「ねえ、久保勝。
ご褒美に放課後、私と付き合ってよ」

「はあ?」

「だからご褒美よ、ご・ほ・う・び」

昨日に水島が就職試験を受ける事を聞き、
内心、なぜか俺の方が緊張していた(飯は食えない・眠れない)
そして今日、いつも通りに登校してきた水島に結果を聞こうとする前に、
先にそんな言葉が言われた。

「と、という事は・・・」

「だから言ったでしょ?
簡単だって」

「ぃよっしゃ!」

これも清水の舞台から飛び降りるつもりで1000円、
神社にお賽銭した甲斐があったぜ。

「よかっただな、水島」

「おめでとう、あきら」

「ありがとう」

由美子ちゃんと権造が祝福する。
うんうん、いい眺めだな。

「という訳で、ご褒美は?
久保勝?」

ま、まだ言うか?

「だから何だよ、ご褒美って?
オレはテメェの為に、神社で1000円も賽銭したんだぜ」

「それは久保勝が勝手にしたことでしょ?
それに、賽銭するくらいなら本人の私にくれた方がよっぽどやる気が起こるわよ」

コ、コイツは・・・

「ちなみにご褒美ったって何が欲しいんだよ?」

「だから、放課後に付き合ってって言ってるじゃない」

「何処にだよ?」

「色々と・・・
もちろん、久保勝の奢りで」

「ぐはっ!」

結局、それが目的かよ!

「そ、それなら、由美子ちゃんや権造も一緒に・・・」

「わたしから楽しみを取る気なの?」

「・・・・・・」

おいおい(汗
他の女ならいざ知らず、コイツの言葉の意味は『アンタの財布の中を減らす楽しみを奪う気?』
とわかってしまう自分に自己嫌悪。
こうなったら、放課後にダッシュで逃げてやる。

「わかったわかった。
降参だ」

「じゃあ、よろしくね。
もし逃げたら晶子ちゃんにある事ない事、言っちゃうから」

・・・オレの退路は完全に塞がれたらしい(泣

「なら、あきらのお祝いは明日ね」

「オデも色々と用意するだ」

「そんなに大層にしなくてもいいわよ。
その分、久保勝にしてもらうから」

もう何も言うまい・・・

「勝さん、頑張って下さい」

「勝、先に言っておくけど金は貸さねぇぞ」

権造、それでもオレの親友か!?

「放課後が楽しみね」

頭の中で財布の中を思い出しながら、ただ思う事は不安のみ。
さて、どうなることやら・・・

 


2002 elf 『あしたの雪之丞&勝 あしたの雪之丞2』

「幸せなる日々」
 (第12話・あきらの就職祝い、勝の葛藤)


 

あっさり放課後になり(なぜ先に嫌な事があると早く時間が過ぎるのだろう?)、
水島に拉致されてしまった。
腹ごしらえに、駅前のちはるちゃんがバイトしているアイスクリーム屋に到着。
だが、ここから水島ぶりが発揮された。

「次、チョコレートお願いね」

「ま、まだ食うのか?」

かれこれ5種類以上が水島の腹に納まっているぞ。
10月とはいえ、まだ暑いからアイスが食いたくなるのはわかる。
だが、これ以上に止めさせなくてはならない。
・・・財布の中身が危険信号を点滅しているからだ(決して水島の体調を心配しているのではない)

「ダメ?」

「ダメだ。
これ以上食ったら、汗水垂らして働いているちはるちゃんに申し訳と思わないのか!?」

「・・・売上が上がって嬉しいんじゃない?」

「グッ・・・」

くそっ!
同情を誘って止めさせようとしたが、あっさり返されてしまった。
所詮、この女には人を労わる気持ちなんか持っていないか。

「・・・わかったよ。
ただし、これで最後だからな」

「・・・・・・いいわよ」

「そのかなりの間は何だ?」

「どうやって、まだアイスを奢らせようか考えていた時間」

「・・・もういい」

何処を呆れていいかわからなくなりながら、
追加のアイスを買いに行く。

 

「ほれ」

「ああ〜、ありがと」

せっかく買ってきたというのに、相変わらずダレた顔と声だな。

「もう少しおいしそうな顔をしろよ」

晶子なら、ご機嫌でニコニコしながら食っているのに・・・

「今更、愛想を振りまう仲じゃないでしょ?」

「けどな、そんなダレた顔で食っているのを見たら、
こっちまで食う気が無くなっちまうぜ」

「それなら、久保勝のアイスちょうだい」

「やらん!!」

「ケチー」

「そういう問題じゃねぇだろ・・・」

くっ・・・
このままでは水島のペースで先も奢らされてしまう。
ここは流れを変えなくては!

「こんなに食ったら太るぞ。
それはもう、まん丸コロコロになるくらいに」

どうだ!?
晶子曰く『女の娘の禁句』は!!
帰ってくるダメージも高いが、相手も大ダメージを受けるはず!!
余談だが、晶子に言った時に何故かお袋にグーで殴られた。

「ヒロインは太らないから大丈夫」

「・・・・・・」

呆れて言葉も出ねぇ。
と言うよりヒロインって誰だよ?

「つまらなかった?
せりなが言っていた事なんだけど」

「・・・頼むから春日の影響を受けないでくれ」(汗

「そう?
つまらないわね」

話している間にアイスは既に食べ終わっている。

「そろそろ行くか?」

「そうね」

次は何処に連行される?
アイスを食ったばかりとはいえ、
コイツなら高級レストランなどと言いかねない。

「で?
お次は?」

「まだ決めてないのよねー」

「・・・帰る」

クルッと水島に背を向けて、愛しい我が家に帰ろうとした時・・・

「帰ったら延長で後日に改めて・・・」

そのひと言が動きを止められる。

「多少高くてもいいから早く行き場所を決めろ」

「おお、さすが久保勝。
話がわかる」

誰か、コイツの捻くれた性格を何とかしてくれ(泣

 

 

ー本屋ー

「ふむ・・・」

水島の第2希望は何故か本屋だった。
お互いに少し別れて、立ち読みをしている。

「・・・なに読んでるの?」

「どわっ!」

人が集中して読んでいるというのに、
横からニュッと覗き込む女。
見られる前に後ろに回して隠す。

「慌てて隠すところが怪しいわね」

「う、うるさい!
突然覗き込むヤツがいるか!?」

「せりなならやると思うけど」

「・・・・・・」

ああ・・・
今、脳裏にそのシーンが鮮明に浮かんだよ(汗

「そ、そんな事より、もういいのか?」

「あっ、誤魔化してる」

「チッ・・・」

さすがにそう簡単に誤魔化せないか?
なら、違う話題に持っていくしかない。

「そ、そういう、水島こそ脇に抱えている本は何だ?」

「これ?」

よしよし、良い反応。
水島が持っている本を見ると・・・

「・・・もう少し色気のある本とか買わないのか?」

一冊目が『新社会人の心構え』、
二冊目が『社会で生き残る100の方法』
etc・・・
こんな本が水島の役に立つとは到底思えないと感じるのは俺だけか?

「久保勝が言う色気がある本って、
Hな本の事?」

「ぐはっ!」

バレてる(汗

「そんなだから晶子ちゃんに怒られるし、
恋人が出来ないのよ」

「う、うるせぇ!
俺だってその気になれば恋人の一人や二人・・・」

「大きな自信ね。
フラれ経験がある男にとっては」

「・・・・・・(グサッ」

コ、コイツ、痛いところばかりついてくるな。

「まあ、久保勝の爛れた性欲なんか放っておいて次に行くわよ」

「・・・わかった」

本当に言いたい放題だな。
肩を落としながら出口に向かって歩こうとするが、
水島に止められた。

「ちょっと、忘れ物があるでしょ」

「な、何だよ?」

「この本代のお金」

「・・・ほらよ」

「ありがと」

やっぱりココでも奢らされるのか・・・
金を受け取るとさっさとレジに向かう水島の後に続きながら、
内心安堵する。
エロ本を立ち読みする前に読んでいた『ある雑誌』は見られなかったからだ。

 

 

ー映画館ー

「おい、少しは見ろよ」

「映画が始まっている時の私語を控えましょう」

「くっ」

言っている事は最もだが、
肩肘をついてボーっと映画を眺めていると(ここがポイント)文句の1つも言いたくなる。

「第一、オマエがこの映画を選んだんだろ?」

今度は小さい声で水島に突っかかる。
最近の趣味が映画鑑賞になってきている俺にとって、
この行為が許せるはずがない。

「ああ・・・ 別に何だってよかったのよ。
少し休憩したかっただけだから」

「オイ」(怒

それだけ?
たったそれだけの為に、
一人1500円(合計3000円)も払ったのか?
いい加減にしろよ。

「せっかく入ったんだし、
久保勝は私の分までしっかり見てちょうだい」

「ああ、見てやるよ!
目玉ひん剥いてしっかり見てやる!!」

内容がラブストーリーモノだが、
元値はとらなくては!

「・・・アンタの何処に目があるの?」

「・・・企業秘密だ」

そんな意味不明な会話の中、映画は進んでいる。

つい大声を上げてしまい、
周りの客に注意されたことは言うまでもない・・・

 

2時間後・・・

 

「んー」

ようやく終わり、外に出て背筋を伸ばす。

「はあ・・・
ゆっくり出来たわね」

「それはよかったな」

もう、皮肉しか出てこないぜ。
コイツ、マジで財布の中身を喰い尽くす気か?

「まあまあ、怒らないの。
次で最後なんだから」

「何っ、最後?」

「そう。
その場所は結構、気力・体力を使うからゆっくりしたかったの」

体力を使う場所?
まさかっ!

「先に言っておくけど、ラブホテルじゃないからね」

「わ、わーってるよ!」(汗

な、なぜ、コイツは俺の考えている事がわかる?
もしかしてエスパーか!?

「口元が緩んでいるわよ。
それはもうイヤラシイ笑顔ね」

「ぐはっ!」

お、俺は考えている事が顔に出るタイプだったのか!?
雪之丞の動かない顔が羨ましいぜ。

「・・・なら、行く?」

「えっ?」

突然の言葉に水島の方を向くと、
軽くだが今まで知り合った中で初めての笑顔で俺を見ている。

「「・・・・・・」」

何故か無言になってしまい、お互いに見つめ合ってしまう。

「・・・っ!」

だが、すぐに我に返りあさって方を向く。
それまでの間、水島に見惚れていたのは内緒だ。

「あ、あのな、その、いきなりそういう事は・・・」

先ほどの言葉を思い出し、
アタフタしてしまい言葉が出て来ない。

「晶子ちゃんも雪村君に抱かれているんでしょ?」

「た、たぶん」

「なら、いいじゃない。
妹さんに先に越されて悔しくないの、『お兄さん』は?」

「そ、そういう問題か?」

「あら?
久保勝はわたしじゃダメなの?」

「・・・・・・」

口をパクパクしながら固まることしか出来ない。
傍目から見れば、それはもう滑稽な顔をしているだろう。

「返事は?」

そんな俺を気にすることなく、
ズイッと目の前まで顔を突き出してくる。
その行為がさらにパニックになってしまう。
何が何だがわからなくなってきた頃、水島が顔を離し・・・

「・・・冗談よ」

「へっ?」

表情が苦笑に変わりそんな事を言って下さいました。

「意外と純情ね、久保勝は」

「なっ、なっ・・・」

さっきまでとは別の意味で言葉が出なくなっている。
そして、冗談だと気付くとある感情が生まれてきた。
そう、怒りという名の感情が・・・

「悪いけど、久保勝に上げるほど私の貞操は軽くないから」

「水島ーーー!!」(怒

怒りが赴くまま絶叫する。
見惚れたなんて何かの気の間違いだ!
コイツはやっぱり悪女だ!!

「ふー、ふー、ふー・・・」

「どうしたのよ、そんなに息荒げて?」

「誰のせいだ!?」

「んー・・・
権兵衛?」

「違う!!
オマエだよ!!」

「ああ・・・」

こういう時もダレた声をしやがる。

「ラブホテルは又の機会ということにして、
最後、行くわよ」

「へいへい。
その時を楽しみにしてますよ」

精神的にKOしまい、このまま帰りたいが開放してくれる気配はない。
なら、さっさと終わらしてしまうに限る。

「最後は何処だ?」

「せりなと雪村君のところ」

ああ・・・
それなら春日のペースに付き合っていると、
気力・体力が削られるな。
納得。

 

 

ー雪之丞のアパートー

「散かっているけど、入ってちょうだい」

「お邪魔しまーす」

「俺も」

「あっ、
そこ踏まないでよ、バカ男」

春日、会って早々ケンカ売っているのか?

「一応ココは俺の部屋なんだが・・・」

「何よ?
心が狭いわね、雪之丞。
誰が出迎えても別にいいじゃない。
どうせ上がってもらうんだから」

雪之丞、同情するぜ。
それにしても本当に散かっているな。
特に板が多い。

「悪いな、座る場所も窮屈で」

雪之丞がそう言いながら飲み物を配る。
こういう所はマメなヤツだ。

「いいのよ、雪村君。
勝手に押しかけてきたのは私達なんだから」

その優しさの10分の1でもいいから、
俺(財布)に回して欲しいぜ。

「電話でも言ったけど改めておめでとう、あきら」

「おめでとう、水島」

「ありがとう、せりな、雪村君」

アパートに来る前に、確認のために水島が春日に連絡した。
丁度よく迫ってきている文化祭の準備で、
雪之丞のアパートに2人揃っていた。

「今は口で祝う事しか出来ないけど、
その分、文化祭でパーっと盛り上がってやるから楽しみにね」

「ええ、期待しているわ」

春日がパーっとか言う程、凄まじいらしいな。

「雪之丞、確かオマエは去年転校した時に文化祭は参加したんだろ?」

「ああ」

「どうだった?」

「言葉も出なかったぞ」

「・・・そんなに凄いのか?」

「色々な意味でな」

へぇ・・・
文化祭の写真は見せてもらった事はあるが、
今から楽しみだな。

「それで、せりな達のクラスは何をするの?」

「個人・・・わたし達、いつものメンバーだけど屋台。
クラスでは劇をするの」

「劇ねぇ・・・
内容は?」

シンデレラとかか?
に、似合わねぇ(笑

「よくぞ聞いてくれました!
この春日せりなが提案した『新撰組・池田屋の変』よ!!」

「「・・・・・・」」

「当然の反応だな」

ば、幕末モノか・・・
歴史に詳しい春日といえば春日らしいが、渋いな。

「い、池田屋の変って、確か階段から落ちるシーンがあるやつ?」

「さすがあきら!
もちろん、そのシーンもあるわよ」

そ、そこまであるのか?

「雪之丞・・・?」

「春日の言う事は本当だ。
何故かクラスに大工ができるヤツがいてな。
木材もかなり強引に手に入れた」

「強引とは失礼ね、雪之丞。
ちゃんと向こうが言った条件の通りに取ったじゃない」

「廃材置き場の持ち主に『取れるものなら取ってみろ』とは言われたが、
忍び込んで入手するか、普通」

恐るべし、春日パワー・・・

「鹿島文化祭は11月3日だからよろしくね」

「ええ、わかったわ」

「夏の旅行に行ったときのメンバーも誘って行くぜ」

「モチ!
全員で来なさい。
鹿島の真髄を見せてあげるから!!」

燃えているな、春日。

「と言うわけで、今日はあきらのお祝いで飲みましょう!」

いつの間にか、春日の手に麦ビールがある。

「春日、程ほどにしろよ。
まだ作業が控えているからな」

「わかってるわよ」

程々・・・ね。
春日の程々は何缶だろうな。
そう思いつつも、春日のそういう所は嫌いじゃないな。

「皆持ったわね。
それじゃあ、あきらの就職決定を祝ってカンペー!!」

「「「カンペー!」」」

 

 

ー帰り道ー

「ほら、しっかり歩きなさいよ」

「おう!
それはもう・・・ヒック・・・・・・しっかり歩いてるぜ!!」

「そんなヨロヨロでよく言うわね」

見事に俺だけ酔ってしまった。
やっぱり缶5つは飲みすぎたか。
当初、雪之丞が駅まで送ると言っていたのだが、
何故か水島が断って肩を貸してくれている。

「そんなに酔って帰ったら、
晶子ちゃんやおばさんに何て言うのよ?」

「へっ!
妹やお袋が怖くて酒が飲めるかよ・・・ヒック、ウィ」

「うわっ
親父的発言」

「何だと?
俺は酔ってはいないぞ!」

「・・・もう黙ってなさい」

「了解!」

ビシッと空いている手で敬礼して、
そのまま言われた通り黙る。

それから10分位歩いた頃・・・

「・・・ねえ、久保勝」

「んだよ?
ちゃんと黙っているじゃねぇか」

黙れと言った水島の方から声を掛けてきた。

「1つ聞きたいことがあるの」

「今なら気分が良いから、
何でも・・・スリーサイズまで話してやるぜ」

「そんなもの知ったところで何の役にも立たないわよ」

「ひどっ!」

「真面目に聞いているんだからちゃんと答えてよ?」

「わーた、わーた。
何でも聞いてみろ」

コイツが真面目だってよ。
へっ、笑っちまうぜ!

「じゃあ聞くけど・・・」

「おう?」

 

「アンタ、最近悩んでいるんじゃない?」

そのひと言が完全に酔いを覚ましてしまった。

「な、何だよ、突然・・・」

「違うわね・・・
何かイラついているわね」

「ど、どうして、そう思う?」

映画館の前で見せた笑顔じゃない、いつものダレた顔でもなく、
心配げな表情でこっちを見ている。

「・・・ボクシング」

「っ!!」

ボソッと小さい声だったが、
何故かハッキリと聴こえた。

「な、なぜ・・・」

「本屋でHな本の前にボクシングの雑誌を読んでいたわね。
それに2学期になってからボクシング部に顔を出しているようだし」

「・・・・・・」

バ、バレていたのか。

「今くらい、正直に全部吐き出してもいいんじゃない?
今なら酔った戯言として流してあげる」

「・・・いいのか?」

「いいわよ。
その代わり、胃の中のものまで吐くのはやめてね。
肩を貸してあげて汚れたくないから」

痛いくらいの水島の優しさに、
今の俺は拒絶する事が出来なかった。

「・・・目標が見つからないんだよ。
オマエは就職、雪之丞と春日は大学を目指して勉強している。
権造や由美子ちゃん、合田達もそれぞれ目標がある」

「・・・」

「俺だけ立ち止まったままなんだ。
他の奴らが前に進んでいるのに。
でも、どうしても新しい目標がみつからねぇ」

「今の自分をどう思っているの?」

「当初はオマエ達と知り合って楽しかった。
だが、毎日が退屈で退屈で・・・心と身体が腐っていくみたいだぜ・・・
本当の俺じゃねえんだよ・・・今の俺は・・・」

「アンタは何がしたいの?」

「・・・ボクシングがやりてえ。
ボクシングがやりてえよ。
雪之丞を恨む気持ちなんてチリほどもねぇ。
それでも、俺にはあれしかねえんだ・・・
あれが俺のすべてなんだ」

「そっか・・・」

今まで心の中に溜まっていた思いが勝手に口から出てきやがる。

「久保勝・・・
わたしには答えることもヒントも出す事も出来ないけど、
1つだけ言わせて」

「ああ・・・」

「例え今のアンタは腐っていても、
わたしは結構アンタの事が気に入っているわ。
もちろん由美子や権兵衛もそう。
それだけは忘れないでね」

そうだな。
俺も水島と同じ気持ちだ。

「・・・アリガトよ」

「どういたしまして。
焦らなくても答えなんて、ちょっとした事でわかるものよ」

「ちょっとした事・・・か」

「ええ」

話しが終わり、再び無言になりながら家を目指す。
感謝するぜ、水島。
少しは気が楽になったぜ。

 

 

結局、俺の家に着いて水島も泊まっていった。
ただ、こういう時にトラブルは着いて来る。

「そろそろ、昨日の奢ってもらった分のサービスカットは見たと思うけど」

「す、すまん!!」

シャワーを浴びていた水島とバッチリ鉢合わせしてしまった(しかも裸
これが水島に弱みを握られた事は言うまでもない(泣

「晶子ちゃん、浴室の鍵はちゃんと・・・」

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 

 

第13話へ続く

 


どうも、siroです。
どうでしたか、あきらの暴走振りは?
彼女を押し出そうとすると逆に勝が振り回されます。
2人のデートの主導権はあきらの手にあります(笑
後半の勝の葛藤はゲーム中もありましたが、
聞く相手は雪之丞ではなく、あきらになってもらいました。
その理由は雪之丞は雪之丞で悩みがあるのに、この役はどうだろうな・・・と考えた結果です。
勝とあきらはくっ付けるまでは行きませんが、良い雰囲気になって欲しかったのも理由の1つです。
さて、次回はやって来ました『鹿島文化祭』!
雪之丞の女装も、もちろん出します!
お楽しみに!!
ラングさん・sarenaさん・たけぞうさん・蛇眼さん、ご感想ありがとうございました!