「・・・というわけだ」

「ようするに、何か良いデートスポットがないかってこと?」

「ああ」

「そうですねぇ・・・」

風邪が治った翌日、昼食中に春日と間部にある相談をする。
もちろん、合田や須崎もいるが。

「今回は、『お礼』と言う意味もあるからな。
たまには変わった所に連れて行ってやりたいと思ってな」

土・日曜に晶子に看病をしてもらった時にデートの約束した。
さすがに、今回は心配を掛けたこともあり(学校をサボるとは思わなかったが)、
いつもと違う所に連れて行ってやりたいと思うが、俺にはそんな場所なぞ知るはずもない。
仕方なく春日達に聞くしかない(不安もあったが)

「雪村君、今まで晶子さんとどういう所に行っていたのですか?」

「公園や静かな所が多いが・・・」

「晶子ちゃんらしいと言えばらしいけど、何か寂しいわね」

そういうが晶子自身、静かな場所でゆっくりするのが気に入っているからな。
晶子曰く『静かな場所でゆっくんと2人でいる事が何より楽しいし嬉しいよ』と言う事らしい。

「ま、まあ、それもいれていい場所はないか?」

改めて、春日達に意見を求める。

「雪之丞!
そんなつまらない所じゃなくて、ゲーセンでパーッと遊ぶというのはどうだ!?」

合田が合田らしい意見を言うが、

「晶子はゲームなどに興味はないから却下だ」

「グッ・・・」

あっさり却下する。
久保の部屋にはゲーム機はあるが晶子はやろうとはしない。

「雪村君。
こういう場合はお礼に何かプレゼントと言う事で、デパードで買い物はどうだい?」

次に須崎がマシな意見を出すが、

「悪いが、今回はどこかに遊びに行くと言ってしまっているからな。
買い物は普段している事もあるから却下だ」

「そ、そうか・・・」

悪くはないが、買い物自体は良く付き合っているからな。
プレゼントをするからと言っても変わりはない。

「雪之丞!
こんな時は、身体を動かす所なんてどう?
バッティングセンター・・・は晶子ちゃんには無理だからボーリングとか?」

春日も自分が良く行く場所を勧めるが・・・

「残念な事に、晶子は運動は得意じゃない。
それにボーリングなら1・2時間で終ってしまうだろ?」

「そ、それもそうね・・・」

時間が短すぎるのが欠点だな。
出来れば1日中遊べる所がいいんだが・・・

「なら、雪村君。
遊園地なんてどうですか?」

「遊園地?」

「はい。
晶子ちゃんにとっては少し騒がしい場所かもしれませんが、
たまにはいいところですよ」

考えてみれば1度も行っていないな。

「そうか?」

「そうですよ。
それに、遊園地は女の子が彼氏と行って見たい所ですよ」

「そうだな・・・」

確かにクタクタになるまでに遊び倒すのも悪くないか。
それに運動ではないから、晶子も大丈夫だな。

「よし、そこにするか。
悪かったな、間部」

「いいえ。
楽しんできてくださいね」

・・・この時、春日の方を見ていなかったのが失敗だった。
もし見ていたら、何か企んでいることに気付いていただろう。
だが、時間がない事もあり昼食の残りを食べていたから気付かなかった。

その日の夜、晶子に連絡を入れ、行き場所を伝えた。
あいつなりに喜んでいたからよかった。

そして当日、日曜日・・・

 


2002 elf 『あしたの雪之丞&勝 あしたの雪之丞2』

「幸せなる日々」
 (第4話・2人のデート)


 

「うわーー・・・」

涼月駅から電車で一時間。
遊園地に入ると晶子は驚きの声を上げて、俺の前を走っていく。

「ゆっくーーん!!早く早く!!」

「そんなに急がなくても、開場したばかりだろう?」

「それでも、時間は過ぎていくでしょー!」

「わかったわかった」

あれほど嬉しそうな晶子を見るのは久しぶりだな。
・・・間部に感謝だな。

「それで、どれから乗る?」

「えっと・・・」

取り合えず、入り口で貰った地図を見てなにがあるのか調べる。

「一応、基本なものはあるみたいだね」

「そうだな」

ジェットコースターといった絶叫ものや観覧車などの落ち着いた乗り物がある。
晶子が真剣な目で地図を見る事一分(長いかどうか微妙だな)、
決まったのか俺の方を向く。

「うん。
初めはこれに行こう!」

そう言って地図に指差すものは・・・

 

 

〜コーヒーカップ〜

「あはははははは!
ゆっくん、もっと回して!!」

「これ以上はさすがに・・・」

今以上速度を上げたら俺の方が持たない・・・

「いいから!」

「・・・わかった」

仕方なく速度を上げる。

「きゃあーーーーー!」(喜

・・・生き延びれるか、俺。

 

「ゆっくん、大丈夫?」

「あ、ああ。
だ、大丈夫だ」

ものの見事に酔ってしまい、ベンチに寝てダウンしてしまう。
下手なトレーニング後よりもっとツライ。

「ごめんね。
調子に乗りすぎたよね」

「いや、今回は羽目を外して充分楽しんでくれ・・・
と言いたいが、まさか初めからこんなになるとは思わなかった」

あれだけ回したのに、晶子は平気で膝枕をしてくれているほどだ。
案外、俺の方がこういういったものに弱いのか?
いや、晶子が強いだけだ。
そう思おう。

「よし。
気分も良くなったし、次に行くか?」

「う、うん。
でも、次は大人しい乗り物にするね」

「・・・頼む」

晶子には隠し事は出来ないな・・・

 

 

〜ミニコースター〜

「ぐおおおお!!」

「きゃあああーー!!」

な、何だ!?
この直角のような曲がり方は!?
それに小さい分勢いがあり、上下の反動が強い!!
ジェットコースターはまだツライと思い、これに乗ったが・・・
この方がツライぞ!!

「おおおおお!!」

「わああああ!!」

・・・選択を誤ったな(汗

 

「ねえ、ゆっくん・・・?」

「・・・なんだ?」

お互いに疲れた声しかでない。
さすがに晶子もダウンのようだ。

「ちょっと甘く見てたね・・・これ」(汗

「そうだな・・・」

なぜ、こうも意外な事ばかりなんだ?
この調子では正直もたないぞ?

「晶子、今度は歩いて見るものにしよう」

「そうだね・・・」

先程のベンチに座って(今度は晶子もダウンだが)、
『うーーん』と唸りながら晶子の決めた次は・・・

 

 

〜アイスランド〜

「・・・寒いね」

「・・・寒いな」

確かに歩くだけだが・・・

「寒いだけだな?」

「で、でも・・・
ほ、ほら、息を吐いたら白いよ」

晶子は出来るだけ盛り上げようとするが、
その事がさらに空しく感じさせる。

「・・・行こう」

「うん」

突っ立てても意味がない(寒いだけだ)
少し早足気味で進む。
ペンギンの模型(?)などがあるが、見る気も起こらない。

「・・・・・・」

「? どうした、晶子?」

寒いから黙っているかと思えば、何かガマンしているように見え、
声を掛ける。

「・・・ねえ、ゆっくん。
わたし、先に出るからゆっくりしてて」

「おいおい、せっかく入ったのに勿体無いだろ?
あきらめて、ゆっくり行こう」

さすがに、ここで『ゆっくりしてて』と言われてもこっちが困る。
というより、俺を置いていく気か?

「・・・

「? すまんが、もう一度言ってくれ」

「・・・行きたいの

「もっと大きく言ってくれ」

何故か顔を真っ赤になっているが、何を言いたいのか伝わらない。
耳を近づけようとしたが、逆に晶子に引っ張られもう一度言った。

「・・・お手洗いに行きたいの

「そ、そうか(汗
悪かった・・・
行って来い」

急に寒い所に入ったから冷えたんだろうな。
晶子は俺の耳を離して(寒さで感覚がなかったが)走って出口に向かって行く。
・・・俺もさっさと出よう。

 

「うーーーーー・・・」

「わ、悪かった、気付かなくて。
いい加減、機嫌を直せよ」

俺が出て待っていたのは、不機嫌な晶子だった。
さっきから、俺の方を睨みながら(少し半泣きになっている)唸りつづけるばかりだ。

「ゆっくんも、もう少し気を使ってよ」

「ああ」

こうなってはひたすら謝るしかない。
こういう時、久保ならどうするだろう?

「本当に反省してる?」

「もちろんだ」

「なら、許して上げる」

ようやく機嫌が戻ったな。

「ゆっくん、次行こ、次」

「わかったわかった」

少しは休憩させてくれ・・・

 

 

〜昼食〜

あれから3つほど回ってようやく昼食を取る事にした。
しかし・・・

「はい、ゆっくん。
アーーン・・・」

「・・・・・・」

外でも晶子のやる事に変わりはないらしい。
奢るのは決めていたが、昼食は晶子が用意してきたらしい。
こういう人目がつく場所では控えてほしいのだが・・・

「ほら、アーーン」

その事に気付かない(というより気付いてくれない)まま、再度進める。

「・・・はあ」

もう諦めかけの自分に空しく思いながら、言われるまま食べる。

「どう? おいしい?」

「ああ。
充分なくらいな」

「そう、よかった!」

相変わらず毎回確認する晶子に苦笑しながら食事を進める。

「晶子、楽しいか?」

「うん!!
たまにはこういう賑やかな所も良いよね」

本当に楽しそうだな。

「次からもこういう場所も行くか?」

「そうだね。
でも・・・」

「ん? 何だ?」

俺の顔を見ながら真剣な表情で・・・でも、笑顔で・・・

「ゆっくんの側ならどこでも楽しいし幸せだよ」

「・・・そうか」

晶子のこの笑顔にどれだけ救われたかわからないな・・・

「早く食べて次に行こうよ!」

「昼食ぐらいゆっくり食わせろ」

・・・晶子にはいくら感謝しても足りないな。

 

 

〜お化け屋敷〜

「ゆっくん、絶対手を離しちゃ駄目だからね」(怯

「わかってるからさっさと行くぞ」

怖がりなくせになぜか晶子が次に選んだのはここだった。
入ったらすぐに手を握ってチビチビと歩くものだから中々進まない。
そして・・・

「きゃあああああああ!!」

「ぐあっ」

・・・予想通り、悲鳴も大きく(しかも狭い場所だから響く)俺の方がたまらない(汗

「もぉやだぁ・・・、帰るぅ」(泣

しかも混乱気味になり無理な事を言う。

「さっさと出るぞ」

晶子の手を引いて早歩きで出ようとするが、晶子は俺の腕に抱き着き震えている。
これでは引っ張っていく事が出来ない。

仕方なくこのまま可能な限り早く歩いて出口を目指す。
しかし・・・

「きゃああああああああああああああ!!」

「ぐおっ」

晶子が悲鳴を上げる度に俺の耳がやられる。
それほど怖いなら入るなよ・・・

 

「落ち着いたか?」

「・・・うん」

ようやく出て、ベンチに座って(またもや同じベンチ)晶子を落ち着かせる。
座る前に買ってきた紅茶の缶を握りながら俯いていたが、立ち直ったのか顔を上げる。

「それほど怖いなら、なぜお化け屋敷なぞ選んだ?」

宥めながらずっと疑問に思っていた事を聞く。
晶子自身苦手だとわかっているはずなのに入った理由が俺にはわからない。

「・・・だって、遊園地でデートと言ったら『お化け屋敷』と『観覧車』は外せないって聞いたから」

・・・・・・

「誰から聞いた、誰に?」

「・・・せりなさん」

春日か・・・あいつめ・・・
頭の中にイラつかせるほどの笑顔で高笑いしている春日が浮かんだ。
覚えていろ・・・

「ん?」

やり返す事を誓うと、何故か後ろの草むらが気になり後ろに向く。

「どうしたの?」

晶子もつられて後ろを向くが何もない。

「悪い、気のせいだったな。
次に行くか?」

「ま、待ってよ、ゆっくん!」

今度は俺の方が先に歩き、慌てて晶子が着いてくる。
その慌て様に可笑しさが出てきて、堪えるのに苦労した。

 

 

〜観覧車〜

「うわー、綺麗だね」

「そうだな。
こう高い所から見ると、普段と違って見えるな」

お化け屋敷の後、2つほど行き最後の観覧車に乗っている。
休みと言う事もあり、混んでおり思うほど行けなかったが晶子は満足したようだ。
実は最後に観覧車を選ばなければ、後2つほど行けたのだがどうしても晶子が・・・

『最後は絶対観覧車に乗るんだからね!』

と力強く言われ、何故この時間に混んでいるかわからない『観覧車』に並んでようやく乗る事が出来た。

「晶子、楽しかったか?」

「うん!
こんなにはしゃいだのは久しぶり。
今日は本当にありがとう」

「いや・・・
満足してくれたならそれで良い」

「今度は私もお金を出すから、また来ようね」

「ああ」

そう言って微笑む晶子に俺も笑い返す。

「でも、ゆっくんが遊園地に連れて行ってくれるなんて意外だったな」

「実は春日達に相談して、間部が案を出してくれた」

「あ、やっぱり?
由希さんにも感謝だね」

「春日にもか?」

「・・・微妙だね」

『お化け屋敷』で散々な目に会ったからな。

「・・・ゆっくん。
隣りに座って良い?」

「? 別に構わないが・・・」

今はお互いに正面で座っていたが、晶子が隣りに座って抱きついてくる。

「晶子・・・」

「でもね・・・
いくら楽しい場所でも、美味しい食事でもゆっくんとじゃなかったらこんなに楽しくないよ。
ゆっくんだから・・・
今、ここに居てくれるのがゆっくんだから幸せなんだよ」

「そうだな・・・」

俺もそうだろう。
春日達でもこれほど安らいだ気持ちになる事はない。
晶子だからこれほどの気持ちになるんだろう・・・
それほど俺にとって晶子の存在は大きい。

「ゆっくん・・・」

「晶子・・・」

晶子が軽く顔を上げ目を瞑ったことが合図のように、肩に手を置き顔を近づけて・・・

 

チカチカ・・・

 

「うん?」

何かチカチカと反射して眩しく思い動きを止めてしまう。

「ゆっくん?」

俺の声に不審がったのか晶子も目を開け、原因を知る。
お互いにその反射している所を見てみると・・・

「・・・春日」

「・・・せりなさん」(汗

そこには双眼鏡でこちらを覗いている春日がいた。
だんだん下りてくると春日だけではなく・・・

「合田、須崎・・・間部まで・・・」(汗

「お、お兄ちゃん・・・」(汗

以上4人までいた。
まだ、こちらが気付いているとわかっていないようだ。

「晶子・・・どうする?」

わかりきっていることだが、一応晶子に確認する・・・

「もちろん、言わなくてもわかるよね」

予想通りな返事に頷く。
観覧車から出ると走って春日達が見失うように離れた。

 

 

〜出入り口〜

「もうー! アンタが遅いから見失ったじゃない!」

「何だと! お前だって雪之丞達を見失うまで菓子なぞ食っていたじゃないか!」

出口に向かう春日達の後ろから気付かれないように近づいていく。

「まあまあ、せりなちゃん、久保さん」

間部は2人を静めようとしているが焼け石に水だな。

「しっかし、いい所まで行ったのに勿体無かったぜ」

「そうだな。
雪村君のあんな所なんて見る機会なんてないからね」

合田と須崎も好き勝手に言ってくれる。

「はあー・・・
ま、いいか。
学園で思いっきり冷やかしてやる」

「あははは・・・」

そうはいかないぞ、春日。
そろそろ春日達に声を掛けようと思い近づく。

「オイ」

「何よ、ウルサイわね。
ナンパならよそでしなさいよ」

後ろから声をかけたのがまずかったのか振り向きもしない。
しかもナンパと間違えるか・・・

「オイ」

もう一度声を掛けて春日の肩を掴む。

「しつこいわね!
ナンパしてる暇があったら勉強でもしていなさい・・・」

未だナンパと間違ている春日がイラついてこちらを向いて・・・

「勉強か・・・
お前には似合わないな」

「ゆ、雪之丞ーーー!!?」

大声を出して固まった。

「し、晶子・・・」

「こんばんは、お兄ちゃん」

晶子の方も久保の前に立ち止まり、問い詰めている。

「い、いやー・・・
奇遇ね、雪之丞。
こんな所で会うなんて・・・」

ここまで来ても誤魔化す春日。
らしいと言えばらしいが・・・

「一体、何時から後を追っていた?」

「あう・・・」

それからようやく白状させると・・・
俺達が出た後から追っていたらしい。
言い始めはもちろん春日だ。
そこで、間部達も巻き込み(合田と須崎は乗り気だった)、
久保に俺達が出た後に連絡させた。
久保の方も追跡に参加する事を条件に協力したらしい。
ようするに今まで全て見られていたということだ。

「晶子、始末は任せる」

「うん、任せて」

笑顔のはずだが、どこか俺を追って鹿島学園に転入してきた時の晶子を思い出させる気迫に、
内心後退りしながらまかせた。

 

まず首謀者の春日だが、今度のテストや課題に誰も手を貸さない事を約束された。
・・・成績、大丈夫か?
合田、須崎には2週間俺に奢るということになった。
・・・2人だから、まだマシだな。
間部は春日を止めようとした事と遊園地というアイデアをしてくれた為、免れた。
・・・もの凄く、春日が恨んでいたな。
そして、久保は・・・教えてくれなかった。
ただ、一週間後会うと痩せこけていたのが印象だった(汗

俺も晶子を怒らせないようにしようと心に誓った。

 

おまけへ

 


あとがきはおまけでまとめて・・・