魔王じゃないもんっ!
「第3話 巨乳じゃないもんっ!」

−16−

 ピザが来るまでの時間。テレビを見ながらのんびりと過ごす出門姉妹。真央はブラジャーを外し、いつもの服に着替えることで、しみじみと元の胸に戻ったことをかみ締めていた。
 そんな真央をじっと見つめる色香。
「うう、やっぱり羨ましい……」
 今度は胸では無く、全身をじろじろと見ながら呟いている。
「小さな体、小さな胸……かわいらしい顔……。お兄様に愛される条件がすべて揃ってる……」
「……も、もう……」
 真央はそんな色香に苦笑を浮かべた。
「それに比べて私なんて……。胸が大きくっても……何の意味も無い」
「そんなことないもん」
 自虐的な言葉を並べる色香にそっと近づく。そして胸に顔をうずめるように抱きついた。
「ま、真央ちゃん!?」
「お姉ちゃん、柔らかくてあったかくていい匂い。すごくすごく素敵だよ」
 最初は戸惑っていた色香だったが、真央が顔をあげて微笑むと、その頬をそっと撫でてありがとうと伝えた。
「えへへ、お姉ちゃん……」
 再び顔をうずめるようにして照れ笑いを浮かべる。
 一人っ子だった真央は、兄や姉が欲しかった。その願いが叶ったのか、兄と姉がやってきた。しかし二人は魔族で、真央の思い描いていた兄妹、姉妹像とはかけ離れていた。
 兄や姉が欲しかった大きな理由は「甘えたい」という欲求だった。ところが現実は、面倒ばかりでちっとも甘えるどころではない。
 でも、それでもいいと思う。
 色香の胸の中は、そう思えるほどの心地良さがあった。
「うぉぉぉおおお!」
 そんな温かい時間をぶち壊す絶叫が響く。
「百合姉妹! 百合姉妹ぃぃぃ!」
 時間どころかすべてをぶっ壊す勢いで現れたのは、さっき吹っ飛ばした翔太だった。
「色香もグッジョブだ! 萌えるぞ!」
「あ、あのねぇ……」
 こめかみに血管を浮かべつつゆっくりと翔太の方へ身体を向ける。しかしすぐさま後ろからグッと引き寄せられた。
 後頭部に色香の柔らかい胸が押し付けられる。
「お姉ちゃんどうし……」
 真央はいきなりで驚いたことを色香に言おうとするが、その表情を見て固まってしまった。
「お、お兄様が……私に萌えてくださった……」

 ほわわ〜ん。

 満面の笑みで幸せオーラを大量噴出。
「………………」
 そんな色香のせいで、翔太に対する怒りもすっかり霧散してしまい、代わりに溜息を一つ。
「ところで真央。色香が戻ってきたとは言え、Lサイズは食べきれないかもしれないよな」
「え? う、うん」
 突然話題が変わり、少し動揺するが、兄の言うことはもっともだ。Lサイズは四、五人前。真央も色香はそんなにたくさん食べるほうではないので、兄が三人前ぐらい食べないと余ってしまう可能性が高い。
「だから友達を呼んだぞ!」
「ええっ!?」
「ほら、朝言ってた真央と同い年の女の子の友達だぞ。ハンドルネームは『ベルるん』って言うんだ」
「ちょ、ちょっと……いきなりそんな! それにうちには天ちゃんもいるんだよ?」
 唐突な来客の事実にしどろもどろになる。普段から掃除をちゃんとしているので、慌てて片付けをする必要は無いが、プカプカ浮いているBBを見られるのは非常にまずい。
「大丈夫大丈夫! 『先天性浮遊症』ってことにすれば平気だよ」
「またそれかーっ!」
 あっけらかんと言い放つ翔太に強いツッコミを入れるが、涼しい顔をしている。
「ダメダメダメ! ぜったいダメだからね!」
「でも、もう玄関の前にいたりするわけだが……」
「え……!?」
 衝撃の事実に言葉を失い、思考は停止してしまう。
「ベルるーん。入ってきていいよー」
 その一瞬の間に、翔太は玄関で待たせていた客を家へと招きいれてしまった。
「こ、こんばんは、はじめまして! ……って……え?」
 思考停止を無理矢理解除して、来客用の笑顔と言葉で出迎えようとした真央だが、その来客を見て再び思考が停止する。
「こんばんは」
 ニヤ〜と言う擬音が似合う笑みを浮かべる来客。
「シスジェルファンクラブの友達、ベルるんだ!」
 翔太も同じような笑顔を浮かべている。
「はじめましてじゃないけどね」
 圧倒的な存在感のある長身。
「す、す、すず子さんっ!?」
 来客は、真央のクラスメイトである津田すず子だった。
「ちょ、ちょっと待って! どういうこと!? ネェ!? 」
 すっかり混乱してしまう真央。
「いや〜たまたま同じ趣味を持ったネット友達が、真央のクラスメイトだと知ったときは驚いたよ〜」
「私もですよー」
 翔太とすず子は手を合わせて喜んでいる。
 どうやら、真央を驚かせるのに成功したのが嬉しいらしい。
「あー、真央ちゃんの胸治っちゃったんだね。大きいのもよかったけど、やっぱり小さい方がそそるわ〜」
「やっぱりそう思うかぁ! ベルるん」

 ……………………。

 翔太とノリノリで会話をするすず子の姿。
「真央ちゃんには前々から目をつけていたんですよー。でもなかなか仲良くなるきっかけがなくてー。お兄さんと知り合えてよかったです」
「僕も学校の真央の話を聞ける友達が出来てとっても嬉しいさっ!」
 そして、「シスジェル☆ファンクラブ」に所属している事実。
 そのことを知った真央の頭の中で、とある推測が生まれる。
「ええもう、今日もとっても可愛かったですよー。みんなの前で真っ赤になっておっぱいを揺らす姿なんて、鼻血を堪えるのに必死でしたよー」
「ぬおーっ! それは萌えるなっ!」
「大丈夫ですよー。こっそり撮影しときましたから」
「さすが同志ベルるんっ!」
 そしてその推測は、二人の会話から間違っていないことがわかった。
「……えーと、すず子さん。今日のことってお兄ちゃんとグル?」
 考えて見れば、翔太が作成したサイトをたまたま検索する可能性なんて天文学的確率だ。
 しかし、翔太とすず子が知り合いであり、メールのやりとりがあったのなら……。
「うん」
 悪びれる様子も無く頷く二人。
「……ぎゃふん」
 その夜の夕食は、「おっぱい」と言う単語の使用率が異様に高い会話で大盛り上がりだった。


 家の用事をすべて済まし、パジャマに着替えてベッドに倒れこむ。
 クラスメイトの津田すず子が、翔太と同系の人で、しかも翔太と繋がっているという事実に、真央は頭痛を覚えていた。
 明日からは学校でも家と同じような目に合う可能性があるのかと思うと、思わず登校拒否をしたくなってくる。

 コンコン。

 そんな真央の耳に控えめなノックの音が響く。翔太は色香が帰ってきたこともあり、食事が終わるとすず子を家まで送るついでに出勤した。だから部屋に訪れるのは姉しか考えられない。
「お姉ちゃん? どうぞ」
 警戒せずにカギを開くと、昨日と同じよう色香が立っていた。
「どうしたの? お姉ちゃん」
 真央は色香を部屋に招き入れ、ベッドに隣あって座る。色香はもじもじとしながら、懐から何かを取り出した。
「そ、それって……」
 赤い小瓶と青い小瓶。
「あ、あのね……。 これを飲めば私も真央ちゃんも幸せになれるの」
「……………………」
 昨日とまったく同じシュチュエーションだった。
「えっと……まず聞くけど、どういう効果があるの?」
 真央は学習できる人間だ。今日の騒動は、薬を飲む前にその効能を聞いていれば回避できた。
「あの……あのね。今度は体ごと入れ替える薬なの」
 コンドハソウキタカ。
「ま、真央ちゃん。お兄様に触られたりするの嫌なんだよね。
 わ、私はその……嫌じゃないから……それどころか……その……結ばれ……たいの……」
 真っ赤になって恥らう様子は鼻血が出るほどカワイイのだが、その内容は小学生の少女に言うものでは無い。
 真央は色香の提案を全力で断ると、改めて自分がとんでもない境遇にあることを痛感しながら眠りについた。
第3話 巨乳じゃないもんっ! 完
次回予告
 外はこんがり香ばしい!
 中はぎっしりたっぷりと!
 そしてとっても誇り高い!

 ……これっていったい何のこと?

 次回、魔王じゃないもんっ!第4話。

「和菓子じゃないもん」

 もちろんしっぽの先まで入ってます!

15へ 戻る