魔王じゃないもんっ!
「第9話 魔法じゃないもんっ!」


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 昼休み。
 小学校の校庭は走り回る子供たちで溢れている。
 光野小学校もそれは同じ。しかし、野球グラウンドとサッカーグラウンドに加え、遊具広場もあるため、面積自体が広く、他の小学校よりもかなり贅沢に使うことができる。
 この学校は比較的裕福ではあるが、この地域の土地が安いのが、これだけ広い校庭を持つ最大の理由だ。
 校庭は高学年の独占を防ぐため、週ごとに使える場所を、低学年、中学年、高学年に分けて割り当てられる。
 今週、高学年が割り当てられているのはサッカーグラウンドだ。
 なお、高学年は5、6年が話し合いにより使う日を決めて、利用人数を絞ることにより、昼休みは本格的にサッカーや野球を楽しめるようにしている。
 最初は場所の取り合いでもめていたが、教師の介入により今の形に落ち着いた。
 本日は5年生がサッカーグラウンドを利用する日。給食を詰め込むようにして手早く片付けた男子生徒たちが駆け回っている。
 その中に、一際目立つ生徒がいる。抜群の運動センスで大活躍をしているのも大きな理由だが、一番の理由は服装だろう。
 ヒラヒラと舞うスカート。
 目立っているのは、男子生徒の中に、一人だけ女子生徒が混ざっているためだった。
 昼休み、高学年の女子生徒はほとんど教室でおしゃべりをしている。
 光野小学校は制服着用が義務づけられているため、体操服に着替えなければスカートで動き回るしかない。スカートは風でさえなびくような服だ。サッカーなんてしようものなら、中が見えていまう。この女子生徒のスカートも特別製というわけではなく、今も度々中が見えているが、そこから覗くのはブルマだった。
 光野小学校は体育着を自由に選べるのだが、ブルマをチョイスする生徒は圧倒的に少なく、5年生では彼女一人。
 男子生徒の中を軽快なドリブルで走り抜け、そして力強いシュート。
 ドライブのかかったボールは、キーパーをしていた男子生徒が止められるものではなかった。
「やったー!」
 ゴールネットにボールが突き刺さるとともに、大きくジャンプしガッツポーズ。動きに合わせてスカートが派手にめくれるが気にしない。
「やったなー!」
 同じチームの男子生徒が称賛の声とともに集まってくる。
 彼女の名前は香月蘭子。
 彼女は名前で呼ばれるよりもあだ名で呼ばれることの方が圧倒的に多い。
 頭を使うことより動くことが大好きで、こざっぱりした性格。
 この年頃の男子生徒は女子生徒に距離を置きがちだが、彼女に対してそれはなく、完全に男扱いしている節がある。
「やっぱすげーぜ、かっつんこ!」
 喜ぶ男子生徒の中に、同じクラスで学級副委員長の安藤敬介もいる。1年生から今までずっと同じクラスの長い付き合い。
 そんな敬介にかっつんこと呼ばれ、ふと思い出す。「かっつんこ」は、小学校に入って間もない時期に敬介がつけたあだ名だ。

 幼稚園のころは「かっつん」だった。
 特に不服もないので、小学校でもそう呼んでもらおうとしたところ、敬介が女の子だから子をつけようと、かっつんこと呼び始め、それが定着した。
 別に女の子扱いして欲しいわけじゃない。男の子扱いでも構わない。
 蘭子自身、校庭が自由に使える時間は、女子とのお喋りよりも、男子に交じって体を動かして遊ぶ方がいいと思っている。
 もともと、「おとなしく女の子っぽく」というのは苦手だった。
 だから、今の状況に不満はない。

 けれど、かっつんこと初めて呼ばれたとき、なんだか妙に嬉しかったことを、最近思い出すことが多くなっていた。



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