―ライル・支えし者―

 

「皆・・・」

どうしたんだよ・・・
そんな幻に屈するほど君達は弱いのか?
オレ達が築いてきた絆はそんなに脆かったの?

 

リサ・・・
ハンターの力が無くなったってリサはリサさ。
自分の力だけに存在価値を見出さないで、リサらしさの方が大事だよ。

ジャスティン・・・
実は君が女の子だという事は正直驚いたけど、性別なんて関係ない!
男だろうが女の子であろうが君は大切な仲間だ。
そんな事で差別する人達なんてこっちから縁をきってやれ!!

ジェイル、ミラ・・・
ミラがどれだけ人間になろうとした気持ちは見てきたからよくわかる。
だから再び吸血鬼になってジェイルから血を吸う事に嫌悪を持っているのも少しはわかる。
でも、死を選ぶのは絶対間違っている!
それほどの覚悟があるなら苦しんでも、生きようとする道を選ぼうよ!!

瑞穂・・・
君がそれほど追い込まれていたなんてオレは・・・いいや、君自身気付かなかったんだと思う。
君達から毎日追いかけられたけどオレは楽しかった。
いつまでもこんな日々が続けばいいと心の何処かで思っていた。
だからこそ君は不安になってあの声に従ったと思う。
そのオレへの想いは本物だとわかっている。
オレは決して君を愛さないと思わないし、オレも君を想っている。
まだ君を・・・誰かと選ぶことは出来ないけど、大切な人だ!
君にはその笑顔や猫の時のひと時に何度も心を癒され助けられた。
今度はオレが君を助ける!!

フィリス・・・
サキュバスの血の事は乗り越えたと思っていた。
けど瑞穂同様に、オレの態度が・・・いい加減な気持ちが不安を呼び出したんだ。
今でも発作のために君を抱く事もあるけど、お互い彼女達に申し訳ないと感じていた・・・
けどね、フィリス・・・
それ以上に君を抱いている時に見せる・・・潤んだ瞳・想いがこもった声・抱きしめられている両手・熱い身体・・・
その一つ一つが愛しいと心で感じていたよ。
もし君が不安になったら言葉で・・・全てで消してあげる。
だからそんな『裏の声』になんて負けずに、オレの傍に来てほしい。

モニカ・・・
もしかしたら・・・あの幻影は本当に起こっていたかもしれない。
ハンターの力があるなんて考えもしなかったし、あれは咄嗟の行動だった。
でもね、モニカ・・・
一つだけ違っている事があるよ。
それはどんな事があってもモニカを悲しませる事はしないから。
絶対に・・・
ほら、モニカも立ち上がって。
あったかもしれない過去より、希望を持つ未来に歩こう。
オレも一緒に歩くから・・・

 

だから・・・皆、頑張れ!!
自分自身に勝つんだ!!
そして・・・

皆で未来を掴もう!!

 


2002 スタジオ・エゴ!『メンアットワーク3』

『その後の物語』
第5話・卒業試験(後編)


 

―リサ・得た者―

「アアアアア!!」

『グアアアア!!』

咄嗟に目を瞑って衝撃に備える。

 

ガスッ!!

 

・・・・・・?
どこも痛くないっすね。
不思議に思いながら恐る恐る眼を開けてみると・・・

「危ない所だったね、リサ」

「ア・・・兄貴!!」

兄貴がリサの前でモンスターの攻撃を剣で受け止めている!

「フン!!」

剣を薙ぎ払ってモンスターを遠ざけてこっちを振り向く。

「ほら、リサ」

「あ、ありがとうっす」

伸ばしてくれた手を掴んで立たせてくれる。
そこで我を取り戻して、兄貴に疑問を投げつける。

「兄貴はどうしてここへ?」

すると兄貴は・・・

「どうしてって、仲間がピンチを助けに来たに決まっているじゃないか」

微笑みながら当然のように言ってくれた。
その言葉を聴いたとたん、嬉しさとリサ自身の不甲斐なさに涙が流れるっす。

「ほら、泣いてないで今度はリサの番だよ」

「リサの番?」

「そう。
あのモンスターはリサしか倒せないんだからね」

「で、でも、リサは・・・」

もう力が・・・

「リサ、君の力は失っちゃいないよ」

「え?」

ど、どういうことっすか?

「ただ力の使い方が少し違う事とリサ自身の心が弱くなっているだけ。
ほら、オレを・・・自分を信じて」

「兄貴・・・」

涙を拭いてグッと拳を握る。
ここまで言われて動けないようじゃ、兄貴の仲間なんて言えないっす!!

「ハアアアア・・・」

お願いっす!
もう一度力を・・・
兄貴に認めてもらうために!!

「アアアアアアアア!!」

「いいぞ、リサ!!」

感じるっす・・・
感じるっすよ!!
リサの力を・・・
そして兄貴の強さを!!

「行くっす!!」

失っていた時は勿論、今まで以上の力を感じるっす!!
その力を右の拳に集中させ、モンスターに突っ込む!

「ヤアアアアアアアアアアア!!」

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

渾身の一撃を与えるとモンスターは叫び声を上げながら消えていくっす。

「ハア、ハア、ハア、ハア!!」

「よくやったね、リサ」

膝に手を着いて息を整えていると、
兄貴が近づいて来た。

「あ、兄貴、来てくれてありがとうっす。
リサ一人じゃこのまま死んでいたっす」

命が失う事じゃない。
心が壊れてしまうという意味っす。

「君と出会ったのは魔法学園の電車の中でだよね」

「はいっす。
でも、それがどうしたっすか?」

微笑みながら懐かしそうに話す兄貴の言葉の意味が解らなくて首を傾げるっす。

「いいかい、リサ。
始めは同級生・・・つまりハンターとして出会ったけど、
オレは・・・オレ達はハンターの力なんかなくたってリサはリサだよ。
力だけが君の価値なんじゃない。
今みたいに自信を持って」

「あ、兄貴〜!」

止まった涙がもう一度流れを止めることが出来なかったっす。
兄貴も頭を撫でてくれてその暖かさが安心するっす・・・

 

ようやく涙が止まって兄貴から離れた瞬間・・・

 

カッ!!

 

「「っ!!」」

リサ達の前に一人分が通れるくらいのドアの形をした光が現れたっす。

「ほら、リサ。
出口だよ」

「で、出口っすか?」

という事はリサは試験に勝ったんすか?
でも、兄貴がいなかったら到底クリア出来なかったし・・・

「怖がらなくてもいいよ。
さあ・・・」

ポンッと背中を押して出口へ諭すっす。

「兄貴はどうするっすか?」

「オレはまだやらなくちゃいけない事があるから」

「そうっすか」

まだ兄貴の手を待っている人がいるんすね。

「わかったっす!
リサは先に行ってるっす!!」

「オレもすぐに行くから待ってて」

「了解っす!!」

軽く走りながら出口に向かう。
飛び込む前に振り返っる。

「兄貴はやっぱり最高の男っす!!
リサも惚れそうっす!!」

「あ、あはは・・・」(汗

その引きつった笑いはなんすか?

「でも、モニカ姉さん達は怖いからリサは親友で我慢するっす!!」

「そ、そうしてくれると、う、嬉しいかな」

「それじゃ、また後で!!」

光の中に飛び込むと意識がなくなっていくっす。
でも、何処か安心してそのまま委ねる。

 

 

―ジャスティン・必要とされし者―

 

「ハア、ハア、ハア!」

全てから逃げるように走っていたけど、
息が続かなくなり立ち止まってしまう。

「ハア、ハア・・・ヒック

足は止まっても涙は止まらない。
どうして、僕は男として産まれてこなかったんだろう・・・
そうすれば屋敷の人達に・・・お父さんに認めてくれるのに。
女に産まれてきたばかりに!!
自分自身が憎くてどうにかなってしまう時・・・

 

ポンポン

 

「っ!!」

後から肩を軽く叩かれ驚きながら振り向くと・・・

「よっ!
ジャスティン!!」

いつも通りの口調と表情でライルが立っていた。

 

「ラ、ライル・・・?」

「隣いいかな?」

「あ、うん」

きっと今の僕の顔は幻を見たような呆然としていたと思う。
そんな僕にも気にもせず、ライルは隣に座る。
それにつられるように僕も座る。

「「・・・・・・」」

お互いに何も話さないけど、
重い雰囲気はなくて落ち着いてくる。
落ち着いてくると色々な考えが駆け巡る。
どうしてこんな所にライルがいるのか?
どこから来たのか?
でも、一番知りたい事は・・・

「・・・見た、ライル?」

「・・・うん」

少し重たそうに首を動かすライルに、
ズンッと身体が重くなる。

「そっか・・・
無様だよね、僕って。
認めてもらおうと頑張って・・・
男のフリまでしたのに、やっぱり『モドキ』じゃ駄目だった。
無様だよね」

膝に顔を埋め、ライルに見られないようにする。
僕は怖かった。
仲間に・・・ライルまで否定されたらと思うとどうしようもなく怖い。

「ジャスティン・・・」

「っ!」

丸まっていた僕の肩に手をかけて、
彼の方へもたれさせる。
身体が強張って離れようとするけど、
肩の手が僕を包み込むように放さない。
でも、嫌悪感などは微塵もなくてしばらくすると身体を預ける。

「ジャスティン・・・
君が女の子なんて正直驚いたよ。
でも、よく思い出してみると納得できる。
着替えや風呂、その他諸々」

「そっかー
やっぱりちょっと苦しかった?」

「ああ。
それに気づかないオレも大概だけどね」

「もし気づかれたら魔法学園から去っていたよ」

その考えは本当だった。
でも、今は変わっている。
例え女の子でも必要としてくれる人がいるなら僕は・・・

「どうしてリサもジャスティンも自分の存在価値や理由をつけたがるかな」

「リサ・・・?」

どういう事だろう・・・
もしかしたら、リサも似たようなワケを持っているのかな?

「先に言っておくけど話さないよ。
君だってこの事を他の人に話されたくないだろ?」

「うん」

自分が話さなくて他の人のことは話せなんていうバカなことは言わないよ。

「まあ、それは置いておいてだ。
リサの時と答えは似ているけどジャスティンはジャスティンじゃないか。
男だろうが女の子でもそんな事は関係なく君自身を認めて、必要としている仲間がいるじゃないか?」

「あ・・・」

その言葉はずっとほしかった言葉・・・
僕自身を見てくれるという。

「オレ達は知っているよ。
頑張っているジャスティンの姿を。
そして強くなったじゃないか?」

「ライル・・・」

「例え世界中が君を認めなくてもオレ達は違う。
仲間じゃないか?
仲間を信じなくて何を信じろというんだい?
ジャスティンはジャスティンさ」

「あ、ありがとう・・・」

ライルに抱き付いて『ありがとう』と何回も出す。
言葉じゃ伝えきれない感謝と嬉しさを表すように抱きついた腕に力を込める。

「逆に認めないやつらなんて父親だろうがこっちから切ってやれ!!
そうだ!
卒業したらジャスティンの屋敷に皆で行こう!!
ジャスティンはこんなに頑張ったんだって言ってやるよ!!」

僕は・・・ううん、私はライルの言葉にウンウンと何回も頷く。
ありがとう、ライル。
君のおかげで私は私自身を認めることが出来て好きになれた。
君に出会えてよかった・・・

 

カッ!!

 

「な、何!?」

突然、目の前に一人分が通れるくらいの光が現れた。

「おめでとう、ジャスティン。
あれはたぶん出口だよ」

「出口?」

そっか・・・
今思い出したけど、これは卒業試験だったんだよね。
なんと言うか嫌らしい試験だね。

「オレはまだ行かなくちゃ行けないから、
取りあえずここでお別れだ」

「そっか、頑張ってね」

「まかせておけ!!」

グッと力こぶ(制服で見えないけど)作るライルにクスッと笑う。
そうだ!

「ねえ、ちょっと目を瞑って屈んでくれない?」

「へっ?
まあいいけど」

言われたとおり目を瞑って屈むライルに近寄って、頬にキスをする。

「なっ!?」

「えへへ・・・
それじゃ、またあとで」

女としてのキス(頬だけど)に恥ずかしくて、ライルが何か言う前に出口に駆け込む。
モニカ、フィリス、瑞穂・・・
唇じゃないんだし頬くらいは許してね。
大丈夫、ライルは君たちのものだから・・・

 

 

―ジェイル&ミラ・誓い合う者―

 

ガキィィィィィィン!!

 

「えっ?」

「何!?」

自分自身が望んだ死を与えるジェイルの剣を止めたのは・・・

 

「フー・・・
間に合った、間に合った」

 

いつも通りのノホホンとしたライルだった。

「ど、どうして・・・?」

なぜ、ライルがここに?
いえ、それより・・・

「なぜ、止めたの?」

「どうしてって、ジェイルがミラを斬ろうとしたからだよ」

「なら、退いて。
これは私が望んだ事よ」

正直言って、吸血衝動を抑えるのに限界が来ている。
このままではジェイルだけでなく彼まで襲ってしまう。

「・・・ライル、退け。
オマエは関係ない」

ライルに塞がれてわからないけど、
ジェイルの殺気を感じる。
でも、それ以上に悲しみと悔しさを感じる。

「退かないね。
安易に死を選ぼうとする君たちを放っておけない」

それは貴方は知らないから。
奇麗事しか知らない、裏を知らないからそう言えるのよ。

「テメェに何がわかる!!
オレだってミラを救えるのなら救いたい!!
全てを・・・オレの命を賭けても!!
でも、ミラが死を望んでいるならそれしか・・・!!」

ジェイルの葛藤の言葉に私の胸に突き刺さる。
やはりジェイルには私は斬れない・・・
あの瞬間、ライルが止めなくても剣を止めていたはず。
なら、私が・・・

「ちょっと、ゴメンね」

「えっ?」

パン!

 

頬に熱を持った痛みを感じる。
ライルが私に平手打ちしたのだ。

「次、ジェイル」

「へっ?」

 

ガスッ!!

 

音からにしてジェイルには拳で殴ったのだろう。
かなり痛そうな音がした。

「な、何しやがる!!」

「はいはい。
自分勝手な人達にちょっと目を覚ませようとしただけじゃないか」

言ってくれるわね。

「ミラも睨まない。
それじゃ一つ聞くけど、ミラを斬った後のジェイルがどうするか予想できる?」

「そ、それは・・・」

私は吸血衝動に振り回されて自分自身の事しか考えていなかった。
改めて思うとジェイルは・・・

「こういう時は本人に聞くのが一番だね。
ジェイル、どうするの?」

ジェイルは倒れたままだったけど、
噛み付くように顔を上げていたさっきと違って俯いている。

「ジェイル」

「・・・ミラの後を追う」

「やっぱり」

フフフ・・・
やっぱり私達はこの世界にいてはいけない存在なのね。

「こら、そこ。
悲痛な顔をしない。
オレが言いたいのは『何で自分の命を粗末にするんじゃない』って事」

「貴方にはわからないわ
私たちの苦しみなんて」

「確かに解らないよ。
だからって、死ぬのなんて絶対間違ってる」

しょうがないじゃない・・・
もう・・・血は吸いたくないの。
もう・・・ジェイルの重荷になりたくないの。

「なら、他の方法があるなら教えてほしいわね」

「簡単な事だよ。
死ぬ覚悟なんていらない。
生きる覚悟をすればいい」

「生きる・・・」

「覚悟・・・?」

何を言ってるの?
そんな事なんて・・・

「そう。
何があってもどんな事があっても、乗り越えて生き抜く覚悟。
君たちに一番必要な事はそれだよ」

「そんな奇麗事でミラが救えると思っているのか!!」

ああ・・・
やっぱりこの子は甘ちゃんね。

「そう思っているから駄目なんだよ。
それに少なくても今は救えるよ。
ミラの吸血衝動はその死ぬ思いで強くなっているんだから」

「「!?」」

どういうこと?

「つまり、ミラが死を望めば望むほど吸血衝動が強くなるってこと。
それとミラが昔の・・・ホムンクルスだった自分を受け入れる事。
それさえ出来れば大丈夫だよ」

人間になってからホムンクルスのときだった自分を確かに嫌っている。
だからって、それを受けいれるなんて・・・

「別に戻るという意味じゃなくて、
何て言えばいいかな・・・
『もう一人の自分』を受け入れて」

「フフ・・・
言ってくれるわね」

「ミラ?」

「ジェイル、ここはライルの言葉に乗りましょう」

ジェイルの戸惑いの声を遮る様に言葉を出す。

「確かに私達は死に対して軽かったわ。
それに今の自分を失うくらいなら・・・と思ったのも事実。
なら、最後ぐらい足掻いてみせましょう」

これさえ乗り越えられれば、
きっと今まで以上に幸せな日々があるはず。
それを見逃すほど私は弱くはないわ。

「ほら、ジェイル。
弟にハッパかけられたんだから買わなくちゃ」

私の決意がジェイルに伝わったのだろう。
眼に気力が戻っていつもの不敵な笑みを浮かべる。

「やれやれ・・・
死にたいと言ったり、生きたいっと言ったり我侭な姫さんだぜ」

「女は気分屋なのよ」

「そうだぞ、ジェイル。
男はそれに振り回されるけど、それに込められている伝えたい事はしっかり受け止めないといけないよ」

「あら、『本人は語る』・・・ね」

「アハハ・・・」(汗

さて・・・
始めましょうか。
・・・そうだ。

「ライル、一つ賭けをしない?」

「賭け?」

「そう」

ここまで引っ張ってくれたんだから貴方も巻き添えよ。

「もし私が吸血衝動に勝ったら、一つ言う事を聞いてもらうわ」

「ジェイルじゃなくて、オレに?」

「ええ、貴方によ」

「・・・負けたら?」

そうねぇ・・・

「負けたら消える前に貴方にキスしてあげる」

「えっ!?」

「ミ、ミラ!?
ライル、キサマ!!」

あらあら、ジェイルったらライルの首を絞めてガクガク揺すっている。

「ちょ、ジェイル・・・苦し」

「やはりキサマ、ミラまで色目を使っていたのか!!」

このままじゃ、ライルの方が死んでしまうわ。

「ジェイル、いい加減やめなさい。
ようは負けなければいいのよ」

「そ、それはそうだが・・・」

口をモゴモゴしてそっぽを向いているジェイルに不覚にも可愛いと思ってしまったわ。

「ほら、始めるからライルは下がって」

「了解」

言われたとおり後に5歩ほど下がる。

「ミラ、オレはどうすればいい?」

「・・・ジェイルは私の後ろに回って抱きしめて」

「へっ?」

「いいから!!」

「オ、オウ!!」

恥ずかしいんだから何度も言わせないでよ。
それでも、彼の温もりが私を繋ぎ止める唯一のもの。
これほど心強いものはない。
・・・コラ、そこ!
恥かしい事を言っているのは解っているから笑わない!!

 

「始めるわ」

言い忘れていたけど、吸血衝動はなお続いているけど少しは治まってきている。
正確に言えば私が生きる決意をしてからだ。
だからこそ、ライルの言葉を信じたという所もある。

眼を閉じ、吸血衝動を感じる部分のさらに奥に意識を沈める。
沈んで、沈んで・・・
すでに意識できる部分ではなく無意識に思っている・・・言わば『嘘偽りのない心』。
そこで私は知ってしまった。

何時かの『もしこの学園に入学していたら・・・』の言葉が本心だったということ

ライル・・・仲間達を考えていた以上に大切にしている事実

そして・・・
ジェイルを本当に・・・本当に愛しているという気持ち

正直、悪くない気分だった。
それどころかスーッと気持ちが晴れるぐらいだわ。

ついに底に着き、一点の光を見つけた。
それこそが『もう一人の私』。
ホムンクルスから人間になった時に封じてしまった『過去の私』。

大丈夫、私は貴女を受け入れるわ。
だって、そうでしょ?
私がアイザックにホムンクルスとして作られなければジェイルに出会う事はなかった。
もし、アイザックがジェイルを連れてこなかったらもしかしたら敵同士になっていたかもしれない。
私がホムンクルスだったからこそ、ジェイルを知り愛し愛されたのだから。

さあ、手を伸ばして・・・
そうよ・・・
これからが本当の始まり。
『私自身』の・・・

 

「・・・ラ、ミラ!!」

ん?

「ミラ!!」

ジェイル?

「しっかりしろ、ミラ!!」

「・・・苦しいわ、ジェイル」

「っ!! ミラ!!」

苦しいといっているのに、さらに強く抱きしめてくる。
いつの間にかジェイルは前に周っていて、正面から抱きしめられていた。

「ジェイル・・・見つけたわ。
過去の・・・もう一人の私を」

「そうか・・・」

ようやく緩められ、お互いに顔を見合わせる。

「ねえ、ジェイル・・・」

「何だ?」

受け入れたからこそ、どうしても聞きたい事があるの。

「私と出会って後悔・・・していない?」

もし私と出会わなければ貴方はそんなに苦しまずにすんだのよ。
そこまで力を求める事もなかった。
でも、貴方は・・・

「バカなヤツだ。
オレはミラに出会わなかった事こそが不幸だ」

「ん」

微笑みながら優しくキスをしてくれる。

憎む事しか知らなかった・・・
貴方に出会うまでは・・・
だから、ずっと傍にいて・・・
そして一緒に生きていきましょう。
共に死を選ぶんじゃなくて、惨めでも2人で生きましょう。

 

カッ!!

 

「「っ!!」」

突然、目の前に2人ぐらいが通れるぐらいの大きさの光が現れた。

 

パチパチパチ・・・

 

「おめでとう、ジェイル、ミラ。
『試験』をクリアだよ」

拍手しながらライル(少し存在を忘れていた)が近づいてくる。

「そういえば・・・」

「アア・・・」

これって『卒業試験』だったのね。
なんて悪趣味な試験なのかしら。
確かミリアム達模糊の試験を受けたと言っていたわね。
今度聞いてみよう(邪笑

「ライルはどうするんだ?
オレ達と一緒に出るのか?」

「ううん。
まだやることがあるからね。
というより、オレにとってはココからが本番だね」

「あら、貴方を想っている女の子達は後回しというわけ。
ちょっと酷いんじゃない?」

「オレに言われても勝手にこういう順番になっているんだからわからないよ。
実際、次が誰かも解らないんだし」

フーン・・・
もしかしたら彼の『試験』は私達を救えるかどうか・・・かもしれないわね。

「なら、ミラ・・・
オレ達はさっさと出ようぜ」

「そうね・・・
ちょっと待って。
ライル、賭けは私の勝ちよね?」

「ハハ・・・
やっぱり覚えてた?」

「勿論よ。
負け逃げなんて許さないから」

「ハイハイ。
それでは何なりと」

と言っても、特に何かを考えていたわけじゃない。
ただ、ちょっとした負けられない決意が欲しかっただけ。
・・・・・・
そうね。
彼がいたからクリアできたのも事実だし・・・

「それじゃ、ちょっとしゃがんで眼を閉じてくれない?」

「?
いいけど・・・
これぐらい?」

「もう少し中腰で・・・
そうそう、これぐらい」

ちょっと恥ずかしいけど、これぐらいならジェイルも許してくれるわよね。

「・・・ありがとう。
私達に生きる事を教えてくれて」

 

チュッ!

 

「「っ!!」」

ライルの頬に軽くキスをしてあげた。

「大切にしなさいよ。
もう二度としないから」

ライルが固まって、ジェイルが静かに大剣に手をかけようとする。
そのジェイルの手を取って光に向かって走る。

「オ、オイ、ミラ?」

「行くわよ、ジェイル」

「ま、待て。
まだライルに一発ぶん殴って・・・」

「感謝のキスぐらい大目に見なさいよ。
頬だし」

ヤキモチを焼くジェイルに内心嬉しく思いながら、光の中に飛び込む。
全てが真っ白になって、そのまま意識を失った・・・

 

 

―瑞穂・信じ愛しあう者―

 

あまりの真実にで、全てに絶望し闇の中を漂っている。
でも、涙だけは枯れずに今もなお流れ続けている。

「 ごめんなさい、ライルさん。
私の勝手な我侭に振り回してしまって・・・
でも、学園の生活が楽しかったのは本当です」

この涙が止まる時に、私は本当に闇に落ちるでしょう。
これはライルさんに出来る唯一の謝罪。

「さようなら・・・」

ついに涙も止まろうとした時・・・

 

「勝手にさよならを言われても困るんだけどね」

 

「っ!?」

突然の声と共に目の前に小さな光が生まれ、
それは次第に大きくなり人の形を取る。
光が消えたそこには・・・

「やっ、瑞穂」

「ライルさん・・・」

最も会いたくて、でも今は最も会いたくない彼が優しさを込めた笑顔で現れた。

 

驚きから戻るとライルさんから顔を隠すように後ろを向く。
だって、貴方に合わせる顔なんてない。
闇に落ちてしまった私なんて見られたくない。

「ライルさん・・・
此処から去ってください。
私はもう・・・っ!?」

「瑞穂・・・」

虚勢の拒絶の言葉を言い切る前に、
ライルさんが後ろから私を抱きしめてくれる。
強く・・・強く・・・
その温もりに止まりかけた涙がまた溢れてしまう。

「ライルさん・・・私は・・・」

「いいよ、何も言わなくても・・・
解っているから」

ああ・・・
ライルさんに知られてしまった。
私の心の弱さと空っぽの想いを・・・

「ごめんなさい、ライルさん。
私の身勝手な想いで迷惑をかけてしまって・・・。
でも、安心してください。
私は・・・」

「違う!!
違うんだ、瑞穂!!
謝るのはオレの方なんだ!!」

えっ?
どうして・・・

「オレは瑞穂に謝らなくちゃいけない。
俺の身勝手な考えのせいで君を不安を感じさせ、
今こうして苦しんでいるんだから」

不安?
苦しみ?
確かに感じているけど、それは自分自身が蒔いた想いですよ?

「聞いてくれ、瑞穂」

顔をライルさんのほうに向けられると、
とても真剣な表情で私の眼を見て話し始めます。

「瑞穂・・・
君に・・・君達に想いを告げれられてから今まで色々あった。
追いかけられ、時には殴られもしたけど楽しかった。
でも、オレはバカだった。
いつかは誰かを選ばなくてはいけないのに、君達は返事を待っているのに・・・
オレはこんな日々が続いたらいいと思ってしまった」

「ライルさん・・・」

私も楽しかったです。
モニカさんとフィリスさんでライルさんを取り合っていても、
多少の嫉妬は感じましたが、それ以上に嬉しい事・楽しい事が多かった。

「でも、その身勝手な考えに君達は内心・・・気づく気づかない関らず不安にあったんだ。
だから、この『試験』でそれが現れたんだと思う」

「・・・・・・」

なら、あの幻想は何なんですか?
あの時、ライルさんがいなくても何も思わなかった私は・・・

「その『試験』があの幻想を生み出して、
君の不安に拍車を駆けただけだよ」

でも・・・
私はこの想いを信じる事が出来ない。

「君が君自身の想いが信じられないなら、
改めて君に言うよ」

トクンッ、トクンッ、と鼓動が早くなる。
その先に期待している言葉があると・・・

「正直、まだ誰かを選ぶなんて出来ないけどこれだけは言える」

トクン・・・トクン・・・

「たとえ君がオレを好きにならなくても嫌いになっても・・・」

トクン・・・トクン・・・

「オレは・・・」

ドキドキドキ・・・

「君を愛している」

「っ!!」

その言葉と共にギュッと抱きしめてくれる。
また涙が流れるけど、今度は悲しみの涙じゃない。
求めて・・・ひたすら求めていた言葉・・・

 

『貴女は彼を愛してなんかいない。
弱い貴女が縋っただけ。
そして、彼も貴女を決して愛してくれない』

 

暗闇の中に響いた言葉が脳裏を掠める。
でも、今の抱きしめてくれる力強い手に温もり。
そして、貴方の言葉・・・
だから私が貴方に送る言葉は一つだけ・・・

「貴方が他の女性(ひと)を選んでも・・・
どれほど苦しんでも、何があっても・・・
私は・・・貴方を・・・
貴方だけを愛しています」

お互いに眼を合わせそっと閉じる。
もう言葉なんて要らない・・・
想いがこもったキスを交わすだけで伝わりますから・・・

 

カッ!!

 

「っ!?」

突然の光にキスをやめ(名残惜しかったですけど)、 思わず身構える。
ここでは油断してはあっさりと心が砕けてしまうと解っているから。

「大丈夫だよ、瑞穂。
あれは出口だよ」

ポンポンと落ち着かせるように肩を数回叩きながら苦笑しているライルさん。
そういっている間に光は人一人が通れくらいになり安定している。

「先に戻ってて。
オレはまだ行かなくちゃいけない所があるから」

その言葉にまだ貴方の手を待っている人がいるとわかる。
正直、私だってライルさんがいてくれなければそのまま闇に任せていただろう。
だから・・・

「いいえ。
私はライルさんと一緒に行きます」

ライルさんは驚いた表情をし、諭すようにゆっくり話す。

「瑞穂・・・
君の気持ちは嬉しいし、オレも拒まない。
でも、よく考えてくれ。
瑞穂の他にリサ・ジャスティン・ミラにジェイル・・・
彼女達もそれぞれの弱さに苦しんでいた。
何とか助ける事は出来たけど、その内容は話されたくないと思うし話さない。
君だって話されたくないだろう?
後、モニカとフィリスを助けに行かなくちゃ行けないけど・・・
言いたいことはわかるね?」

「・・・はい」

それはモニカさん達の弱さを知ってもお互いに知り合う覚悟と、
その間はライルさんは彼女達を見ると言う事。
ただ、ライルさんに着いて行きたいという中途半端な想いでは駄目。
もちろんわかっています。
でも・・・

「私は着いて行きます。
残りがモニカさん達のみとなればなおさらです。
大丈夫。
あの人達の弱さを見届ける覚悟も話す覚悟も出来ています。
私たち3人にとって必要な事です。
たとえ私じゃなくても・・・モニカさんでもフィリスさんも同じ事を言うでしょう」

逆にライルさんの言葉も届かないのであれば彼を愛する資格がありません。
私は打ち勝ち、ライルさんを愛しているとはっきりと言えます。
だからこそ、見届けます。

「・・・そうか」

私の決意が伝わったのでしょう。
少し苦笑しているライルさんが私の手を掴みます。

「わかった。
瑞穂、俺に着いて来てくれ」

「はい!!」

本字を返した途端、光が消えてしまい、
私達の身体が消えていきます。
意識が途絶える前に心の中で呟きました。

さあ、モニカさん・フィリスさん。
貴女達の想いの強さ、見させていただきます。

 

 

―フィリス・清しき者―

 

「ニャー!!」

「あっ!?」

矢で自分喉を貫こうとした瞬間、
小さい白い影が横切った。
その影を眼で追うと・・・

「フー!!」

「・・・瑞穂さん」

口で矢を掴み、私に怒りの眼を向けていた。
その眼に耐え切れず視線をずらす。

「仕方ないじゃない。
私は生きていちゃいけないのよ。
いいえ、私自身が生きていたくないの。
・・・貴女に解りますか!?
ライルさんを愛していたこの想いが偽物と気づいた時の絶望感!!
このサキュバスの血の嫌悪感!!
私はただこの衝動を抑えてくれるなら誰でもよかったのよ!!
これ以上、ライルさんに迷惑を掛けたくない。
これが今の私に出来る唯一の償いなのよ」

想いの全てを吐き出して、瑞穂さんを見ると・・・

「ニー・・・」

「えっ?」

矢を置いて、俯いている。
でも、その弱弱しい鳴き声が彼女の言いたいことが解った。
『私もそうだった』と・・・

「瑞穂さん・・・?」

腰を上げて瑞穂さんに近づこうとすると・・・

 

「フィリス・・・」

 

最も聞きたかった優しい声と、後ろから抱きしめられてしまう。
この声、この温もり・・・
忘れるはずがない。
首を回して後ろを向くと・・・

「ライルさん・・・」

「遅れてゴメンね、フィリス」

最愛の人・・・ライルさんが微笑みながら抱きしめてくれた。

 

しばらくの間抱きしめられていましたが、
ライルさんがゆっくり手を解いてその場に座ったので私もそれに習います。
瑞穂さんは猫の姿のまま、ライルさんの膝の上に乗っています。
そして、いつの間にか『裏の私』の姿がありません。

「ライルさんはどうしてココへ?」

「どうしてって、フィリスが苦しんでいるから支えてあげたいから来たんだよ」

その言葉は今の私には受け取る事は出来ません。
私は貴方を愛していなかったという事実がありますから。

「ライルさん・・・
私は貴方に支えてもらえる資格なんて・・・ありません」

その言葉は震えて、また涙が流れそうだった。
でも彼の前では流せない。
もし流してしまえば、優しいこの人は同情するでしょう。
それだけは許せない。

「・・・どうして皆揃って生きる事や人を想うのに、
理由を付けたがるかな」

「えっ?」

皆・・・?
苦しんだのは私だけじゃない?
思わず瑞穂さんを見てしまう。

「瑞穂さん・・・」

「ニー・・・」

悲しみと後悔を込めた小さい鳴き声で返事を返してくれます。

「いや、君達の想いに関してはオレの責任だ」

「そ、そんな・・・」

何故?
ライルさんが悪いなんてない。
私が勝手に舞い上がっていただけなのに・・・

「瑞穂にも言ったけど、君達は返事を待っていたのに・・・
オレは今の日々が楽しくて、いつまでも続けばいいと思ってしまった」

「・・・・・・」

「君が今、何に苦しんでいるのかは解っている。
オレのいい加減な考えが君の想いに不安が生まれ、そこを付け込まれてしまった」

それなら私は・・・
まだ、彼を愛していいの?
この想いは本物なの?

「これだけは信じてほしい。
君を抱いている時、君に取っては単なる自慰行為だったかもしれない。
でも、 オレは愛しく思い真剣に君を愛した。
それに君は何処も穢れてなんかいないよ。
君や誰がそう言おうが、オレにとってはとても綺麗で清いままだよ」

「あっ・・・」

その言葉は私が望んで・・・
でも、もう2度と聴けないと思っていた言葉。
けど、ライルさんは言ってくれた。
それだけで、さっきまで感じていた暗い感情が消えていくのがわかります。

「なら、私は貴方を愛したままでいいんですか?
もしかしたら、身体だけ求めているだけかもしれませんよ?」

もう、彼への想いも私への想いも否定する気はありませんが、
これだけは聞いていたい。

「もしそうなら 、
今度はオレ自身を好きになってもらえるように努力するさ」

『と言っても、選べないオレが言っても説得力がないけど』と言うけど、
私にとっては胸が一杯になってしまう。

「ライルさん!!」

「おっと・・・」

ライルさんに飛びついて、言葉で現せられない想いを込めて力一杯抱きつく。

「私は貴方だけを愛しています!!
サキュバスの血なんてどうでもいい!!
ただ、貴方といつまでも一緒にいたい!!
愛し、愛されたい!!
だから・・・だから・・・!!」

「ああ・・・
オレも君を愛している。
こんな誰かと決められないオレでいいのなら・・・「んっ」・・・っ!?」

彼の言葉を塞ぐように私からキスをします。
ここまで言ってくれてそんな事を言う人にオシオキをかねて・・・

「もう私には貴方しかいないんです。
もし他の女性を選んでも、きっと振りかえして見せます。
当面の勝負は瑞穂さん達ですけど、きっと勝ち取って見せます」

チラッと瑞穂さんを見ると、『ムー』とした表情をしていて、
元の姿に戻る(ここが仮の世界か、服を着た姿で)

「自分を取り戻した瞬間、宣戦布告ですか?
言っておきますけど、私だってフィリスさんと同じように苦しみました。
でも私も最後にはライルさんを選んだんですから、何があっても諦めませんよ」

フフ、貴女も言ってくれますね。
まあ、これほど辛くても最後にはライルさんを選んだんですから、
当たり前と言ったら当たり前ですね。

 

カッ!

 

「っ!?」

突然光が生まれ、眼を閉じてしまいます。
ゆっくりと眼を開けると、一人分が通れるくらいの大きさの光のドアがありました。

「おめでとう、フィリス。
これで、『試験』は無事クリアだよ」

「おめでとうございます、フィリスさん」

・・・・・・
アアッ!
そう言えば、これって『卒業試験』だったんですね。
あまりの出来事にその事をすっかり忘れていました(汗

「フィリス・・・
もしかして『試験』って言う事・・・」

「い、いいえ!
別に忘れていたわけじゃありませんよ!!」

自分で言いながら『説得力ないなぁ』と思います。

「それはいいとして・・・
フィリスさん、貴女はどうしますか?
先に元の世界に戻りますか?」

「・・・ライルさん、まだいるんですか?」

主語は抜けていますが、伝わるはずです。

「えっと・・・
後、モニカがね・・・」

微妙に口元が引きつっているライルさんに不思議に思いながらも、
答えは決まっています。

「もちろん私もライルさんについて行きます。
駄目とは言わしませんよ」

「そんな事は言わないさ。
ただ・・・」

「言いたい事は解っています。
それでも私はついて行きます」

それはモニカさんの弱さを知ることと、
私の弱さを知らせる覚悟。
それぐらい出来なければライルさんを愛し・愛される資格なんてありません。
ライルさん自身はそんな事には拘りませんが、こればかりは譲れません。

「よし、わかった。
なら、行くよ!!」

スゥーっと私達の身体が消えていきます。

ありがとう、もう一人の私。
貴女が教えてくれたから、本当の意味で彼を愛する事が出来ます。
いつまでも私の中で見ていてくださいね。

 

 

―モニカ・過ちを直す者―

 

「ライル・・・」

あれから私は暗闇の中、呆然としたままそれしか言葉が出ない。
あれは幻想だったと言う事はわかっている。
でも、もしかしたら・・・
いや、本来あるべきだった過去だったかもしれない。
私もそうだけど、ライルがハンターの資質を持っていたことは奇跡と言ってもなお温いと思う。
ただでさえ少ないハンターの100分の1の男性ハンターがライルなんてご都合主義。
今まで笑い話しで済んでいたけど、思えばとてつもなく怖い出来事・・・

「ゴメンね、ライル・・・
ゴメンね」

ライルが死ぬ・・・
考えるだけでこの身が引き裂かれるくらいの恐怖。
お母さんが亡くなってから、ライルだけが私の心の支えだった。
その支えを自分の本当につまらない事で失っていたかもしれない。
こうして見せ付けられると、自分がどうしても許せない・・・

「私・・・
随分とライルに甘えていたのね。
生きているから・・・無事だったからって、眼を背けてこんな事にも気づかなかったんだから」

ライルに甘えてばかりで、私はライルに何かしたかしら?
・・・何もしていない。
本当、自分が嫌になる。

「こんな私じゃ、ライルと釣り合わないよ。
・・・それもいいかな。
アイツには私がいなくても、アイツのことを考えてくれる女性(ひと)がいるんだから」

フィリスと瑞穂が頭に過ぎる。
一瞬、私を抜いたライル・フィリス・瑞穂が笑いあっている光景が浮かぶ。
その時・・・

 

ゴチン!!

 

「痛ーい!!」

突然頭の上から衝撃を受け、頭を抑えながら蹲ってしまう。
ううー、何よ、突然!
痛みで涙目になりながら何とか顔を上げる。
するとそこには・・・

 

「痛いのは当たり前だ、このバカ」

 

手をグーに握ったままの怒った表情をしたライルがそこにいた。

 

「な、なにするのよ、アンタは!?
か弱き女の子の頭をゲンコツするなんてどういう了見!?」

「オマエが余りにもバカな事を言うからだ」

「っ!?」

その言葉が何を指すかは言わなくてもわかる。

「だって・・・
だって、そうじゃない!!
あの時、目の前の出来事しか写らなくてライルを危険な目に合わせてしまったのよ!
偶々・・・本当に偶々、ライルがハンターだったからモンスターを撃退したけどそれは運が良かっただけ!!
普通は逃げ出せるかどうかもわからないし、最悪あの幻想のようになっていたかもしれない!!
こんなバカな女の子なんてほっといてよ!!」

全てを言い切って、息つぎを付いてしまう。
言い切った後に、ライルがどんな言葉を返すのかとても恐ろしく感じる。
とても、ライルの顔なんて見れない。
俯いてただジッとしている私にライルは・・・

「なら、あの時はどうすればよかったんだよ?」

「えっ?」

予想外な言葉に顔を上げると、なぜかライルは微笑んでいた・・・

「あの時、オレはどうすればオマエは納得できるんだ?
モニカを見捨てて俺だけ逃げるのかい?
それともあの幻想のように庇って死ねばいいのか?」

「それは・・・」

答えられない。
しかし、答えは持っている。
それは今のように2人とも生きていると言う答え。
でも、私が言える言葉じゃない。

「あの時は、ハンターの資質を持っているなんて知らなかった。
でも、そんな事はどうでもいい」

「どうでもいい?」

どうして?
ハンターの資質がなかったら・・・

「あっても、なくても、オレはモニカを助け出した。
そして・・・」

「そして?」

「例え無くても、あの幻想のようにモニカを残して死なない。
必ず生きてみせる!」

「ライル・・・」

それは今だからこそ言える言葉かも知れない。
でも、ライルはそうじゃない。
コイツは本当にそう思っているし、揺らぐ事の無い決意を持っている。

「だから、さっきみたいに悲しい事を言うなよ。
オレだって・・・」

「・・・・・・」

ライルの次の言葉をジッと待つ。
それが私の求める言葉に違いないから・・・

「・・・オレだって、モニカが好きなんだから」

その言葉と共に私を抱きしめてくれる。

「ラ、ライルゥ・・・」

その温もりと優しさに涙が流れる。
それはさっきまでと違う、嬉しい涙が・・・

「本当に私はアンタ・・・いいえ、貴方を愛していいの?」

「ああ。
こちらから頼む」

「また、料理を作ってくれる?」

「いいよ。
でも、モニカも少し料理を覚えようね」

「私は嫉妬深いよ?」

「それは良く知っているよ」

「・・・ずっと側にいてくれる?」

「ああ。
まだ答えを出せないけど、どういう関係になってもどんな事があっても側にいるよ」

それが今の貴方の精一杯の答え。
なら、その迷いが消せるように私を好きになってもらうしかない。
覚悟してね、ライル。

「ライル・・・」

「モニカ・・・」

ごく自然にキスを交わす。
絶対、私だけしか見ないようにしてみせるからね!

 

「「コホン!!」」

 

「っ!?」

「あ・・・」

突然、よく知っている2つの声で離れてしまう(もうちょっとしていたかったな)
声の方に振り向くと、予想通りフィリスと瑞穂が拗ねた表情で立っていた。

「モニカさん、少し長すぎるんじゃありませんか?」

「そうですよ、私の時はこちらからしたのにモニカさんとなら、
自然にするんですから」

うわー
ライルったら冷や汗だらだら出てきちゃって。
仕方が無い、助けてあげますか。

「まあ、いいじゃない。
どうせ、貴女達もライルとキスしたんでしょ?
おあいこじゃない」

「「「むー」」」

 

バチバチバチ!!

 

助けるどころか私達は火花が散る。
いつものやり取りだけど、私を含めて気迫が段違い。
・・・上等。
これでこそ恋敵(ライバル)よ!!

「あ、あのー」

「「「何(んですか)!?」」」

ビクビクとしながら、声をかけてくるライルに思わず睨んでしまう。

「そこに出口があるからいい加減に元の世界に戻りたいなーって」

ライルが指さす先に大きな光があった。
どうやらそこが出口らしい。

「これで全員『試験』をクリアしたんだから・・・ね」

私としては『試験』云々より決着をつけたいけど、
渋々休戦となる。
ここの辺りが惚れた弱みだと感じてしまう。

「よし!
では、帰りますか!?」

「「「おーう!」」」

光に向かって走り出して、飛び込む。
すると段々意識が遠のいていくけど、不安は無い。
途切れる前に感謝と愛おしさを思い出す。

ありがとう、ライル。
こんな私を好きだといってくれて。
私はずっと貴方が好きよ。
だから、絶対逃がさないからね!!
フィリス・瑞穂、ぜーったい譲らないから!!

 

 

―???・???―

 

ライル達が行った後、光が消えていくのを見守るかのように
いつの間にか5人の存在があった。
彼らは、彼らの試験に出てきた者達だ。

 

リサとモニカ襲い、ライルを刺したモンスター

ジャスティンの父親

アイザック

姿は見えないが瑞穂にかけた『声』の主

裏のフィリス

 

アイザック以外の姿がブれ、男女4人に変わる。

「ハア・・・
久しぶりだったけど、大変だったな」

「もう・・・
センセーは父親でいいじゃない。
私なんて彼女に姿になって、あんなセリフにあんな映像よ」

「そうですよね、アイリさん。
僕なんてモンスターで襲うわ刺すわですよ」

「あはは・・・
お疲れ様、クリフ。
私は声だけだけど、キティと私達の子孫に会えたからよかったな」

「ミーナよ、ちなみに現世ではサイフォン家は残っているが
ウェスタンは血こそ残っているが名は無いぞ」

「意地悪な言葉ですね、アイザックおじ様」

「では改めて聞きますが、彼らはどうでしたか?
貴方を倒した時より成長していましたか?」

「汝も意地悪よの、ウィルよ。
・・・ミラが人間になっていたのは予想済みよ。
その辺りにしてはマシだが、まだまだヒヨッ子よ」

「あらあら、これは厳しいわね」

「彼らは強くなりますよ。
精神的にもね」

「そうね・・・」

「フン」

「そろそろろ俺達も戻ろうか?」

「はい、センセー」

「帰ろうか、ミーナ」

「ええ」

「まあ、暇つぶしにはなったわい」

 

そう言うと、彼らの姿は闇の溶けて消える。
彼らが何のために、何故ここにいるかは謎のままで・・・

 

 

最終話へ続く