魔王じゃないもんっ!
「第2話 魔界じゃないもんっ!」


−13−

 寸胴に半分以上残っていたカレーをすべて食べつくし、さすがに苦しそうな翔太。真央と色香はその横で、翔太のお土産のモンブランを食べていた。
「お姉ちゃん。そんなに美味しい?」
 ここのモンブランは絶品だと思う真央も、色香の反応はあまりにも大げさに見える。
 真央の質問にぶんぶんと勢い良く首を振る色香の目からは涙が零れていた。
 初めて味わう甘く芳醇なケーキに感極まったそうだ。
「そうだ。ところでお兄ちゃん」
 あまりの苦しさに、魔法でなんとかしようかと悩んでいた翔太は、真央の言葉にビクリとなる。
「あははは、なんだい真央?」
「何のお仕事始めたの?」
 過剰な反応が少し不思議だったが、そんなことよりも気になっていることを聞いてみた。
「よくぞ聞いてくれたね!」
 勢い良く立ち上がっては見るが、小さな身体に詰まったカレーライスを戻しそうになり顔色が真っ青になる。しかし、それをなんとか堪え、気取るようなポーズをとった。
「幸せな時間をプレゼントするお仕事さっ!」
 自信満々に言う翔太。
「それじゃわかんないよー」
 抽象的に言われることにより、さらに好奇心が煽られ、身を乗り出して翔太に詰め寄る。
「いやー、そこの経営者さんは話がわかる人でね。経歴がちゃんとしてなくても雇ってくれたし、給料の前借も快く引き受けてくれた。おかげでこんなに早く家に戻って来れたのさ」
 翔太はその反応が楽しいのか、別の話をして答えを先延ばしにした。
「もう、意地悪しないで教えてよー」
 上目遣いにお願いする、そのかわいい、翔太の言うところのキャワイイ仕草に満足した翔太は、胸を張って自信満々に、始めた職業の名を口にした。

「ホストだっ!」

 カラーン。

 あまりの衝撃に握力を失い、フォークが手から零れ落ちる。
 色香はホストがどういうものか知らないのか、ぽかんとしている。
「……ホスト?」
「うむ、ホストクラブ「CHU×2の巣(ちゅちゅのす)」でホストをやることになった!
 女性に幸せな時間をプレゼントする素敵なお仕事さっ」
 ポーズに加えてウィンクを一つ。
 確かに、人間界の仕事の一つであることは間違いないのだが……。
「真央、お兄ちゃん頑張るからなっ!」
 色々とツッコミどころはあったが、その無邪気な笑顔に何も言えなくなる。
 紛れもなく自分のために始めてくれた仕事だ。
「うん、頑張ってね……」
 色々なことがあったが、そのおかげでしっかりとした絆を感じることができる。
「お兄ちゃん」
 今、口にした真央の『お兄ちゃん』は、本当に、家族としての『お兄ちゃん』であった。
第2話 魔界じゃないもんっ! 完
次回予告
 真央です。

 お兄ちゃんとも和解できて一安心。
 これから私たちはもっといい家族になれるよね。

 ……って、えーと……。
 次回なんだけど、なんだかとってもサブタイトルからして不安なんだけど……。
 ……というかサブタイトル言いたく無いんだけど……。

 ……うー、うー、うー。
 言わなきゃダメなんだよね……。
 次回、『魔王じゃないもんっ!』第3話。
 きょ、「巨乳じゃないもんっ!」

 ……………………………………。

 うわーん。セクハラだーっ!

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