第5章 疲れるヤツだということで 「貴様、『シヴァ使い』だな?」 男が声をかけてきたのは、俺とルナがホルリの町にあるレストランで昼飯を食べていた時だった。 プゥゥゥゥ! それと共に、ルナが口に含んでいた物を、俺めがけて思いっ切り吹き出す。 「ったねーな! ルナ!」 俺はナプキンで顔を拭きながらルナを怒鳴る。 「だ、だって……この人……」 ルナが笑い声を含ませながら俺の後ろを指さして言ったので、俺は後ろを向いて男に視線を向けた。 ブゥゥゥゥゥ! 俺はおもわず口に残っていたコーヒーをその男の顔に吹き出してしまった。 これは不可抗力である。誰だってこいつの顔見たら吹き出してしまうだろう。 その男はボッチャンガリに牛乳ビンの底なみの厚さのメガネという、今時小学校の学級委員でもしないような格好をしている。 こいつ、歳は30前後で、身長は181cmある俺より高く190cmはあるだろうか? そんなヤツがボッチャンガリにグルグルメガネというのは……。しかも服のセンスも大した物で、真っ黒い軍服のようデザインの物を着用している。 ……歩く笑い者だ。 「……貴様ぁ! これは私に対する挑戦だと受け取っていいのだなぁ!?」 笑い者は青筋を立てて大量の唾を飛ばしながら怒鳴る。 「わりぃわりぃ! 悪気はないんだ許せ」 俺はその唾を器用に避けながら言う。 「ふんっ、まぁいい! 私の名は天才科学者Drクワバー!」 Drクワバーとやらが聞きもしないのに名前を名乗る。その名乗りを聞いた俺は頭痛を起こした。 自分のことを天才などと言う人間は大きく2つに分けることができる。1つめは俺のように本当に実力がある人間。もう1つはちょっとイッちゃてる人間。 こっちの方はタチが悪い。人より少し実力があると知ったときに、自分が世界で一番実力があると勘違いするという困ったちゃんである。もちろんこいつは後者だろう。 あ、また見た目で判断しちゃった。まぁいいか。 「それで……Drクワバーさんよ。俺に何のようだ?」 俺はコーヒーを一口やって言った。 「貴様に今すぐ『シヴァ使い』の名を取り下げてもらおうと思ってやってきたのだ!」 ほう! そう来たか! こいつはおもしろい。 「へぇ?なぜ?」 「フフフフフ!これを見よ!」 クワバーは上着である軍服(?)のファスナーを開けて、懐から何かを取り出した。 「ひ、ひふぁふぉう?」 ルナがカツ丼を口にいっぱい含みながらそう言う。 ルナはシヴァ砲と言いたいのだろう。 そう、クワバーが懐から取り出したのはシヴァ砲もどき。っていうか素人から見れば普通のオートマグの銃だけどね。 ルナは世間知らずだからシヴァ砲以外の銃があるとは思っていなかったからそう言ったのだろう。しかし普通の銃ではないことは確かだった。 このオートマグ……スザクのクチバシ製だ。 「貴様はシヴァ砲を持っているだけで『シヴァ使い』と呼ばれている! シヴァ砲さえあればゲンブもビャッコも倒すことができるからな! つまり! シヴァ砲さえあれば誰でも『シヴァ使い』と呼ばれるようになるのだ! そんなことが許されるのか!? いいや! 断じて否だ! つまりシヴァ砲を持っているからといって『シヴァ使い』などと名乗り、いい気になるのは今日かぎりにするべきなのだぁ!」 ……ちょっとムカつく。 「嫌だと言ったら?」 「……フフフフ! 実力行使あるのみ! 表へ出ろ!」 クワバーはそう言うとレストランを出た。俺は勘定を済ますととクワバーの後を追って、レストランを出る。 「あーん! 待ってよぅ!」 ルナはおかわりしたカツ丼を三口で食べると(人間業じゃねぇ……)俺の後を走って追ってきた。 Drクワバーが立ち止まった場所はホルリの町の外れの草原だった。 「ここなら思い切り闘えるだろう?」 不適に笑うDrクワバー。 「……まぁな」 「では始めるとしよう!」 Drクワバーがオートマグ(シヴァ砲)を取り出す。俺もシヴァ砲を抜いた。 「そこの少女よ!」 「え? え? ルナのこと?」 ルナが自分を指差して言う。 ……ふむ。少女か……なんか変な感じだな。でもまぁ幼女じゃもっと変だしやっぱり少女が的確か? 「そうだ! 少女よ! おまえが始まりの合図をするのだ!」 「始まりの合図って何をすればいいのぉ?」 ルナにからむとたいがいの人間は返り討ちにあう。これは見物かもしれない。 「ハッハッハ! そんな事もわからんのか少女よ! 始まりの合図とは勝負の始まるきっかけ! つまり何でもよいのだ!」 「例えばどんなことすればいいの?」 「ふむ、一般的には『始め』と声をあげるか、もしくは何かを投げてそれが落ちた時が始まりとする、などがあげられるのだ! どうだ理解したか少女よ!」 な、何ぃ!? 俺はちょっとばかり驚いてしまった。あのルナ相手に自分のペースをまったく乱すこと無く会話を続けるとは! 恐るべきDrクワバー! 後学のため、しばらく様子を見ることにしよう。 「う、うん、わかったよおじさん……」 「おじさんではなぁぁい! 私は天才科学者Drクワバーだ」 見た目はおっさんだけどな。 「Drクワバー? 変な名前だね。」 出たよ。ルナお得意の世間知らずボケが! 「フハハハハ少女よ! この名前の素晴らしさがわからないようではまだまだ子供! 勉強をしろ勉強を!」 真っ向から返すだと? なるほど、この発想はなかった。 「ルナ子供じゃないよぉ!」 「何を言う少女よ! おまえはどこからどう見ても子供ではないか!」 コ、コイツァすげぇ。 子供じゃないという主張もバッサリ斬り捨てやがった。 「でもでもルナ16歳なんだよ!」 「甘い! 甘いぞ少女よ! 年令などはただ何年生きてきたか、という物を表す数値でしかないのだ! その 身長! その顔立ち! その体型! そして見た目に加えて喋り方! 特に自分のことを名前で言う人間は精神年令が極めて低いことが多いのだ! つまり! おまえは子供なのだぁぁぁぁ!」 実年齢を聞いても驚く事なく、畳み掛けた! すごすぎる! 「ルナ……子供じゃないもん……子供じゃ……ひっく……びぇぇぇぇぇぇぇぇん!」 どっわぁぁぁぁ! 久しぶりに発動したぁ!? ま、まぁあれだけ言われれば泣くのもしょうがない。 「ふわぁはっはっはっは! 泣いたと言う事は自分の負けを認めたと言うことだな!? 泣くという行為はもっとも不様なもの! その姿を見せるとはなぁ! ふわぁっはっはっは!」 な、何てヤツだ! ルナみたいなヤツが泣いてるのを見てもまったく動じずに、しかも泣いたルナを見下ろして満足気に笑っているとは! お、恐ろしい! 恐ろしいぞDrクワバー! 「和臣ぃぃぃぃ!」 ルナは俺の胸に飛び込んでくる。俺はそんなルナの頭を優しく撫でてやった。 ……なんかこういうのに慣れちゃってる自分が悲しい。 「おい、Drクワバー、どうでもいいけど勝負はいつ始めるんだ?」 「おお! そうであった!」 忘れてたんかい! 「その少女に始まりの合図を頼もうと思ったがその様子じゃ無理のようだな! では今から私がコインを投げる! それが落ちたと同時に始めということでよいか?」 「ああ……構わねぇよ。」 俺はそう言ってからルナの両肩に手を置く。 「俺があいつをやっつけてやるからもう泣くな」 「うん」 俺が優しい口調でそう言うとルナは涙を拭い頷いた。 「じゃ、後ろに下がってな」 ルナは俺の言葉どおり俺とDrクワバーから少し離れた所へ移動する。 「フフフ! 別れの儀式は済んだか? 貴様はとても幸運だぞ。私のシヴァガンの最初の獲物になれるのだからな!」 どうやらこいつのオートマグはシヴァガンと言うらしい。 ……おやちょっと待てよ? 「おまえ俺が最初の獲物だって言ったか?」 「そうだ、嬉しいであろう?」 これはもしや。 「おまえ今日初めてそいつを撃つとか?」 「いかにも! しかし私は射撃の訓練を受けている! 問題ない!」 はぁ……俺は思わずため息をついてしまった。その理由は……Drクワバーがシヴァガンを撃った時わかるだろう。 「貴様ぁ! そのバカにしたため息は何なのだぁ!?」 俺の態度に顔を真っ赤にするDrクワバー。相変わらずすごい量のツバが飛んでいる。 「ほらほら御託はいいからさっさと始めようか!」 「ふっ! その言葉がおまえの最期の言葉となるのだぁ!!」 Drクワバーはそう叫ぶとコインを投げる。普通なら緊張間のある雰囲気になるのだが、俺は勝つことを確信をしている。緊張するだけ損だ。 コインが地に落ちる。 「くらえぇぇぇ!」 Drクワバーが俺に照準を合わせた。 ……遅い。 普通に撃ちあっても勝てるな。 しばらくしてDrクワバーがシヴァガンのトリガーを引く。 ドォォォォォォン! しかしシヴァガンから放たれた閃光は、あさっての方向に向かって突き進んでいった。 撃った当人のDrクワバーは……すっころんでいた。 それはなぜか……。 答えは簡単! Drクワバーはシヴァガンを撃った時に起こる衝撃に耐えられなかったのである。 そりゃそうだ。シヴァ砲の衝撃は普通のリボルバーの約2倍。銃をうまく扱える人間でもすっとばされてしまう。 さぁて、みなさん思い出してください! 俺はこのシヴァ砲をルナを抱えたまま撃ったことがありますね? そう! この黒崎和臣様はこのもの凄い衝撃が起こるシヴァ砲を片手で撃てるのだ! つまり! 銃の名手でも狙いをつけるのも叶わないシヴァ砲を片手で、しかも正確に狙いを定められる! おぉ! やっぱり『シヴァ使い』黒崎和臣様ってカッコイイ!! おっとっと、このまますっころんでるDrクワバーをほおっておく訳にはいかないな。 俺はゆっくりとDrクワバーに近付きシヴァ砲を突き付ける。 Drクワバーは……気絶してる。……心底情けないなコイツ。 ……これじゃ先に進まない。 俺はDrクワバーに、ぺしぺしと軽く平手打ちをくらわせる。 「う、ううん……」 Drクワバーがゆっくりと目を開ける。それと同時に俺はシヴァ砲をDrクワバーの額に突き付けた。 「うおっひょぉぉぉ!?」 Drクワバーは変な叫び声をあげるとともに……。 ショワワワ……。 「どわぁおぅぅ!?」 今度は俺が変な叫び声をあげる。 コイツ……失禁しやがった。 ば、ばっちぃぃ!! 俺はその汚液に触れないように細心の注意を配りつつ素早くDrクワバーから離れる。 ……コイツ。 ……どうしよう? 俺は深く考え込む。 いっそのことここで止めを……。そう考えたが、さすがに、例えこんな奴とて殺してしまったら目覚めが悪い。 俺は視線をDrクワバーに移す。 ……ズラかろう。 黄色い水溜まり(食事中の方ゴメンなさい)に浸かっているDrクワバーを見たときそう決心した。 早くコイツから離れたい! 1秒でも早く!俺は急ぎ足でルナの下へ向かう。 「ルナ! 今日中に町を出るぞ」 「え? え?」 俺は有無を言わさずルナの手をとり次の町へと急ぐことにした。 あの事件から1週間と2日。俺たち2人はホルリの町から離れたハナトの町のとあるラーメン屋で昼食を取っていた。 ……ちょっと待てよ? このパターンは……。いやぁまさかパターン通りにはいかないよなぁ。俺はそう思いつつも言い知れぬ不安を抱いていた。 「ねぇ和臣ぃ!」 ルナは14杯目の大盛りタンメンを頬張りながら言う。 「ん?」 俺は醤油ラーメンのチャーシューをかじりながら相づちをうつ。 「このごろ仕事全然してないね、町に着いても一泊だけしかしないし、もうちょっとゆっくりしようよぅ」 確かにルナの言いたいことはわかるがそうもいかない。 この理由は言わずとも解るだろうが、あいつから少しでも早く遠ざかりたい一心で旅の足を早めていたのだ。 仕事もせずに。 この俺が! まぁ貯金はたぁっぷりあるから路銀が尽きる心配はないのだが。 バダンッ!! 突然ラーメン屋の扉が大きな音を立てて開いた。 「プホォ!」 それと同時にルナがタンメンを俺の顔にブッ放す。 ……どうやら俺の不安は的中してしまったようだ。俺は平静を装いタンメンをナプキンでゆっくりと拭く。 「フワッハハハハハ!」 例のバカ笑いが店内に響きわたる。それと同時に俺は財布から10000キャタを財布から取出し、カウンターに置いてルナの手をしっかりと握る。 「どうしたの和臣?」 ルナが首を傾げて聞くが答えている暇はない。 「じゃ、ツリはいられねぇから! そういうことで!」 俺はラーメン屋の主人にそう言うと、ルナの手を引っ張って全速力で突っ走った。 「フハハハハハ! 『シヴァ使い』がこの私! Drクワバーに恐れをなして逃げだしたぞぉぉぉ!」 なん……だと? 俺の地獄イヤーがDrクワバーの戯言をとらえた!……あいつとは関わりあいたくないがこのままでは俺の評判が地に落ちてしまう! ……俺はしばらく考えた後、Drクワバーの待つラーメン屋へとUターンを始める。 「フハハハハハ! 『シヴァ使い』恐るるに足らず! しかし逃げるのもまた仕方の無いことかもしれないがな。この天才科学者Drクワバーを目の前にしたのだから!」 Drクワバーの演説は、俺がラーメン屋に戻ってきた時には、俺の悪口ではなく、自分の自慢に変化していた。 「ほぉぉぉぉぉう! お漏らし男がよくそんな事が言えるなぁ?」 俺のその一言と共にDrクワバーの顔が極限まで真っ赤になる。 「き、貴様ぁぁぁぁぁ!」 Drクワバーは顔を真っ赤にし大量の唾を飛ばしながら言う。 「汚いよぉ!」 ルナが顔にかかった小量の唾をローブの袖で拭きながら言う。 「なんだとぉ!? 少女よ! よぉく聞けぃ!!」 「ほれほれ! どうせ復讐戦かなんかなんだろ? 早く表に出ようぜ?」 俺は事をサッサと済ませたいためにそう言った。 「フフフフ! やる気は充分のようだな……」 そんな訳なかろう。 しかし、反論をすればまた会話が長くなるのが目に見えているので、あえて何も言わなかった。 「この町に大きな広場があるのは知っているか!?」 「ああ……」 「そこに今から10分後に来い!」 ……10分後? 「では逃げだすことなど無いようになぁ! フハハハハハハ!」 そう言い残すとDrクワバーは走り去っていった。 「ねぇ和臣ぃ、ルナあの人キライだよぉ……」 「安心しろ。俺も心底キライだ。 もしキライな奴ランキングがあるとしたら間違いなくトップだろう」 これはマジ。 「じゃあ逃げちゃおうよ」 ルナがナイスな提案をするがこれは残念ながら却下。 「おいルナ、もしも、俺たちがここで逃げてみろよ? Drクワバーの奴がまた図に乗って『シヴァ使いがシッポまいて逃げだしたー』だの、『シヴァ使いは逃げ足だけは達者だー』だの言い出すぞ? あんな奴にそんな事言われるのだけは絶対許せねぇ」 俺は気張って言う。 「そっかぁ……でももうあの人の顔見たくないよぅ」 どんな奴にもなつくようなルナにここまで嫌われるとは……。 ある意味ではDrクワバーは天才と言えるかもしれん。 おおっと、そろそろ行かないとDrクワバーになんて言われるかわからないな。 俺たちは町の広場へと足を運んだ。 「フハハハハ! 逃げずに来たのだけは誉めてやろうではないか!!」 これがDrクワバーの第一声であった。 この直後にシヴァ砲をぶっ放してすべてを終わらせてもよかったが、それではまたDrクワバーが『シヴァ使いは不意を突かないと勝てない卑怯者だ』とかなんとか言いかねないので、取り敢えず聞き流した。 「ふっ、言い返す言葉もないのか! ではこれを見ろ!」 Drクワバーが右に一歩動く。 すると、Drクワバーによって見えなかった布がかけれている物が姿をあらわした。 自分の体でわざわざ隠していたって訳だ。 バッサァ! Drクワバーは俺たちの視線がそれに向かっていることを確認してから、わざと大きな音を立てて布を取り去る。 あ、あれは……シヴァ砲? いや、あいつのだからシヴァガンか!? でもなんか変だぞ? 大型だし地面に固定されてる……。 「フワハハハハハハハハ! 驚いたようだな! 地面にシヴァガンを固定することによって筋力のない私でも撃てるのだ! しかも銃身が360度回転が可能なので全方向に狙いもつけられる。 名付けてシヴァガンDX! どうだ! まいったかぁ! フハッハッハッハ!」 勝ち誇ったように大笑いする。 はぁ……、ようするに、シヴァガンを防衛戦用の固定砲台に変えただけだろうが。 まぁ確かにふっ飛ばされることはないだろうけどね。でもこれってあらかじめ戦闘する場所が決まってないと使えないから、かなり使いどころが難しいんじゃ……。 でも、そこら辺をツッコむと、また訳のわかんない演説が始まるから話を進めてしまおう。 「能書きはもういいのか?」 戦う前にいちいち自分の兵器の説明なんてするんじゃねぇよ。ルナなんて気持ちよさそうに寝ちゃってるじゃないか。 「貴様! どこまでも私を愚弄するかぁ!?」 Drクワバーは俺の言葉にご立腹のようだ。 「だから、自信があるのはわかったから早いとこ始めようぜ?」 「くっ、どこまでも口の減らない。」 そりゃおめぇだよ。 何せ俺は勝つ自信がある。前回の戦いで、ヤツの戦闘能力を見切っているからだ。 シヴァガンなんちゃらを使ったとしても、俺は勝てる。基本的な能力が違うからな。 「じゃあ開始の合図は前回と同じだ! 行くぞぉ!」 そういいDrクワバーはコインを投げる。 チャリーン……。 そのコインは回転しながら空に舞い、やがて重力に惹かれて音を立てて地面に落ちた。 ドォォン! それと同時にDrクワバーがシヴァガンDXを放つ。 俺はそれを銃身の位置からの閃光の軌道を予測して避けた。 いくら俺でも、シヴァを使った銃を撃たれてから避けるのははっきり言って無理だからね。 「フハハハハ!」 ドォォォォン! ドォォォォン! さらにDrクワバーはシヴァガンDXを乱発する。 くっ? 連射が速い!? こいつの武器はは俺のシヴァ砲よりも連射が効くようだ。 ちょっとばかりしんどいなぁこりゃ……。 「フハハハ! 手も足もでないようだなぁ!」 Drクワバーが余裕たっぷりの表情で言う。 「ヘン、おまえ相手にムダ弾を使う……」 ドォォォン! おわっ! 台詞の途中だってぇの! 突然の攻撃に俺はそれを伏せて避けてしまった。 ちぃ! この状態じゃフリだ! 「フハハハハハ !もらったぞ!シヴァ使い!!」 ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン! うつぶせ状態の俺に対して、Drクワバーは容赦の無い連続放火を浴びせる。 や、やばいかも……。 俺は必死に避けようと努めるが、それは無駄な努力となった。 ……あ、いや撃たれたわけじゃないよ。シヴァガンDXが、全部俺の頭上を通り抜けただけだった、と言う意味だから心配御無用。 ……おや? 俺は今のを見てDrクワバーの言葉を思い出した。 確かあいつはこう言っていたはずだ。『銃身が360度回転可能』と……。 まさか……上下の高さは変えられないんじゃ? 「くっ! シヴァ使い! 早く立ち上がれ!」 Drクワバーが焦ってそう言う。……どうやら俺の仮説は合っていたようだ。もちろん俺はDrクワバーの言葉を無視し、いわゆる匍匐前進をしてDrクワバーとの間合いを詰める。 「くそぉうっ、卑怯だぞシヴァ使い!」 Drクワバーがそう言った頃には、俺はもうDrクワバーのもとに辿り着いていた。 俺はシヴァ砲をDrクワバーの顎に突き付けながらゆっくりと立ち上がる。それとともにDrクワバーの全身から冷汗が吹き出した。 「安心しな、殺しゃしねぇよ」 いや、殺してもよかったかもしんない。でも俺にも考えってもんがあるのさ。 「いいかいDrクワバー、お前は俺に挑戦するには実力が足りねぇ」 「な、何をぉ!?」 クワバーがいきり立つが銃口を強く突き付けて黙らせる。 「おおっと黙りな、うるさいと俺の気が変わるかもしれないぜ?」 そして俺は撃鉄を下げた。 「ひぃぃぃ!?」 Drクワバーが情けない悲鳴をあげる。もちろんこれはただの脅し。こうしておけば……。 「さっきの続きだ。俺に挑戦するんだったら、せめてそのシヴァガンがまともに撃てるようになってからにしろ……。 それくらいできなきゃ俺に挑戦する資格はねぇ。わかったか?」 ドスの利いた声で脅す俺に対し、クワバーは完全にビビっていた。 「……返事は?」 ビビって声も出せない様子のクワバーに、シヴァ砲をさらに強く突き付ける。 「ひゃ、ひゃい……」 Drクワバーは蚊の鳴くよう声で言う。 「声が小さい……気が変わったぞ? ……あばよ!」 Drクワバーはその一言を聞くとともに……。 ショワワワワワワワ。 「ウッキャアアアァァァァァ!」 俺は思わず変な悲鳴をあげる。こいつまた漏らしやがったぁぁぁ!! 俺は細かく解説する気にもなれず、寝てるルナを抱きかかえてその場から全速力で走り去った。 「おかわりぃ!」 ルナがここの店の日替わりランチをおかわりする。ちなみに今ので、17杯目だ。 ここの料理はなかなかうまい。ルナもおそらく気に入ったのだろう。いつもよりおかわりの回数が多いからな。 安い店を選んで良かった……。 あの悪夢のような日から1ヵ月。俺たちはあいつと遭遇した町から山を3つほど越え、さらに国境を越え、ギリス国のタスパの町に来ていた。タスパの町は1年中初夏の陽気を保つ過ごしやすい町だ。 なぜこんなに遠くまで来たかと言うと……。 ……あれ? 前もこんなこと説明したような気がするなぁ。 ま、でも一応。 そう! あの自称天才科学者男から少しでも離れたいからだ。しかしこれだけ離れればそう簡単に追ってこれないだろう。それに前の脅しがかなり効いて、もうあきらめたのかもしれないし。 ……思えばあいつと会ったのはこんな定食屋だったなぁ。 「貴様、『シヴァ使い』だな?」 そうそう、こうやって声をかけてきて……っておい!? 「ブッパァプゥゥゥゥゥ!」 ルナが前と同じく食べ物を吹き出す。俺はその事態を予測していたのでとっさに避けることができた。 その結果……。 「うぉう!? 貴様ぁ汚いではないかぁ!?」 後ろにいたあいつに命中した。 「いやぁ悪い悪い……どわっおおおぅ!?」 俺は振り向いて思い切りぶったまげた。 いたのはお約束どおりDrクワバーだったが、前とは違い、筋骨隆々でボディビルダーばりの姿だったのだ。ただでさえ変な外見に、マッチョさがプラス……イヤすぎる……。 「フハハハハハハッハ! お前の言うとおりシヴァガンを撃てるように鍛えて来たぞ!」 な、なにぃ! そ、そうきたかぁぁぁぁ! 「しかもそれだけではない! 私は過去2回の戦闘データから見つけた私の弱点を克服したのだ!」 弱点? ……弱点だらけなんでないのか? ハッ! でもその弱点をすべて克服したとなったらちょいと厄介かもしれん。 ……ま、そんなことありえそうも無いけどね。 「では10分後にこの町の近くの平原まで来い! 今度こそ目にものみせてくれるわ! フハハハハハハ!」 Drクワバーは毎度のことながら一方的に話を進めて去っていった。 「ねぇ和臣ぃ……やっぱり行くのぉ?」 ルナが泣きそうになって言う。 「仕方ないだろうが、ここでズラかってもまた来るに決まってんだから……」 俺は頭ではわかっていたが、イヤでイヤで仕方が無かった。 これで終わりにしようぜ? いやマジで。 俺は沈黙に包まれている。ルナははしゃいでいる。Drクワバーは笑い続けている。 これはいま現在の、3人の状況。 俺たちは約束どおり広場に行った。そこで待っていたのが、どこぞのヒーロー物のような全身鎧に身を包んだ、Drクワバーだったのだ。 真っ赤なボディ! 意味の無い翼! 異常に飾りのついた重そうな兜! よい子のみんなが泣いて喜ぶとはこのことだ。 「フハハハハハハハ! どうだ! スザクのクチバシとスザクの羽毛をふんだんにつかって造った完全無欠のパワードスーツ! DKP朱雀零式(すざくぜろしき)、略して朱雀零式は! これでお前のシヴァ砲は通用しない!」 ゲェ!? し、シヴァ砲が効かない!? なんて焦ると思ったら大間違いだ。あんなパワードスーツを装備してまともに動けるかっての。 シヴァガンを完全に操れるとしても、運動性をフルに利用して間合いを詰めて、羽毛で造られている硬度のない部分を剣で攻撃すれば楽勝だ。 戦いでもっとも必要なのは高い運動性と、長年のカンとある程度の強い武器。そして天性の素質。どれをとってもDrクワバーに負ける要素は無い。 特に天性の素質なんかは天地の差があるようだ。 「フハハハハハハ! それにこのデザイン! 美しいであろう?」 Drクワバーは相変わらず得意げに笑い続けている。 「かっこいいけど声がカッコ悪いからすべてぶち壊しだよぅ……」 「何だとぉぉぉぉ!?」 ルナの一言でDrクワバーがブチ切れる。 「くらえぇぇぇ!」 そしてパワードスーツの右腕に装備された銃(おそらくシヴァガンだろう)をルナに向けた。 ……やばい! いくら俺でもシヴァガンクラスの攻撃はかばいきれない。 「おいDrクワバー! 俺のためにせっかく用意してくれたものを、ムダに使うなよ」 「……ふっ! よかろう。勝負をはじめようか……」 Drクワバーは俺の言葉を聞くと、妙に納得したように頷いてから銃身を下ろした。 何か俺ってコイツの扱い方にも慣れてきているらしい……。 「勝負開始の合図は前回と同じだ! いいな?」 「ああ、かまわねぇよ」 俺が頷くとクワバーがコインを投げる。 ……おや? 何だあのシヴァガン。 銃身の先にヘンなのがついてる……。 チャリーン! それが何かを確認する前に、コインが地に落ちた。俺は慌ててスザクのクチバシ製の剣を抜く。 「フハハハハハ! くらえぃ!」 ドォォォォン! 俺が剣を構えた時とほぼ同じ瞬間に、朱雀零式(だったよな)の両腕に装備されたシヴァガンから一斉に閃光が放たれる。俺はそれを読んでいたので、すでに右に跳んで回避していた。 「何!?」 俺は目を疑った。何とシヴァガンから放たれた閃光が広範囲に撒き散らせれたからだ。早い反応のおかげで、俺はそれをなんとか回避したが、コートにはいくつか穴が空いてしまっている。 「フハハハハハハ! 驚いているようだなぁ!! これは拡散シヴァガン! 見ての通り広範囲に攻撃可能なのだ!」 そうか、銃身の先についているものは閃光を多方向に発射するものだったのか! 「これならば零式を着用することによって失われる運動性を補える!」 なっ!? コイツにしては抜け目が無い。 「フハハハハハ! 言ったであろう!? 弱点を補ったと! 私の弱点は一つのことにとらわれすぎて、他のことをおろそかにすることだったのだ。 1回目はシヴァガンの完成で満足してしまい、撃てないという欠陥があり敗北した。 2回目はシヴァガンを撃てるようにしただけで勝てると思い、銃身を上下に動かせないと言う欠陥に気が付けなかった。 ……しかし今度は違う! 零式と拡散シヴァガンを併用することであらゆる欠陥がなくなったのだ! つまり貴様に勝ち目は無いのだぁぁぁぁぁ!! フハハハハハハハハ!」 Drクワバーが得意げに言う。 Drクワバーの話が長かったためルナは寝てしまったようだ。 だぁぁぁ! そんな事気にしてる場合じゃねえ! 今回ばかりはちとヤバイかもしれん。確かに今回は弱点が見つからない。 どうすりゃ……。 「フハハハハハハ! どうしたシヴァ使い!」 ドォォォォン! Drクワバーが拡散シヴァガンを撃つ。 俺はそれを辛うじて避ける。 ちっ、これじゃあ避けながら間合いを詰めるなんて、とてもじゃないが無理だぜ。 弾切れになるまで避け続けるか?いや、あのシヴァガン、大きさと形から言って、かなりの数の弾があるはずだ。 それまで避けきる自信はない。 「フハハハハハ! 手も足も出ないのかぁ!?」 ドォォォォン! 前回も言った台詞を言いながらさらにもう一発。それも何とかやり過ごす。 くそっ! どうすりゃあ……。 俺は全身から冷汗が出ているのに気が付いていた。こんなの初めてスザクと戦った時以来か? ちっくしょう……よりにもよってこんな奴相手に……。 バタァァン! 俺がそんなことを考えていると、不意にDrクワバーが大袈裟な音を立てて倒れてしまった。 ……なぬ? 俺……何もしてないぞ? 俺はしばらく茫然としていたが、とりあえず近付いてみることにした。 「おい……」 俺は足で2、3回小突いて声をかけるが反応がない。 ……まさか。 俺は慌てて朱雀零式の兜の部分を取り外す。 ……やっぱり……。 Drクワバーは脱水症状と酸欠の2つによってブッ倒れたのだ。こんな通気性の悪いの着て戦うから……。 やっぱりコイツどっか抜けてんじゃねぇかよ! 俺はこんな奴に一瞬でも恐怖を感じたのが心底悲しかった。 「はっ……はぁはぁはぁ……死ぬかと思った……」 少ししてDrクワバーが意識を取り戻す。俺はそんなDrクワバーの首に剣を突き付けた。 「ひぃぃぃぃ!」 Drクワバーが毎度ながら情けない悲鳴をあげる。 「……おいクワバー」 もう俺の要求はただ一つしかなかった。 「頼むからとっとと消えてくれ」 俺は懇願するように言った。 「そ、そうだな! きょ、今日のところは引き上げてやる! ありがたく思え!」 あ、ありがたすぎる! 「しかし覚えていろ! 近いうちに必ず再戦をしに来るからなぁ! フハハハハハハ!」 Drクワバーは負け犬の遠吠えにしか聞こえない捨てぜりふをはいて、風のような速さで去っていった。 逃げ足が速いのはお約束だからな。 「ううん」 Drクワバーが完全に視界が消えるころになって、ルナがやっと目を覚ます。 「……あれぇ? あの人は?」 今まで壮絶(といえるのか?)なバトル繰り広げていたというのに……いい気なもんだなぁ……。 はぁ……それにしても……。 疲れるヤツだということで……。 あいつにはもう2度と会いたくないぃぃぃぃ! 第5章 疲れるヤツだということで 完 え?次章はルナの出番が多いの?本当?わぁぁぁぁい!全世界50億人のルナファンのみんなぁ次章は絶対見逃しちゃダメだよぅ!え?その前に次章ができあがるかわからない?作者が断筆宣言?コォォォォラァァァァ!作者ぁぁぁ!プロでもないくせに偉そうなこというなぁ!さっさと書けぇぇぇぇぇ! は?どうでもいいから次章の題名言えって?どうでも良くないよ!次章予告終わらせないと次の章が書けない?それじゃ早く言わなくちゃ! 次章、魔女の飼い方!『正義の味方ということで』!絶対運命黙示録……。 |