「ようやくここまで来たな、雪之丞」
「ああ・・・」
今まで様々なことがあった。
それでも、ついにここまできた。
俺達の夢・・・バンダム級タイトルに挑戦し、世界王座を手にする時が。
「雪之丞!!
ここまできたんだから、負けたら承知しないわよ!!」
「頑張ってください、雪村君」
「ガツンと見せてこいや!!」
「雪村君、しっかりな」
「ほどほどに頑張って」
「怪我をしないでくださいね」
「ファイトです、雪村先輩!!」
「だははは!!
この後の打ち上げの準備は整っているべ!!」
「雪村先輩!
次は俺と対戦してください!!」
この親友たちには、とても感謝している。
共に泣き、笑い合って大切な親友だ。
だが、一番感謝しているのは・・・
「大丈夫なのか、晶子?
わざわざ見に来なくても・・・」
「大丈夫よ。
アナタの夢をつかむ瞬間をちゃんと見届けなくちゃ」
「だが、オマエの身体は一人だけのものじゃないんだぞ」
イスから立ち上がって晶子の側により、『大きくなった腹部』を軽く撫でる。
「そうだけど・・・
きっとこの子も見たいはずよ。
お父さんの晴れ舞台を」
そう・・・
今、晶子のお腹の中に新しい命が宿っている。
俺と晶子の子供が。
「しかし、出産予定も間近なんだぞ?」
「わかってるよ。
でも、やっとアナタとお兄ちゃんとの夢が現実になるんだから。
絶対見るよ」
「・・・俺が負ける予想は考えていないのか?」
「うん。
私はアナタが絶対勝つと確信しているし、
負けるつもりもないんでしょ?」
「当然だ」
「なら、大丈夫!」
強くなったな、晶子。
いや、これからも強くならなくてはいけない。
まだまだ、超えていかなくてはいけない道が未来(さき)にあるのだから。
「雪村選手、そろそろ時間です」
「わかった」
ついにきた・・・
俺は共にリングに向かう勝に声をかける。
「行くぞ、勝」
「オオ!!
しっかりセコンドしてやるから安心しろ!!」
「頼むぞ」
俺達は軽く拳を合わせる。
俺の拳は俺だけのものじゃない。
勝の拳と夢が込もっている。
「晶子!!」
「なに、アナタ?」
ありがとう、君に会えて・・・
結ばれて俺は幸せだ。
「子供のちょっと早い誕生日プレゼントだ!!
ベルトを取ってきてやる」
「フフ・・・
まだ産まれていないのに。
でも、よろしくね!」
「ああ!!」
リングに向かいながら、俺は今までの事が思い出される。
勝が意識不明になって、晶子から離れた瞬間
その晶子と鹿島学園で再会し、傷つけあった日々
明男との勝負と、晶子と初めて結ばれた時間
そしてボクシングで本気になれなかった一年
勝と勝負したあの充実した気持ち
本当に様々なことがあった。
だが、これからもあるだろう。
ワァァァァァァ!!
歓声が聞こえる。
リングに近づく度に血が、筋肉が熱くなる。
これから何があろうと超えてゆける。
晶子やこれから産まれてくる子供がいる限り・・・・
「青コーナー、雪村雪之丞!!」
行くぞ!!
試合から30分後・・・
リングの上で新しい王者がベルトを掲げながら生まれた。
その瞬間、2人の男の夢が叶ったのだ・・・
その三日後・・・
病院である夫婦の『双子』が産まれた。
父・雪之丞の意思と力を受け継いだ男の子・・・
母・晶子の想いと優しさを受け継いだ女の子・・・
後に父を越える『雪村航(わたる)』と、
その双子の兄を支えた『雪村聖(ひかる)』が・・・
今、ここに生を受けた・・・
幸せなる日々・完