魔王じゃないもんっ!
「第8話 太ってないもんっ!」


−10−

 気がつくと見慣れぬ天井。
 真っ白いベッドに横たわり、腕には点滴の針が刺さっている。
「ここは……」
「ああ、真央。やっと気がついた」
 ベッドのそばには心配そうな面持ちの翔太と色香がいた。
「そっか、私……」
 意識を失う前のことを思い出し、ここが病院だと認識すると、白衣を着た医者であろう初老の男性が、難しい顔で様子をうかがってくる。
「栄養失調ですよ。
 こんな年齢で無理なダイエットなんてするからです」
 呆れたようにそう告げた。
「ご、ごめんなさい」
 その様子に思わず謝る真央。
「だいたい、ダイエットが必要な状態じゃないでしょうに」
「で、でも……その5キロも太っちゃって……」
 医者の言葉に、真央はごにょごにょと口ごもりながら言い返す。しかし、医者は不思議そうな顔を浮かべた。
「いや、今の状態は痩せすぎですよ? 5キロ増えたというならむしろ歓迎すべきですよ。もっと増やしてもいいぐらいです」
「え? え?」
 医者の言葉の意味がわからない真央。
「とりあえず、点滴が終わってしばらくしたら体重を計ってみなさい。決して太っていると言える体重じゃないはずだから」
 きつねにつままれたような気分で、医者に言われたとおり体重を計ってみると、前回体重計が叩き出した数字より、9キロも低い値だった。

 3日で9キロ減ったとは考えられない。そう思って真相を求めたところ、真実にすぐ突き当たった。
 
 つまりこういうことだ。
 単純かつ明解な真実だ。

 懸賞で当選した体重計の初期不良。体重は増えてなんていなかった。

 初期ダイエットプランを実行中にも、体重は着実に体重は減少しており、さらに過度のダイエットを行ったために栄養不足となったのである。


 翌日、出門家リビング。


「おいしい〜!」
 甘いものを口いっぱいに頬張って幸せそうな顔をしている真央。
 あのあと、真央が栄養失調になった原因を作ったとして、シュヴァルツが自害しそうになったり、翔太が製造元を消滅させようとしたりといろいろドタバタがあったが、アスラが後処理を行ってくれ、すべて丸く収まった。
「美味しいね真央ちゃん」
 隣で色香も一緒にスィーツに舌鼓。
「真央、たくさん買ってきたから遠慮せず食べろよ!」
 そして、真央のうれしそうな顔に、翔太も大満足。
 シュヴァルツはとりあえず「自室謹慎」することで、気持ちに決着をつけているようである。

 この和やかな雰囲気に、一連のダイエット騒動はすべて解決したと誰もが思っていた。

 しかし知っているだろうか。
 ダイエット後は、身体が栄養を吸収しやすい状態になっている。
 さらに、我慢し続けた欲求が爆発するため、過度なカロリー摂取をしてしまう。
 これにより、ダイエット前よりも体重が増えてしまう現象があるのだ。

 それをリバウンドと言う。

 真央は普通の人間であり、きちんとダイエットすればきちんと体重を減らすことができる。もちろんリバウンドも普通に起きる。

 一週間後、正常な体重計が叩き出した数字に、真央は悲鳴をあげることになるのだった。


第8話 太ってないもん 完


次回予告
 学芸会。
 それは光野学園で最も盛り上がるイベントです。

 残念ながら私は、劇の主役じゃないです。
 ……それどころかストーリー的にも主役じゃないです。

 ………………。

 次回、魔王じゃないもんっ!第9話「魔法じゃないもんっ!」

 ちなみに私が何を演じるかは聞かないください……。


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