「私たちは3年生の皆さんから、
たくさんの思い出と教えをもらいました」

もちろん、良い思い出ばかりではない。
私には良い思い出なんて2ヶ月ぐらいしかなかった。
朋也と別れた八ヶ月はとても辛かった・・・
しかし、その間は決して良かったとはいえないが、必要な経験だった。
朋也がいなくても・・・いないからこそ、頑張れるかどうかを。

「皆さんからの思い出を胸に、
私たちはこの学園をさらにより良くすることを誓います」

だからこそ、朋也が側にいる今を大切にしたいと思う。
そして今度こそ守りきる。
それこそ私の誓い。

「在校生代表・坂上智代」

朋也・・・

 


2004 Key 『CLANNAD』

『幸せは手の中に』
プロローグ・ 最初の第一歩(後編)


 

「朋也」

「あれ、智代?」

卒業式が無事終わり、卒業生が校門前に集まっている中、
ようやく見つけた朋也に声をかける。

「どうした、朋也?
不思議そうな声を出して?」

「どうしたって・・・
智代は生徒会長だろ?
体育館の片付けや、その他諸々あるんじゃないか?」

随分な言い方だな。
このために前もって指示を考えて、ようやく抜け出せた私が馬鹿みたいじゃないか。

「今の私は生徒会長ではなく、おまえの彼女として卒業を祝ってやろうと思ったのだが・・・」

朋也の言葉に少しムッとしてしまい、少し睨む。

「そ、そうか(汗
う、嬉しいぞ、智代!
だから、そんなに睨まないでくれ」

そう言いながら、なぜ後ろに下がる?
そんな態度だとなおさら怒ってしまうではないか。
朋也に近づこうすると・・・

「へえ・・・
岡崎が言っていた通り仲が戻ったんだ」

別の男の声に足が止まる。
その声の方に振り向くと見知らぬ生徒(おそらく卒業生)がいた。

「久しぶりだね、智代ちゃん」

「誰だ?」(即答

「即答ですか!!
しかも誰って!?
散々蹴り飛ばしておいてそりゃないでしょ!!」

そう言えば、このやり取りに覚えが・・・

「朋也、誰だ?」

思い出そうとしても中々でてこない。
戻ってきた朋也に聞いたほうが早い。

「ああ、馬鹿だ」

馬鹿?
改めて馬鹿(仮名)をみると、ある人物に重なった。

「ああ、馬鹿か。
髪を黒く染めていたから分からなかった、すまん」

「馬鹿で思い出される僕って一体!?
それにこれが地毛!!
染めていたのは前の茶髪!!」

あまりにも雰囲気が違うからな。
悪いことをしたな。

「それで馬鹿も卒業できたのか?」

「出来ましたよ!!
というより、いい加減名前で呼んでくださいよ!!」

名前か・・・

「朋也、どんな名前だったかな?」

「忘れたのかよ!!」

自分でも不思議だ。
でも、こいつだけは名前が思い出せない。
それほど、こいつは『馬鹿』だったのだろう。

「酢之腹だ」

「何か、漢字があってないような響きですねー!!」

「そうか、巣ノ原か」

「あんたも違うって!!」

息が切れながら訂正する春原(これで落ち着いた)。

「本当にあんたら似たもの夫婦っすね・・・」

「よせ、照れるじゃないか」

「皮肉だよ!!」

皮肉でも何でも、そういわれると嬉しくなる。
正直な所、朋也と似ている点なんて家庭事情以外ない。
だからこそ、お互いの共通点を見つけられると嬉しい。

「さて、酢之腹」

「もういいっすよ、そのネタは!!」

「わかったわかった、春原。
今からけじめをつけに行くぞ」

「けじめ?」

「ああ」

よく分からない2人の会話。
何となく置いてきぼりのような気がする。

「何だ、朋也?
そのけじめとやらは?」

「智代は待っていてくれ。
すぐ終わるから」

荷物を置いて、朋也達が走っていく所は・・・
幸村先生?

私も黙って様子を見る。
すると・・・

『『ありがとうございました!!』』

と大声が響き渡った。
馬鹿な二人にはちょうどいい馬鹿らしさに、
思わず笑いが込み上げてくる。

 

そんな光景を見ながら2人を待っていると・・・

「はーい、智代」

杏が声をかけてきた。

「杏か。
卒業おめでとう」

「ありがと。
向こうも相変わらずね」

「フフ・・・
そうだな」

2人揃って、3人・・・いや、朋也を見つめる。
実は杏に訊きたいことがあった。
でも、訊けなかった。

『杏も朋也が好きなのではないか?』

もし、肯定されたらどうしよう。
諦めていなく、朋也にアタックすると言われれば私はどうしたらいい?
そんな考えが浮かび、今まで訊けなかった。
でも、今訊かなくてはもう二度とチャンスがないと思う。
だからこそ・・・

「杏、一つ訊いていいか?」

「?
いいわよ、何?」

私は訊く。
朋也のことになると弱くなる私だが、振り絞って訊いた。

「杏は・・・その・・・朋也のことが・・・」

「・・・・・・」

「好きだったんじゃないか?」

さっきまでの穏やかな雰囲気は消え、風が軽くと吹く

「・・・どうしてそんなことが聞きたいの?」

「聞かなければ後悔するから・・・では駄目か?」

「そうねぇ・・・60点」

どういう基準なんだ、それは?

「答えが聞ける点数は80点以上。
他に私が納得できなかったら答えないわ」

ふむ、それは厳しい。

「ほらほら、答えが聞きたいんでしょ?
もう20点分頑張って」

どうせなら、100点満点をもらおう。
杏を真正面から見つめ、想いを出す。

 

「初めに言わせてもらえば貴女には感謝している。
あの時、私に立ち直るキッカケをくれたのは貴女だ。
そしてすぐに貴女も朋也に好意を持っていると気づいた。
八ヶ月間、気が気ではなかった。
もしその間、朋也の側に誰かが立つなら杏だと思っていた」

「それはどうも。
でも・・・」

「ああ。
でも、貴女はそれどころか私に協力してくれた。
朋也の状況を教えてもらったり、私が写っている番組を見てもらうように。
けど、行動原理は私のためと言うよりも、朋也の為と言ったほうがいいだろう」

「・・・正解」

「今更聞けることではないかもしれない。
朋也と仲が戻ってから聞くなんて卑怯だと思う。
でも・・・」

「でも?」

「私は聞きたい。
例え、朋也を好きだと言っても簡単には譲らない。
真っ向勝負だ。
だから、正直言ってほしい。
貴女は朋也のことが好きだったのではないか?」

「・・・・・・」

全て話した。
これでも無理なら諦めるしかない。
でも、それなら私はずっと引きずるだろう。
お互いに納得するまで話した方がいい。

「・・・・・・点」

「え?」

「99点!
やっとまともになったわね、智代。
逆に訊いて来なかったら、それこそ朋也を奪う所だったわ」

それは怖いな(汗
宣言しておいてあれだが、杏に勝てる気なんてしない。
それほど彼女は魅力的だ。

「なら、私もちゃんと話すわ。
確かに朋也のことが好きよ。
それこそ、貴女に会う前からね」

そうか・・・
杏からみれば私は朋也を横取りしたようなもの。
だから、昼休みにあんなことがあったんだな。

「あんた達が別れている間、
もしチャンスがあればそうしていたかもしれない。
でも無理よ、朋也を見れば。
いつも通りの馬鹿やっても、あんたを想っているなんて嫌でも分かるわ。
もう、不戦敗にもならないって」

そうなのか・・・
杏には悪いが胸の中には嬉しさがこみ上げてくる。

「今は割り切っているわよ。
あたしが言えるのは一つだけ。
・・・もう、あんなことならないで。
朋也も苦しんでいるんだから、これ以上不幸を呼ばないで。
そして、幸せになりなさい」

幸せか・・・
私たちの幸せは・・・

「当然だ。
もう、私は朋也と別れない。
ずっと側にいて、支える。
だから安心してくれ」

まだ、朋也のお父さんのことも済んでいない。
朋也も来月には家を出るらしい。
今は無理でも、いつか仲を戻したい。
私の家族ように。
そして、新しい家族を朋也と築きたい。

「さて・・・
これから皆で打ち上げするけど、智代も来る?」

「もちろんだ」

打ち上げか・・・
生徒会やクラスでもあったが、今ほど心踊りしなかった。
好きな人と懐かしい人達が集まるんだ。
とても賑やかになるだろう。

「杏・・・
99点と言っていたが、残りの一点は?」

「あれ?
あたしの嫉妬」

「フフフ・・・
そうか」

朋也達がこちらに戻ってくるのを見届けながら、私達は笑いあった・・・

 

 

「ねぇちゃん。
すごく、桜、きれいだね・・・」

「当然だ。
私が守ったんだから」

新学期初日・・・
私は鷹文と共に坂を上がっている。
よかった・・・
本当に約束が果たせて。
頑張ったかいがあった。

「そんなことできるはずないよ」

それなのに、この弟ははっきりと否定する。
本当に私だけが馬鹿にみたいじゃないか。

「馬鹿にしているのか。
なら、見るな。
もったいない。
桜が腐る」

この為にどれほど苦労したかも知らずに・・・
まあ、知らせていないから当然と言えば当然だが。

「やけに突っかかる姉だよな」

先にいる朋也に開封一番にそんなことをいわれる。
そうか、朋也も私の敵になるのか。

「智代、おまえ、素直に返してやりたかったんじゃなかったのか。
なんのために、守ったんだが」

それはそうだが・・・

「すごい・・・
ねぇちゃんを呼び捨てにしてる」

「ああ、んなのちょろい」

おまえもそんな所に驚くな。

「こんなこともできる」

そう言い、朋也が私の頬をつねる。
痛い。

「にいちゃん、すごいよ!」

「まあ、おまえの姉なんて、所詮俺にかかれば子供同然ってことよ。
だから、いじめられたりしたら、呼べよ。
にいちゃんが助けてやるからなっ」

よく言った、朋也。
このことに関しては、夜にゆっくり話そうじゃないか?

「いじめられることなんてないよ」

そうだろう?
さすが私の弟だ。

「口は悪いけど、ねぇちゃん、すごく優しいから」

「そっか。
そりゃ、よかったな、坊主」

・・・もういい。

「坊主じゃないって。
鷹文っていうんだ」

「そっか。
俺は岡崎朋也」

いつの間にか自己紹介が済んでしまった。
今回もなにか置いていかれているように思えるのは気のせいか・・・

「ふぅん。
で、どうして僕たちに話しかけてきたの?
作業着着ているから、この学校の生徒じゃないよね」

「そうだな・・・」

一ヶ月前に卒業したからな。
確かに浮いている。
どう答える、朋也?

「おまえがいじめられてるように見えたからな、
助けにきただけだ」

何だ、それは?
そんな理由があるか!

「正義の味方みたいだね」

「そんなところだ。
おまえがピンチの時は駆けつけてやるからな」

「それはどうも」

鷹文もこんな会話にあわせるな!
何かズレているぞ。

「だから、これかも、よろしく」

何が『だから』だ!!
意味不明だぞ!!

「事情はよくわからないけど、こちらこそよろしく」

だから鷹文も・・・
もういい。
握手をしている2人をみると、それでもいいかと思うが・・・
やはりそんな自己紹介はないだろうと考え直し、 朋也の肩を掴み小声で話す。

「どんな第一印象だ、おまえはっ・・・」

「好印象だろ。
頼れるお兄さんって感じでさ」

本気で言っているのか?

「私には危険なお兄さんって、感じだったぞ」

「え、それやべぇよ!!」

「馬鹿・・・」

それはもう春原並だな。

「もういい。
今日はこれで終わりだ」

「わかったよ」

せっかく、最高のセッティングをしてやったのにぶち壊しだな。

「じゃあ、俺、もう行くな」

「またな、危険なお兄さん」

「おまえが言うなってのっ」

皮肉の一つも言ってやらんと気がすまない。

「じゃあね、おにいさん」

「ああ、またな」

朋也が別れを言って坂を下りていく。
やはり少しの間とはいえ、離れるのは嫌だな。

「ねぇちゃん」

「なんだ?」

「弁当、渡さなくてよかったの?」

あっ・・・

「・・・しまった」

これでは作り損ではないか。
って待て。

「というか、気づいていたのか、おまえは」

「おもしろいよね、ふたりとも。
お似合いだよね。
僕は仲良くなれると思うよ」

「そうか・・・
それは良かったな」

鷹文に『お似合い』と言われたのが一番嬉しい。

「ね、引き返さないの?」

「ああ。
恥ずかしい思いをさせてくれたからな・・・
あいつの昼は抜きだ」

なら、なおさらこの弁当はどうしよう。
初日だから昼前に終わるし・・・
やはり後で持って行ってやるか。

「ねぇちゃんの彼氏って、大変だね」

「大変なものか。
尽くす方だぞ、私は。
ただ、気にくわないことをされると、こういう日もある。
それだけだ」

ただ弁当を渡すのを忘れただけで、
どうしてそこまで言われなくてはならないのだろう。

「そんなことより、急がないと初日早々遅刻するぞ」

「もう、そんな時間?」

朋也との漫才のせいで、予定より時間をくってしまった。
あの馬鹿。

「もう少し、ここに居たいな」

「あの馬鹿を見送っていきたいのか?」

なら、ついでに弁当を渡すか・・・

「それもあるけどね。
ただ、もう少し、ねぇちゃんと見たいと思って」

・・・・・・

「桜か」

「うん」

はじめからそう言えばいいんだ。

「そうか・・・
なら、もう少しだけだぞ」

「うん・・・」

何度思い描いただろう、私と朋也と鷹文が桜の下で話し合う時を・・・
現実はちょっと予定と違ったが・・・

「ねぇちゃん」

「うん?」

「きれいだね」

「・・・・・・」

朋也と出会ってから今までのことが思い浮かぶ・・・
この思い出は決して消えないだろう。
だからこそ・・・

「ああ・・・
綺麗だな」

今を大切にし、ずっと朋也の側に・・・

 

本編第一話へ

 


どうもです。
体調を崩してしまったsiroです(苦笑
まず遅くなってしまったのをお詫びします。
さあ書こうとした時にダウンしてしまいました。
今もちょっと、フラフラになりながら書いたので誤字・脱字が多いかもしれません。
今回は不完全燃焼の分、次回に気合を入れますので。
内容とあとがきも短くてすみませんが、今回はこの辺りで・・・