第7章 嫉妬深いということで 俺の名前は黒崎和臣、『シヴァ使い』と言われている超凄腕の賞金稼ぎって……これもマンネリと化してきたかな? 俺とルナの二人は今、ルカオの村にいる。 ここは温泉で有名な村だ。 村長いわくシャロンいち! 俺も前に1回だけここの温泉に行ったことがあるが、これがなかなかものだった。複数の源泉があるため、……色、香、効能はいろいろ楽しめる。そして回りは山と湖が存在するため、露天風呂から見る眺めは壮観なのである。 特に連なる山々に茂る木々が赤と黄色に染まる秋は最高だ。その景色はどんな形容詞を並べても表現できない美しさなのである。 そして今、季節は秋真っ盛り! まぁねらって来たんだけどね。 「ねぇねぇ和臣!」 こいつもワンパターンだな。 「ここの村って、同じような店ばっかりだね……おん……せん? でいいのかな? そればっかり」 おお、えらいえらい、文字を覚えてきたんだな。 「そりゃそうだ。ここは温泉の村なんだから。 まぁいっちゃえばそれしかとりえがないんだけどな」 「温泉ってお風呂だよね? ルナ、お風呂って大好き! ……でも食べ物屋さんが少ないね」 どこに来てもそれだな……。 「まぁな……あ、でもこういうのはあるぞ?」 俺は宿屋の店頭にならんでいる物を指差す。 「……おんせんまんじゅうに……おんせんたまご?これ食べれるの!?」 「ああ……」 「わぁ食べたい食べたい!」 そうくると思った……。まぁ安いしいいかぁ。俺は温泉饅頭と温泉卵を買ってやる。 「わぁい!」 ルナはさっそく温泉饅頭と温泉卵を交互に食べ始める。 ……交互にって……。饅頭と卵って合うのか? 「ねぇねぇ和臣」 「うん?」 口の中に饅頭と卵が詰まっている状態でもおかまいなしに俺に話しかける。 てか、なんでフツーに話せるんだ? 「このたまごとおまんじゅう、どこらへんが温泉と関係あるの?」 「温泉卵は温泉のお湯でゆでてるんだ。沸騰したお湯でゆでるゆで卵と違って、温泉卵は42度前後のお湯でゆでるから、独特のゆで加減ができる」 「じゃあおまんじゅうは?」 「温泉の蒸気で蒸かしてあるから温泉饅頭なんだ」 俺はチュートリアルか。 「ふぅん……温泉のお湯が入ってるお饅頭じゃないんだね」 それは何か? 噛むと温泉のお湯がほとばしる饅頭か? 飲める温泉もあるぐらいだし、もしかしたら意外と売れるかもしれない……。 「まぁいいや! それよりせっかく温泉がいっぱいあるんだから入ろうよぅ!」 本当の温泉饅頭って名前で商品化してみるか? いや、その前に饅頭の皮が温泉のお湯でビチャビチャにならないような加工方法を……。 「ねぇ和臣ぃ!聞いてる?」 ……おっとっと、くだらないことを考えてしまった……。 今回の目的はあくまで温泉! 「ああ。山が見渡せる露天風呂がある宿があるんだ。さっそく行こうぜ!」 「うん!」 ルナが温泉饅頭を頬張りながら頷く。ちなみに俺たちは昼食を済ましたばっかりなんだけど……。 まぁルナの恐ろしいまでの食欲は、今に始まったことじゃないので気にしてたら身が持たないな。 そんなことより宿屋に急ぐとするか。 「うぇぇぇぇぇぇい……」 しまった。オヤジのような声をあげてしまった。 それにしてもやっぱり最高だなこりゃ。美しい自然を眺めながら湯につかる。 くぅぅ……贅沢だねぇ! 「ねぇねぇ和臣ぃ!」 ドッポォン……。 俺は隣の女湯から聞こえてくる騒がしい声に驚いて、湯につかりながらもズッコケてしまった。 ルナのヤツめ、俺がいい気分でこの露天風呂を満喫していたのに……。 ちなみにここの男湯と女湯は、3メートル程の高さの敷居の壁があるだけなので、普通に会話が可能なのだ。 「和臣ぃ聞こえてるぅ?」 ルナが大声で言う。 「そんな大声出さなくても聞こえてるよ!」 ハッ! 他の奴らがクスクス笑っている。……は、恥ずかしいなんてもんじゃないぞこりゃあ。 「あのお山すっごい綺麗だねぇ! 赤とか黄色に染まってるよぉ!」 「だめよ、裸のまま湯ぶねから出ちゃ。山にいる人とかが見てたらどうするつもり?」 ルナが女湯にいる人に注意されてるな。 裸のままって……。 ……うおわぁ!よ、良からぬ想像をしてしまった。 ……う、な、何だかのぼせそうになってきたぞ? もう出ようかな……。 ルナがいちゃ落ち着いて入れないような気がするし……。 「ねぇ和臣ぃ!」 「ルナ、俺はもう出るからな」 やっぱり落ち着けない。 「えぇー何でぇ?まだちょっとしか入ってないよぉ?」 「ルナはまだ入っててもいいぞぉ」 「えー、でもルナ一人だと、お部屋を間違えちゃうかもしれないしぃ……」 あのなぁ……。 「じゃあ、風呂の出口で待っててやるからゆっくりしてろ。」 「うん!ありがとう。」 ったく、何で俺がこんなマネをしなけりゃならんのだ。俺は風呂からあがり、宿屋の浴衣を着て(もちろんシヴァ砲は装備している)、風呂の出てすぐの場所にある椅子に腰をかけた。 ……5分経過。コーヒーでも飲むかな。俺は近くにあった売店でコーヒーを買う。 ……10分経過。コーヒーを飲みおわる。20分経過。ずいぶんゆっくりだな……。 ……30分経過。遅いな……。 ……40分経過。イライラ……。 ……50分経過。イライライライラ……。 ……60分経過。 「和臣ぃ!」 「ルナてめぇ!遅いん……」 俺はそのセリフを最後まで言えなかった。 「どうしたの和臣?」 ……普段は色気の無いルナも、湯上がりというのも手伝ってか、浴衣を着ると色っぽく見える……。 それに髪をタオルでまとめているので、なんというか……その、うなじと言われる部分がなんとも……。 「どうしたの和臣、顔が赤いよ?」 イ、イカン! 「の、のぼせただけだ!」 「え? そんなに長く入ってなかったのに?」 れ、冷静に冷静に。 「き、気にするな。それより喉渇いてないか?」 「うん!ルナ喉カラカラァ!」 俺はルナにオレンジジュースを買ってやる。 「わぁい」 ルナは俺からオレンジジュースを受け取ると、こくこくとのどを鳴らして一気に飲みほす。 「ひゃー、冷たくておいしー!」 ……あ! 浴衣がちゃんと着れてないから、ふとももがチラチラと……。 「ねぇ和臣ぃ、さっきから何でルナのことジッと見てるの? 何か照れちゃうよぅ」 ビビビクゥッ! な、何やってんだ俺は! 「いやぁ、気にするなよ! それより飯でも食おうぜぇ!?」 「うん!」 ルナはさっきの事を深く追求せずに元気に頷いた。 ホォ……。 た、助かった……。 心臓が口から飛び出すかと思ったぜ。 ……な、何か……俺ってかなり情けなくないか? なんだかんだあって現在午前4時。ちょうど朝日が出始めようとする頃である。 何で俺がこんな早く起きてるかって? 昨日、温泉にゆっくりつかれなかったから、ルナが寝てる間に露天風呂に行こうと思ったのさ。 ……誰だ! 隣で寝てる浴衣姿のルナが妙に色っぽくて今まで必死に理性と戦ってた。 なんて思ったヤツは!! え? 誰もそんなこと思ってないって? ……墓穴を掘るという本当の意味がわかったような気がする。何かだんだん自分がダメなヤツになっていく気がするなぁ……。 このブルーな気分をどうにかするためにも、温泉に浸かりにいくとするか。 ……うーん! 誰も入ってないと貸切りって感じでとっても豪華だ。 おぉ! 朝日が昇ってきたぁぁ!これが絶景かな絶景かな。 ふぅ……。 おや?朝日がもう一度昇ってきたような……。 いやそれ以前に朝日と言うには色が赤っぽすぎる。 夕日? そんなバカな? ……おんやぁ? 近づいてくるぞ? ……あー、あれ? もしかして……もしかすると……スザクゥ!? 俺は急いでタオルを腰に巻き、シヴァ砲にシヴァ砲改の弾を込める。その間もゆっくりと近づいてくるスザク。このままだと村に来ちまうな……。 その前に仕留める! よぉし……そのまま近づいてこい。俺はスザクがシヴァ砲改の射程内に入るのをジッと待った。 ……そろそろか!? スザクとの距離が射程距離内まで近づいてきたところで、俺は飛行中のスザクに照準をあわせようとする。 ……くそっ! 女湯との敷居の壁が邪魔だ。 狙いをうまく定められない。ちっ……だがこのまま放っておいたらこの村に被害があるかもしれない。 さてどうするか……。 ……男湯には俺しか入っていない。 じゃあおそらく女湯にも……。い、いたらどうするんだ!? 『覗き魔』なんてあだなをつけられるかもしれないぞ!? いや、待てよ。スザクとの距離ははっきり肉眼で確認できるほどだ。女湯に入ってるヤツが気付かない可能性は少ない。 なぜなら露天風呂は景色を楽しむ場所。一番綺麗な山から出てきたスザクに気付かないなんて事はないだろうからな。そして、もしスザクに気が付いたなら何らかの反応があるはず。 特に女はこういう直面に立つと悲鳴をあげるのがお約束だ。 ……女湯に人はいない! 俺はそう考えをまとめ壁をよじ登った。この壁の上からなら狙いがつけやすいからな。 「何だと!?」 俺は驚きを隠せずに声をあげてしまった。その原因たる出来事が起きたのは、壁を登りきって足場を確認し、スザクに狙いを付けようとしたその時だった。 「スザクが墜ちていく? な、何があったんだ!?」 「え!?」 不意に女の声が聞こえる。 ……ま、まさか……俺は恐る恐る視線を下に移す。 そこにいたのはもちろん女性。しかもその顔には見覚えがあった。 「エ、エリスゥ!?」 ……なんとそこには何もまとっていないエリスがいたのだ。 「か、和臣……あんた何して……」 エリスは顔を引きつらせながら何か言おうとしてたが、どうやらある事に気が付いたようだ。そう、自分が裸を見られていることを……。 さて次に来るのは……もう皆さんおわかりであろう。 「キァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」 物凄い悲鳴と共に投げられたボウガンが俺の顔面に直撃したのは、俺の鼻から血が吹き出す一歩手前の時だった。 「ふぅん、それで?」 エリスが真っ赤な顔をしながらも強い口調で言う。 「だからぁ……女湯には誰にもいないと思って……」 現在言い訳タイム。俺はあの後、後ろ向きで倒れて見事に浴槽に落ちたが、そのまま沈んでいる訳にも行かずに、エリスが女湯を出てくるのを待っていたのだ。 「だから壁をよじ登って私を覗いたって訳ね?」 「だ、だからぁ、俺はエリスがいるのなんてしらなくて……」 「じゃあただ単に女湯を覗きたかったってことなのかしら?」 あ、相変わらずなやっちゃ。こりゃ許してもらうのに相当時間がかかりそうだぞ? 「違うって、ちゃんと説明しただろ? スザクをなんとかしようと思って、男湯じゃあの壁が邪魔で狙いがつけにくいから、壁に登ったんだって!」 「言い訳にしてはちょっと苦しいんじゃないの?」 「言い訳とかじゃなくてなぁ……」 ん? 誰だ! 『さっき言い訳タイムって言ったじゃん』とかほざいたヤツは! 本当、頼むから邪魔しないで……。 「正直に言ったほうが男らしいんじゃないの? 『俺は女に不自由してたから、衝動にかられてつい覗いてしまいました』って」 ……ムカ……。 「まったく人間こうはないりたくないわねぇ……覗きなんて人間のクズのやることだわ」 「ってめぇ!人が下手に出りゃあ!!」 「あーら恐い!覗きの次は強姦でもしようとしてるのかしら?」 エリスがほくそ笑みながら言う。ムッカー!! 「だ、誰がてめぇなんて襲うか おまえみたいなど……」 や、やべ。 俺は言おうとした言葉を慌てて飲み込む。 「……? な、何よ!? 言いたい事があるんだったらはっきり言いなさいよ!?」 俺は何と言われようが今のセリフだけは言えなかった。さっき言おうとしたセリフ、それは『おまえみたいなどこが胸だかわからない女』である。 前にエリスを泣かしたことがあると言ったと思うが、その時言った言葉がこれなのである。これも前にも言ったと思うが、エリスは胸が人より劣っている。エリスはこの事に対して思いっ切りコンプレックスをいだいているようで、この事に少しでも関わるような事を口にするとメチャクチャ怒る。 はっきり口にすると……。 そう、泣いてしまうのだ。 ……それにしてももう5年も経ってるってのに、さっきみたかぎりではあいつ……全然成長してなかったな。 さっき……。 「何赤くなってるのよ和臣?」 う、イカンイカン!思い出してしまった 「い、いや……何でもない。き、気にするなよ」 「……いやらしい事考えてたんじゃないでしょうねぇ?」 うぉぉぉ!? さすがエリス! ルナと違って鋭い! 「いやぁははははは! そんなことあるわけ無いじゃねぇか!」 「図星のようね、和臣が不自然な笑い方をする時は何かをごまかしている時だもの」 ど、どこまでも鋭い……。 「こんな時に何考えてたのよ!?」 ま、まずい……言い訳の言葉が見つからない。この黒崎和臣様の膨大なボキャブラリーをもってしても見つからん! どうすれば! どうすればぁ! 「あれぇ? 和臣ぃ……どうしたのぉ? あれ?」 おお! ルナ! グッタイミィン!確かエリスはルナが苦手だったよな! ……おや? ルナが苦手だった? 「あぁ!幻術師さんだぁ!」 幻術師……。 「あぁっ!?」 俺とエリスの声がハモる。 そうだったぁ! 俺は前回、幻術師がエリスだとわからないまま別れたんだったぁ! あまりにもショッキングな再会のせいで忘れてしまったぁぁ! 「うおぬぇあぁぁぁ?」 「あえあああぁぁぁ?」 俺たちは言葉にならない叫び声をあげる。 「どうしたのぉ?」 「あ、いや、ははははは……な、なぁ?」 こういう時は人にふるのが一番! 「い、いえ、ほほほほほ……ねぇ?」 し、しまった! ふり返されたぁ!? 「そ、それは、はははははは……なぁ?」 俺はさらにふり返す。 「ほほほほほ……ねぇ?」 俺とエリスのこの異様な会話はこのあと10分ほど続いた。 「へぇ幼なじみなんだ」 ルナがエリスをまじまじと見ながら言う。 「そ、そうなの……エリスって言うの、よ、よろしくね」 「あたしルナ。ねぇ和臣、エリスとは幼なじみなんでしょ? じゃあ何で前に会ったときは初めて会ったみたいにしてたの?」 いきなりそうくるかぁ? 「わ、私は最初から気が付いてたのよ」 「え? 気が付いてた? じゃあ、和臣はエリスの事に気付いてなかったってこと?」 くっ……ルナのくせに理解が早い! 「ま、まぁそういうことだ」 「ふぅん……何で? もしかしてエリスの事忘れちゃってたの?」 くっ、ルナはたまに妙に鋭いから困る。 「そ、そういう訳では決してないぞ!」 「へぇ?じゃあなんで分からなかったのよ?」 エリスがジト目で俺を睨む。 う、エリスに向かって『あまりにも綺麗になっててわからなかった』みたいな歯の浮くような台詞は言えん。 まぁそれが事実なんだけど……。 「か、髪型が違ってたから……」 俺は苦し紛れにその言葉を絞りだす。 「へぇ……髪型が変わったぐらいでわからなくなるなんて……、私の印象ってそんなに薄いのかしら?」 し、しまったぁ! や、やぶへび! エリスの額に青筋が立ってるぅ! 「いやぁはははははは!」 「笑ってごまかせないわよ?」 うぅぅ。 「ねぇ和臣ぃ」 おぉぉぉ、ルナ!おまえだけが頼りだぁ。この状況をなんとかしてくれぇ。 「ルナ、和臣がそんな情けない顔したの初めて見たよ。そんなにエリスが苦手なのぉ?」 なんだそりゃあ? 「ふーん、この子の前ではずいぶん勇ましかったみたいじゃないの?」 「この子じゃなくてルナって言ってよぅ!」 「あ、ゴ、ゴメンなさい。」 ルナの細かい指摘にたじろぐ。 おぉぉぉぉ! ルナちゃん最高! この期を逃してこの危機を脱する方法は無い。 「ところでルナ、お腹すいてないのか? もう朝ご飯の時間だぞ?」 「うん! お腹空いたぁ!」 よしっ、計算どおり! 「ほら、ルナもこう言ってることだし話の続きは飯を食ってからってことで」 「あ、ちょっと……。」 エリスの止める声を無視してルナの手を引っ張って部屋に戻ろうとする。 やったぁ、この場は何とかしのいだぜぇ。 って、……おぉ? ルナが手を引っ張り返してくる。 「ねぇエリスゥ! エリスも一緒にご飯食べようよぅ!」 んなぁぁぁぁ!? こ、こんなに気まずい朝飯は久しぶりだ。 ルナと隣合って座っている俺の前に、異様なオーラを発しているエリスが座っている。エリスは一見、穏やかな表情で紅茶を飲んでいるように見えるが、殺気はビンビン伝わってくる。 「ねぇ和臣、和臣は今日もコーヒーだけ?」 空気を読めないルナはおかまいなしで話しかけてくる。 「あ、ああ……食欲がないからな。」 「……へぇ……性欲が強すぎるからかしら? 朝っぱらからあんなことするんだものねぇ?」 うぐっ!エリスが強烈な一言を呟く。 「?朝っぱらからって何してたのぉ?」 ルナがモーニングランチBを頬張りながら聞いてくる。 「いや、ちょっとな……」 「答えてあげなさいよ、ルナも知りたいわよね?」 「うん!」 これぞまさしく言葉の暴力……。 ん? よく考えてみたら俺は何もやましいことはしてないぞ? そうだ! 胸を張って答えてやればいいんだ。 「スザクと戦ってたんだよ!」 「あら? それは私がしてたことよ? スザクに対して和臣は何もしてなかったわ」 うぐぐ! 「いや、スザクにシヴァ砲改を撃とうとはしたんだぜ? その前にエリスが幻術で仕留めちまったんだよ」 我ながらしどろもどろだ。 「じゃあエリスと和臣は一緒にいたってこと?」 「まぁな」 「どこで?」 …………………………………。 俺は言葉を失う。 「ねぇどこで一緒だったの?」 こ、答えられん。 ち、ちきしょうエリスめ! もうルナの特徴をつかんで俺を巧みに追い詰めるとは……。 「さてと……私はそろそろ部屋に戻るわ、ここの勘定払ってくれる?」 エリスが席を立ちながら言う。 「な、何で……」 「ルナ、実はねぇ……」 「うわぁぁぁぁ! ま、待て! わかった! 払う!」 「そう……じゃあ、さっきのことはこれくらいで勘弁してあげるわ」 エリスはウィンクをひとつして言った。 た、たすかったぁ。 「あ、そうそうこれ」 エリスは小さい紙切れを俺のコートのポケットに入れる。その時俺とエリスの距離はほんの少ししか離れていない。 ……いい香りだな……。 シャンプーの匂いか? 「じゃね」 エリスはそう言い残すとかるく手を振って店を出ていった。俺は無意識のうちにその後ろ姿を見つめている自分に気付く。 ……マジで綺麗になったよなぁ……。 「和臣ぃ! なんでボォーとエリスのこと見てるの?」 「へ? ああ、いやぁ気にすんなよ、ハハハハハ!」 俺は笑ってゴマかす。ルナにはこの方法が通用するはずだ。 「……何かヤダ……」 「は?な、何が?」 「……和臣エリスばっかり見てた」 ……なんだぁ? よ、よくわからん。 「それはエリスと話してたからだろ? 人の目を見て話すのは常識ってもんだ。」 「……そうなの? あ、何だかちょっと気持ちがスッキリした」 ますますわかんねぇな。まぁルナの行動をいちいち気にしてもしょうがないから深く考えないどこ。 「ねぇ和臣どこ行くのぉ?」 「ちょっとな、すぐ帰ってくるからちゃんとお留守番してろよ」 「うん! お土産買ってきてね」 俺が苦笑しながら承諾すると、ルナはにっこりと笑って見送ってくれた。 部屋を出たとたんに軽い罪悪感が体を通りぬける。 ……別に悪いことをしてるわけじゃないよな? ……早くいこう。約束の時間まですぐだ俺は歩く足を速めた。 え? 俺がどこに行くかって? それはエリスの部屋。さっきの紙切れに『話があるから部屋に来て』という言葉と部屋番号がかかれていたのだ。 何の用なんだろうなぁ? 今朝の件は許してくれたはずだから……。ま、色々考えても仕方がないな。 そうこうしているうちにエリスの部屋の前に来ていた。 ……な、なんか緊張するな。 コンコン……。 俺は軽くドアをノックする。 ……返事がない。 コンコンコンコン。 今度は少し強めにノックをした。 バタバタバタバタッ! 部屋の中で騒がしい音が起こる。エリスか? 「ゴメンね、待たして」 エリスの声と共にドアが開く。 ……………………………………。 「どうしたの?」 エリスの言葉で俺は我に返る。な、なんとまぁ……。俺はエリスの浴衣姿に思わず見とれていたのだ。 はっきり言って似合う。もともとの顔のよさ。スラッとした体型。まだ乾ききってない髪。それに胸が大きくないのもまたいい。和服というのは胸が小さいほうがよく似合うのだ。 「な、何ジロジロ見てるのよ?」 エリスが赤くなって言う。 「い、いやぁ……浴衣がさぁ……?」 「えっ……?」 ぐぬぬ。 「……それより部屋に呼び出してなんの用だよ?」 どぉして似合うの一言が言えんのだ俺はぁぁぁぁぁ! 「うん……ちょっとね」 エリスはそういうとテラスのイスに座った。 「つっ立ってないで座りなさいよ」 「ああ……」 俺はエリスに言われたとおり向かいのイスに座った。 「で? 何だよ」 「うん、私ね……和臣に聞きたいことがあるの……」 エリスはそう言い終わると下を向いてしまった。 ……どうしたんだ? 言いにくいことなのか? ……はて? エリスが俺に言いにくいことなんてあるのか? 俺たちは人に言えないようなことでも安心して話せるはずだが。 まぁ俺は一つだけエリスに隠していることがあるのだが。 それすなわち、エリスに想いを寄せているということ。 ……あ! え?……じゃ、じゃあエリスが言いにくいことというのはもしや……。 あ、いやまさか。でも……しかし……。 「和臣……」 「は、はい……」 俺は思わず変な声で返事をしてしまう。それとともにエリスが顔をあげる。 その表情は……怒りに満ちていた。 あれぇー? ドン! エリスが大きくテーブルを叩く。 「私が聞きたいことはただ一つ! 何であの子と一緒に旅をしているかってことよ!?」 「あ、ああ……そのことか」 ちょっとがっかり。 「そのことかじゃないわよ! 何で私はダメであの子はOKなのよ!?」 「へ?」 突然のエリスの言葉に俺はあっけにとられる。 「……忘れたの? 私が一緒に行こうとしたら和臣は、『一人で世界にでてみたいんだ』って言ったのよ? だから私はおとなしくあきらめたのに!」 ……そういやぁそんなこと言ったなぁ。でもそれは、エリスと一緒じゃ俺が冒険家としてしっかりやれるということが証明できなくなるからなんだけどなぁ。 「い、いやぁそれは……そう! これには深い事情があってな……」 俺はルナとの出会いを一から詳しく話す。 「……捨て魔女?」 エリスは訝しげな顔をする。 「そう、あいつは捨て魔女なんだよ、一度拾っちまった手前なぁ」 「……でも借金を返すまでって一度は約束したんでしょ? いっそのことその時役所にでも連れてけばよかったじゃないの。なのに何で一緒に旅を続けようとしたのよ?」 ルナを役所へ連れてく? ……そんなこと考えたこともなかったな。 おっと、こんなこと考えてる場合じゃない。 ……なんとなく名残惜しいからなんて言えないしなぁ。 「それは……そう! スザクを倒すのにはあいつの魔法が必要だったからだ」 「……でも今はシヴァ砲改があるからあの子がいなくてもスザクは倒せるんじゃないの?」 う……。 「あ、いや……それはそうだけど……」 「じゃあ何で一緒にいるのよ? もう一緒にいる必要はないんじゃないの?」 ……一緒にいる必要がない……。 「なんで黙ってるのよ!? 役所に連れていくべきよ! あの子のご両親だって心配しているはずよ? 役所に連れていって色々調べてもらえば何かわかるかもしれないじゃない。だいたい、好きで一緒にいる訳でもないでしょう?」 「…………」 俺は何も言い返すことができない。いや、言い返す言葉はあったはずだが、それをはっきりと形にすることができないのだ。 「それとも何!? 一緒にいたいわけあの子と!?」 「……………………」 一緒にいたい? ルナと? 「なんで何も言わないのよ! 今の和臣にはあの子の魔法も何の役にも立たないはずよ!? いたって邪魔なだけじゃない! 一緒にいる必要は微塵もないはずよ!?」 「……………………」 エリスの怒鳴るように言葉をあびせつづけられるなか、俺の耳が部屋の外の音を拾った。 「どうしたのよ!?」 俺はエリスの言葉を手で制し、部屋を出て外の様子を伺う。そこにはエリスの部屋の前から走っていったであろう人物の後ろ姿があった。 黒いローブに栗色のロングヘヤー……まさかルナ!? まずい! 聞かれてたのか!? 「話の途中でどうしたのよ和臣!?」 「今の話ルナに聞かれてたみたいだ!」 「なっ……?」 「話は後だ! 今はルナを追う! あいつのことだ……何やらかすかわかったもんじゃない!!」 俺はダッシュでルナの後ろ姿を追う! 「わ、私も行く!」 エリスも俺の後を追って走り始めた。 あ! まずい! まだ距離が縮まっていないのに外に出ちまった。俺は走る足をさらに速め、俺はでるとともに急いで辺りを見回す。 ……いない。ちきしょう! 見失っちまったぁ! 「おい! 今出ていった女の子がどこに向かったかわからねぇか!?」 俺は怒鳴り声でフロントの男に聞いた。 「え!? いや……さ、さぁ?」 ちぃっ!役立たずが! 「和臣! 見つかった!?」 エリスが少し息を切らせながら言う。 「見失っちまったよ!」 「……ゴメン……まさかあの子が聞いてるとは思わなくて……」 「今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろうが!」 「……ゴメン……」 エリスが下を向いて言う。 「……今はルナを探すのが先決だ。手分けして探すぞ! おまえはあっちを頼む!!」 「……うん……」 エリスは小さな声で頷くと俺の指定した方向に走っていく。 俺はそれを確認すると別の方向へと走り始めた。 くそぉ……ルナのやつ……無茶をしてなきゃいいが……。 ルナのヤツ……どこに行ったんだ?俺としたことが完全に見失うとは……。 くそっ! ……落ち着け! 落ち着け和臣! こういう時こそ冷静に考えるんだ。ルナは俺たちの会話を聞いて宿を飛び出した。会話の内容は確か、ルナが必要ないとかいう内容だった。 つまりルナは自分が必要ないと思ってる。自分が必要ないと考える人間のする行動といえば……自殺。 自殺ぅ!? い、いや、ルナがそこまで暗く物事を考えるとは思えない。根っから性格が明るいからな。つまり、希望をもった考え方をする。 ……自分が必要だと思わせるような行動にでるってことか? ……俺はふと少し前の事を思い出す。 そう、前にもこんなことがあった。ルナがゲンブを黒焦げにして、その高価な肉も甲羅もオジャンにした時のことだ。あの時ルナは、自分の失敗した分を取り戻そうと仕事をしようとした。 俺が大金をパァにしたって怒ったから、ルナはそれと同じ額の金を用意して俺に許してもらおうとしたのだ。 ……子供の考えそうなことだ。 ……………………! 俺の頭の中の霧が一気に晴れる。 そうだ! ルナはまた同じことをしようとしてるに違いない。すなわち、自分が必要だと思わせる。……そう、自分も役に立つということを証明しようとしてるのだ! 俺は全速力で仕事屋への道を走り始める。ルナは仕事屋にいる。自分が俺の手伝い、つまり仕事をこなせるということを証明してみせるために。 ガランガラン! 俺は勢いよく仕事屋の扉を開いた。 「ルナァァァ!」 俺は店内にルナがいるのを確認する前に大声で叫ぶ。 ……返事が無い? 「……も、もしかしてシヴァ使いの黒崎さんですか?」 仕事屋のマスターが驚いたように俺に声をかける。 「おい! 黒いローブの女の子が来なかったか!?」 俺はマスターの胸ぐらをつかみながら言う。 「え、ああ……黒いローブの女の子でしたらさっき来ましたよ」 ビンゴ! 「で、どうしたんだ!?」 「し、仕事の依頼を受けてたった今……」 遅かったか!? 「どこにいった!?」 「は、はい……ゲンブ退治の依頼を受けて村はずれの湖に……」 俺はその言葉を聞くと共に、村はずれの湖を目指して走りだした。 ゲンブ退治か……。 ゲンブ退治ならそんなに心配しなくてもいいかもしれないな。ルナの火炎魔法なら楽にしとめられる。ここは自信をつけさせるために一人でやらせた方がいいかもしれないな。 ……いや、それにしたってルナはどこでドジをするかわからないから俺の目の届くところでないとダメだ。 急ぐことには変わりはねぇ! 「ルナァ!どこだぁぁ!」 俺は湖がギリギリ視界に入るくらいの距離まで近付くと共に大声で叫ぶ。 返事はない。 ……戦闘をしてる気配は無いが、まだ始まってないのか、それとも終わってるのか。 湖がだんだんと大きく見えてくる。 ! あれは! 俺の視界にグッタリとしているゲンブが視界に入る。ルナがやったのか!? 俺はルナの姿を見つけるため、その近辺をくまなく見回す。 ……いた! ルナだ。 俺はルナの姿が目に入ると共に、慌てて駆けよった。ルナは左足を押さえて座り込んでいたのだ。 「大丈夫かルナ!?」 ルナは俺の声を聞くとゆっくりと顔をあげる。その表情には明らかに疲労と苦痛が表れている。 「あ……和臣……。ほら……ゲンブ倒したよ……? ルナ、ちゃんと和臣のお仕事お手伝いできるよ……だから……」 ルナはしぼりだすように言ったその言葉の途中で気を失ってしまった。 俺は急いでルナの左足の容体を調べる。 ……凍痛を起こしてるな。 アイスブレスの影響か?そんなにひどくはないからひとまずは安心だが……早く医者に見せたほうがいいだろう。 俺は左足の凍痛に細心の注意をはらいつつ、ルナをおぶって村の病院まで走り始めた。 ルナのケガは大事には至らなかった。薬を塗って温かくしておけば2〜3日で治るらしい。 ……ひとまずは一安心。今は宿屋のベッドに寝かせている。 「……あ……和臣?」 ん? 気が付いたか。 「あ……和臣じゃねぇバカ!」 俺は大声で怒鳴る。ルナは驚いて首をすくめた。 「ゲンブなんかにてこずるんじゃねぇ! おまえの火炎魔法を出会い頭にぶっぱなせばそれでオシマイだろうが!」 「だって……そうしたらまた怒られると思って……」 「怒られる?」 「ゲンブのお肉と甲羅ってとっても高価なんでしょ? だから頭だけを狙ってたら……」 ……ったく、いつもこいつは……。俺はルナの健気な言葉に胸を締め付けられるようなもどかしさを覚える。 「いいか!? そんなのは俺みたいな熟練者だけが気にしてればいいんだ! ルナみたいに実力がないやつはそんなことを考えないでただ倒すことを考えればいい!」 「……じゃあルナやっぱり必要ないの?」 ルナは目に涙をいっぱいためて声を絞りだすように言った。 「もう一緒にいられないの?」 「……………………」 今にもこぼれそうな滴が目の端で揺れている。 「ルナ一生懸命和臣のお手伝いするから! 足ひっぱらないようにがんばるから! だから……だからそばにいさせてよぅ……」 そしてルナは、とうとう下を向いて大粒の涙を何粒もこぼしながら震える声で言った。 …………………………………。 「……もう勝手に仕事を受けたり危ないことを一人でしようとしないって約束するなら……。 ……そばにいてもいいぞ」 俺がそう呟くと、ルナが涙で濡れた顔をあげる。 「約束できるよな?」 俺はルナの涙をぬぐいながら優しく問いかける。 「うん!」 ルナが俺の問いに答えた瞬間、ルナの表情にいつも明るさが戻っていった。 「じゃあもう今日は休め」 「……うん……おやすみ和臣……」 ルナはそう言うと目をゆっくりと閉じた。 「ああ……おやすみ」 俺はしばらくルナのそばにいたが、ルナが眠りについたのを確認すると部屋の外に出る。 「……大丈夫……みたいね」 「エリス……」 いつ戻ってきたのか、部屋の外でエリスは待っていたようだ。 「何であんなことを言ったんだ?」 「……………………」 俺の問いに黙り込むエリス。 「一緒にいる必要が無いとか邪魔なだけだとか」 「……………………」 そのせいでルナは……。 「何で黙ってるんだよ? そんなこと言うようなヤツじゃなかっただろ? あの言葉でルナがどんなに傷ついたかわかるか! ルナが……」 「だって!」 エリスが急に強い口調で叫ぶそうに言う。 「だって何だよ!?」 「だって……だって無性に気にくわなかったんだもの……。 和臣がルナと一緒にいることが……。和臣がルナに優しい言葉をかけることが……。たまらなく……たまらなく……イヤ……だったのよ……」 エリスは下を向いて小さな声で言った。 そして目から一筋の涙がこぼれる。 それを見た俺は胸が極限まで苦しくなる感覚を覚えた。 ……俺は、またやっちまった……。あの日から……、エリスを初めて泣かしてしまったあの日から……。俺は、もうエリスを二度と泣かさないって決めたのに……。一度泣かしてしちまったあの日から……もう二度と泣かさないって……。 「でも……和臣はルナと一緒にいることを決めたのよね……必要ないのは私の方みたい……」 「……………………」 なんで俺はこういうときにエリスに声をかけてやれないんだろうか……。 前の時もそうだった。見たことのないエリスの表情に気が動転して……何もできなかった。そして今もどうすればいいのかわからない。 自分が情けない……賞金稼ぎとしては一流でも、男として最低なのかもしれない。 「必要なくなんてないよ!」 突然俺とエリス以外の声が会話に入る。 「ルナ? 寝てたんじゃ……。」 寝ていたと思ったルナが突然部屋から出てくる。 「ルナと和臣が一緒にいるからってエリスが必要なくなるわけじゃないよ! 別に3人で一緒にいたっていいでしょう?」 ルナが続けて言う。 「3人一緒にいようよ。ルナ、エリスのことも好きだよ」 「……………………」 ルナはエリスの手をとりながら笑顔で言う。 「……ルナ」 そんなルナの言葉を受けたエリスは、少し考え込んでから視線を俺に向ける。 今までの俺ならその視線に答えることができないのだが……ここで言わなきゃ俺はいつまでたっても……。 「……ま、まぁ幻術師とシヴァ使いが組んだらどんな仕事もこなせそうだけどな」 チクショウ。この期に及んでもこんな言葉しか言えないのかよ! エリスはその言葉に対して何の反応もしていない。 ……俺は少し恐かったが、このままじゃどうしようもないのでエリスの方に視線を向ける。 エリスは俺の視線が向かっていることに気付くとゆっくりと口を開いた。 「……幻術師とシヴァ使いと……魔女でしょ?」 エリスは少し微笑んでそう言った。 そんなこんなでとりあえずは3人一緒に旅をするということでまとまったのだが……問題が起きないはずもない。 「何で部屋をとっとかないんだよ!?」 「もう旅に出るつもりだったからよ!」 さっそく問題がおこっている。寝るところが3人分ないのだ。エリスはルナが飛び出した時点で旅に出るつもりだったらしく、部屋をチェックアウトしてしまったらしい。 しかももうその部屋は新しい客がチェックインしてしまい、他の部屋も他の宿屋ももう部屋が残っていないのだ。 つまり、この2人部屋の2つのベッドしかないということだ。 「ルナ、和臣と一緒のベッドでいいよぉ」 「な、何言ってんだよルナ!」 もちろんルナの提案は即座に却下。 「えー!? 久しぶりに一緒のベッドで寝ようよぅ!」 「……久しぶりに?」 エリスがルナの一言を聞き逃す訳もなく、恐ろしいオーラを放ちながら俺を睨みつける。 「いやぁ、ははははは……いでぇ!?」 エリスが俺の後にまわり、ルナに見ないように背中をつねる。 「和臣は廊下で寝てればいいのよ!」 「でも、それじゃ風邪ひいちゃうよぉ」 ルナが心配そうに言う。 「でもルナと一緒のベッドで寝かせるのは……」 「じゃあ、エリスと和臣が一緒のベッドで寝るの?」 「え?」 俺とエリスは顔を見合わせて真っ赤になる。 ……そ、それは……。いやぁでもなぁ……。 「……しょうがないわね……。和臣もベッドで寝たいだろうし……」 エリスの意外な一言で俺の顔がさらに赤くなる。 「お、あ、え、エリス?」 「ルナ、今日は私と一緒に寝ましょ」 へ? 「うん! いいよ!」 「じゃ、和臣はそっちのベッドで寝てね、おやすみぃ」 「おやすみ和臣」 ……な、なんだ? なんなんだ……。 「お、おやすみ」 俺はいきなりまとまってしまった話にしばらく呆然としていたが、このまま起きていてもしょうがないのでベッドに入る。 「えへへ、エリスってあったかいね」 「ふふ、そう?」 ……エリスとルナの楽しげな会話が耳に入ってくる。 な、何だこの虚しさは……。 ルナのやつめ……いっつもは和臣、和臣って言ってくるくせに。……エリスもエリスだ。 さっきまではルナに嫉妬してたんじゃなかったのかよ? …………おや? な、何だこの感情は? エリスがルナと仲良くするのも気に入らないし、ルナがエリスと仲良くするのも気に入らない。 俺はまさか、エリスとルナに嫉妬してるのか? しかもエリスとルナが仲良くすることに……。 ……もしかすると俺が一番嫉妬深いのかもしれない。 第7章 嫉妬深いということで 完 第7章 嫉妬深いということで 完 〜ネタがばらされそうなので以降はカット〜 何じゃそらぁ!まぁいいわ……これからは出番増えそうだし。次章、魔女の飼い方『選択の時ということで 前編』。いけいけGOGOジャーンプ! |