魔王じゃないもんっ!
「第4話 和菓子じゃないもんっ!」
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その男、まさに紳士。 その男、まさに聖騎士。 「フハハハ! その状態でこの大食い暴君を倒せるとでも思ったか」 凶悪な尖りの赤いサングラス。棘つきのショルダーアーマー。どこからどう見ても悪役のキャラクターが、目の前でうずくまるキャラクターに向かって言い放つ。 「確かにこのままでは不利かもしれん。 しかしこのアンパラディンの心を折ることはできん!」 すっくと立ち上がるアンパラディンと名乗るキャラクター。タキシードに身を包んだその姿は紳士だが、その顔はアンパンだった。 「ふっ、強がりを言いおって。 それにしても馬鹿なヤツよ。空腹の子供に自らの顔を分け与えるとは……」 「……何とでも言うがいい。 私はこの国を空腹から救うために生み出されし命。空腹の子供を前にして顔を分け与えないのでは、本末転倒!」 ランスを構えて大見得を切るアンパラディン。 「ふん、ほざけっ!」 斧を振り回す大食い暴君。 「アンパリィ!!」 ランスで辛くも攻撃を受け流す。しかしその足元は頼りなかった。 アンパラディンは頭のアンパンが欠けると能力が激減する。しかし、それがわかっていても、アンパラディンは人々を空腹から救うことを躊躇わないのだ。 「アンパラディーン!」 そこに颯爽と黒マントに身を包んだ男が、馬に乗って現れる。 「ウィザードジャム!」 「受け取れいっ! 新しい顔だっ!」 ウィザードジャムと呼ばれた男はマントの中からアンパラディンの顔を取り出すと、アンパラディンの欠けた顔に向かって放り投げた。 「新しい命! 新しい希望! 新生アンパラディン!!」 アンパラディンの古い顔を弾いて新しい顔がはめ込まれる。 「古き命は他のために!」 弾かれた顔はしっかりとウィザードジャムが回収。 「むむむ、ウィザードジャムめ……。 ええい、新しい顔になったからといって、私がむざむざやられるかっ!」 冷や汗をかきながらも必死で強がり、斧を振り回す大食い暴君。 「……命の糧を食い荒らした罪。地獄でわびるがいい」 しかし先ほどとは比べものにならないほど俊敏に動くアンパラディンに攻撃は当たらない。 「食らえ!! アンパラーンスッ!」 そして、必殺のアンパランスが炸裂した。 *** 「……えーっと?」 テレビに釘付けになっているシュヴァルツを呆然と見守ることしかできない真央。 シュヴァルツが観ているのは子供向けアニメ番組『小麦の紳士 アンパラディン』。 子供向けアニメとしては色々と難しい言葉を使う異色作だが、絵自体は単純で親しみやすく、内容がわからなくとも、その無駄にカッコいいきめ台詞や効果音、演出が人気を呼んでいる。 「己の使命に生きる崇高な魂。この作品にはそれが溢れています……」 先日、翔太に奨められたこのアニメ作品に感銘を受けたシュヴァルツは、アンパラディンのように空腹に苦しむ者を救いたいと思ったらしい。 シュヴァルツがここまで感銘を受けたのは言うまでもなく、この作品のキャラクターが、自分と同じでアンコが詰まっていたからに他ならない。 「私の外見がこの世界ではタイ焼きという食べ物だということは認知しました。 最初は嘆きましたがその程度で悩むなど馬鹿らしいことだったのです。 このアンパラディンもアンパンという食べ物。いや、アンパンそのものでありながら、その姿に嘆くことなく、むしろ誇りとして戦っているのです。 私は己の未熟さを呪いました……」 シュヴァルツの目にはまた涙。 というかアンコだが。 翔太と色香はなぜかシュヴァルツの演説に聞き入っているが、真央はついていけなかった。 アンパラディンがアンパンなのは、子供に受け入れやすくするためで、そもそもシュヴァルツの悩みとは種類が違うのだが、それを指摘してしまうほど真央は空気の読めない子ではなかった。 とりあえず円満に、自分の外見がタイ焼きであることを受け止められているのだから、メデタシメデタシなのである。 「このシュヴァルツも、外見がタイ焼きであるからこそ、真央お嬢様が恐れを感じないのです。 これは喜ぶことであり……」 誇り高く、難しい言葉を並べる魔族。その外見はまるっきりタイ焼き。 当初の想像とはまったく違っていたけれど、また一人家族が増えた。 きっとこの真面目な性格であれば、翔太と色香のお目付け役の仕事もしっかりしてくれるだろう。 そんな期待を抱きつつ、真央は新しく仲間に加わった風変わりな家族を心から受け入れるのであった。 …………。 しかし、翌朝。 その期待はあっさり裏切られる。 「あぶぅあぶぅ」 「お、お坊ちゃま。お止めくださいっ」 その見た目ゆえ、BBの新しいおもちゃに選ばれてしまい、それどころではなくなってしまったのである。 誇り高きリヴァイアサン族、シュヴァルツに幸あれ。 |
第4話 和菓子じゃないもんっ! 完 |
次回予告 |
いつも笑顔を見せてくれて、いつでも優しくしてくれて。 とっても温かくて、柔らかい存在。 ママはやっぱり世界一のママだよ。 次回、魔王じゃないもんっ!第5話。 「不幸じゃないもんっ!」 伊達や酔狂で魔王の妻をやっているワケじゃないっ!! |
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