「・・・ああ、心配掛けたな」

ん・・・

「ふ、大きなお世話だ」

あれ・・・?
わたしは確か・・・

「・・・わかっている。
おばさんにも迷惑を掛けたと言っておいてくれ」

ゆっくんの看病をしていて・・・
それから・・・

「・・・いや、いい。
別に代わるほどじゃないだろ」

・・・寝ちゃったんだ。
でも、ゆっくんが寝ていたはずのベットでわたしが寝ているのは・・・?

「ん・・・」

「待て、晶子が起きたみたいだ」

とりあえず目を開けてベットから起き上がると、ゆっくんがこっちを向きました。

「おはよう、晶子」

「う、うん・・・おはよう。
電話中?」

ゆっくんの声がさっきから聞こえてるかと思ったら、電話中でした。

「ああ、久保からな」

お兄ちゃんから?
そういえば、ゆっくんにお兄ちゃんへ電話してもらうのを忘れていました。
そう思っている間にゆっくんはお兄ちゃんと話します。

「久保、晶子が目を覚ました。
俺はもういいから晶子に代わるぞ」

そう言って電話をわたしに渡してくれます。

「ありがとう、ゆっくん。
・・・もしもし、お兄ちゃん?」

『おお。
ずいぶん寝ていたな。
お前にしては珍しい』

「え?今、何時?」

『11時だ』

「そ、そんなに!?」

朝方までゆっくんのタオルを替えてあげた記憶があります。
だからって、この時間まで寝ていると思いませんでした。
徹夜は弱いとわかっていましたが、ここまで弱いとは意外です。

『それより、晶子?』

「な、なに」

『今日、帰ってくるのか?』

「え・・・えっと・・・」

本当はゆっくんが本当に治るまで看病したい気持ちがありますが、
昨日学校を休んで、明日まで休むわけには・・・
ゆっくんも許してくれないし・・・

「う、うん、今日に帰るよ。
でも、何時ごろに帰るかわからないけど・・・」

やっぱり、帰りましょう。
でも、こんな時間になっちゃったけどゆっくんはまだ本調子じゃないみたいだし・・・
もう少しだけ・・・

『わかった。
遅くなるようなら帰るときに電話しろ。
駅まで迎えに行ってやる』

『うん。
ありがとう、お兄ちゃん』

そんなお兄ちゃんに感謝です。
でも・・・

『おお。
しっかり、雪之丞に甘えてこいよ。
そうしないと不機嫌だからな、晶子は』

「もう、お兄ちゃん!」

これがなかったらなぁと思います。

『がはははは』

 

 


2002 elf 『あしたの雪之丞&勝 あしたの雪之丞2』

「幸せなる日々」
 (第3話・雪之丞の風邪騒動・後編)


 

「もう、お兄ちゃんったら」

「そう言うな。
あいつはあいつなりに心配していたようだからな」

「それはわかってるけど・・・」

お兄ちゃんはいくら怒ってもわたしとゆっくんをからかう事をやめません。
わたしが本当に怒る程はしませんけど軽くからかいます。
もう・・・あきらめています。

「それより、ゆっくん。
体調はどう?」

「とてもマシになった。
引き始めだったし薬が効いたようだ」

「そう、よかった」

・・・わたしも看病頑張ったのに。

「もちろん、晶子にも感謝しているからな」

「いいよ。
昨日も言ったけど、ゆっくんの為だもん」

でも、いつもより治るのが早いです。
これなら明日は学校に行けると思います(いつもは3日以上は寝込みます)

「それじゃあ、お昼ご飯作るから」

「頼む」

朝ご飯はわたしがお寝坊したから少し早めにお昼ご飯です。
材料は昨日のせりなさん達が買ってきてくれたものを別に残しておいたので、
それを使います。
さてっと・・・

 

 

「いただきます」

「どうぞ」

作ったお昼ご飯はゆっくんの事も考えて、
おかゆ・・・昨日作りましたから味をつけたおじやみたいにしました。
おかずはジャガイモとニンジン・大根を煮込んだものと漬物です。
少ないと思ったけど、その分おじやをたくさん作ったので充分でした。

「ゆっくん、おいしい?」

「ああ。
いつも聞いてくるが、俺は晶子の食事に1度もまずいと思った事はないし
言ったこともないぞ」

「わかってるけど、やっぱり不安なんだもん。
それに、昨日から薄口にしてるし・・・」

いつもわたしが作った時は、ゆっくんが食べるまでジッと見て感想を聞きます。
失敗しない限り大丈夫だとわかっているけど、最初のひと口はドキドキします。

「心配するな、充分ウマイ」

「ありがとう」

照れた顔で誉めてくれます。
その顔を少し可笑しくて・・・でも好きな表情だから嬉しさがこみ上げて来ます。

 

「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

お昼ご飯も食べ終わり(体調が良いこともありアーンはさせてくれませんでした)、
お薬を用意します。

「はい、ゆっくん」

「スマン」

ゆっくんはそうお礼を言ってお薬を飲みます。

「お薬を飲んだらベットで寝てね」

ちゃんと釘をさしておかないと、
そろそろゆっくんも寝てばかりじゃ退屈だと思い始めるから。

「・・・なあ、晶子」

ほらね。

「体調もマシになったし、軽く外に・・・」

「ダメ!!」

「うっ」

「もう・・・
ゆっくんは風邪を甘く見すぎだよ。
少し良くなったってまだ安静にしなくちゃダメだよ」

ゆっくんもそうだけど、お兄ちゃんの時もすぐに外に出ようとします。
男の人って、どうしてそういう所は無頓着になるのかな?

「いい?
とにかく、今日まではゆっくりして。
そんな事したら不安で帰れないよ」

「・・・・・・」

「ね?」

「・・・わかった」

よしよし。
本当は外にお出かけするのは少し惹かれたけど、
いつでも出来るから。
今はゆっくんに元気になってもらう事が一番です。

「その代わり・・・」

「ん?」

「風邪が治ったら、デートしてね」

「ああ。 約束だ」

これで、楽しみが増えました。
あ、それなら・・・

「もちろん、ゆっくんの奢りでね」

「珍しいな、晶子がそう言うとはな」

「だって、今回のお礼でしょ?」

「そうだな」

いつもデートやお出かけの時のお金は、
自分の分は自分で払うようにしています。
ゆっくんはバイトしていないから出来るだけ負担をかけたくありませんから。
・・・ただでさえ、我侭を聞いてもらっているのに。
でも、今回はちょっと特別です。
たまにはいいよね。

 

「それじゃあ、大人しく寝ていてね。
お薬飲んだから、その内眠くなるよ」

「・・・はあ」

いかにも渋々といった感じでベットに戻るゆっくん。
わたしも昨日と同じように隣りに座ります。

それから、お喋りしていたんですけど・・・

「ふあ・・・」

「眠そうだな」

「だ、大丈夫だもん」

わたしの方が眠くなってきました(汗
昨日(今朝)の疲れか寝不足なのかわかりませんが、
睡魔がゆっくんじゃなくてわたしに襲います。

「晶子」

「・・・なに?」

いけない・・・
反応まで遅くなってきました。

「もういいから少し寝ろ。
こっちの方が気になる」

「でも・・・」

確かに立場が逆ならわたしも気になると思います。
でも、今はゆっくんの方が大事だし抜け出すかもしれません。

・・・・・・
あっ!
それなら・・・

「それじゃあ、ゆっくんと一緒に寝る」

「・・・は?」

「だって、いつも一緒に寝てるけど昨日は出来なかったし・・・」

そうです!
昨日は看病していたから(途中で寝てしまったけど)一緒に寝ていません。
やっぱり、これが一番ゆっくんを感じられるから・・・

「い、いや・・・風邪が移ったら・・・」

「大丈夫だよ」

一度そう思えば、ゆずる気はありません。

「根拠は?」

「だって、わたしとゆっくんだもん」

「意味がわからないが・・・」

「とにかく、一緒に寝よ」

布団の端を掴んでジッとゆっくんを見つづけます。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・わかった」

「ありがとう、ゆっくん!」

勝利です(ぶい)

 

「お邪魔します」

ゆっくんが掛け布団を上げてくれていますので、そこから入ります。
中に入るとゆっくんの胸に手を回して抱きつきます。

「はあ・・・」

やっぱり、一番落ち着けます。
この温もりは夏でも手放したくありません。

「ゆっくん・・・」

おデコを胸元に軽くグリグリします。

「いいから、寝ろ」

ポンポンと軽く頭を叩きます。

「うん」

目を閉じるとすぐに寝てしまいます。
ゆっくんの温もりに包まれて・・・

 

 

「ねえ、ゆっくん。
明日、電話してね」

「いつまでたっても心配性だな」

「それはゆっくんだからだよ」

「どういう意味だ?」

「ふふ、悪い意味じゃないよ」

結局、あれから2人とも夜まで寝てしまいました。
とりあえず、晩ご飯を作ってあげてから、
支度をして(ちなみに制服のままです)帰ります。
まだ、時間も大丈夫だからお兄ちゃんに電話をしていません。

「そうか。
まあ、今回は世話になったな」

「それならデートの日、楽しみにしてるから」

「まかせろ」

本当に楽しみです。

「それじゃ、帰るね」

「気をつけて帰れよ」

・・・この瞬間だけはいつまでたっても慣れることは出来ません。
このまま、ゆっくんと会えないかもしれないという気持ちが生まれるからです。
だから、涼月に戻る時に電話するという約束をしました。

「じゃあね」

「ああ」

今日はゆっくんの体調を考えて、アパートの下まで見送りです。
少し歩くと忘れものを思い出したので、そのまま立っているゆっくんの側まで戻ります。

「ねえ、ゆっくん」

「どうした、忘れ物か?」

「うん。
こ・れ」

「!?」

不意打ち気味にゆっくんにキスします。

「「・・・・・・」」

ゆっくりと離れると、顔が赤くなったゆっくんが見えます。
というわたしも、頬が赤くなっているのがわかります。

「今度こそ、じゃあね」

「あ、ああ」

少し固まっているゆっくんに手を振って駅を目指します。
さて・・・我が家に帰りましょう。

 

 

それから、無事に涼月まで戻ってきました。
そのまま帰路に着こうとすると・・・

「おーーーい、晶子!」

「えっ?
お兄ちゃん?」

駅の前にお兄ちゃんが待っていました。
わたし、電話してないのに・・・

「どうしたの、お兄ちゃん?
電話してないのに?」

「ああ、雪之丞から連絡が来てな。
『晶子が今帰ったから迎えに行ってやってくれ』ってな」

「もう、ゆっくんったら」

わたしに心配性だって言ってたけど、人の事言えないよ。

「あいつなりに心配だったんだろ?
いいから帰ろうぜ」

「あ、うん。そうだね」

お兄ちゃんのひと言でわたし達は帰路につきます。

 

「なあ、晶子」

「なに?」

お兄ちゃんと2人で帰りながら、昨日からのことを話してると真剣な声で聞いてきます。

「今、幸せか?」

「もちろん幸せだよ。
これだけは胸を張って言えるよ」

わたしははっきりと答えるけど・・・

「そうか・・・」

それだけを言って、夜空を見上げます。

「どうしたの、お兄ちゃん?
何かあったの?」

その態度に少し不安が生まれます。

「いや、そうじゃない。
ただ、俺のせいでお前や雪之丞につらい思いをさせたからな。
少し聞いてみたくなっただけだ」

やっぱり、お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに気にしてたんだ・・・
だから、わたしは正直に思いのまま話します。

「そう・・・
でも、心配しないで。
確かに色々な事があったよ。
今は夢だったゆっくんの恋人になれたし、本当に幸せだと感じてるしゆっくんもそう思ってるよ。
逆に、そんな事を言うお兄ちゃんの方が失礼だよ」

「・・・・・・」

「ね、お兄ちゃん」

「・・・そうだな」

やっと、お兄ちゃんはわたしの方を向いてくれます。

「お前らが幸せならそれでいい」

「うん!」

それから、お兄ちゃんも元の調子に戻ってくれて我が家に着きます。
家に入ろうとすると・・・

「晶子・・・」

「なに、お兄ちゃん?」

どうしたの?

「い、いや・・・なんでもない。
早く家に入ろうぜ」

「う、うん」

何が言いたかったのかな?
聞こうとするけど、お兄ちゃんはドアを開けて先に入っちゃいました。
もう、お兄ちゃんったら・・・
わたしもお兄ちゃんに続き、家に入ります。
今のお兄ちゃんの態度に少し引っ掛りながら・・・

 

「ただいまー」


 

第4話へ続く

 


どうもです、siroです。
な、何とか年末までに投稿できました。
でも、前回投稿してからメモを書くぐらいで、
ほとんどSSから離れていたからものすごく苦労しました。
この第3話(前編・後編含む)は晶子と雪之丞が幸せにしているわかってもらうのが狙いです。
それなら、こういうラブラブな話が良いと思い書きました。
今回は晶子がメインで、次回の第4話は雪之丞も幸せだとわかるような話になる予定です。
さて、最後の勝の態度はいわゆる先の話の伏線です。
当分は関係ありませんが、このSSが終わりかけに出てきます。
しばらくは忘れてくれていても構いません。
もう少し詳しくなら同時投稿のキャラクター紹介を見てください。
最近、ラングさんの掲示板にご感想を書いていただき嬉しい限りです。
ラングさん、sarenaさん、atu-77さん、イロイロさん、thorさん、ありがとうございました。
また、時々でいいですのでまたご感想などをお願いします。
他の人も大歓迎ですので、ご感想などがあればラングさんの掲示板にお願いします。
では、第4話で・・・