プルルルルル・・・・・・プルルルルル・・・・・・

 

あ、電話?

「晶子ー、今、手が離せないから出てちょうだい」

「はーい」

今日もいつも通り、朝食を作っています。
お母さんはお兄ちゃんを起こしに行っているから、手がいっぱいです。
いつまでたってもお兄ちゃんが早起きする事はありません。
いい加減に懲りて起きてくれてもいいのに・・・
そういう訳でわたしは電話を取ります。
ゆっくんかな?
でも、少し時間が早いし向こうから掛けてくるなんて滅多にありません。

 

プルルル・・・・・・ガチャ

 

「はい、久保です」

『もしもし、晶子ちゃん?
せりなだけど』

「せりなさん?
お、おはようございます」

せりなさん?
どうしたんだろ、こんな朝から?
せりなさんとはよく会うから電話は意外とないから・・・

『うん、おはよう。
・・・やっぱり、その様子だと知らないみたいね』

「え、何がですか?」

わ、わたし、せりなさんに何かしたかな?(汗

『実はね、雪之丞ったら体調崩して風邪引いたんだって』

っ!!

『それで、わたしに『学校を休むから詩織先生に伝えてくれ』って、
連絡が来たから』

ゆっくんが・・・

『雪之丞ったら、晶子ちゃんに心配かけたくないから連絡してないかもと思ったけど、
本当に予想通りね。
・・・晶子ちゃん?』

はっ!?
こうしている場合じゃない!!

「ご、ごめんなさい!
失礼します!!」

『あ、あの、晶子ちゃ・・・』

 

ガチャ!!

 

せりなさんが何か言おうとしたけど、気にしている余裕はありません。
急いで部屋に戻って、
制服から着替える時間も惜しくそのままで、いつものお泊りセットのカバンを持って出ます。
廊下に出ると、お兄ちゃんとお母さんも出てきました。
丁度いいタイミングですね。

「よう、晶子・・・」

「ゆっくんのアパートに行ってくる!!」

寝ぼけた声で挨拶するお兄ちゃんを遮って、用件を(簡潔に)言います。

「雪之丞君の所って・・・学校は?」

「休む!!」

お母さんの意見もばっさり切って、階段を下りてドアに向かいます。
ごめんね、お母さん。
わたしにとって、ゆっくんが何より大事なの。
そのゆっくんが倒れているんだから・・・

「後で連絡入れるから!!
行ってきます!!」

急いで靴を履いて外に飛び出し、駅に向かって走ります。
後日聞くと、その時のお兄ちゃんとお母さんは呆然としていたそうです。

 

「待っててね、ゆっくん!!」

 


2002 elf 『あしたの雪之丞&勝 あしたの雪之丞2』

「幸せなる日々」
 (第3話・雪之丞の風邪騒動・前編)


 

「ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・」

鹿島に着いて駅からゆっくんのアパートを目指して再び走っています。
途中の道で鹿島学園の制服を着た学生さん達を見せます。
・・・正確に言えば逆に見られているかな?
わたしは涼月学園の制服を着たままだから、ものすごく浮いています。
でも、今のわたしはそんな事を気にする余裕は全くありません。
ゆっくんの事で頭いっぱいだから・・・

「ハアッ・・・ハアッ・・・着いた」

ようやくアパートに到着しました。
それはもう息が切れて酸素不足です。
その事は置いといて、ベルを鳴らすの事すらもどかしくて、
合鍵でドアを開けて・・・

 

ガチャ

 

「ゆっくん!!」

靴を脱いで(飛ばす様に)中に入ります。

「あ・・・
寝てたんだ」

ゆっくんはベッドで少し苦しそうに寝ていました。
とりあえず、タオルを持ってきて顔の汗を拭いてあげます。
ゆっくんの部屋には体温計なんてないから、自分のおデコで熱を測ります。

「っ!
凄い熱・・・」

やっぱり・・・
ゆっくんは普段寝込むなんてありません。
でも、年に一度は必ず体調を崩して寝込むことがあります。
起こすわけにもいかないからタオルを濡らして、
ゆっくんのおデコに乗せて、流れる汗を拭きながら起きるのを待ちます。

「ゆっくん・・・」

いくら側にいても今は不安が消える事はありません。
側にいてこれなんですから、
この前にわたしが風邪を引いた時にどれだけ心配をかけたか実感します。
ごめんね、ゆっくん。
今度、風邪を引いたらちゃんと知らせるからね。

 

・・・タオルを替えてあげたり、汗を拭いてあげてそのままお昼過ぎになりました。

 

「もう、こんな時間になっちゃったんだ・・・」

今日は土曜日なので寄り道をしてなかったら、お兄ちゃんが帰っているかもしれません。
そう思い、電話を借りて家に掛けます。

 

プルルルルル・・・・・・プルルルルル・・・・・・

プルルルルル・・・・・・プルルルルル・・・・・・

 

まだ、帰っていないのかな?

 

プルルルルル・・・・・・プルルルルル・・・・・・ガチャ

 

『はい、もしもし』

「あ、お兄ちゃん?」

『おお、晶子か』

よかった、居てくれた。

『で、一体何がどうなってんだ?
雪之丞の所に行く以外に、何にも知らないんだしよ』

「ごめんね。
あの時は、気が動転して・・・」

『まあ、気持ちはわかるがな』

そういえばそうだね。
せめて、『ゆっくんが風邪を引いたから』のひと言ぐらい言っても・・・

『で、雪之丞がどうかしたのか?』

「あ、うん。
実は・・・」

少し反省しながらお兄ちゃんに説明をします。

『そっか・・・。
雪之丞はまだ寝ているのか?』

「うん。
もうそろそろ目が覚めてもいい頃なんだけど・・・」

逆に覚めてほしいと思うのは内緒。

『まあ、事情がわかった。
お袋にも伝えておくからしっかり看病してやれ。
あいつの世話は昔からお前の仕事だ』

「もう、お兄ちゃん。
それなら、お兄ちゃんの世話もお仕事に入っているんだよ。
いいかげん、彼女さんを作って楽させてよ」

意地悪なお兄ちゃんの言葉に、わたしも意地悪な言葉で返します。
最近身についたお兄ちゃんの迎撃手段です。

『うっさい!
じゃあ、雪之丞が起きたらこっちに電話するように言っておいてくれ』

「うん、わかった」

『じゃあな』

「うん」

 

ガチャ・・・

 

「さてっと・・・」

家に連絡も入れたことだし、ゆっくんのお昼ご飯を作ろうかな?
台所(というほど広くないけど)にある冷蔵庫を開けます。

「・・・・・・」

ま、まあ、こういう事は予想が付いていたけど・・・
ほとんど何もない(汗
といっても、理由はちゃんとあります。
いつも週末は、ゆっくんが向こう(涼月)に行くかわたしが来るかです。
ゆっくんが来るなら、腐りやすいものを残さない為に・・・
わたしが行くなら、迎えに来てもらった帰りに食材を買います。
だから、何もないのは当たり前なんだけど、
さすがに今回みたいになると困ります。
それでも、何かないかなっと捜すと・・・

「卵か・・・」

目に付いたのはそれです。

「うーーん」

後、ご飯もあるからおかゆぐらいは作れるね。

さっそく作ろうとすると・・・

 

「ん・・・」

 

「ゆっくん!?」

ゆっくんが目を覚ましたようで、慌てて側まで行きます。

「晶子・・・か?」

「そうだよ、ゆっくん。
大丈夫?」

戻るとベットから出ようとしていました。

「晶子・・・
なぜ、ここにいるんだ?
それに制服を着たままで・・・」

「と、取りあえず、安静にしていて。
ちゃんと話すから」

そう言って、ベットで(強制的に)寝かして事情を話します。

 

せりなさんから連絡があり、学校を休んで(さぼって?)ここに来て看病をしていた事・・・

 

「・・・というわけなの」

「心配掛けて悪かったな。
だが、学校を休むほどじゃないだろ?」

「わたしにとっては本当に心配だったんだよ。
それに、あのまま学校に行っても気になってばかりで勉強どころじゃないよ」

本当に心配したんだから・・・

「・・・まあ、済んだ事は仕方がない。
これからはしなくていいからな」

「駄目。
また、倒れたら同じことするから」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

黙ってお互いに睨みあって(?)いるけど・・・

「どうしても変える気はないな?」

「もちろん」

「・・・わかった」

「うん!!」

苦い顔でもゆっくんは了承してくれました。
たぶん、ゆっくんは『これからは倒れないようにしよう』と思っているはずです。
少しこの看病が惜しい気もしますが、やっぱり健康が一番です。
だから今はこの看病を楽しみましょう。

「ちょっと待っててね。
今、おかゆ作るから」

「悪いな」

「いいんだよ、ゆっくんのためだもん」

 

そう言って、おかゆを作り始めます。
15分ぐらいでおかゆが2人分出来上がって(もちろんわたしの分も入ってるよ)、
ゆっくんに食べさせてあげます。

「はい、ゆっくん。
アーーン・・・」

「自分で食えるから・・・」

相変わらず照れています。
こういうことにゆっくん弱いから。

「ダメだよ。
今回は安静にしていなくちゃ。
はい、アーーン・・・」

「・・・わかったよ」

やっと諦めてくれたゆっくんは食べてくれます。
あっという間に食べ終わり、寝込んでいるゆっくんの隣りに座っています。

「ねえ、ゆっくん。
お薬は?」

「そんな物はない」

あ、やっぱり・・・

「そう思って、わたしが持ってきたから」

カバンからお薬を出します。
実はわたしの部屋から出て行くときに、前に引いた時のお薬が目に付いたので持ってきました。
何事にも『備えあれば憂い無し』です。

「そうか、助かる」

お礼を言ってゆっくんはお薬を飲みます。

「眠たくなったら、寝ていいからね」

「ああ・・・」

お薬の効果かすぐに眠たくなってきたようです。
そのまま寝てもらおうと思ったのですが・・・

 

ピンポーーーーン

 

「ん?」

「あれ?」

誰か来たようです。
わたしが出ようとすると、鍵を掛けるのを忘れていてドアの所に行くまでに開きました。
そこからは・・・

「おーーーす。
お見舞いに来たわよ、雪之丞」

「お、お邪魔します」

「おお!
生きてるか、雪之丞」

「調子はどうだい、雪村君」

制服を着たままでたくさんの荷物を持ったせりなさん達が入ってきました(汗

 

 

「でも、雪之丞が寝込むなんて意外ね」

「ふふ、そうですね」

「何だ、雪之丞。
だらしがないぞ!!
俺なんか全くないぞ!!」

「気にすることはない、雪村君。
よく言うじゃないか、何とかは風邪を引かないって」

「何だと!?
それはどういう意味だ!!」

結局、ゆっくんは眠気も飛んでしまい皆でお喋りをします。
ゆっくんはベッドの上で上半身を起こして、
皆はその下でせりなさん達が持ってきたお菓子などを広げています。

「でも、ゆっくんも昔から年に一度は寝込むんですよ」

「へえ、それじゃあ、昔から雪之丞の看病してたんだ?」

「はい」

「やるわね、雪之丞。
この幸せ者!
うりうり・・・」

「や、やめろ、春日」

せりなさん・・・肘でゆっくんを突付かなくても(汗

「せりなさん」

「ん、なに?」

「ありがとうございました、連絡してくれて」

「ああ、いいのよ。
晶子ちゃんは雪之丞の彼女なんだから知る権利ぐらいあるわよ」

笑顔でそう言ってくれたせりなさんでしたが、今度は苦笑に変わります。

「でも、さすがに電話を力強く切られると思わなかったから耳が痛かったけど・・・」

「ご、ごめんなさい」(汗

「それに、制服のままで来るという事も予想外だったかな」

「あはは・・・」(汗

うう、何も言い返せない・・・(汗

「春日、特に何かなかったか?」

小さくなっているとタイミング良くゆっくんが話を変えてくれます。

「え、ああ、うん。
今日は土曜だし特に・・・いいえ、あったわ」

「せりなちゃん、何かあったかしら?」

「あるわ、大有りよ!!
体育の時間なんだけど、雪之丞が風邪で休んでいるって知ったら、
田島ったらものすごく喜んでいたのよ!!」

田島って、あの竹刀を持ってた先生だよね・・・

「おお、そうだそうだ。
『風邪を引いたぐらいで学校を休むとは軟弱者が!!』とか言ってよ」

「まあ、田島の雪村君嫌いは今に始まった事じゃないさ」

「全く、体調が悪くて休む生徒を喜ぶだなんて教師として失格よ!!」

そこからしばらく、田島先生の文句の言い合いが続きました。

「ああ、後、詩織先生が『お大事に』って。
晶子ちゃんには『しばらく会ってないから近いうちにまた会いましょう』だって」

「ああ」

「はい。
こちらこそお願いしますって伝えてください」

詩織先生・・・
わたしが学校を休んで来ているの、わかっていたのかな?

「OK、わかったわ」

詩織先生か・・・
確かに、しばらく会っていません。
妙子ちゃんとは電話でお喋りしているけど・・・
本当に近いうちに会いたいです。

 

結局、せりなさん達は夜までいました。
晩ご飯は、材料を買ってきてくれたので買いに行かなくて済みました。
わたし・せりなさん・由希さんの合作です。
ゆっくんは別に食べやすいもの作りました。
とてもたくさんあったから、残ると思っていましたが・・・
さすが、せりなさん。
見事に完食です(汗
それだけ食べて太らないその体質がものすごく羨ましいです(本当に)

「それじゃね、雪之丞。
明日は来ないから晶子ちゃんとゆっくりね」

「大きなお世話だ」

ゆっくんとせりなさんとのいつものやり取り。
でも、せりなさんの気遣いに感謝です。

「それでは、雪村君。
月曜にお会いしましょう」

「悪かったな、間部」

ゆっくんの風邪は長引くからどうだろ・・・?

「おい、雪之丞。
治ったら、飲み明かそうぜ!!」

「鉄平、病み上がりは無理だろ?」

「・・・ほどほどにな」

ダメだよ!
お酒なんて!!

「バイバイー」

 

バタン・・・

 

皆さんがドアから出て行くと、急に静かになって少し寂しい気持ちになります。

「ようやく帰ったか」

「ゆっくん、体調はどう?」

「ベットで寝込み続けるよりずっと気分がいい。
その点に関しては春日達に感謝だな」

「ふふ、そうだね」

確かに気分はずっといいと思うけど、やっぱり体のことが心配です。

「さてっと・・・」

「ん?何だ?」

「そろそろゆっくんも寝ようよ。
そうしないと中々治らないよ」

「そ、そうだな」

お昼の時の『ゆっくんが病気になったら看病をし続ける』を思い出したのかな?
大人しくベッドの中に潜りこみます。

「晶子はどうする?」

「わたし?
わたしはゆっくんの濡らしたタオルを替えなくちゃいけないから、
まだ起きてるよ」

「そんな事はしなくていいから、お前も寝ろ」

そ、そんな事って・・・
もう、ゆっくんも少しは自分の身体のことを心配してよ。

「ダメだよ、引きはじめたばかりなんだから。
大丈夫、眠たくなったらちゃんと寝るから」

「必ずだぞ」

「うん、約束」

ごめんね、やっぱり心配だから・・・
たぶん、守らないと思う。
心の中でごめんなさい。

「それじゃ、電気を消すね」

「ああ」

 

カチッ

 

電気を消しても、今日は月が明るいせいかいつもより明るい気がします。

「おやすみ、ゆっくん」

「おやすみ」

ゆっくんが目を閉じると5分もしない内に寝てしまいしました。
・・・やっぱり、体はつらかったんだ・・・

 

それから、30分ぐらいで濡れタオルを替えていきます。
時々、うつらうつらするけど頬を軽く叩いたり、顔を洗ったりして眠気を覚まします。

「ゆっくん、早く良くなってね。
それで治ったらどこかにデートしようね」

胸にそんな楽しみを秘めて看病していきます。
でも朝日が出始めた頃には、
イスに座ったままゆっくんの上倒れるように寝てしまいしました・・・

 

あ・・・
ゆっくんにお兄ちゃんへ電話してもらうの忘れてた・・・

 

 

第3話・後編へ続く

 


というわけで、第3話・前編です。
第2話で出番が少なかった分、晶子を初めから押し出しました。
何か少しづつ晶子のイメージが変わっていくような・・・(汗
ゲームとキャラのイメージを壊さないようにするのが、
わたしのSSを書く最低のルールなので注意しなければ・・・
さて、今年の年末も忙しいです。
出来たら今年中に後編を投稿したい思っていますが、出来るかどうか・・・
風邪も引きましたし・・・(汗
でも、キリが良い所で来年を迎えたいと思いますので、努力します。
後、ラングさん・sarenaさん、ご感想ありがとうございました。
それでは次回で・・・