どうしてですか?」
 渋い顔をするネイにぽかんと口を開けて聞くフェイル。
「考えてものを言ったらどう?
 ロッシャル帝国第一王位継承者フェイル・ロッシャル・カイザーズは現在行方不明ってことになってるのよ?」
「あ…………」
 ネイの言葉の意味に気付くフェイル。
「今後のことも考えて、あんたが仕事を手伝うんだったら変装でもしておかないとダメね」
「へ、変装?」
 ネイの言葉に戸惑うフェイル。
「女装でもさせる? 意外と似合うかもよぉ……」
 ミルカはふざけ半分で言う。
「じょ、冗談ですよね?」
「180センチ以上もある女なんてそうそういないし、声質はどうやっても無理がある」
 フェイルが愛想笑いをして言うと、ネイが真面目に答える。
 冗談扱いはしていなかったが、とりあえず最悪の事態は回避できたようだ。
 そんな会話の途中で司令室のドアが開いた。
「昼食できたよ」
 ドアを開いたのはリン。
 手したトレイには、おにぎりとようじが刺さっているいくつかのおかずがある。
「あ、リン!
 いいところに来たわねぇ」
 ミルカは入ってきたのがリンだとわかると、ニヤニヤしながら言う。
「え? いいところって?」
 リンはテキパキと四人に昼食を渡しながら聞き返した。
「王子サマが変装するんだってぇ!」
「コラコラ、先走らない」
 嬉々として言うミルカをネイが止める。
「変装じゃ仕事があるたびにしなきゃならないし、変装してないときに誰かに見られたりしたら問題だわ。
 ……だから、髪型と髪の色を変えてくれない?」
「え?」
 続けて言ったネイの言葉に、フェイルは引きつった顔で答えた。


「ねぇ、本当に青く染めるの?」
 少し高揚した顔のリンが言う。
 リンの顔が高揚していたのは、フェイルの髪を切っていたため。好きな男の髪を切るという行為は、リンにはいささか刺激が強すぎる。
 ここは戦闘ブロックの休憩室。フェイルはイスに座り、リンが髪を切っている。
 そしてネイとミルカ、シリアがそれを見ていた。
 フェイルは後ろとサイドが刈り上げられ、前髪も短くなっているので、少し長めだったころとはガラリと雰囲気が変わっていた。
「色がそれしかなかったのよねぇ〜。
 ま、ぶわーっと染めちゃいなさいよ。まさか王子サマが髪を真っ青に染めてるとは思わないでしょ?」
 ミルカは相変わらずふざけて言う。
「で、でも目立ちすぎるんじゃ……」
小さな声で抗議するフェイル。
「目立たないようにしてたほうがかえって目立つっていうのが多いのよ。
 人は見えないものを探そうとする習性があるからね」
 様子を見守っていたネイが言う。
「そ、そうなんですか……」
 納得してしまうフェイル。それは、染めてもいいという意思表示にもなってしまっていた。
「じゃあ、染めますね」
「は、はい」
 リンの問いに緊張気味の返事を返す。その返事と共に、リンは丁寧に髪の根元まできれいに染めていく。
「染めおわったらそうねぇ、前髪をあげてみたら?
 もっと王族とはかけ離れた髪型になるわよぉ」
 リンが染め終わった頃を見計らってミルカが言う。リンはミルカの言葉に頷き、フェイルの前髪をあげ始めた。

「できましたよ……」
 ミルカの指示をすべてこなしたリンは、用意していた手鏡をフェイルの前に出す。
「げっ……!?」
 これがフェイルの第一声である。真っ青に染められ、髪もかなり短くされた自分は、今までの自分とはまったく異なるものに見えた。
「……うん、王族には見えないわね。いいんじゃない?」
 そんなフェイルとは対照的に、ネイが納得したように言った。
「まぁ、それは間違いないわねぇ」
 ミルカが含み笑いをしながら言う。
「そ、そうですか?」
 愛想笑いを浮かべるフェイル。
「でも、この髪型もお似合いですよフェイルさん」
 そんなフェイルに対し、リンは恥ずかしそうに声をあげる。
 確かにリンに言っていることは間違ってはいない。もとの顔が良いフェイルは、どんな髪型も大抵は似合ってしまう。
 今回の髪型も、今までの王族独特の重い雰囲気とは反対に、ラフなイメージがして新鮮な感じである。
 ましてやそのフェイルに惚れ込んでいるリンには、両方とも『カッコよく』感じられ、また一層フェイルへの想いを強める結果となった。
「それと……名前もどうにかしましょ……。
 いつまでもフェイルじゃ流石にまずいわ。普段はいいけど外で呼ぶときはね」
「あ、そ、そうですね。せっかくこんな髪型にしても意味があんまりなくなってしまいます」
 フェイルはネイの言葉に同意した。
 もうどうにでもなれという気持ちも含まれている。
「でもどんな名前にするの?」
「ブルー」
 ミルカの問いに即座に答えるネイ。
「それって……もしかして……、髪が青いからでは……」
「そうよ」
「は、ははは……」
 もうフェイルは笑うしかなかった。
「……髪も切ったことだし司令室に戻って。大至急ってほどの依頼じゃないけど、今日の六時まで解決しなきゃいけない依頼だから」
 フェイルの髪型と偽名が決まって一息ついてから、ネイが席を立つ。
「あ、待って、ネイ!」
 しかしすぐに起こった呼び止める声に制止された。ネイを呼び止めたのは意外な人物。
「何? リン」
 呼ぶ止めたリンは、まるで自分がネイを呼び止めたことに驚いているような仕草を見せている。
「あ、え……と」
「用があるなら早く言って。さっきも言ったと思うけど……」
「私も!」
 ネイのせかす声に動揺して大きな声で言うリン。その声に驚いた他の三人も、リンの方に視線を向ける。そのせいで否が応にも続きを話さなければいけない状況に立たされてしまった。
「……私も……その仕事を……手伝いたい」
「え?」
 そのリンの言葉は、今まで一緒に暮らしてきた女3人には、あまりにも意外な一言だった。


「依頼主がカンタール・ザタリナってとこまで話したのよね」
 司令室に戻ったネイは、前に出て説明を始める。そして司令室にはリンの姿もあった。さっきのリンの言葉に対してのネイは「……今回はリンの出番もつくれそうだし……本気なんだったらいいわよ。……どうなの?」という言葉で返した。
 そしてその言葉に頷いたリンは、普段はあまり長く居座らない司令室で、ネイの説明を聞いているのだ。
「大財閥の当主だけあって超破格。なんと報酬五千万ディラ」
「ご? 五千万!?」
 ミルカはネイの言葉を聞くと、発狂するように言う。
 フェイルは五千万ディラと言われてもピンと来ないので無反応である。
「どんな依頼よ? いくら大財閥の当主でもその依頼料はほとんどでたらめじゃない!」
 興奮気味に言うミルカ。五千万ディラという金額はどう考えても異常だった。田舎なら家を建てられるほどの金額である。
「カンタールは警察を信用していないのよ。金目当ての賞金稼ぎの方がよっぽど信用できるんですって。
 だから多額の賞金をだせば、賞金稼ぎは血なまこになって仕事をするとでも思ってるんでしょう?
 一応十億ディラの身の代金を払うよりも安いしね」
「身の代金?
 ってことは誘拐事件?」
 ネイの言葉からすぐに、そう連想するミルカ。
「ご名答。じゃ、説明を始めるわね。
 誘拐されたのはカンタール氏のご子息。キライル君10歳よ」
 ネイはそこまで言うとシリアの方に視線を向ける。するとシリアはコンピュータを操作し、モニターに映像を出力した。
「ここが犯人の立てこもっている所。旧カンタール邸よ」
 ネイはモニターに映った大きな屋敷を見るように促しながら説明を始める。
「自分が住んでた場所に息子が監禁されてるなんて皮肉もいいところねぇ」
 ミルカがやれやれといった感じで言う。
「犯人は8人グループ。10億ディラの身の代金を今日の18時までにトランクにつめて用意しろと言ってきてるわ」
「んで、敵の戦力は?」
 いつもの軽い口調だが、重要なところを質問するミルカ。その言葉が合図だったかのように、モニターに違う映像が出力される。
「敵の戦力はSPが8機。その内の4機のSPが屋敷を囲むように配置されてるわ」
「残りの4機は?」
 今度はフェイルが質問をする。
「屋敷のSP格納庫に置いてあるみたいね。
 SPの型はヤマヤシリーズのA型とB型が四機ずつだけど、改造されているみたいだからなめてかからないで」
「もう、ネイってば心配性なんだからぁ、だいじょうぶよん」
「ミサイルを一発も積んでない重装型のパイロットがよく言うわよ」
 気軽に言ったミルカに、きつい一言を容赦なく浴びせるネイ。言い返す言葉が無いミルカは必然的に黙ってしまう。
「じゃ、静かになったところで作戦を説明するわね」
 そんなミルカに当て付けるようにそう言うと、淡々と今回の作戦を説明し始めた。


 作戦の説明を受けたミルカ、リン、フェイルの3人は、現場である屋敷につくまで休憩室で待機していた。ちなみにネイとシリアは、作戦の微調整などをしているために司令室に残っている。
「何で仕事を手伝おうと思ったんですか?」
「え?」
 リンの用意したコーヒーを飲みながらフェイルが問い掛ける。しかしリンはその問いに答えることができなかった。
 リンが仕事を手伝おうと思った理由。それは少しでもフェイルに近付きたいため。
 SPを使って戦闘をするような仕事は自分にはできない。その能力を持っていない。だからリンはいつも仕事に参加できなかった。
 今まではそれでも良かった。能力のない自分が無理に手伝おうとしても足手纏いになるだけだし、家事をして三人が帰ってきた時、快適に過ごせるようにしておくのもちゃんとした仕事だと思っていたからだ。
 しかし今日はいてもたってもいられなかった。髪を切ることで、好きな相手の側にいる幸せを知ってしまったから。新しい髪型のフェイルを見て、また改めてフェイルへの想いが強くなってしまったから。
 リンは少しでもフェイルの側にいることを望んだ。
 そしてリンは気が付いていなかったが、一緒に仕事のできるネイとミルカ、そしてシリアへの嫉妬の心から、フェイルに一番近い存在でありたかったという想いが強まったのも理由の一つとしてあげられる。
「そ、それは……その……」
「お留守番するのが退屈になったんでしょ?」
 もじもじしたままで、はっきりと答えられないリンに変わってミルカが答える。
 そのミルカの言葉に反応して視線を送るリン。ミルカはその視線に対してウィンクで答える。
 ミルカはリンの気持ちがわかっていた。それを伝えるためにウィンクをしたのだ。その意味に感付いたリンは恥ずかしくなって赤くなる。
「そうなんですか?」
 相変わらず鈍感なフェイルは、そんな2人のやりとりにも気付かず、とぼけた質問をする。リンは小さな声で「そ、そんなところです。」と、答えた。
 そんな休憩室に放送が行なわれる予兆の機械音が響く。
「目標にあと20分ほどで到着するわ。各自準備を始めて」
 スピーカからネイの声が発せられる。その声と共に休憩室にいた三人の顔が、それぞれ度合いは違うものの強ばっていった。
「……リン。しつこいようだけどあんたはSPに絶対乗っちゃダメよ? いい?」
 思い出すように、というより念を押すようにいうミルカ。リンにその言葉の真意は理解できなかったが、いつになく真面目なミルカに応えるよう深く頷いた。


「そんな服どこにあったのよ?」
 ネイは呆れ声で言う。
「うふふ、内緒♪」
 ミルカはネイが呆れる原因となった服に似合ったポーズをしながら言う。
 彼女は今、特殊な格好をしていた。黒光りで露出度が高いいかにもな服装。脚部は網タイツになっている。そして頭にはウサギの耳に似せた飾りつきのヘヤーバント。
 いわゆるバニーガールと呼ばれる格好だ。高いヒールと、少しけばけばしい化粧がアクセントになり、おそらく今のミルカを風俗嬢だと言っても誰も疑わないだろう。
「潜入方法は一任するって言ったでしょう?」
「そうだけど……まぁいいわ。仕事さえちゃんとこなせれば」
 ネイは片手で頭を抱えて考えてから言う。
 するとミルカは「任せなさい!」と胸を叩く。それにあわせて大きな胸がブルンと揺れた。
 そんなミルカにネイは不安を感じずにはいられなかったが、とりあえずトレーラーで待機しているシリアにミルカが潜入を開始したことを伝えるため、マニュを操作した。


 旧カンタール邸。
 大財閥の当主。カンタール・ザタリナが昔住んでいた場所で、200平方メートルを越える面積がある。洋館風の、いわゆる人が生活する主な建物自体は、600平方メートル程度のスペースに建てられているが、それでも充分広い。残りの面積は、庭となっており、プールなども存在する。
 その中にSPの格納庫の存在もあった。この時代、財閥の当主が武装するのは当然であるので、あるのが当たり前なのだが。
 カンタールがここを手放した理由は都心から遠いため。都心に出向く機会の多いカンタールは、都心から近い土地を1800平方メートルも買い占め、新しい建物を建てた。
 今はその屋敷が気に入っているらしく、この旧カンタール邸は主をなくしてからは放っておかれたままである。
 しかし、この旧カンタール邸は都心から遠く、広い庭、大きな建物、しかも放っておかれているという条件が揃っており、誘拐犯が人質を監禁して立てこもるには絶好の場所となってしまっているのだ。
 ミルカも言ったことだが、そこに自分の愛息が監禁されるとは、皮肉もいいところである。
 そんな建物の庭にはネイの情報どおり、4機のSPが屋敷を囲むように立ち尽くしていた。
(ったく、なんて広いのかしら……、屋敷につくまで何分かかるのよ)
 心の中で呟きながら屋敷に向かうミルカ。旧カンタール邸の敷地に入ってから、もう3分はバイクで走り続けているが、屋敷までは今まで走ってきた距離の倍以上の長さがあった。
(ああん……もう!こんな格好でバイクに乗るもんじゃないわぁ、お尻が擦れていたぁい……)
「何だ! てめぇは!」
 そんなことを考えながらバイクを走らせていたミルカの鼓膜に、怒鳴り声が直撃する。
 ミルカは不快感を覚えたが、バイクを止めて声の方向に笑顔で視線を向けた。
 声の発生源にいたのは屋敷を囲んでいたSPの一機。おそらくスピーカを使ったのだろう。
 ミルカはそれがわかると、笑顔のまま両手を挙げて抵抗の意志がないことを表した。それをモニターでとらえたSPに乗っていた犯人グループの一人は、ミルカの格好に少し疑問を感じながらSPを動かしてミルカの方に近付く。
 ミルカのすぐ側までいくと、コクピットを開いてミルカを舐め回すようにジロジロと見始めた。
 コクピットから出てきたのは三十代前半くらいの髭面の男。
「なんだぁ? 風俗のねぇちゃんが何の用だよ?」
 男はいやらしい視線をミルカに送りながら問い掛ける。
「んー? あなたたちが誘拐犯さん? 私ぃ、カンタールっていうお金持ちらしいおじさんに頼まれてきたんだけどぉ」
「何ぃ? カンタールだと?」
 ミルカの言葉に眉間のしわを寄せる。
「そうなのぉ、何かぁ息子さんの無事を確認してくれってぇ」
「何だそりゃ?」
「何か難しいこと言ってたけどわすれちゃったぁ、でもぉ……何かキライル君の姿を確認して連絡してこいって言ってたぁ」
 ミルカはいつもの口調よりも間の抜けた声で答える。
「へっ、本当に息子が無事か確認するための使いって訳か」
「んー?
 多分そう。だからその坊やに会わせてくれなぁい?
 それからならサービスしちゃうからぁ♪
 何たって8人相手にする5倍以上の報酬をもらってるからぁ」
 色目を使いながら言うミルカ。そんなミルカの言葉を聞いた男はニヤニヤと笑う。
「ヘッ、カンタールのじじぃも気が利いてるなぁ。使いに女をよこすなんてよ……」
 男は独り言のように呟いてからコクピットを閉める。
「じゃ、ついてきな」
 スピーカを使ってそう言い、SPをバイクぐらいのスピードで走らせる。
 ミルカはバイクでその後を追った。

 屋敷の入り口ではすでに別の男が待っていた。おそらくSPに乗っている男が連絡したのだろう。
「おおっと、そこで止まりな!」
 屋敷の二十メートルぐらい前で待っていた男が怒鳴る。ミルカは指示どおりバイクを止めた。
 それを確認すると、先導をしていたSPが持ち場に戻っていく。その代わりに待っていた男がミルカに近付いてきた。
「ふぅん……」
 この男もさっきの男と同じような視線を送る。
「へ、武器とかを持ってたら困るんでね。悪いけど身体検査をさせてもらうぜ?」
 男はそういってミルカの体に触れ始めた。身体検査と言うその男の手つきは、明らかに別の意図を感じさせるほどいやらしくミルカの身体を這い回る。
「ちょっと、勘弁してよぉ、屋外でするのは好きじゃないのよぉ、虫とかいてさぁ……」
 ミルカは腰の辺りに手を回されているのにも関わらず、抵抗もせずに変わらぬ口調で言った。
「カッハッハッハッ……わからねぇでもねぇな!
 いいぜ、そんな露出度の高い格好じゃ隠す場所もねぇだろうし、女一人じゃどうしようもねぇからな。
 じゃあ中でたっぷり可愛がってやるぜ」
 そんなミルカの言葉を聞いた男は、月並みな台詞と共に豪快に笑い、腰に手を回したままでミルカを屋敷の中へ入れ、玄関からすぐ側の部屋へ連れていった。
(ホンット。男ってどうしてこうバカなのかしらね)
 ミルカは腰に回った手を不快に感じていたが、そんなものを微塵も感じさせないほど、『頭の足りないバカな女』になりきっていた。


 誰も住んでいなかったにも関わらず、比較的片付けられているリビング。飾り用で使用されていない暖炉の横にある棚には、高級そうな品物が並んでいる。
 それだけではなく一つ一つの家具や置物が、どれをとっても高価なものなのだった。しかし、いかにも金持ちの無駄遣いという感じがし、あまり好印象は受けない。
 そんな場所のソファーに、ミルカの横にいる案内してきた男と同じような風貌の3人が、ふんぞりかえるように座っていた。
「へぇ……そいつがカンタールの用意した女かぁ」
 3人の男たちが、今まであった男たちと同じような視線を向ける。ミルカはそんな男たちに呆れながらも部屋を見回す。
 ふと、目にとまる両手を縛られ、猿ぐつわをされた10歳ぐらいの男の子。
「ヤダ。そっち系のお客さん?」
 おそらくキライルであろう人物に視線を向けたままでいうミルカ。その言葉に男たち四人が顔を見合わせて大笑いする。
「ハッハッハ! こいつがカンタールのバカ息子だよ!」
 その決定的な言葉を聞いたミルカはバニーの耳飾りに手をあてる。
「あーら、そう!」
 それと共に大量の黒煙が耳飾りから吹き出した。


 ミルカが行動を起こしたのと同時期、旧カンタール邸の庭にプラズマが着弾して火柱をあげる。それに反応して館の守備に回っている4機のSPが、プラズマが発射された方向に銃を向けた。

 その刹那。

 モーリガンがプラズマの発射された反対方向から物凄いスピードで突っ込んでくる。
 予想外の敵に翻弄される4機。さらにその4機のもとに、最初にプラズマが発射された方向から再度プラズマが放たれる。
 2発目のプラズマは4機中の1機の頭を吹き飛ばした。
 その機体は戦闘能力を無くし派手に倒れこむ。残された3機はこの状況を何とかしようと努めたが、猛スピードで突っ込んでくるモーリガンと、その逆方向にいるであろうまだ姿が確認されていない見えない敵の二つに挟まれたことによって、完全に混乱状態に陥っていた。
「やられた! ガキが奪われた!」
 そんな3機のもとに、追い打ちをかけるように不測の事態を知らせる通信が入る。屋敷の中ではミルカによってキライルが奪取されていたのだ。
 その通信の途中に見えない敵からのプラズマが襲来し、また1機頭を撃ち抜かれ戦闘能力を無くす。
 その間突っ込んできたモーリガンは、すでに屋敷の裏口に辿り着いており、機体をしゃがませて何かやっていた。
 それに気付いた犯人側SPが、それを止めようとモーリガンの方に機体を向かわせる。
 まだ見ぬ狙撃手は、その動きによってできたスキを見逃さずにプラズマを撃った。
 この一撃もSPの頭部を正確に撃ち抜いた。それを目の当たりにした残りの一機はうかつに動けなくなる。突っ込んできたモーリガンが何かしているのにも関わらず、狙撃手の攻撃を警戒しなければならなくなったからだ。
「……ちきしょう! あの売女もグルだったのかよ!」
 そのSPのパイロットがコクピット内で情けない声をあげる。このパイロットは、ミルカと最初に接触した髭面の男だった。
「あっ!」
 髭面の男は動けないSPの中で小さく声を漏らす。屋敷に取りついていたモーリガンに動きがあったからだ。モーリガンは立ち上がり、180度回転して走りだしている。
「ありゃあまさか!」
 さらに髭面の男が声をあげる。
 見覚えのある服装の人間が、モーリガンのクローに捕まれていたからだ。それを見るなり慌てて仲間との通信回線を開く。
「やられた! ガキがあのSPに奪われちまった。俺は動けないからおまえらでなんとかしてくれ!」
 悲鳴に近い声で言う髭面の男。
「何だと? あの逃げていく鳥型のSPか!?
 わかった! 俺たちもちょうどSPに取りついた所だ。例の遠距離から攻撃してくるヤツは頼んだぜ!」
 通信に応じた男がそこで通信を切る。
「お、おい! 狙撃手を俺一人でどうにかしろって……」
 切れているのを知りつつも喋り続ける髭面の男。
 しかし、いつの間にか前方モニターに映し出されたものを見たとき、男は言葉を無くした。
 それは人質を奪っていったSPと同機種のSP。
 そう、モーリガンであった。
 男が攻撃の準備を整える前に、モーリガンのクローが男のSPの頭を砕く。
 暗転するコクピット内。
「やられた! 後は頼む!」
 マニュで残った四人に伝える髭面の男。その通信に答えるかのように4機のSPが格納庫から出てくる。
 SP2機が逃げていったモーリガンを追い。残った2機が髭面の男を倒したモーリガンと戦闘をする形となった。
 外の様子を見るためにコクピットを開く髭面の男。それと共に、髭男の視界に2機の仲間のSPと互角以上にやりあうSPの姿が入る。
「……遠距離からの攻撃がない?
 ……まさか二機だけだったことは……」
 髭面の男はSPを降りながら呟くように言う。冗談のつもりの独白だったが、目の前で一分も経たずにやられていく仲間機の姿と、間髪入れずに逃げていったSPの後を追った2機を追撃しにいったそのSPを見て、それが冗談で片付けられない事実を知った。


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