「やあ、久しぶりだね。
親愛なる君よ」
「・・・」
何処か懐かしさを感じるが、それ以上の失望と恐怖を感じる場所にある桜の木にもたれていると、
あいつ―朝陽―が月の光を浴びながら憎たらしいほどの会釈をしながら現われ俺に近づいてくる。
「おや? 返事も無しかい?」
「・・・」
「まあ、いいや。君がどれほど悲しみと絶望しているかわかるから何も言わなくても」
座り込んでいる俺の目の前で立ち止まりクックックと笑う。
そう、俺は失望していた・・・
「何度も言ったはずだし忠告したよ。
近づけば必ずまた裏切られるってね。
でも君は聞き入れなかった。
前回も、そして今回も。
その結果が今の君さ」
「・・・」
朝陽の言葉一つ一つが突き刺さる
けど・・・
「人間なんてそんなものさ。
いつまでも失望していないで君も忘れて楽になりなよ」
「・・・いやだ」
「・・・何か言ったかい?」
「嫌だ!俺は今度は絶対に忘れない!
確かに俺自身好きという感情を持ち始めたばかりだけど、この気持ちは忘れてはいけないんだ!!」
「あきれたね・・・
それじゃ、君はいつまでも人間を信じるつもりかい?」
「ああ!!」
今は失望しているけど、それでも俺は人間を信じたい!
その気持ちを込めて立ち上がり朝陽を睨む。
「・・・」
「・・・」
俺と朝陽が無言で睨みあっていると・・・
「いいかげんにしてください」
小さい女の子―桜香―がいつの間にか俺の隣に立っていた。
「もう来たのかい?
もう少し友に話をさせてくれてもいいじゃないか」
「いいえ、ゲームで負けた八つ当たりをするのはやめてください」
「やれやれ、バレてたか」
そう言うと桜香は今まで見せた事の無い笑顔で俺の方を向いた。
「勝ったのは貴方ですよ、舞人さん」
「・・・え?」
一瞬言っている意味がわからなかった。
「残念だけど本当は僕の負けだよ」
「それじゃあ・・・」
「ええ。今頃記憶が戻って貴方を捜しているでしょう」
「そ、そうか・・・」
その事に喜びと安堵で力が抜け座り込んでしまう。
「舞人さん、唐突ですが一つ質問してもいいですか?」
「え、別にいいけど・・・」
「貴方は誰を好きだと言えますか?」
桜香の本当に唐突な質問に呆然とする。
「どうですか?」
「それは・・・えっと・・・あれ?」
桜香の問いに答えようとするが・・・
「誰が好きなのですか?」
「え〜と・・・」
答えられない?
「答えられないでしょう。
それはある意味当然です」
「何だって?」
その言葉にさすがに驚く。
「すみません。
悪い意味ではありません」
「ああ・・・それで?」
「貴方は確かに人を好きになる気持ちを持ちました。
でもそれは好意ぐらいで、はっきりと好きだと言う感情ほどではありません」
「そ、そうなの?」
「おそらく周りの人達に気付かせてもらい、これからという時に忘れられました」
「えっ? でも・・・」
「はい。それぐらいなら記憶が消えることはありません」
「じゃあ・・・?」
「近づきすぎたのは彼女『達』なのです」
「そうなんだよね。
正確に言えば君が勝ったのではなく彼女『達』だよ」
確かに山彦以外に気付かせてくれた彼女達が記憶を失われしまった。
「強いて言えば、貴方はあの人達に好意を持っています。
ですがあの人達は貴方だけを愛しています」
「あ、愛っ・・・!?」
「そうですよ。気付かなかったのですか?」
分かるわけ無いだろう。
「さて、親愛なる君よ。
最後に会った時に言ったよね。
『またゲームがあれば会おう』ってね」
朝陽が嫌味など無く本当に面白そうな表情で俺に話す。
「新しいゲームの始まりだ」
「何?」
「君にはこれから『幸福な不幸』が始まる」
「ふふふ、そうですね」
「桜香?」
な、何それ?
「何も心配はいらない」
「今日はそのまま自分の家へ戻って眠ってください」
えっええ・・・?
「全ては明日から・・・」
「始まりです・・・」
ま、まさか・・・
「誰が君を手に入れるのか・・・」
「貴方は誰を選ぶのか・・・」
「「それは自分次第」」
言い終わると桜が舞い2人を隠し姿を消した。
俺はそのまま呆然としていた。
彼女達の記憶が戻った事に喜びはある・・・
だけど、それ以上に明日からの生活に不安を感じていた・・・
2002 BasiL 『それは舞い散る桜のように』
「いつまでも貴方のそばに・・・」
(前編)
翌日の朝・・・
普段より早く目が覚めた俺は夜明け(午前7時)のティータイムを楽しむ。
「爽快な気分で朝日を浴びながら飲むミネラルウォーターはまた格別・・・」
我が城(自宅)にコーヒーや紅茶などといった物は当然無く、偽天然水(水道水に火を通してカルキを抜いただけ)で喉を潤す。
「所詮、つまらない現実にはかなわないものさ」
自分の財政を記憶のかなたに捨て去り、コップに残っている水を飲み干す。
コップを台所に持っていき制服に着替え終ると昨日の事を振り返る。
「皆、記憶が戻ったはずだよな。
桜香が俺を捜していると言っていたような」
ふと目についた携帯を調べてみると・・・
「うわ・・・」
着信を見てみると3人(某プリンセス&某吊り目&某上の住民)のオンパレード。
中には山彦もあった。
おそらくとばっちりを受けたのだろう。
心配するな、山彦。
骨は拾ってやるからな・・・
メールにも同じ3人から凄まじい量がある。
始めの内容はマシなのだが、中々連絡が着かない事にイラついたのか過激になってきている。
某吊り目などは『今すぐ連絡を返さないとコロス』というほどだ。
ちなみにこのメールが送られてきた時間は8時間以上前だという事を知らせておこう。
「ふ、モテル男はつらいぜ(汗」
声が震えたり、体に冷や汗が流れているのは気のせいだ・・・
ふっ、ぷじゃけるなよ。
このニヒルでクールなハードボイルドな桜井舞人だぞ。
八重樫ごときに何を恐れることがある!
奴とは何度も戦ってきたではないか!
さあ、この手で勝利を掴むのだ!
「待っていろ、我が宿命の敵八重樫つばさよ。
今、この桜井舞人が引導を渡してやる!」
そして八重樫にメールを・・・
メールを・・・
「ま、負けた・・・」
打てなかった・・・
だって、怖いんだもの・・・
しかし、このままでは確実に殺される(汗
な、何かこの事態をスルーする方法は!?
頭脳を混沌にするまでにアイディアを捻りだそうとしていると・・・
ピンポーン・・・ピンポーン・・・
どうやら、我が城のお呼び出し(チャイム)がおなりに鳴ったようだ。
という事は誰かが訊ねて来たということだ。
・・・よし!
朝、誰かが押したチャイムで目が覚め、連絡する暇が無かったということにしよう!
実際の出来事だからやましい事は何も無い!
チャイムが鳴ってから0.25秒でここまで考え、玄関のドアに向かう。
ありがとう、我が救世主!
君のおかげで尊い青年の命が救われたのだ!
さあ、君もこの感動を分かち合おう!
感謝と感動のままドアを開けると・・・
「せんぱい、おはようございます」
「おはよう、おにいちゃん」
「おはようございます、舞人さん」
下級生ズ3人娘(命名俺)が、それはもう笑顔で微笑んでいました。
「・・・なぜに?」
言葉に繋がりは無いが、今の心境はお言葉だった。
とりあえず、3人に部屋に入ってもらった。
「2、3質問があるんだが・・・」
「せんぱいせんぱい、1日の初めに会ったら挨拶ですよ。
『親しき者にも礼儀あり』。
人は挨拶から始まり挨拶で終ります。
さあ、せんぱいもご一緒に!
おはようございます!」
さすが雪村。
いきなり俺の話を折ってくれる。
「黙れ雪村。
俺が挨拶などすると思うか!
人とは言葉など使わずに感じることができるのだ。
例えばある友人Yは、俺が言う前に内容を先読みしツッコミが来るほどなのだ。
どうだ雪村。
幼少の頃からの付き合いのある貴様にも、俺が何が言いたいか分かるはずだ」
「うわー、さすがせんぱい。
挨拶一つで見事な独白ですね。
惚れ直しちゃいます。
ちなみにせんぱいは顔に出る方なので、雪村にもわかります。
せんぱいの右手に持っている携帯電話で、現状を知って困っていましたね」
「・・・だまらっしゃい」
久しぶりの雪村の会話に懐かしさを感じるが今はそれ所ではない。
「青葉ちゃん、かぐらちゃん。
どうして、俺たちの・・・『桜坂学園』の制服を着ているのかな?」
そう、普段よく見た敬星女学院の制服ではなく雪村と同じ桜坂学園の制服を着ているのだ。
「それはもちろん桜坂学園に入学したからだよ」
「・・・本気(マジ)っすか?」
「本当ですよ。舞人せ・ん・ぱ・い」
どうやらマジらしい。
『なぜ、桜坂学園に入学しようとしたのか』とか色々疑問があるが、一番知りたい事は
青葉ちゃん、よく入試が受かったね(爆
かぐらちゃんの学力は知らないが、青葉ちゃんの学力はよく知っている。
教科書を武器に闘いあった事が懐かしい・・・が
「もう、おにいちゃん。
わたし、頑張ったんだからね」
そんな事を考えていると青葉ちゃんが抗議してきた。
「なぜ、考えている事が・・・」
「舞人さん、顔に出ていますよ」
さっそく雪村の忠告が生かすとは・・・
「さ、さて、時間もやばくなってきたしそろそろ行くか(汗」
このままでは、先輩としての威厳が急降下するのを防ぐ為、カバンを持って外に出ようと・・・
「せんぱい」
雪村の真面目な声が聞こえたので振り向くと、
「雪村はせんぱいの事を2度と忘れません。
いつまでもせんぱいの側から離れませんので、よろしくお願いします」
「おにいちゃん、今まで忘れていてゴメンね。
おにいちゃんの事を忘れていても、何か引っ掛っていて桜坂学園に行けばわかると思えたんだ。
だから・・・これからもおにいちゃんの側にいさせてね」
「舞人さん、色々ご迷惑をお掛けしました。
あの時、舞人さんに振られました・・・
けど、やっぱり舞人さんの事があきらめられませんでした。
それなのに忘れてしまって・・・
でも、やっと思い出すことができました。
青葉ちゃんと相談して決心がつきました。
私もお側にいさせてください」
3人の告白を受けて、様々な事を渦巻くけどその答えはやっぱり・・・
「・・・ありがとう」
照れくさくてそれ以上は言えなかったが、通じたようで笑顔で俺の後を追って雪村達も外に出る。
学校に着くまで忘れていた時間を取り戻すように話し続けた。
その安心感で、星崎や八重樫に連絡を入れていない事に気付いたのは別れた下駄箱だった・・・
皆さん、お久しぶりです。
siroです。
ラングさんの攻略を参考にさせていただいたお礼として送らせていただきました。
本当は分けるつもりは無かったのですが、長くなりそうなので前編・後編に分けました。
まあ、後編の話は予想がつくと思います(笑
では、後編でお会いしましょう。
出来たらご感想などをラングさんの掲示板にお書きください。