「雨だねー」

「雨だな」

「雨だ」

日曜日、昨日もゆっくんが泊まりに来てくれてたんだけど・・・

「暇だねー」

「暇だな」

「ああ、暇だ」

季節は梅雨に入って、雨が続いています。
さすがに雨の中、何処かに出て行くというのも気が滅入るので、
お兄ちゃんの部屋で3人全員部屋でダレてます(苦笑

「なあ、晶子?」

「・・・なに、ゆっくん?」

ボーっとお兄ちゃんのベッドの上で寝転んでいるから、
ゆっくんに返事をするのに反応が遅いです。

「今日の降水確率はどう言っていた?」

「『今日の降水確率は100%。
雨は今後も続き、しばらく湿った気候になるでしょう』
・・・だって」

「はあ・・・
そうか」

「オマエ、早めに帰ったほうがよくないか?」

「いや、ここまで来たら一緒だな。
いつも通りの時間に帰るさ」

2人とも、お兄ちゃんが借りてきたビデオ(Hなものじゃないよ)を眺めています。
私はゆっくんが側にいてくれたら、それだけで幸せなんですが今回は数少ない例外です。
暇だよー・・・
でもせっかく雨の中、ゆっくんが来てくれたのに暇のままで終るなんて・・・
そうだ!!

「ねえねえ、ゆっくん」

「ど、どうした、晶子?
いきなり起き上がって・・・」

「良い事思いついたの。
下に降りよ」

「良い事?」

「うん。
ほらほら」

ベッドから下りて、ゆっくんの腕を掴んで引っ張って催促。

「わかったから、そんなに引っ張るな」

「晶子、俺は?」

出て行こうとすると、お兄ちゃんがつまらなそうな声で止めます。

「ごめんね。
お兄ちゃんはここに居てね」

「なんだよ。
雪之丞は良くて、俺はダメなのか?」

「う、うん・・・
でも、何しているかはここからでもわかるから」

悪いと思うけど、これはゆっくんにしか見せたくないから。

「そうか」

一応、納得してくれたみたいのでゆっくんと一緒に降ります。
そこから、ある部屋に入って『ある物』の前に座ります。

「これか・・・」

「そう。
取り合えず、1回弾くから聞いていてね」

「わかった」

ゆっくんが座るのを見届けてから、『ピアノ』を弾きます。

 

 


2002 elf 『あしたの雪之丞&勝 あしたの雪之丞2』

「幸せなる日々」
 (第6話・思い出のメロディ)


 

♪ー

 

思えば、昔からピアノを通してゆっくんに想いを伝えていたのかもしれません。
だから、ゆっくんが居る時にしか弾こうとしなかった。

 

♪ー♪♪ー

 

お兄ちゃんの事件の時は1度も近づこうともしていません。
ゆっくんと結ばれてからも何故か触れようとしませんでした。

 

♪♪ー♪ー

 

弾こうとしなかったのに特に理由はありません。
強いて言えば、気付かなかったという事が理由です。
自分でも不思議だと思います。

 

♪ー♪ー

 

もし・・・
ゆっくんと結ばれなかったら、どうなっていたんでしょう?
こうして、ピアノを弾くことが出来たでしょうか?
それよりも、この想いを断ち切る事が出来たでしょうか?
そんな事を考えると胸に痛みが走ります。

 

♪♪ー

 

でも、その事を考えても意味はありません。
今、ゆっくんと結ばれているのだから・・・
私はもう決してゆっくんを苦しめたりしません。
そして、信じ続けます。
何があっても、どれだけ自分が苦しんでも・・・
例え、お兄ちゃんと天秤に掛けてしまう時があってもゆっくんを選びます。

 

♪ー

 

ゆっくんがこの事を知った怒るでしょう。
でも、これだけは譲れません。
もう、私にはゆっくんしかいないんだから・・・

 

 

パチパチパチ・・・

 

「久しぶりに聞いたが、相変わらず良い曲だな」

「ありがとう。
最近やってなかったから不安だったけど、思ったより上手く弾けたよ」

笑顔で拍手をしながら感想を言ってくれるゆっくんに、私も笑顔で返事します。

「そうなのか?
平日に弾いたりしなかったのか?」

「うん。
何か気が進まなくてね・・・」
(それに、この曲はゆっくんだけに聞かせてあげたいから)

そう心の中で呟いて私はもう一度ピアノに手を乗せます。

「でもね・・・
弾いていると色んな事を考えられたし、これからはちょくちょく弾きたいな」

本当に色々考えたよ・・・

「そうか・・・
確かに、いつもと何か違ったと思ったが・・・」

「えっ?」

「いや、別に悪くなったという意味じゃなくてだな。
こう、暖かみがあるというか・・・」

「ゆっくん・・・」

私の想いはちゃんと届いているんだ・・・

「すまない。
上手く言えなくて」

「ううん、そんな事ないよ。
ありがとう、ゆっくん」

思わず涙が出そうになっちゃったけど、今は涙より笑顔が似合うから堪えます。

「晶子、もう一度弾いてくれないか?」

「もちろん。
私もそんな気分なんだ」

今はこの気持ちに浸りたくて、ピアノを弾き始めます。

昔の事を語り合って、笑いながら懐かしく・・・
現在(いま)の想いを伝え合い・・・
そして未来(さき)に希望や幸せなる日々を夢見て・・・

 

 

「はい、どうぞ。
晶子、雪之丞君」

「ありがとう、お母さん」

「頂きます」

あれから、夕方まで休憩しながら弾き続けました。
今はリビングでお母さんに飲み物をもらってゆっくりしています。
(お兄ちゃんは私達が来る前にリビングに来ていました)

「それにしても・・・
晶子のピアノ、久しぶりに聴いたわねぇ」

「うん。
ゆっくんにも言われたけど、思ったよりヘタになってなくてよかったよ」

「突然、どこに行ったかと思えばピアノだったとはな。
まあ、俺もよかったと思うぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

お母さんとお兄ちゃんも褒めてくれるのは嬉しいけど、
やっぱりゆっくんが一番嬉しかったです。

「でも、さすがに指が疲れちゃった」

久しぶりだったし、長い時間弾いていたから。

「あらやだ。
晶子、お風呂に入る時に指をよく揉んでおきなさい。
もしかしたら明日、痛くなるわよ」

「う、うん。
そうするよ」

さすがに明日、授業でペンが持てなくなったら困るから頷きます。

「そうだ、晶子。
ついでに自分の胸も揉んでおけ。
よく言うじゃないか、『胸は揉めば大きくなる』って」

「お兄ちゃん!!」

「がははははは!!
お袋、俺の分まだか?」

「アンタは自分で入れなさい」

「へいへい」

私の胸が小さいことを気にしているのを知ってて、そんな事言うんだから!!

「うーーー!」

「おい、久保。
あまり晶子をからかうと後が怖いぞ。
唸ってるし」

ゆっくんがそうお兄ちゃんの背中に忠告すると、ピタッと止まって私の方に向き・・・

「し、晶子、ほんの冗談だからな。
お、怒るなよ」(汗

と、言い訳しながらコップにお茶を煎れ始めます。
でも、コップを持つ手が震えているのを見逃しません。
・・・お兄ちゃん、もう遅いよ。
絶対、許さないんだから(怒

 

晩ご飯に、お兄ちゃんの分だけ思いっきり辛くしちゃいました。
その本人はその事に気付かずに、一口食べると一気に水を飲み干して、
意味がわかると泣きながら(辛いのか悲しいのかわからないけど)全部食べさせました。
乙女の悩みはバカにしたお兄ちゃんが悪いんだからね!!
・・・それにしても、いいかげんに懲りてほしいです(苦笑

 

 

「お世話になりました」

「ゆっくん・・・
雨も振っているし、もう少し居た方が・・・」

「いや、この雨は今夜いっぱい降り続けるのだろ?
なら、何時帰っても同じだ」

「そう・・・」

雨が降っているから、今日は玄関までのお見送りです。

「ふぉうふぁ、ほうすふぉしふゅっふひ・・・ゴフ、ゴフ!!」

「久保・・・
氷の入れ過ぎだ」(汗

お兄ちゃんは口の中を冷やす為に、口一杯に氷を入れてます。
それで喋るから、何を言っているかわからないしむせちゃってます(汗

「ごめんなさいね。
家の人が居れば、車で送ってあげられるのに」

「構いませんよ」

お父さんが居れば車があるけど、休日出勤で今日は居ないんです。

「来週は私がゆっくんの所に行くから」

「わかった」

最近はゆっくんのアパートと交互に行ってます。
家じゃあ、2人っきりになれないし、その・・・(照
色々、都合があるので今はそうしています。

「ごめんね、ゆっくん。
せっかく来てくれたのに、何もなくて・・・」

「そんなことはない。
晶子のピアノを聞けただけでも来たかいはあったよ」

「よかった。
今度また聞かせてあげるからね」

「ああ、楽しみにしている」

ピアノ、練習しなくちゃ!

「それじゃあ、帰るよ」

「気をつけてね」

「ふぁな!!」(じゃあな!!)

「また来てね」

 

バタン

 

ゆっくん、帰っちゃった・・・

「さてと・・・
晶子、お風呂沸いているから先に入っちゃいなさい。
雪之丞君から電話があるんでしょ」

「うん、わかったー」

パタパタと部屋に戻って、寝間着を持って来てお風呂に入ります。
・・・胸は揉みませんよ。

 

 

プルルル・・・

 

あっ、ゆっくんだ!

 

プルル・・・ガチャ

 

「もしもし・・・」

『晶子か?
俺だが・・・』

「うん。
それよりも雨、大丈夫だった?」

ずっと心配だったから、ちょっと急ぎ足になりながら訊ねます。

『ああ。
さすがに少し濡れたが、特に何ともない』

「でも、今日はもうゆっくりしてね」

『心配性だな、晶子は』

「はあ、無頓着なんだから・・・」

もう少し、自分を気遣ってよ。
せりなさんの心配するのもよくわかるよ

それから、10分位体調について話し続けて・・・

『と、取り合えず、今日の所はもう切るぞ』

「もう、ゆっくんったら・・・」

こういう時は、よく逃げるんだから・・・

『また、明日な』

「うん、おやすみ」

『おやすみ』

 

ガチャ

 

私も寝ようかな。
そう決めて、自分のベットに潜りこみます。
さて、明日からまた学校です。
どうか、指が痛くありませんように。
・・・出来たら、胸も大きくなりますように(笑

 

 

第7話へ続く

 


どうも、siroです。
SS強化期間、2作目です。
少し短いですが、内容は満足しています。
これは前から考えていた『晶子の思い出』の1つです(ラムネ味のキャンディーに続き)
後、晶子がどれだけ雪之丞のことを想っているかというのもテーマに入ってます。
これの晶子の決意ものちのち関係していきます。
ラングさん、ご感想有難うございました。
では、来週に・・・