Not Friends

第2話 王子の居場所

「町からの依頼でミサイル基地の処理作業? 何かイヤな感じ……」
 ミルカが司令室の大モニターを見ながら言った。
 トレーラーの司令室。シリアとネイが、ミルカに今回の仕事内容と作戦の説明をしているところだ。
「短期間でまとまった金が入るのはこの依頼だけだったのよ。その代わり破格の報酬……ホラ」
「二千万ディラ……」
 ミルカはネイの差し出した契約書を見て目を丸くした。
 ネイの請けた仕事は、戦時中に使われていた地下基地にあるミサイルの発射装置の停止であり、このミサイル発射装置は、爆撃などに反応してミサイルが発射される仕組みになっている。
 戦争が終わったのにも関わらずこの基地が処理されていないのは、処理の方法が複雑であったためだ。しかも処理に失敗すると基地にあるミサイルが全弾発射されるという。そうなれば大きな被害が出てしまうことは明白。
 それらの原因から、人間が処理するよりも、エネルギーの供給を断ち、自動的に沈黙状態になるまで待つという措置がとられていた。
 しかし一ヵ月前に大きな地震でコンピュータが反応し、ミサイルが発射されるという事件が起きた。沈黙状態になるまではだいたいあと一年かかる。
 それまでにまた大地震が起こりかねない。そのために早期の処理を余儀なくされたのだ。こういう処理はその道のプロならば百万ディラぐらいで引き請ける。二十倍の報酬、破格という言葉でも足りないほどのものだ。
「とんでもないでしょ?
 でも仕事内容もとんでもないの、ここを読んでみなさい」
 ネイは契約書の一部分を指差して言う。ミルカはそれを声をあげて読み始めた。
「尚、失敗した場合は、そちらが全責任を請け負う……そのさいはこちらが契約したという事実も抹消されるぅ?」
 ミルカは最後の方で口調が荒くなる。
「そういうこと。その契約書にサインがないでしょ? それじゃ契約書として成立しないのよね。でもあっちは契約書を持ってるの。私のサインつきのね」
「そんなの不利な契約じゃないの!」
 ミルカはさらに口調を荒くして言った。
「そうでもないわよ。前金で二千万ディラ貰ってあるから。つまり仕事がちゃんとこなせさえすればいいのよ」
 ネイの言っていることは間違いではなかった。契約書というのは、仕事を終えてから報酬を貰うために必要なものだ。
 しかし全額を前金で貰ってある。よってこの契約書は、あまり意味の無いものと言える。しかし仕事を依頼した側は仕事を必ずやってもらわなければならない。よって相手はちゃんとした契約書を持っている。
 お互い不利、有利はほぼ無いと言えるだろう。
 なぜ今回こんなことをしたか。
 それはこの依頼人の、この町の都合を良くするためだ。ネイたちが仕事をこなせば問題ない。仕事に失敗したときが問題なのだ。
 失敗してしまえば甚大な被害が出るのは目に見えている。その時に契約者であっては不都合なのだ。被害の責任は、当然依頼人にも及んでしまう。
 町はそれを絶対に避けたかった。それを避けるためには依頼をした事実があってはならないのだ。
 有事のさいには、町側は契約書を抹消する。そうなれば残ったのはサインのない、証拠能力を持たないネイ側の契約書のみ。つまりネイたちが勝手に処理をしようとして失敗したということになるわけだ。
 基地にあるミサイルは、半径百メートルは破壊できる威力のがあと九本。被害額は二千万どころでは済まない。依頼料が異常なのも頷けるのだ。
 しかし、仕事が成功すれば何の問題もない。ネイがこの依頼を請けたのは、成功確率が百パーセントに限りなく近かったため。ネイたちの実力をもってすれば成功はまず間違いない。
「まったく……とんでもない町ね。じゃ、詳しく説明してくれる?
 失敗は許されないんでしょ?」
 ミルカはため息混じりに言ってからイスに座り、イスごと回ってモニターに体を向けた。
 それと共にモニターに基地の図面があらわれる。
「処理装置はラインが繋がってない独立したものだし、古い型で地下にあるから電波等を使った処理も不可能。
 処理作業をするには基地の内部に入らないとできないわ。
 基地に入るのは私とミルカの2人。シリアはマニュの通信を利用してトレーラーでバックアップ。目標の制御コンピュータルームの前に着くまではバイクで移動する」
「しつもーん!」
 ミルカが学校の生徒のように手をあげる。
「その図面からいってSPでも移動可能なんじゃない?
 なんで使わないの?」
「目標地点までの道のりはかなり複雑に入り組んでいるし、SPがほとんどギリギリで通れる広さだから、SPで迅速に移動するのは難しいからよ」
 モニターを操作し、表示されている図面の目標地点までの順路を赤く点滅させて答えるネイ。
「私たちの腕だったら大丈夫なんじゃないの?」
「おそらくね。でももしミスをして壁にぶつかったりでもしたらかえって時間がかかるし、その衝撃で装置が作動したらただのバカ。
 それを気にして慎重に走ったらバイクよりも遅くなる。つまりはバイクの方が効率がいいってわけ」
「なるほどなるほど……」
 ミルカはネイの説明に満足いったようにウンウンと頷く。
「じゃ、先に進むわ。制御コンピュータルームに入るためにある操作が必要なんだけど」
 ネイは再びモニターを操作する。するとモニターが制御コンピュータルーム前の画像に切り替わった。
「制御コンピュータルームに入るためにはこのドアをあけなきゃいけない」
 赤く点滅する、SPでも入れるほど大きなドア。
「それにはこのドアの左右にあるコンピュータに、パスワードを入れなければいけないの。
 まぁパスワードは依頼人が知っていたから問題ない。でもこの扉を開くには、左右同時にパスワードを入れないといけないっていうややこしい条件があるのよ。
 誤差は0.5秒まで。それ以上のズレが生じれば扉は開かず、ミサイルは全弾発射される」
「私とネイの息はピッタリだから問題ないわね」
 ネイにウィンクをして言うミルカ。
「ま、タイミングを合わせるのなんて初対面の人間とでもできるからここは問題ないでしょ?」
 ネイは冷たく言ってモニターを操作し画面を切り替えた。今度は制御コンピュータルームの画像が出力される。
「ドアが開いた後も一仕事あるわ。ドアが開くと共に発射装置が起動するからね」
「げ、なにソレ?」
「ただし発射されるのは30分後。だから30分以内に制御コンピュータを停止させなきゃいけない」
「アチャー!」
 ネイの言葉の節目節目に言葉を入れるミルカ。ネイは少し苛立ちを感じて話を止める。
「ねぇ停止って破壊すればいいの? 爆弾を仕掛けるとか?」
「ミサイルがすぐそばにあるのに爆弾を使うわけ?
 一人でやるならどうぞ」
「えー?
 1人じゃなくてネイと一緒だったらいいかなぁ……」
 ネイの冷たい言葉にもめげないミルカ。ネイはハァとため息をついてから話を続ける。
「制御コンピュータを止めるにはキーワードが必要なの。こっちは不明だから解析しなきゃいけないわね。ま、旧型だからシリアの造った装置を使えばそんなに時間はかからないわ。
 ちなみに予測では1分〜6分。何の問題もなければすべてがうまくいくわ。
 以上が今回の作戦。質問は?」
「はぁい!」
 またミルカが手をあげる。それを見たネイは頭が痛くなった。
「もしパスワード入力が、左右同時操作じゃなかったら私は連れていってもらえたんですかぁ」
「……仕事があるって知らせもしなかったかもね」
 サラッとい言うネイ。
「ヒ、ヒドイわ! 必要な時だけ利用するなんて……」
 それを聞いたミルカは涙を流しながら擦れた声で言う。しかしそれは明らかに嘘泣きである。
「はいはい、悪かった悪かった……」
 ネイはまたふぅとため息をつきながら言う。シリアは我関せずという感じで資料の片付けを淡々と済ませていた。
「そう思うんだったら今夜……」
「みんなぁご飯できたよぉ」
 ミルカのセリフの途中でスピーカを通したリンの声が響く。
「ほうらメシメシ」
 ネイはこのリンの声を最大限に利用してそそくさと部屋を出てしまった。
「あぁーん、待ってよぉ」
 ミルカはそれに続くように部屋を出た。残ったシリアは相変わらず落ち着いた物腰で部屋の電気を消し、部屋を出ていった。


 春巻と八宝菜を中心に様々な料理が並べられているテーブル。そのおかげで食堂にはいい香りが漂っていた。
「あら、随分と豪勢ね」
「あ、本当!」
 その食堂にネイとミルカがほとんど同時に入ってくる。
 二人とも料理を見て少し顔がほころんだが、ミルカはテーブルに座っていた人物を見てすぐに不機嫌になる。
「あーら、王子サマもご一緒なのね」
 ミルカはフェイルから一番離れた席にドシンと大きな音を立ててイスに座る。ネイはその隣のちょうどフェイルと向かい合う席に座った。
 その隣にいつ入ってきたのかシリアも席に着く。
「じゃ、食べよ」
 リンがエプロン外しながらキッチンから出てくる。リンは空いていたフェイルの隣に座った。
「いただきます」
 めいめいがぼそぼそと言いながら食べ始める。
 その食卓には会話が無かった。
 原因は不機嫌な顔をしたミルカである。
「フェ、フェイルさん。お味はどうですか?」
 その状況に耐えられなくなったリンが口を開く。
「え、ええ。とっても美味しいですよ。
 この春巻なんて最高です。表面がパリッとしてて、噛むと中から濃厚な具が飛びだしてきて……今まで味わったことない食感です」
 2人はぎこちなく会話をかわすのが精一杯のようだ。
「良かったわねリン。王子サマが庶民の食べ物をお褒めくださったわよ」
 皮肉たっぷりの口調で言うミルカ。そのせいでまた会話の無い状態が訪れた。
「と、ところでネイ。今回請けてきたっていう仕事はうまくいきそう?」
 リンはミルカがいる以上、フェイルに話かけるのは得策ではないと判断してネイに話かける。
「まぁ問題ないわね……」
 それに対してネイは、春巻を一個丸ごと口の中に放りこみながら素っ気なく言った。
「え? 仕事って……」
 よせばいいのにフェイルがまた会話に入ってくる。
「あんたの金塊がすぐに換金できないからこんな依頼を請けるハメになっちゃったのよ!
 依頼をするんだったら現金を用意してほしかったものね!」
 予想通りミルカがからんできたが、フェイルは違うことを考えていたので、ミルカを無視する形になった。
「へぇ下々の人間には耳も傾けられないって訳?
 さっすが王子サマ」
 追い打ちをかけるようにミルカが言うが、フェイルはまだ違うことを考えていて、少し愛想笑いを浮かべる程度の反応しかしない。
 ミルカはそんなフェイルに皮肉を言うことすらバカらしく感じたためか、それ以上なにも言わずに食事を再開した。
 また沈黙が訪れる。
 フェイルは食事の手を止めて考え込んだままだ。
「……あの……僕にもその仕事を手伝わせて貰えないでしょうか……」
 しばらくして決心したようにフェイルが言う。それによって他の四人の食事の手が止まった。
 しかしそれは一瞬のことだ。
「イヤよ。分け前なんて用意したくないもの」
 ネイが即座にそう言って食事を再開する。
「分け前なんていりません!
 僕は自分の力でできることを何かしたいんです。金塊は城から持ってきたものです。僕自身の力ではありません。
 だから何かをしたい。いや、そういう努力をしなければいけないと思ってるんです!
 僕はSPの操縦や知識には少し自信があります。だからあなたたちの仕事を手伝えると思います。
 自分にやれることがあるならやりたいです!」
 フェイルは言葉の途中でいつしか立ち上がっていた。そんなフェイルを唖然として見る4人。
「……立派な考えね。
 まぁただで手伝ってもらえるんなら悪い話じゃないんだけど……よっぽどのことでもないかぎり、あんたに仕事を手伝わせる気にはなれないわ。
 SPの操縦や知識はそれなりにあるのはわかる。でもあくまでそれなりに。
 趣味でやってたお遊びでしょ?
 この仕事は経験がものを言う。温室で何の問題もなく育ったおぼっちゃんにはうまく仕事がこなせるとは思えない。そんな人間に手伝ってもらったって足手纏いになるだけ」
 ネイは食事の手を止めずに淡々と話す。
 フェイルはネイの言葉のせいで気を落とし、力なくイスに座った。
 フェイルが手伝いをしたかった理由。それは自分の存在価値を浮き彫りにしたかったためだ。
 自分は依頼主。このトレーラーにいる間中に特に何もすることがない。何もすることない人間は存在してもしなくていい人間。
 ネイ、ミルカ、シリア、リンにはやるべきこと、役割、つまり居場所がある。それが無い自分がたまらなく嫌だった。
 だから仕事の手伝いをすることで居場所を確立しようと思った。それも拒否された自分は、本当に何もない存在になってしまったように思えたのだ。
 これ以降この食卓では会話は交わされなかった。リンが何度か会話を切り出そうとするが、フェイルの暗い顔のせいで思い止まる。
 そして沈黙のまま5人はそれぞれ夕食を済ませた。


 星一つ輝いていない21時の空。そんな夜空の下でネイたちのトレーラーは例のミサイル基地のすぐそばに来ていた。
 契約書に夜決行するという条件も入っていたからだ。夜にやることで、ネイたちが勝手にやったという真実性を高めたいらしい。
 エンジン音と共にネイとミルカがバイクにまたがってトレーラーから出てくる。二人ともパイロットスーツを装着し、マニュを付けていた。
「こちらシリア。2人ともマニュの調子はどう?」
 マニュを通してシリアの声が、ネイとミルカの耳に届く。
「感度良好」
「こっちもOKよん」
 シリアは司令室で2人の声を聞くと次の司令を出す。
「それじゃ……作戦開始」
 シリアのその言葉と共に2つのバイクがミサイル基地に入っていった。

4へ

戻る