「お別れだ・・・」

「ゆっくん!?」

嘘だよね・・・

「なんで!? なんでそんなこと言うの!?
わたしを離さないって約束してくれたのに!?
わたしはゆっくんの恋人じゃないの!?」

「そんな事はない・・・
でも、それとは話は別だ・・・」

ゆっくんが優しい声で・・・でも決意を秘めた強い声でわたしを拒絶する・・・

「嫌!!わたしはゆっくんの側にいたい!!」

「わかってくれ。それが晶子の為だ」

でも、わたしは負けない・・・

「いや!!わたしを想ってくれるなら側にいさせてよ・・・お願いだから・・・」

「晶子・・・」

ゆっくんを支えると・・・
ゆっくんの側にいると・・・

「ねえ・・・どうして・・・」

「それは晶子が一番解っているはずだ」

決めたんだから・・・

「ほ、ほら、おじさんやおばさんがやっぱり心配するだろ・・・」

「いや!!」

それでもわたしは譲らない!!

「く、久保も退院するんだから、家族で一緒に暮らしたほうがいいと・・・」

ゆっくんと別れて暮らすなんて絶対いや!!

 

「わたしはゆっくんと一緒に住むの!!」

 

 


2002 elf 『あしたの雪之丞&勝 あしたの雪之丞2』

「幸せなる日々」
 (プロローグU・一難去ってまた一難)


 

 

事の始まりはお兄ちゃんの退院が決まった時、お母さんがわたしに聞いたひと言から・・・

 

 

「ねえ、晶子」

「ん?なに、お母さん?」

「勝が退院するけど、あなたはどうするの?」

「どうするって・・・なにが?」

「これからも鹿島に住むのかってことよ」

「うん、もちろんだよ」

「・・・そう」

あれから鹿島病院から近いという事もあり、いまだ今の場所に住んだままになっている。
もちろんお兄ちゃんのお見舞いのため。
その間、ゆっくんと毎日充実した日々・・・

平日はゆっくんのアパートに行って、そのまま朝ご飯を一緒に「いただきます」
・・・もちろん手作り
そのまま一緒に登校して、別れる廊下の所でお弁当を渡して「いってらっしゃい」
・・・歩いている時は手を繋いでいるのは当たり前
ゆっくんが休み時間ぐらいクラスの子と仲良くと言ったから、妙子ちゃん達と「おしゃべり」
・・・本当は寂しい
お昼休みはゆっくんとせりなさん達と一緒にもう一度「いただきます」
・・・ゆっくんの頬に付いたご飯粒を取ってあげるのはお約束
放課後に待ち合わせしてお兄ちゃんのお見舞いに「こんにちは」
・・・ちょこっと寄り道に甘い物を食べに行くから体重が心配・・・
お見舞い後はゆっくんのアパートで晩ご飯を食べて「ごちそうさま」
・・・ゆっくんに『あ〜ん』をしてあげるけど、まだ抵抗があるみたい
帰りはゆっくんに送ってもらって、近くでキスして「さようなら」
・・・週の半分はゆっくんと・・・その・・・ごにょごにょ

・・・という幸せいっぱいな日々を送っています。

お母さん達にはちょっと申し訳ない気持ちになるけど・・・
ごめんね、お母さん。
わたしも譲れないもの・・・大切なものができたの。
心の中でごめんなさい・・・

 

「・・・晶子」

今までお兄ちゃんと談話していたゆっくんに呼ばれる。

「なに、ゆっくん?」

ゆっくんに振り向くと、ちょっと怒っているような真剣な表情をしていました。

「晶子、お前はおばさん達と一緒に涼月に帰るんだ」

「ゆっくん!?」

「やっぱり、久保と一緒に家族で暮らしたほうがいい」

・・・・・・

「だから・・・」

・・・・・・

「お別れだ・・・」

 

 

という経緯で、わたしはゆっくんと言い合いになっています。
お母さんとお父さんは成り行きを見守っています(つまり傍観者ですね)
お兄ちゃんもちょっと呆然となっているけど、お母さん達と・・・以下同文です。

「ゆっくん!!わたしと一緒にいるのが嫌になったの!?」

「そ、そういう事ではなくてだな・・・」

むぅっ!ちょっと及び腰でもあきらめる気は全然ないよ。
もちろんわたしも引くつもりは全くない。
それなら違うところから攻めてみよう。

「それじゃあ・・・ これからのご飯はどうするの?」

「そ、それは・・・」

「朝ご飯は?」

「たぶん、食べずに・・・」

「お昼ご飯は?」

「パンなどを・・・」

「晩ご飯は?」

「適当に・・・」

「だめ!だめだよ!!それじゃあ、栄養失調で倒れちゃうよ!!」

「そこまでは・・・」

「なるよ!!」

お兄ちゃんは逆にこっちが驚くほど食べるけど・・・

「次にお掃除は?」

「それなら・・・」

「『物が少ないからそれほどしなくていい』なんて言わないよね?」

「・・・・・・」

これじゃあ、一人暮らしになったら先が思いやられるよ・・・
お兄ちゃんほどじゃないけど、そういう面は無頓着だからね。
それからもゆっくんに質問攻めにして、改めて一人暮らしは無理なんだなぁと再確認しちゃったよ。
お兄ちゃんが小さい声で「晶子、強くなっ・・・いや、変わったな」と、
誉めてるのか微妙なコメントが聞こえたけど今は無視。

「晶子・・・」

「ゆっくん・・・」

ゆっくんは喋るのを止めて、じっとわたしを見つめてくる。
言葉より思いを込めた目の方が、ずっと説得力があると思うのはわたしだけじゃないはず。

「本当はわかっているな?」

「・・・・・・うん」

・・・本当はわかっている。
お兄ちゃん達と一緒に暮らした方がいい事なんて・・・

「別に、これで会えないということはない」

「・・・うん」

それでも、ゆっくんの側にいたい・・・
でも、それはわたしの我侭・・・

「それに、電話でいつでも話せるだろ?」

「うん」

ゆっくんが側にいなかったら何も出来ないなんて、ただ甘えてるだけ。

「久保と一緒に帰るんだ。いいな?」

「・・・わかった」

だから強くなる・・・
わたし自身が決めた事だから・・・

・・・でも

「その代わり条件があるの」

「何だ?」

「まず、朝昼晩の3食キッチリ食べること」

「・・・わかった」

「休みの日は必ず掃除をすること」

「・・・努力しよう」

「洗濯物はためずに洗濯する」

「・・・ああ」

「それから・・・」

さっきの一人暮らしに向かないという所は、今聞いたばかりだから今のうちに修正しておこう。

「朝は電話でわたしが起こしてあげる」

「それは助かるな」

「夜も電話でお話すること」

「毎日か?」

「うん。土曜は涼月に帰って来ること」

「日帰りでいいのか?」

「ううん。おばさんの家かわたしの家で1泊」

最後の方は大分私情が入っているのは気のせいだよ。

「わははは、雪之丞。すっかり晶子に尻に引かれているな」

「久保・・・」

お兄ちゃんが笑っていると、ゆっくんが不機嫌な顔で睨んでる。

「まあまあ、雪村君。
それで、晶子。家に戻るのね」

「そうだよ」

ゆっくんをなだめながら聞いてくるお母さん。

「なら、いつ頃戻ってくるの?」

その質問に考え込んでしまう。
すぐに戻ってもいいんだけど、学校の手続きもあるし・・・
ゆっくんも苦笑しながら軽く頷いてくれる。

「手続きもあるし、お兄ちゃんが退院する日に一緒に戻るよ」

「わかったわ」

これからお兄ちゃんが退院するまでの短い間、ずっとゆっくんと一緒にいた。
今まで以上に・・・
涼月に帰る前日にお泊りしたけど、どうやって過したかはな・い・しょ。

 

 

 

プロローグVへ続く

 


どうもです、siroです。
どうでしたか?
初めを読んで引っ掛ってくれたら成功です。
少し、晶子を暴走させすぎたかな?
ちょっと短い気もするのですが、これぐらいがいい区切りなので切りました。
次の話しでプロローグは終わりです。
もちろんせりなも出てきます。
それでは、次の話しで・・・