「そういうのはお断りしているんで」

「いえ、怪しいとか勧誘じゃなくて・・・ああ・・・」

私の言葉に耳を貸さずにスタスタと去っていく一組のカップル。
これでもう断られて20数件・・・
これもせちがい世の中が悪いのよ!

 

アッ、自己紹介しなくちゃね。
私の名前は宮下悠。
性別はもちろん女で年齢と体重は秘密(ニコ
追求してくるものには死を(邪笑
髪形は長めで後ろにストレートで下ろしてるの。
プロモーション又はスリーサイズも詳しくは言わないけど、
平均よりマシというくらい(泣
職業は女性・・・というより女の子向けの情報月刊誌の編集者。

そうそう!
始めの件は、ウチの雑誌で毎回の企画で『今付き合っているカップルのアンケート』をやっているの。
それもハガキじゃなくて、社員(私)が直接外で募集しているんだけど誰も相手にしてくれないのよ(困
これでもね、このコーナーは人気があるから見送る事なんて出来ない。
募集地は毎回変わっていて、今回は涼月町にいるの!
デパートの前でカップルも沢山いるのに相手にもされない(困
最近、こういうのは怪しい勧誘とか詐欺紛いとかで多いから・・・
名刺を渡そうにも、止まらずに断られるからそんな隙もない。
ウウ・・・(半泣き
だから私はこの担当は嫌だったのよー!!(絶叫
ちょっと休憩しようかな・・・お昼ご飯も近いし。
トボトボと『最近この仕事で足が太くなったかしら?』と、
考えながら片付けをしようとするとあるカップルが視界に入った。

「っ!!」

男の子は背が高く、文句なしの美形。
女の子は腰ぐらいまでの長い髪を少しウェーブにして、小さな白いリボンを左右に付けているとても可愛い。
これよ!!(グッ←握りこぶしを握る
これは絶対協力してもらわなくちゃ!
今日どころか2・3日分を引き換えにしてもいいくらい!
さあ、行くわよ!!

「すみませーん!
ちょっといいんですか?」

「ん?」

「はい?」

 


2002 elf 『あしたの雪之丞&勝 あしたの雪之丞2』

「突撃レポーター! 悠が行く!!」
 (幸せなる日々編)


 

「アンケート・・・ですか?」

「ふむ・・・」

「そうなんです。
あっ、これ名刺です、どうぞ」

運良く立ち止まってくれて、ただ今交渉中。
ああ、話しかけても嫌な顔されないなんて久しぶり・・・
いい子ね、貴方達。

「オレにはこの手の雑誌なんて全く知らないが・・・
晶子は知っているか?」

「うん。
私も由美子さんに勧められて一回読んだけど、
それからは毎月ちはるちゃんと読んでるよ」

「そうか・・・
出版社や住所も合っているか?」

「うーん・・・
ハッキリとは覚えてないけど、合ってると思うしこういう企画もあるよ」

あら、しかも読者さんなんて!
晶子ちゃんっていうのね。
まだ見ぬ由美子ちゃんとちはるちゃん、アリガトー!

「あらあら、読者さんなんですね。
読んでくださってありがとうございます。
なら、お話が早くて助かります」

「は、はい・・・
アンケートというのは、やはり・・・」

女の子―晶子ちゃんは確認するように言葉を続ける。
男の子はさすがに知らないから少し首を傾げながら見守っている。

「・・・カップル・・・の・・・ですよね?」

「はい」

「っ!」

おずおず答えを出す彼女に、爽やかに肯定する。
あら、男の子は引きつっちゃったわ。
やっぱり恥ずかしいのかしら・・・

「し、晶子!
このアンケートとは・・・その・・・そういうものなのか?」

「だって、女の子の雑誌なんだからそういうのもあるよ」

「・・・・・・
それで、受けるのか?」

「えっと・・・」

さて、ココが正念場。
営業スマイル全開だけど、心の内は必死で交渉・・・もとい説明を始める。

「確かにカップルのアンケートですから、
雑誌に取り上げるかもしれませんが何も全部というわけではありませんよ。
それに名前は不要ですし、プライベートもちゃんとお守りします。
軽い気持ちでやってみてください。
お互いに知らなかった部分や新たな発見があるかもしれませんよ?」

最後の一文でかなり(特に女の子)引っかかるわ。
女の子はそういう発見に興味があるし、
読者の感想に『今回の項目で私達もやってみました』というのも来るほどなんだから。
そして、もちろん今回も・・・

「っ!
ゆっくん、やろうよ!!」

「ちょっ、本気か?」

「もちろん!!」

ゆっくん!?
この美形で何て可愛らしい・・・というより小さい頃のあだ名みたいね。
でも、これは成功したも同然ね。
だって・・・

「ゆっくん・・・」

「わ、わかった、わかったからそんな目で見るな」

「ありがとう、ゆっくん!!」

いつだって女の方が強いのよ。
まあ、彼はちょっと押しが弱そうね。

「受けます!」

「ありがとうございます。
では、これをどうぞ」

用意していた用紙と下敷き、シャーペンをそれぞれに渡す。
ちょっとマナーが悪いけど、花壇の端をイス代わりに座ってもらって私は質問に答えながら見守る。

 

赤くなったり小さくビクッとしたり、そんな微笑ましい光景から始めてから10分・・・

「出来ました」

「オレも」

「お疲れ様でした」

同時に顔を上げて用紙などを返してくれる。
よかったわ、快く引き受けてくれて。

「それで、どうしましょう?
もし必要ならコピーをとりますが・・・」

こういうのは見せ合いたい・・・というより、相手の内容が知りたいものだからね。

「じゃあ・・・お願いできますか?」

「ええ、少しココでお待ちくださいね」

すぐ近くにあるコンビニで手早くコピーして、
ついでにコーヒーを2缶購入して元の場所に戻る。

「はい、どうぞ。
それとこちらも・・・」

「あ、すみません」

「頂きます」

うんうん、礼儀正しい子は好きよ。
中にはワイワイザワザワと自分達の世界に入っちゃうカップルや、
自己中心なのもいるから心が休まるわ。

「それとこちらの割引券もどうぞ。
このデパートで使えるものですから」

「い、いいえ。
そこまでは・・・」

「いいのよ。
これが本来のアンケートに答えてくれたお礼なんですから」

それでも中々受け取ってもらえないけど、
彼氏が助け船を出してくれたわ。

「晶子、こういう場合は遠慮せずもらえばいい。
じゃないといつまでも続くぞ、このやり取り」

「う、うん・・・
それじゃあ、頂きます」

「はい。
受け取ってください」

本当にお似合いのカップルね。
こういう時は、一人身にはツライわ(泣

「それでは、おれ達はこの辺で。
晶子、行くぞ」

「うん!」

「あっ、ちょっと待って」

いけないいけない、最後に聞く事があったわ。

「貴方達のカップル名がほしいんだけど、ご希望はあるかしら?」

「名前・・・ですか?」

「ほら、本誌にも乗せているじゃない。
○○で出会った○○さんっていうの」

「そう言えば、ありましたね」

「あるのか?」

「あるよ。
結構ユーモアがあっておもしろいの」

そうなの、よかった。
もし希望がなかったら、私が考えているから嬉しいわ。
それにこの子達は高い確率で乗せようと思っているから、
出来れば向こうから出してほしい。
晶子ちゃんがしばらく考えて、決まったのか顔を上げる。

「そうですね・・・
『雪結晶』でお願いします」

「『雪結晶』?」

「はい」

今は夏よね・・・
空には太陽が憎たらしいくらいよ。

「わかりました」

『雪結晶』・・・ね。
やっぱり何らかの意味があるのかしら?

「それでは今度こそ失礼しますね、宮下さん」

「では・・・」

「ご協力ありがとうございました。
発表は来月号ですから、もし良かったら見てくださいね」

「わかりました、楽しみにしています!」

お互いに頭を下げて、2人と別れる。
本当に楽しみにしていてね、ゆっくん、晶子ちゃん!!

 

 

その後、昼食でファーストフード店に入りさっそくアンケート用紙を見る。
・・・そこ、ミーハーとか好奇心旺盛とか言わない!
だって気になるじゃない!!

用紙を汚さないように気を付けながら、ポテトを銜えて内容を見る(ドキドキ

 

 

Q1:相手とは年上?年下?

年下

年上です

 

まあ、見た目通りね。
でも、彼の方の雰囲気がそれ以上に年があるように見せるから、
どれくらい離れているかは分かりにくいわね。

 

Q2:恋人になる前のお互いの関係は?

幼馴染

幼馴染です

 

へえ、そうなんだ。
だから、『ゆっくん』なんて呼んでいるのね。
彼は恥ずかしくないのかしら?
・・・馴れね。

 

Q3:どちらの方が先に告白しましたか?

ノーコメント

一応彼から・・・

 

あらあら・・・
隠したくても彼女の方は正直ね。

 

Q4:相手の性格は?

世話焼き

ちょっと無愛想だけどそれ以上に優しいです

 

確かに彼はクールというより無愛想かも。
回答でもシンプルだし・・・

 

Q5:お2人の出会いはいつ?

幼少の頃に親友の家に招待された時

小さい頃に、お兄ちゃんがお家に連れて来た時に

 

幼少の時って・・・
そんなに前からだったんだ。
お兄さんはヤキモキしなかったのかしら?

 

Q6:相手にやめてほしい癖や行動は?

自分で食えるから、食べさせようとするのはやめてほしい。

鈍感な所

 

いいじゃない、アーンなんて今しかできないから。
でも、晶子ちゃんも苦労したのね。
そのシンプルさが全てを物語っているわ。

 

Q7:では逆に好きなところは?

笑顔

前の答えの否定になるけど、やっぱり全部です。

 

お互いに傍にいるだけで幸せって感じ?
はいはい、ご馳走様

 

Q8:初めて行ったデート先は?

商店街?

告白した次の日に2人だけで行ったという意味なら、ご飯の材料を買いに行った商店街ですね

 

・・・(汗
い、いんじゃない。
そういうのもありでさ。

 

Q9:では、一番印象深いデート場所は?

遊園地かな?

 

何だかんだと言っても彼も男の子ね。
晶子ちゃんは遊園地か・・・
デートスポットの定番なのに何かあったのかしら

 

Q10:自分がヤキモチをやくときはどんな時?

彼女を信用しているから、ヤキモチなどしたことはない。

デート中に女性の人が彼に声をかけてきたら

 

うわー、逆ナン?
それは不機嫌にもなるわよ。
それにしても、彼は鈍感なのか彼女を信じきっているのか悩む所ね。

 

Q11:キスは付き合ってからいつ頃に?

ノーコメント

告白しあった時に・・・

 

だから、彼がノーコメントでも彼女の方が答えちゃってるわよ。
今頃恥ずかしがっているわね、きっと。

 

Q12:お互いのご両親に面会済みですか?

幼少の頃に逢っている

小さい頃に逢っています。

 

それはそうでしょうね、元幼馴染なんだから。
でも、出来たら今がどうか書いてほしかったわね。

 

Q13:デートの待ち合わせの時間になっても相手は着ません。
   あなたはどうしますか?

何時でも待ち続ける

来てくれるだけで充分です

 

本当に信頼し合っているのね。
羨ましい関係ね。

 

Q14:相手に嘘はつけますか?

何故かすぐバレるから、つくだけ無駄。

嘘を言いたくないし、言いません。

 

女の子はそういう時の勘は凄いんだから。
諦めるのはいい選択よ。

 

Q15:相手を動物に例えると?

小さい白犬。後ろをずっと着いて来る

ライオンかな? カッコいいし強いですから

 

へえ・・・彼は強いんだ。
ぱっと見たら、体格はそれほど大きくなかったけど・・・
何かスポーツでもやっているのかしらね

 

Q16:最後の質問です。
    相手とは婚約又は結婚する気はありますか?

ある

口約束ですが婚約しています!
近々、指輪ももらえる予定です。

 

目が悪くなったのかしら?

ゴシゴシ

目を擦っても文字は変わる事はない。
す、進んでいるわね、最近の若い子は(汗
まあ、お似合いだし祝福の言葉くらい送りたいわ。

 

さてっと・・・
読み終った事だし、
さっさと食べて夕方まで頑張りましょうか!

 

 

それからも同じ場所で募集してみたけど、成果は出なかった・・・
もしかしたら、本当に2・3日協力が取れないのかしら(汗
こんな事ならせめて今日だけと祈ればよかったわ。
それでもあのカップルのことを思い出すと、今日は収穫があったと思えるから不思議。
ガタンゴトンと電車に揺られながら、駅に着くまで充実感に浸った。

 

「お疲れ様ですー。
宮下、戻りました」

『お疲れー!』

本社の部署に戻って来た私に挨拶を返してくれる皆。
よほど忙しくない限り、こうして挨拶を返してくれる所がココを気に入っている理由の一つ。

「お疲れ様、悠さん。
今日はどうでしたか?」

自分のイスに座ると仲の良い先輩、『安藤詩織』さんが労いの言葉を掛けてくれた。
私と交代制でアンケートの仕事も受け持っていて面倒見も良くて、気遣いもあって尊敬する人。

「やっぱり今の世の中、アンケートなんて相手にしてくれませんよ」

「あらあら・・・
では、今日も空振りですか?」

「いいえ。
今日は一組だけ受けてくれたんですけど、それはお似合いで良い子達でしたよ。
それだけで今日は満足です」

「そう・・・
貴女はそこまで言うくらいですから、本当に良い子達だったんですね」

褒められて照れくさいような気分になって、誤魔化すように話題を変える。

「先輩、編集長知りませんか?
一応、報告しなくちゃ」

「編集長でしたら、お客様が来られて打ち合わせよ。
・・・アラ、噂をしたら何とやら。
終わったようですね」

確かに外来室から編集長と男性が2人が出てきた。
お互い頭を下げてから2人は出て行き、編集長はこっち(編集長のデスクは私の近くだから)に向かってくる。

「オッ、宮下、戻っていたのか。
悪いが安藤、コーヒーを入れてくれないか?」

「今戻ってきたばかりですよ、編集長」

「はい、わかりました」

詩織先輩はコーヒーを入れに、編集長は戻らずに私の隣にイスを引っ張ってきた。
どうやらそのまま報告を聞くご様子。
私も報告し、その間に戻ってきた詩織先輩と軽く談笑する。

「そうか・・・
大変だと思うが、最低ノルマ後20件頑張れよ」

「はーい・・・」

「フフ、頑張ってね、悠さん」

リアルな数にさすがに落ち込むがそこは気合で乗り越える。

「そういう編集長はどんな話しをしていたんですか?」

「フム・・・
本来なら関係ないことだと突っ返す所だが、
その件でオマエ達に知らせておくことがある」

「はい?」

「何でしょう?」

私達に?
どんな内容なのかしら?

「まず、この写真を見てくれ」

そう言い、編集長は持っていたファイルから写真を一枚取り出して私達に見せる。

「先程の人達はスポーツ記者でな。
何でも2年くらい前に、ある事件で現役を引いていた有名な天才ボクサーが復活したらしい」

「結構、若くて美形ですね。
学生さんですか?」

この男の子って・・・(汗

「名前は『雪村雪之丞』。
今は城誠大学に入学しているが、弱小だったボクシングのサークルを一躍強くしたらしい」

「それほど、お強いとは見えないですけど・・・」

ものすごっく見覚えがあるんですけど・・・
例えば、今日のお昼前とか(汗

「まあ、顔しか映っていないからな。
それだけならわざわざスポーツ記者がこんな部署に来るはずはない。
だが実際にはその空白時間は何一つ不明で、分かった事はある女の子と付き合っているという事だ」

「確かに付き合っている子もいるでしょうね。
どんな有名な人でも妨げる権利はありませんから」

その女の子にも心当たりが・・・(汗

「さすがに誰かとは分からないようでな。
是非ともその女の子に取材させてほしいと思っているようで、向こうが協力を求めてきた。
という訳で、もし見かければ接触してほしい。
ちょうど、今回は涼月だしな・・・どうした、宮下?
黙り込んで?」

「悠さん?」

お二人には悪いけど、私は無言で今日取ってきた唯一のアンケート用紙を編集長に差し出す。

「ん?
アンケート用紙がどうした?
まあいい、成果はわかったからもう直せ」

「それが悠さんが言っていたカップルのアンケートなんですね」

まだ状況が掴めていない編集長と詩織先輩に真実を語る。

「あのですね・・・編集長」

「だから何なんだ、はっきりと言え」

「・・・本人達のアンケート用紙なんです」

「はっ?
本人?」

「悠さん、どういう意味なの?」

「ですから、『今話している本人達が受けてくれたアンケート用紙』・・・です」

「「・・・・・・」」

一瞬の沈黙・・・
その後・・・

「な、何ーーー!!」

「えぇぇぇ!!」

大変驚かれるお2人方。
それもそうでしょう。
いくら探しても(そのスポーツ記者達が)見つからなかったのに、
ツーショットどころかこんなアンケートを取ってきたのだから(汗

「ほ、本当か、宮下!?」

「は、はい」(汗

「こ、こうしちゃおれん!!
ちょっと待ってろ!!
いいか、動くなよ!!」

慌ててさっきの相手に連絡する編集長。

「悠さんも運がいいですね」

「運がいいとかそういう問題じゃないと思いますけど・・・」

こんな偶然、一生あるかないかでしょうね。

「・・・その人達は幸せそうでしたか?」

「ええ。
大変お似合いで幸せそうでしたよ」

それだけは言える。
でも、このままじゃあ・・・

「なら、その幸せを守らなくてはいけませんね、悠さん?」

「・・・はい!」

 

その後、編集長と戻ってきた2人に質問攻めにされたけど私は一切答えなかった(もちろんアンケート用紙も見せなかった
プライバシーを守ると約束したし、その信頼を裏切りたくなかったから。
すぐに編集長は事情を察してくれたけど(さすがこういう仕事をしているだけはある)、
2人はしつこく聞いてきた。
いい加減キレる一歩手前で編集長と詩織先輩が宥めてくれて、
それどころかその2人にも黙秘させる事に成功。
後で聞いたけど編集長はかなりの人脈があって、これくらい朝飯前らしい(知らなかった

それでも来月号に、このカップル・『雪結晶』のコーナーが大きくでたのは言うまでもない・・・

 

『雪結晶』

雪之丞君と晶子ちゃんは結ばれているという意味ね・・・

やるじゃない、晶子ちゃん!

 

 

この問題も収まり、次に私が飛んだ場所は・・・

 

 

『いつまでも貴方の側に・・・』編へ続く

 


さて、前々から書いてみたかったアンケートものです。
このシリーズは私が書いたSSでやっていきます。
さしずめ、同時投稿したそれ散る編に飛びます。
正式なあとがきはそこで・・・