第6章 正義の味方ということで



 俺の名前は黒崎和臣。『シヴァ使い』って言われている超すご腕の賞金稼ぎ。実は俺、魔女を飼っていたりする。
 ……ってもう説明はいらないかな?
 ところで俺は悩みをかかえている。その悩みというのは、最近『シヴァ使い』の評判がズドンと落ちているということだ。まぁ原因はわかるけど……。
「ねぇねぇ和臣」
 これがその原因。一応魔女。名前はルナ。外見、精神年令共にガキそのもの。こんなヤツと一緒に旅をしてれば評判も下がるわな。
「何だよルナ」
「今日のお昼飯はどこで食べるのぉ?」
 それに悩みがもうひとつ。貯金が増えないのだ。ルナがミスをしでかしたり、変なヤツに追い回されたりと色々理由はあるのだが、最大の原因は食費であろう。
 今までは月に6万リクン程度だったが、現在平均54万リクン。実に9倍。今までは月に200万リクンもの貯金をしていたというのに。今月はでかい仕事をしていないというのもあって、とうとう赤字が出てしまった。
 目標の10億リクンに到達する日がだんだん遠退いていく。今月は質素にいかなかれば。
「そうだなぁ、今日はあそこにしようか」
 俺は安そうなラーメン屋を指さして言う。ラーメンならば例え15杯食べられようが、だいたい7500リクン程度で済む。
 それにしてもルナの母親はこんなんで本当にやっていけたのだろうか? まさかこれが原因で捨てたんじゃ……。
「えー!? 昨日もラーメン食べたよ? ルナ今日はあの店がいいなぁ……」
 コイツ……食べ物の字だけは完璧に読めるようになってやがる。
 ……んなっ!?
 俺はそんなことよりもルナが指をさした店を見て仰天した。
「ゲ、ゲンブ料理専門店!?」
「うん! 和臣と初めてあった日以来食べてないでしょ?」
 当たりめーだ! ルナを連れてゲンブ料理なんか食ったら50万リクンはかるく超しちまう!
「ダメだ! ゲンブ料理は高いんだ。ルナもそのくらい知ってるだろ?」
「どうしてもダメなのぉ?」
 ルナが懇願するような目を俺に真っすぐ向けて言う。
 うっ……いやイカンイカン! ここは厳しく!
「どうしても食べたいよぅ……」
 うぉぉぉぉ! いたいけな瞳攻撃はやめろぉぉ!
「ねぇ和臣ぃ!お願いだよぅ……ねぇねぇねぇ」
 ルナが潤んだ瞳を向けつつ、コートの袖を何度も引っ張りながら言う。
「し、仕方ねぇなぁ……」
 うぅ……こんな自分がイヤになりそう。
 あぁぁぁ、さっき質素に過ごすと決意したばかりなのにぃ……。
「わぁぁぁい!和臣大好きぃ!」
 ルナは満面の笑みを浮かべながら俺に抱きついてくる。
 ………………。
 ……まぁいいか。
 明日から明日から。
「よぉし、じゃあ今日はジャンジャン食おうぜ!」
「わぁい!」
 俺たちは気合いを入れてゲンブ料理専門店に入っていった。


「今日はいっぱい食べたねぇ!」
 現在ゲンブ料理屋の帰り道。色々な屋台が並んでいる。
 ゲプ……、俺としたことがルナにつられて4人前も食べてしまった。まぁルナは17人前食ったけど……。
 しめて765,700リクン。
 ……働かねば! 働かねばぁぁぁ!
「じゃ、いっぱい食べたし仕事でも探しに……」
 俺はを途中で止める。
「どうしたの?」
 その様子に心配したのか、ルナが眉をひそめて聞いてきた。俺はそれに構わず自分の後方に視線を移す。するとサッと物陰に隠れる人影があった。
 ……つけられてる? ゲンブ料理屋を出てからか?
 ん? 何でそんなことがわかったって?
 そりゃあもちろん長年の勘と言うヤツですよ! 腐っても……って腐ってないけど俺は『シヴァ使い』黒崎和臣様ですよ?俺の才能を妬んで襲ってくるヤツもいるんですよ?
 例の自称天才科学者もその一人だったわけだが。
 ……思い出したくもないんだけど……。
 そんな訳でこういうのは慣れているのだ。
 でも、ちょいとばかりおかしい。普通ならば殺気のようなものが感じられるんだが……。
 もしかしたら殺気を殺せるような達人なのか? いや、それだったら気配も完全に消せるはずだ。
「ねぇねぇ和臣ぃ!どうしたのぉ?」
「あ、いや何でも無い、……ルナ、リンゴ食うか?」
 俺は近くにあった果物の屋台のリンゴを指さして言う。
「うん」
 ルナがニッコリ笑って言う。
 俺はそれを確認すると1個80リクンのリンゴを買う。つけてきたヤツのことは取り敢えず保留にするかな……。
 なんてね!
 俺は人影が隠れた辺りに思い切りリンゴを投げ付けた。
 パシャン!
 リンゴが人影が隠れた壁に衝突し果汁をぶちまけながら砕け散る。
「ウヒャァァ!」
 それと共に女の悲鳴が起こった。
 ……女? 俺は急いで悲鳴の起こった現場に行く。
「え?」
 視界に入ってきた人物を見て俺は驚愕する。
 そこにいたのはなんと8才くらいの女の子! 生意気そうな顔が特徴的だが、それよりもその女の子の服装に度胆を抜かれた。
「おい……おまえ何だそりゃ?」
「何って、シヴァラー」
 俺の頭がショートしそうになる。
「あー、和臣と同じ格好だぁ!」
 遅れてきたルナが言う。そうなのだ。こいつは赤いバンダナにグリーンのコート。まぁスザクのクチバシ製ではないにしろショルダーガードも付いているし、髪型も俺に似せている。
 『シヴァ使い』の偽物の登場か!?
 いや、しかしこんな小さい女がそんなことやったってすぐバレるに決まっている。
「どうしておまえそんな格好してるんだ?」
「どうしてって、あたいシヴァ使いのファンなんだ!」
 なぬ?
 俺の頭は完全にショートしていた。


「ファンだからって、格好を真似したり、後をつけたりするのか?」
 ここはとある喫茶店。俺はシヴァラーを名乗る、先程のつけてきたヤツから詳しいことを聞くためにここの喫茶店に入ったのだった。
 それにしてもシヴァラーって古い表現だなぁ。
「知らないのか? あたいみたいのをスートカーって言うんだ! 一時期流行ってただろ?」
 シヴァラー女は頼んでいいとも言ってないのに、勝手に注文したマロンパフェを頬張りながら言う。
 こいつ、顔つきに比例して生意気だ!
「ねぇ和臣、ストーカーって? 何かカッコイイ名前だけど……」
 ルナは4杯目のブルーベリーパフェを食べながら言う。
「自分が気に入った人間を、相手が嫌がってるのにも関わらず執拗に付け回したりする、まぁ……ストーカーって言えば格好もつくかもしれないけど、実際はただの変質者だ」
「おいおい、そりゃないよ? あたいはあんたに憧れてたんだぜ? もうちっと優しくしてくれてもいいんじゃないか?」
 シヴァラー女は……って、名前聞いてなかったな。
「で、お前の名前は?」
「フィラだよ」
「で、フィラ、お前は本当にただ単に俺に憧れてるから後をつけたりしたのか?」
 そんな当然の疑問を投げかけると、今まで明るかったフィラの表情が変わった。目が涙ぐんでいるだとぉ!?
 おいおい冗談はよせよ!?
「実はあたいの通ってる学校に時々ビャッコが襲ってくるんだ。友達が何人も大怪我を負ったりして……。
 それで……ヒック……うわぁぁぁん!」
 フィラが言葉につまって泣きだす。
 うわぁぁぁぁぁって……嘘泣き!?
 俺はフィラの涙を嘘泣きだと判断した。なぜならばこの俺が何も感じないからだ。女の子の涙を苦手とするこの俺が。
 普通ならば泣き声を聴いただけで拒否反応を起こす。
 ……いや、もしかしたらルナのせいで並の泣き声で反応しなくなっただけかもしれないが。
「それで?」
 俺はあえて冷たい口調で言う。
「……だから、正義の味方の『シヴァ使い』なら救けてもらえると思って……だから……ひっく……それで」
 ますますあやしい。
 普通、さっきのように泣いた直後はまともに喋れないはずだ、それなのにこいつは肝心なことだけはちゃんと喋っている。
 それよりなにより、マロンパフェを食べるスピードが変わらない。
 ……ルナが泣いた時も食べるスピードは変わらないけど。
「残念だった……」
「大丈夫だよ! フィラちゃん! ルナたちが必ずそのビャッコをやっつけてあげる!」
 俺のセリフの途中でルナがフィラの両手をがっしりと掴んで言う。
 おーい……。ちなみに俺は『残念だったな、俺は金にならない仕事はやらない。どうしてもそのビャッコをしとめて欲しいんだったら、仕事屋で依頼の登録をするんだな』と、言うつもりだったのだ。
「お、おいルナ……」
「フィラちゃん! もう安心して! 正義の味方のルナたちはとぉっても強いんだよ!
 ビャッコなんてアッと言う間にチョチョイのチョーイなんだから!」
 勝手に話を進めるなぁぁぁぁぁ!
「ありがとう! ルナお姉ちゃん!」
 ル、ル、ルナお姉ちゃん!?
 た、確かにルナの方が年上だが……ルナお姉ちゃん……!
 あぁぁぁぁ! 何かが違う!何かが違ぁぁぁぁう! ルナが、お姉ちゃん……お姉ちゃん……あ゛あぁぁ!
「本当に? やっつけてくれるの?」
「ルナたちに任せて!」
「じゃ、約束だよ!」
「じゃあ、ゆびきりげんまんしようよ!」
「うん!」
「ゆびきりげんまんウソついたらハリせんぼんのーます! 指きぃった!」
 ハッ! ルナお姉ちゃんという言葉で苦悩してる間に、気が付いたらゆびきりげんまんまでしてるぅ!?
「じゃあ、頼んだよお姉ちゃん! ビャッコの住みかはソロネ学園の近くの森だから! よろしくぅ!」
 フィラはそれだけ言い残すとそそくさと店を出ていった。
 は、速い!
 ……俺はフィラの後ろ姿を目で追う事しかできなかった。

「ねぇねぇ和臣ぃ!早くやっつけてあげようよぅ!」
 俺たちはさっきの喫茶店を出て、街道を歩いていた。
「ルナ。あのフィラっていうヤツ、どうもうさんくさいぞ?」
「えぇ!? 何で? 何で? 何でぇ? フィラちゃんはとってもいい子だよぅ!」
 ……コイツは人を疑うことを知らんのか? まぁルナが人を疑うってのも想像できんが。
「でもなぁルナ……」
「何で? 正義の味方は、困ってる人をたすけるんだよ!?」
 せ、正義の味方って……。いわゆる、『弱きを救い悪を倒す』ってヤツか?
 俺の場合は『弱きを救いお金を貰う』なんだけどね。
「あのなぁルナ、俺たちの職業はあくまで賞金稼ぎ、正義の味方なんかじゃない。
 それに考えてみろ、正義の味方ってのは見返りなしで仕事をするんだぞ?
 そんなんじゃ、飯にもありつない」
「何で? 困ってる人をたすけるのが悪いことなの? そんなの絶対おかしいよ!」
 道徳の授業だったらそうかもしれないけどな。
「良いか悪いかの問題じゃなくてなぁ……」
「もぉいいもん! ルナ一人でもフィラちゃんをたすけるんだからぁ!」
 ルナは俺が乗り気でないのを察すると、大声で啖呵を切り始めた。
「バカ野郎! ゲンブならともかくビャッコはルナ一人じゃ無理だ!」
「ルナ、バカじゃないもん! このままじゃフィラちゃんがかわいそうだからたすけるんだもん!」
 ルナは目に涙を浮かべながらも強がって言う。
 うーん……。こうなったらテコでも動きそうもない。
 それに、納得させずに無理に止めたとしても、かってにビャッコ退治に行っちまう可能性もある。
 ……しゃあないか。
「わかったよルナ。ビャッコを倒しにいこう」
「本当ぉ!?」
 俺は黙って頷く。俺はこんなにうさんくさく、金にもならない仕事をする気はさらさらなかったが、やることにした。
 ルナのいい社会勉強になると思ったからだ。
 ……なんか俺、最近父親役が板に付いてないか?
 うぅぅ、まだ若いのに。


 例のビャッコを探すのに大した苦労はしなかった。森に入って少し歩いたらいきなり襲ってきたんだからな。
「ルナ! おまえは後方から援護の冷気魔法を!」
「うん!」
 ルナは頷くと左手を構える。ちなみに冷気魔法にした理由は、木に燃え移って火事になるのを防ぐため。
「ガァァァ!」
 おおっと! 俺はヒラリとビャッコの攻撃をかわす。それと同時にルナの放った冷気魔法がビャッコを襲った。
 それを素早く動いてかわすビャッコ。
 ドォォォン!
 そこに俺がシヴァ砲を放つ。ビャッコはそれもやり過ごすが、間髪置かずに襲いかかるルナの冷気魔法には反応しきれなかったようだ。
 直撃はしなかったものの足に命中し、ビャッコの動きが格段に鈍った。
「よし、うまいぞルナ!」
 こうなれば、ビャッコも俺の敵ではない。俺はある程度間合いを離し、狙いをしかっりと定めてシヴァ砲のトリガーを引いた。
 ドォォォォン!
 シヴァ砲から放たれる閃光 がコメカミの辺りを貫くと、ビャッコは断末魔の雄叫びをあげ力なく倒れる。
 ふっ……たいしたことなかったな……。余裕余裕。
「やったぁぁ! これでフィラちゃんも喜んでくれるよね! ねぇ和臣ぃ!」
 ルナがはしゃいで言う。
「ああ……そうだな。今頃笑いが止まらないだろうな」
「?」
 ルナはこの言葉の意味がわからなかったようだ。
 なんというか、実はずいぶんと前から気付いていたのだ。
 フィラの悪巧みを。
「ルナ、いくぞ」
「いくぞって? どこへ?」
「いいから来い」
 俺はルナの手をとってある場所へ向かう。俺がどこに向かうか察しのいい人は気付いていると思う。
 そう、俺は仕事屋に向かっているのだ。

「ここって仕事屋だよねぇ? 何でこんな所に来たの?」
 俺はルナの言葉を無視し、仕事屋に入る。
「いらっしゃいませ……」
「マスター、ここにビャッコ退治の依頼があったはずだけど……」
 俺は入るなりマスターに聞く。この町に仕事屋はこの1軒だけだからね。
「ああ、はい、別の方にもう引き受けて貰いましたけど」
 やんなるくらい予想どおりだ。
「マスター、ビックリしなかったか? あんな小さな女の子がビャッコ退治なんて」
「え?」
 マスターが俺の言葉に大きく反応する。
 ここまで来れば大抵の人がフィラのしようとしたことに気付くだろう。ルナはまだ気付かないようでキョトンとしている。
「その依頼を受けたのはフィラってヤツだろう? マスター、そうだなよな?」
「え、ええ……」
 俺の決定的な言葉にマスターが頷く。
「フィラちゃんが?」
 ルナが初めて反応を示した。
「どうだルナ、わかっただろ?」
「何が?」
 ピシィィィ!
 俺の脳天に電撃が走った。あ、あのなぁ……。
「だからぁ! フィラは俺たちをうまく利用してビャッコを倒させて、報酬はチャッカリネコババしようと考えてたんだよ!」
「どういうこと?」
 あぁぁぁぁぁぁぁ!
「だからぁぁぁ! 俺たちは騙されたんだよ! フィラに!」
「騙されてた?」
 ルナも、この騙されたという言葉を聞いて、どうやら気付いたようだ。
「そう! あいつは嘘をついて俺たちにタダ働きをさせたんだ!」
「フィラちゃんが嘘をついた?」
 みるみる顔色が変わっていく。
「ああ!そうだよ!」
「そんな……」
 ルナの両目から涙がこぼれる。
「……フィラちゃん、ルナとゆびきりげんまんしたんだよ? それなのに……どうして?」
 ………………。
「うっ……うぅ……」
 俺は今のルナの泣き顔を直視できなかった。こういう泣き方は、今までの『ふぇぇぇん』、『びぇぇぇん』の比ではない。
 俺はどうにも懲らることのできない、耐えることのできない気持ちになり、何もできなくなっていた。
 ガランガラン!
 そんな重い雰囲気の俺たちをよそに、威勢のいい音とともに店の扉が開く。
「おーい! やったぜぇい!
 あたいがビャッコを退治したんだって……あれ?」
 入ってきた人物は、現在最も話題の人! フィラちゃんその人だった。
「はぁぁい、フィラちゃぁぁぁん? 誰がビャッコを退治したってぇぇぇ?」
 俺の言葉を聞いたフィラの顔が一気にひきつる。
「エヘ、エヘヘ……さようならぁぁ!」
 フィラはその言葉と共に180度回転し、走り出した。
 しかぁぁぁし、チョコレートケーキにハチミツぶっかけて、みたらし団子を5、6本ぶっ刺したくらいあまぁぁぁい!
 う゛っ・・・想像したら気持ち悪くなっちまった。
 あっと、こんなこと考えてる場合じゃないんだった。
 ドォォォォン!
 俺は問答無用で走ってるフィラの足元にシヴァ砲をブッ放す。
「どひゃぁぁぁ!」
 フィラはその閃光に驚いて足をもつれさせてしまい、前方にすっころんで顔面を打ち、悲鳴をあげた。
 え? 幼い女の子相手にひどいって?いいんだよ、今回はちょっとばかり怒ってるからね。
 俺はゆっくりとフィラに近づく。
「アッハハハハ!お顔が恐いですぅ、お兄様ぁ……」
 フィラが引きつった顔をしているが、まだお茶らけた様子だ。
 ほぉぉぉ、こいつ若いのにいい度胸だな。
「悪いけど今ちょぉっと機嫌が悪いんだよねぇ」
 俺はにっこりと笑って言ってやった。
「笑顔のわりに殺気がすごいんですけど……」
 フィラの顔が青くなっていく。うんうん、子供は素直でなくちゃ。
「俺はおまえの額にでっかいピアスを入れてあげたいから、バァァァァンと穴を開けようかと思ってるんだけど」
「けけけ、結構ですよぉぉぉぉぉ!」
 ……まぁ、こういうヤツには本当は痛い目に遭わせてやるのが一番なんだけど……、ここはルナに決めてもらうのがいいな。
「おいルナ、おまえも何か言ってやりな」
 俺がそう言うとルナはゆっくりとフィラに近づいていった。
「ゴ、ゴメンね、ルナお姉様ぁ」
 フィラは手を併せて言う。まだ懲りんのかコイツ?
「フィラちゃん……本当に嘘ついたの?」
 ルナが目に涙をためて言う。
「え?あ、あの……。
 あ……う……」
 フィラはそれを見るとバツが悪そうにルナから視線をそらしてしまった。
 フム、コヤツ根っからの悪者でも無いようだ。本当の悪者なら、子供の泣き顔を見ても動揺しない。
 自分の有利な方へもっていくためにそれさえも利用するのだ。
 ルナが泣いても平気で笑い続けた自称天才科学者がいるが……、あいつは本当の悪者とかとはチョット違うような気がする。
「ねぇフィラちゃん……答えて?」
 ルナはとうとう涙をこぼしながら言う。
 フィラは救いを求めるように俺に視線を向けてきているがもちろん知ったことではない。俺はフィラの視線に答える代わりにシヴァ砲を構え直した。
「……ねぇ、どうして何も言ってくれないのぉ?」
「……わ……悪かったよ……」
 フィラが聞き取れないくらい小さい声で言う。それを聞いたルナは下を向いて黙ってしまった。
 ……もう、見てられん。
「つうことは、やっぱり俺たちを騙そうとしてた訳だな?」
 俺がツカツカとフィラに詰め寄って言う。
「あ、謝るから許してくれよ」
「フィラ、こんな言葉を知ってるか?
 『謝って済むなら警察はいらない』」
 俺はそう言ってフィラの額にシヴァ砲の銃身を突き付ける。
「あぁぁぁぁ、や、やめ!」
「ルナを泣かした事をあの世で後悔するんだな」
 ニヤーッと口を歪める俺。
「うわぁぁぁぁぁ、そんなぁ殺すことないじゃないかよぅ!」
「フッ……」
 冷酷な笑みを浮かべる。
「うおぅわぁぁぁぁ、か、勘弁してくれよぉぉぉぉ!!」
「最後の言葉なんだぞ?
 もうちょっと気の効いたのは無いのか?」 
「いやだぁぁぁぁぁぁ!!」
「バァァァァァン!」
「うひゃ……」
 フィラが白目をひんむいて気を失った。あーらら、口で言ったのに……。
 気の小さいヤツだな。まぁ、この状況だったら普通はこうなるかな?
 そういえば自称天才科学者も失禁して気絶していた。
 うおっ、こいつもよくみたらちびっているようだ。
 ま、まぁ、子供だし仕方がないか。
「か、和臣、フィラちゃん殺しちゃったの?」
「あのなぁ……俺がこんなガキを殺せると思うか?」
 シヴァ砲から閃光が出ていなかったのに、なんでわからんのだ。
「でも倒れちゃったよ。あ、お漏らしもしてる……」
「ちょっと、おしおきをしてやっただけだ」
 そう、俺みたいな超一流の賞金稼ぎから金を騙しとろうとするとこうなるってね。前にも言ったと思うが人間は子供のころの教育が一番重要なのだ。
 この黒崎和臣様を騙そうとしたんだから死の恐怖ぐらい味わってもらわないと。
 誰だ? やり過ぎとか、鬼とか言ったヤツは?
「で、どうするの? フィラちゃんはこのままにしとくの?」
 ……確かにこのままって訳にはいかないな。俺としたことが先のことを考えずに行動してしまった。
「マスター、フィラの家わかるか?」
 とりあえず家を調べて送り届けよう。この町の人間だろうし。
「え? ええ……この子は学園の寮に住んでいるんです」
「学園って、ビャッコに襲われてたところか?」
 学園寮? この歳でか?
「はい」
「じゃあ、そんな遠くじゃないね。ねぇ和臣、連れてってあげようよぅ」
 ルナが俺のコートのすそを引っ張りながら言う。
「フム……確かに大した距離でもないし運んでやるか」
「うん」
 俺が承諾すると、ルナはニッコリと笑った。
 ……本当にお人好しだな。コイツのせいでさっきまで泣いてたんだぞ?
「で、どうやって運ぶの?」
 ……あ!
 俺はルナの言葉を聞いて顔色を失ってしまった。
 フィラを運ぶのはどう考えても俺だ。
 しかし……漏らしたヤツをどうやって運ぶんだぁぁ!
 このまま抱きかかえたら服が汚れちまう。着替えさせるか?
 着替えは? いや、その前に誰が着替えさせるんだ?
 ……いくらガキとは言え、俺が着替えさせる訳にはいかないし……。

 俺はこのままじゃどうしようもないので、何とか汚れないようにしてフィラを運ぶことにした。


「どうもわざわざ、すみません。フィラったらまだオネショなんかして……」
 これはフィラが住んでいる学校の寮の先生のセリフである。
 性別は女、歳は20代後半ってとこかな?
「いや、オネショって訳じゃ……」
「本当、すみませんね……。
 それで……今度はこの子、何をしたんですか?」
 察しのいい人だな。
 あ、ちなみにフィラはこの先生が着替えさせて隣の部屋に寝かせている。
 ルナも疲れてたみたいでフィラの隣で寝てたりする。まぁルナがいない方が話はしやすいのだが……。
「実は……」
 俺は今日の出来事を掻い摘んで話した。すると先生は小さくため息をついた。
「そうですか……。
 でも……きっとこの学園のためにやったんだと思います」
「この学園のためにって?」
 俺が聞くと、先生は一度フィラの寝ている隣の部屋の様子を見てから俺の方を見直す。
「はい、今回の報酬のお金はうちの学園からでているんです。
 でもうちは貧乏で……60万リクンなんてとても……。それで私たち教師でお金を集めたんです」
「教師なんてそう儲かるもんじゃないだろ?
 しかもここの教員は少なそうだし……一人10万リクンは出したんじゃないか?
 教師の給料なんて底が知れてる。そうとうしんどいんだろう」
 俺の推測に自嘲気味にほほ笑んで、小さく頷く。
「ええ……フィラちゃんって、幼い頃両親をなくしてから、ここの寮でずっと暮らしていたんです。だから私たちとも家族同然のつきあいをしてて……」
「フィラにこのことを感付かれたって訳か……」
 先生は肯定も否定もしなかったが、その表情から俺の推測があっていることは感じ取れた。
「あの子、根は本当に優しい子なんです。
 今回の事も私たちをたすけるめに……」
 典型的な素直になれないひねくれたガキってことだな。
「でも、悪いことは、悪いことだ」
「はい、わかってます、フィラには厳しく言っておきます」
 ……この先生、さっきから全部自分が悪いような顔をしてやがる。なんだか居心地が悪い。
「いや、その必要は無い。俺がきつくしぼっといたからな。もう二度こんなことしないくらいに……。だからあんたたち教師は優しい言葉でもかけてやってくれ」
 だから空気を壊すためにお茶らけて言った。
 それに、あんな仕置きのうえ、これ以上なにか言ったらグレかねないからね。
「……はい、ありがとうございます」
「ヘン!
 あ、あたいのことを勝手に解釈するんじゃいないよ先生!」
 突然隣の部屋とつながっているふすまが開く。そこにいたのフィラだった。
「あたいはただ単にお金が欲しかっただけだ!
 先生たちのためなんかじゃ……」
 ……ったく。
「おいフィラ!」
「ひぃ!?」
 俺はまたまたシヴァ砲を額に突き付ける。
「ちょっとは素直にならないとまたチビらせるぞ」
「あひゃひゃひゃ」
 フィラが冷汗をタラタラと流す。
「あ、そうそう。
 これ服のクリーニング代な、まぁ俺のせいで汚れたようなもんだし」
 俺はそう言ってさっきの仕事屋で受け取った報酬の入った紙袋をフィラに渡す。
「こ、これって……」
「あれこれ詮索するな、それはお前の服のクリーニング代だ、わかったか?」
 俺のそのセリフに驚いた表情を見せるフィラ。
「……あ、ありがとう」
 しばらく間をおいてから、フィラが照れながら言った蚊の鳴くような声で一言を、俺はわざと聞こえないフリをして寮から出ようとする。
「あ、あの……お連れの女の子は……」
 ちっ……この今までになく異常にさわやかな雰囲気でごまかして、ルナを置いていこうとしたが失敗に終わったか……。
「ダメだよ、恋人を置いていっちゃ!」
 ピクゥゥゥ!
 俺の耳がフィラの言葉に恐ろしいまでの反応を示す。
「おい、こらぁなんじゃそらぁぁ!?」
「ど、どういうことって……だってそうなんだろ?」
 なにがそうなんだ、なにが!
「なんでそうだと思うんだぁぁぁ!俺はロリコンじゃねぇぇぇぇ!」
「え、違うの?
 だって少し前に、この町に来たヤツがそう言いふらしてたぜ?」
 な、な、な!
 風評被害がここまで!?
「どこのどいつだ!」
「え、あ、た、確か自分のこと天才科学者だとかどうとか言ってたな……」
「なぬ!?」
 俺の体が硬直する。ま、まさか。
「そいつってグルグルのメガネかけててボッチャンガリってことはないよな?」
「あんなの一度見たら忘れないよ、しかもなんか異様に筋肉質だったし。知り合い?」
 俺の頭が真っ白になる。
「そいつが言ってたんだよ。
 『シヴァ使いはロリコンだ。年端もいかない女を連れて鼻の下を伸ばしてる』って、あたいはそれを聞いて今回の作戦を立てたんだ」
 フィラが何か話しているようだが俺の頭にはあまり入っていない。
「実際、ビビッたよ。あの『シヴァ使い』がルナお姉ちゃんみたいな女の子を連れて仲良く飯食ってるんだもんな。兄妹に見えるくらいいい雰囲気だったぜ?」
 俺の頭はまだ正常に動いてない。
「これならいけると思ったんだよ、あたいの魅力でうまくまるめ込んじまおうってね。あんたの気を引くためにこんな格好までして……。でもうまくいかなかった、さすがは『シヴァ使い』って所だね」
 まだ正常には動いていない。
「でも本当に感謝してるんだぜ?『シヴァ使い』って、本当の意味で正義の味方なんだな」
 ぞわぁぁぁ!
 俺の体中に鳥肌が立つ。俺は『正義の味方』だの、『優しい人』だの、そういうことを言われるのがメチャクチャ苦手なのだ。
「変なこと言ってんじゃねぇよ!
 それよりもだ!
 俺はロリコンなんかじゃない!
 これだけはずぇぇぇったい、肝に命じておけよ!?」
 俺は怒鳴る事で話題をそらそうとする。
「ふぁぁぁぁぁぁ、どうしたの和臣ぃ……」
 ルナが俺の声のせいで起きたようだ。ルナは目をこすりながら俺の方に近づいてくる。
「ほら、ルナいくぞ!」
「ふにゃ……?」
 俺は寝呆けているルナの手を引っ張って寮を出ようとする。
「和臣……」
 フィラが俺を呼び止める。
「和臣お兄様と呼べ。」
「……やっぱりそういう趣味?」
「誰がじゃぁ!」
 ったくコイツは……。
「あ、あのさ……」
「はっきり言えぃ」
「この格好続けてもいいかな?」
「あん?」
「だから、シヴァラー続けてもいいかって聞いたんだよ!」
 おんや?フィラの顔が少し赤いような……酒でも飲んだのか?
 おおっと、それよりもシヴァラーを続けるっていうのはちと勘弁して欲しいような気がするが……あれ?フィラが俺と同じ格好をしたのは、俺の気を引いて今回のことをうまくいかせるためじゃなかったのか?……それなのに続けるなんて何かメリットでもあるのか?
「どうなんだよ!」
「……別にいいんじゃないのか? 商品化している訳でもないし、訴えられることはないぞ?
 じゃあ俺たちはこれで……。」
「なぁ、またこの町に来てくれるか?」
 う……。だからぁ!
 こういうのパターンは苦手なんだって!
「気が向いたらな、そんじゃあ」
 俺はフィラが次の言葉を発する前に急ぎ足で寮を出ようとする。
「フィラちゃん、バイバーイ!」
 ルナは名残惜しいらしく手を振っているようだが、俺はそんなルナを無理に引っ張って寮を出た。

 はぁ……それにしても何だったんだろ今回は……。
 なんか俺、本当に正義の味方みたいだったじゃないかよ。それにしても……あの自称天才科学者め……今度会ったらって……会ったら困るけど……。
 ああぁ、この怒りはどこに向ければいいんだぁぁぁ!無報酬だったしぃ……。
「ねぇねぇ和臣」
 人が話をまとめて終わらせようとしてる時に喋りかけるなぁ!
「フィラちゃんまだ手を振ってるよ、和臣も手を振ってあげなよう」
 あ、本当だ。
 俺は仕方なく少し手を振り返してやる。

 ……たまには……。
 正義の味方ってのもいいかな。



第6章 正義の味方と言うことで 完

次章予告

 はぁぁぁぁぁぁぁい!ルナでぇぇぇぇす!おかげさまで魔女の飼い方も第6章を無事終えることができましたぁぁぁ!作者が6章までもった作品はこの魔女の飼い方と時の破片だけです。うぅぅぅ、良かったねぇ。
 そんなめでたい今回!魔女の飼い方もそろそろ略称を考えないとなぁと思うのです!魔女の飼い方ってちょっと言いにくいもんね!魔女飼いと言う意見もあるのですが、リズムがいいと言うことで魔女方(まじょかた)に決定しましたぁ!パチパチパチ!
 さぁ!次章の魔女方はどうなるんでしょうかぁ!?え?あの人が再登場!?せっかくルナの出番が増えてきたと思ったのにぃ!もうこうなったら次章が始まる前にあの人を抹殺してやるぅ!そうすれば和臣は私のモノ……フッフッフッ……、え?ここに出てくるルナは本編とは性格が違うって?しかも段々性格がダークになってきてるって?もう!そんな事言う子はぁ……月に代わってぇおしおピィーー!(さる事情により放送禁止)。
 スペースもなくなってきたので、そろそろ題名を言いまぁす。次章、魔女の飼い方!『嫉妬深いと言うことで』!次章もおもしろかっこいいぜぇ!

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