女神の騎士
プロローグ
線が引かれた。 それは異形の者を正確に分断する線だった。空気を圧迫する轟音と共に引かれたその線はやがて赤く染まり、その赤は点となり、至る所に飛び散った。 硬い鱗に覆われた三メートルはある異形の者は、断末魔をあげる暇さえ与えられず、黄泉へと誘われる。 線を引いた男はくるりと剣を回し、背中に背負った。片刃のその剣は、刃渡りが成人女性の背丈ほどの長さを持ち、幅もそれに見合う充分な広さを持つ大きさであったが、その軽やかな剣の動きは重さを感じさせない。 その男。 振り返ること無く己の道を突き進む。 立ち塞がることなど無意味かと思わせるかのごとく。男のその腕は丸太のように太く、鉄のように硬い。自然に逆らうこと無く伸ばされた髪。纏うぼろ布のようなマントの下には、鍛え上げられた鋼で造られた鎧に身を包んでいる。弱さ、柔らかさ、優しさなど微塵も感じさせないその風貌。 道連れは大振りの剣と、あの日に刻んだ額の傷と……。そして胸に秘めた一つの想いのみ。 すべてを捨て、この想いのみに生きる。例えその想い、霞のようなものだとしても、それだけを野獣のような目に映す。 他のモノが見えなくなってもいい。 それが確かのモノでなくてもいい。 この想いに従って生きなければ、きっと自分は形を保てない。その想い無しに自分は象ることができない。 彼は進む。あの日あの時、失ったモノを求めて。 |