Not Friends
第2話 王子の居場所
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| (僕はこのままじゃいけない……) その頃フェイルは用意されていた自室にいた。電気も点けずに座り込み、同じ言葉を頭の中で何度も繰り返している。 (このままじゃいけない……) フェイルにとってネイの言葉はかなりショックだった。 ミルカの皮肉などは問題にならない。ネイの言葉は事実だった。だからこそショックだった。 温室で何の問題もなく育った。自分ではそんなつもりはなかった。ちゃんと学問を積み、趣味のSPも自分で設計までできるほどになっている。だから自分には何かできる。 城を抜け出したときはそう思っていた。 だが実際は、城から持ち出した金塊しか通用しなかった。自分の考えさえも完全に言い負かされた。 (金塊がなければここにいることさえできない……。そんな自分に国を変えることなんてできるわけがない) 物事を前向きに考える方のフェイルだが、精神的に参っていたためにそんなことを考えてしまう。 (ネイさん、ミルカさん、シリアちゃん、リン……ちゃんと自分の力でできることをして生きているのに……) Not Friendsのメンバーを思い浮べると、自分の無力さを痛感してしまい、フェイルの気持ちはさらに暗く沈んでいった。 「ほえー。本当に入り組んでたわねぇ、曲がり角が全部で8つも」 「敵の侵入を遅らせるためね。特にSPの。 でも味方のSPは入れないと困るから、SPが通れる大きさの通路にしてある」 ミルカとネイはバイクを止めながら会話を交わす。ミルカとネイは何の問題もなく、第一目標地点である制御コンピュータルーム前に辿り着いた。 侵入を阻む仕掛けは町の方で外されていたので、問題が無いのは当たり前なのだが。 「さすがおネイ様。物知りぃ!」 「……無駄口はあんまり叩かないでほしいわね。じゃ、ちゃっちゃとやるわよ」 ネイはミルカの言葉を軽く流し、ドアに対して右側のコンピュータの前に立つ。 「オッケーオッケー」 ミルカは相変わらずの口調で言い、左側のコンピュータの前に立った。 それを確認したネイは、マニュを操作し通信を開く。 「こっちは準備OKよ。パスワードを打ち込むわ」 「了解」 ネイは通信が繋がっていることを確認するとパスワードを打ち込み始めた。ミルカもそれに続く。 パスワードを同時に打ち込むといっても、最後の決定キーのタイミングを合わせればいい。 「こっちは準備完了したわ」 「こっちもよぉ」 お互いに確認をしあった二人はスカウターを開いた。 「じゃ、シリア。お願い」 ネイがシリアに言葉を送ると、2人のスカウターにカウント数字が表示される。 「5……」 「4……」 「3……」 二人は数字の速さに合わせてカウントを始める。 「2……」 「1……」 「……0!」 その声とともに、二つのコンピュータの決定ボタンがほぼ同時に押される。それと同時に2つのコンピュータの画面にドアロック解除の言葉が表示された。 「成功ね」 「まっ、当然でしょ?」 2人は安堵の息を漏らす。 しかし。 ブゥーンブゥーン。 「な、何よ?」 そんな二人の安堵の息をかき消すように、アラーム音が鳴り響いた。 「コンピュータの表示を見てみなさい」 慌てるミルカと対照的に落ち着いているネイ。ミルカはネイの言うとおりコンピュータの表示を見た。 『ミサイル発射停止の場合はドアをオープンし、停止のキーワードを入力。それ以外の場合は30分以内に退避してください』 コンピュータにはそう表示されている。 「ほっ……予定どおりね」 「じゃ、ドアを開けるわ……」 ネイはコンピュータにドアオープンの命令を入力する。するとゆっくりとドアが開かれていった。 「……随分ゆっくりね……」 それを見ていたミルカが呟く。 このドアは上にスライドして開かれるタイプなのだが、まだ10センチほどしか開かれていない。 「……ゆっくりと言うよりは……」 ミルカは言葉の途中で詰まる。続きの言葉を口にするのが怖くなったためだ。 「……止まってるわね」 ネイが相変わらず冷静に言った。 「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃ!」 ミルカは絶叫する。 「どういうことぉ!?」 「……さぁね……あ」 ネイは言葉の途中であることに気付く。 「何なにぃ!? どうしたのよぉ!?」 「このドア、歪んでるわ。 ……恐らく老朽化とさきの地震のせいで歪んだんじゃないかしら。スライドさせるタイプのドアはこういう歪みが命取りなのよね……」 こんな時まで冷静に状況を解析するネイ。対してミルカは軽いパニック状態に陥っている。 「どぉすんのぉぉぉぉぉぉぉ!?」 「今の状況じゃ私たちにできることはないわ。おとなしく退避する?」 「じゃあミサイルは発射されちゃうじゃない! 責任とらなきゃいけなくなるのよぉ!?」 「……一つだけ方法があるわ」 「何でもいいからどうにかしてぇぇ!」 ネイはミルカのその言葉を聞くとマニュの通信を開いた。 (僕は……) 未だ部屋で悩み続けるフェイル。 ピー……ガッ……。 「……王子様。大至急司令室に来て。」 そんな重い空気の部屋に、機械音と女性の声が響く。どうやらフェイルの部屋だけを対象とした放送がされたらしい。 フェイルはこの声にあまり馴染みが無かった。 「シリアちゃん?」 リンの声はよく知っている。ネイとミルカは仕事の最中だ。となればシリアしか考えられない。 「大至急? 何か起こったのか!?」 フェイルは文字通り大至急司令室に向かった。 「どうしたんですか!?」 「……ネイ、王子様が来たわ」 フェイルが慌てて司令室に入ってくるとともに、シリアがそう言う。するとここにはいないネイの声が響いた。 「王子様。 よっぽどのことが起きたわ。 さっきは断ったけどまだ私たちを手伝う気ある?」 ネイの第一声。 それはフェイルにとって意外なものだった。 「え?」 「どうなの!?」 戸惑うフェイルに、強い口調で素早い回答を促すネイ。 「も、もちろんあります!」 「そう……じゃ、シリアの指示に従って、後はマニュをつけてから伝えるわ。 急いで、時間が無いの」 フェイルにその意志があるとわかると、早口で用件だけ伝えて通信を切った。 「あ、あの!」 フェイルは呼び掛けたが応答はない。 「格納庫よ急いで!」 シリアも細かいことを説明せず、それだけフェイルに伝えると、走って司令室を出ていった。 フェイルは、普段のシリアからは想像できない、走るという動作に少し戸惑ってしまったが、それが緊急事態だということをあらわしているのだと思い、自分も足を早めた。 フェイルは格納庫に着くなり予備のモーリガンに乗せられる。 「な、な……」 「操作は帝国のものがベースだから問題ないはずよ。 ただしウィングバーニアだけは感覚でやってもらうしかないわね」 「え?」 ネイのような口調で話すシリアに何と答えればいいかわからない。 「魔石の配分は、スザク、ビャッコが四。ゲンブとセイリュウが二。スザクとビャッコがあんたのSPと同じだから、操作感覚もあまり変わらないはずよ」 「あ、はい」 取り敢えず頷くフェイル。それを見るとシリアはモーリガンを起動させ、SPに接続してあるマニュを手渡した。 「じゃ、あとはネイに聞いて」 「あ、ちょっと!」 否応なくコクピットが閉じられる。それと共に通信が開かれた。 「王子様。モーリガンには乗った?」 「あ、はい。」 「じゃ、すぐに発進させて基地の制御コンピュータルーム前まで来て。モニターに順路のデータは表示されているはずよ?」 フェイルはネイに言われてデータを探す。確かに順路のデータは表示されていた。 「はい。されてます」 「そこに15分……いや10分以内に来て」 「え! でもこの入り組んでて狭い道のりじゃとても無理ですよ!」 「時間がないのよ! もう11分経過してる。あと19分でミサイルが発射される」 「え!?」 「『え』じゃないのよ! 早くいらっしゃい! それと到着直前に通信を入れるのを忘れないで」 「は、はい!」 フェイルはまだよく状況がつかめぬままSPを走らせトレーラーから発進させた。 ローラーフットが高速で回転して独特の音を出す。 「シリアちゃんのいうとおりルシフェルと操作方法は変わらないし感覚も問題ないみたいだ。 でもウィングバーニアって……」 フェイルはウィングバーニアを起動させてみる。するとスピードが増した。 「これは……すごい! 噴射方向が限りなく自由に設定できるじゃないか! ……でもその分使いこなすのは難しい……」 フェイルがそんなことを考えているうちに基地の入り口が目に入る。 「……まだ状況はよくわからない。だけど……今の僕はネイさんたちに必要とされてるんだ! 何としても10分以内に!」 フェイルは狭い入り口に入るのにも関わらず、スピードを下げずに突入する。距離から考えて時速70キロのスピードで走り続けなければ10以内に目的地に着くとこはできない。 今の時速は80キロ。10キロの減速という微妙な操作で少しは楽になるはずなのだが、今のフェイルにはそれをするだけの冷静さはない。早く目的地につかなければという気持ちにとらわれているのだ。 「!……すぐに右折!?」 フェイルは慌てて右に曲がる操作をする。 フェイルの懸命の操作も虚しく激しく壁に擦り付けられるモーリガン。そのせいで急激な減速を余儀なくされた。 「このスピードじゃ曲がりきれない!?」 フェイルは態勢を立て直しながら心の中で呟きバーニアを吹かし再び加速させる。たしかに時速80キロで、狭い道の、ほとんど90度に近い曲がり道を走らせるのは無理がある。 しかしこのようなカーブがあと7つもある。指定の時間内に着くには、減速することは許されない。 「カーブで減速して直線で稼ぐか? ……そんな長い直線は無い……」 そんなことを考えているうちに次のカーブが迫る。 「くっ!」 ガガガガ! さっきほどではないにしろまた擦ってしまうモーリガン。 (時速が40キロまで下がってる……このままじゃ……。 そうだ! ウィングバーニアを使いこなせれば時速80キロをあまり落とさずに曲がることも可能しれない) フェイルの頭にそんな考えがよぎる。確かにウィングバーニアをフルに活用すれば、理論上は時速90キロぐらいまでは、ブレーキを使わずにこのカーブを曲がり切れる。しかしフェイルはウィングバーニアを使うのは初めてなので、彼にも無謀なことはわかっていた。しかしそれを実行に移してしまうのがフェイルという人間だ。 次のカーブが目前に迫る。 「うおぉぉおお!」 フェイルは叫びながらウィンドバーニアと通常のバーニアの二つを操作する。 様々な方向への噴射で、微妙な操作を可能にするのがウィンドバーニアの最大の長所である。それゆえに操作が難しい。 叫ぶことで気合いを入れる。 それだけでうまく使いこなせるならば誰も苦労はしない。 ガガ……。 今回も壁に擦られるモーリガン。しかし今回は微々たるものであった。ウィングバーニアがうまく活用させられていることになる。 「次こそはぁ!」 フェイルはさらに気合いを入れる。フェイルがこのウィンドバーニアを何とか活用させているのは、先程も言ったように気合いのせいではない。 真面目なフェイルはいくつものシミュレーションを何度もこなしていた。テキスト通りに、基礎を怠らず何度も何度も……。 そのおかげでフェイルは、SPの操縦の基礎はほぼ完璧。 基礎がしっかりしていれば応用をきかせられる。これがウィングバーニアを、初めてにも関わらずそれなりに使える理由となっているのだ。 しかし、おそらく彼は、叫ばずに黙ってこれをやれと言っても無理だろう。気合いというのも多少は関係しているのだ。いや、彼の場合は大きく関係しているのかもしれない。 次のカーブが迫る。 「うぉおあぁぁあああああ!!」 前回よりも大声で叫ぶフェイル。 「やった!」 今度は曲がり切った。勢いを失わずに曲がり切った。 こんなことは普通の人間にはできない。しかし彼はやった。 天才。 それはフェイルに、その形容詞を与えるに相応しいほどの才能があることを示していた。 そしてまた次のカーブが迫る。 「うぉおあぁぉおぉああああああ!」 今回のカーブも曲がり切る。 今曲がったカーブが五つめ。残るはあと三つ。それはあと三回フェイルが叫ぶことを意味していた。 「だ、大丈夫なのぉ? あの王子サマ……キレちゃってんじゃない?」 「おそらくね」 引きつった顔でいうミルカに相変わらずの口調で答えるネイ。 制御コンピュータルーム前。ネイとミルカはそこでフェイルを待っているのだが、通信が開かれているままなので、フェイルの叫び声は二人のマニュに届いているのだ。 「やばいじゃないのよ! だから男なんか……」 「でも確実にこっちに近付いてるわ。しかもなかなかいいペースでね」 それを聞いたミルカは黙ってしまう。 「うぉおああぁあ!」 またフェイルの叫び声が響く。 「……今ので最後のカーブね」 ネイの言葉を聞こえなかったフリをするミルカ。 「こちらフェイル! もうすぐそちらに着きます!」 フェイルがまともな声を出しこっちに来ることを伝える。 SPの走る音もネイたちの耳に届いてきた。 「こちらネイ。 王子様、そろそろドアにぶつからないようにスピードの調整をして。ドアの前に着いたらすぐドアをモーリガンのクローでこじ開ける。いい?」 「はい!」 その返事から数十秒後。モーリガンが姿を現した。 ローラーフットとバーニア、それにウィンドバーニアも巧みに使い、ドアの前で停止するモーリガン。 「早くドアを開けて!」 それと共にネイが叫ぶ。この時すでに経過時間は二十五分。 「はい!」 小さな隙間にモーリガンのクローを入れてドアをこじ開ける操作をする。 鈍い音と共にドアが歪み隙間が広がっていった。 そしてそれが人間の通れる大きさに広がった瞬間、ネイが滑り込むように制御コンピュータルームに突入した。 そしてすぐに装置を取り付けキーワードの解析を始める。 キーワードの解除の予想必要時間は1分〜t分。経過時間は現在27分16秒。もし2分44秒以上時間がかかった場合はジ・エンドである。 もうネイたちにできることはなく、後はこの装置を信じて待つしかない。 装置についている秒単位の時計が経過時間を正確に知らせる。時計は緊張した時間を刻一刻と刻んでいた。 30秒経過。 フェイル、ミルカもさらに大きくこじ開けられたドアから入ってくる。 ネイはこの待ち時間を使い、フェイルに今の状況を説明する。 60秒経過。 予想最速時間であるが、それで止まるほど世の中は甘くないらしい。 90秒経過。 ミルカと状況を知ったフェイルの手に、嫌な汗が出てくる。まるで1秒が1分のように長く感じる世界。そんな中でもネイは落ち着いていた。 120秒経過。 残り時間が1分を切る。時計を凝視し続ける3人。1秒、そしてまた一秒と時間が加算されている。 とうとう150秒、つまり2分30秒が経過した。 残り時間はあと14秒。緊張感がさらに大きくなる。 残り10秒。 異常なまでの緊張感が静寂の世界をつくり出す。 残り5秒。 4秒。 3秒。 2秒。 1秒。 零秒。 ……2分44秒を過ぎても動き続ける時計。その時計には絶望の二文字がくっきりと刻まれているかのように見えた。 そんな中でネイが口を開いた。 「成功したみたいね」 「……僕が……もう少し早く来ていれば……」 「そうよ! あんたが……って……あれ?」 自分を攻めるフェイル、そんなフェイルにも容赦なく罵声を浴びせようとしたミルカだが、ネイの言葉の意味に気づき、間の抜けた声をだした。 「……成功?」 「そ、成功。ミサイル発射されてないでしょ?」 「でも時計は動いてるじゃないですか!」 フェイルが時計を指差して言う。 「ああ、処理が済んだら止まると思ってたの? この装置はキーワードの可能性がありうるものをひたすら打ち込んでいく装置なの。可能性のあるキーワードを読み込むのに1分間。すべて打ち終わるのに5分間。つまり早くに当たりがでればOKなわけ。 でもこの装置は、すべて打ち終わるまで停止しない」 ミルカとフェイルはネイの説明の途中で放心状態になる。 この装置にはキーワードが打ち込まれて、コンピュータが停止したかどうかの判断能力がない。6分以上なら確実にキーワードが打ち込まれるが、それ以外の場合はタイムリミットになってみないと結果はわからないというわけだ。 「それにしても良かったわね。2分44秒以内で処理が済んで」 ネイのその言葉は、ミルカとフェイルの耳には届いていなかった。 仕事を終えてトレーラーまでの帰り道。行きとは逆にゆっくりとSPを走らせるフェイルに通信が入った。 「……ご苦労さま。助かったわ」 「え?」 「足手まといってわけでもないみたいね」 そこで通信は切れる。 「……ネイさん?」 フェイルは呟くように言う。 通信の声の主は、フェイルの予想どおりネイであった。感情のこもってない言い方だったが、その言葉はフェイルの心には大きく響き続ける。 「ここにいれば……僕は変われるかもしれない」 口の端をゆっくりとあげ、フェイルは呟いた。 女性だけで、しかもその中の3人が普通とはすこし違う雰囲気を持つ異端なこのチーム。しかしフェイルは、ここに自分の居場所をつくりたくなった。 ネイの言葉はそう思わせるのに充分な力を持っていたのだ。 |
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第2話 王子の居場所 完 はぁい♪全国の女性ファンの皆さん。あなたの素敵な夜のパートナー、ミルカよん。 |