―魔法学園特別卒業試験―

学長に認められた特異な実力を持つ生徒のみが挑戦できる試験。
歴代学長はもちろんの事、教師達も受けている。
その内容は力や知識・魔法など関係なく、精神力を・・・心の強さを見る為のものだ。
心の底にある恐怖を呼び起こされる。
過去、その試験に挑んだ優秀な生徒が、
二度とハンターとして復帰できなくなってしまう事も多々ある。
それを乗り越えられる事が出来るかは実力や運ではない、自分自身に掛かっている

 


2002 スタジオ・エゴ!『メンアットワーク3』

『その後の物語』
第5話・卒業試験(中編)


 

―リサ・失った者―

 

「・・・ん」

ここはドコっすか?
周りが真っ暗っすよ・・・

「兄貴ー!
皆ー!!」

ウウッ、誰もいないっす(汗
・・・・・・
・・・
そうっす!!
これは試験だから、一人だけというのは当たり前っすね!!
兄貴ならカンニングぐらい絶対するっす(断言

「よーし!
リサ、頑張るっすよ!!」

と言っても、何をすればいいんすっかね?
それに何か身体が重いような・・・

 

「キャーーーー!!」

 

悲鳴!?
周りを探すと女の人がモンスターに襲われてるっす!!
急いで助けるっす!!

「こらー!
その女の人から離れるっす!!」

これが試験っすね!
無事に助け出したらクリアっすよ!

「ハアアア!!」

モンスターもそれほど強くないザコっす!!
この一撃で終わりっす!!

 

ペコ・・・

 

え?
力が・・・

 

ブォン!!

 

「アウ!!」

一撃で倒すどころか弾き飛ばされた。
それより力が・・・
力が出ないっす・・・
・・・違う。
リサ自身は全力を込めてモンスターを殴ったっす。
という事は力が『出ない』じゃなくて『失った』?

『グルグルグル・・・』

さっきまでいた女の人が消えて、モンスターがこっちに来るっす・・・

「ア・・・アア・・・・・・」

今まで戦った時に恐怖を感じた事はなかった。
例え、アイザックの時でも少しだけの力と兄貴達が居てくれたから。
でも・・・
今は力を失い、兄貴達もいない・・・

「ア・・・アアア」

リサから力を・・・戦う事が出来なかったら何が残るっすか!!?

「アアアアア!!」

『グアアアア!!』

 

 

―ジャスティン・認められない者―

 

「ココは・・・僕の屋敷?」

渦―門(ゲート)―に飛び込んでから気を失っていたらしく、
身体を起こしながら周りを見ると、目の前には魔法学園に来る前に住んでいた屋敷があった。

「でも、何でココに?」

屋敷の周りや町の方にも人の気配がない。
確かこれは試験のはずだけど。
入れと言う事かな?
これが本当に試験で屋敷が目の前にあるという事はそうとしか考えられない。
正直言って、良い思い出はないけど仕方がないね。

 

ギィィィ

 

ドアを開けて中に入っても誰もいない。
どこに向かえいいかなと考える前に足が勝手に歩き出した。
そして止まった先は・・・

「執務室・・・」

そして・・・お父さんがよくいた部屋。
無意識にドアノブを捻ってドアを開ける。
すると・・・

「お父さん・・・」

小さい頃に亡くなってしまった大好きなお父さんが目の前にいる。
イスに座って後ろを向いているけど僕にはわかる。
夢でも幻でもいい。
お父さんに抱きしめられたい!
その大きな手で頭を撫でてほしい!!
一歩踏み出そうとすると・・・

 

『なぜオマエは男として生まれてこなかった?』

 

「っ!!」

今まで聞いたことがない冷たい声で僕の体が動かなくなった・・・

 

『なぜ女に生まれてきたのだ』

『男のように育てても女である事には変わりはない』

『なぜだ?』

『なぜ・・・』

 

「もうやめて!!」

前に行くはずだった足を後ろに向きを変え、
部屋から飛び出す。

屋敷の人達は僕を領主として認めてくれなかった。
女だから・・・
ただ、それだけの理由で。
それでも認められるために頑張った。
だから魔法学園でも男として入学したんだ。
でも、お父さんに認められなかったら・・・

「ハア、ハア、ハア・・・」

息が切れて胸が苦しいけど、全てから逃げるように走り続ける。
いつの間にか屋敷が消えて、暗闇しかないことにも気づかないまま・・・

 

 

―ジェイル&ミラ・決断させられる者―

 

「真っ暗だな」

「ええ、真っ暗ね」

ゲートに飛び込んでみれば、全てが暗闇に包まれている空間にでてきた。
取りあえず、ジェイルの姿は見える事だし特に問題はない。

「で・・・
これからどうするんだ、ミラ?」

「さあ、どうしようかしら?」

逆に言えば、何をどうしたらいいかわからない。
このままというのも・・・

「オレとしては『モンスターが大量に出てきてぶっ倒す』というのを期待したんだがな」

「ハア・・・
本当にそういうのが好きね」

「当然!」

「フウ・・・
せいぜい頭を使わない試験だと言う事を祈りましょう」

それだと私は平気だけどジェイルは絶対落ちるわ。

「その時はミラに全て任せる」

「・・・それはいいけど、2人一緒に受からなくちゃ意味がないんだから頑張ってよ」

「・・・努力しよう」(汗

ジェイルを苛めるのもこれぐらいにして、本当にどうしようかしら?
これからの事を考えようとすると・・・

 

『フッフッフッフ・・・
しばらく見ない内に随分丸くなりおったな』

 

「「っ!!」」

 

バッ!!

 

突然、後ろから気配を感じてその場から離れて間合いを取る。
そして改めて敵を確認すると・・・

「爺さん・・・」

「アイザック・・・」

私の生みの親、すでの滅んだ筈のアイザックが立っていた。

「久しいな、若造共」

「・・・おい、ミラ。
これが『試験』か?」

「どうやらそのようね」

アイザックを無視してすでに剣を抜いているジェイルと小声で話し合う。
しかし、参ったわね。
お互い、私が人間になった時より力が上がっているとはいえ、まだ勝てる見込みはない。

『・・・ほう。
ミラよ、人間になったのか?』

「ええ、そうよ。
悪い?」

『いや・・・
ただ呆れておるのだ。
力を失ってまで下等な人間になぞになったことにな』

「このっ!!」

「ジェイル!!」

アイザックの言葉に飛び出そうとするジェイルを止める。
怒りで飛び掛ったぐらいじゃ勝てる相手ではない。

『ならば、ワシが元の存在に戻してやろう』

えっ?
どういうこと?

『カア!!』

「っ!」

アイザックが手を私に向けて魔力を放つ。
すると・・・

 

ドックン!

 

「アッ・・・」

熱い・・・

 

ドックン! ドックン!

 

「アアッ・・・」

身体が熱い

 

ドックン! ドックン! ドックン!

 

「アアアアアアアアア!!」

「ミラ!!」

身体が熱い!
それにこの感覚は・・・

「ジジイ!
ミラに何をしやがった!?」

『フフ・・・
大したことではない、こやつを元の存在・・・ホムンクルスへ、いや吸血鬼に戻してやったのよ』

「なに!!
おい、ミラ!?」

「ハア、ハア、ハア・・・!」

立っていられなくて、肩を抱くようにして両膝を付いてしまう。

「テメェ・・・」

『ワシを睨むより自分の心配をしたらどうだ?』

「なに?」

この衝動は・・・まさか!

「ジェ・・・ジェイル・・・」

「何だ、ミラ!
何が言いたい!?」

「私から・・・は、離れて・・・」

『苦しかろう?』

「どういうことだ、ジジイ!?」

『ついでにこやつの吸血衝動を限界までに上げてやったのよ。
そして今すぐ血を飲まなくては肉体が維持できなくなり、崩壊する』

「っ!!」

「くっ!」

今まで生きてきた中で比べ物のないくらいの衝動・・・
いつの間にか牙も生えてきている。

「ミラ、オレの血を吸え!!」

アイザックが・・・敵が目の前にいるのもかかわらず、肩をはだけ出してくれる。
その気持ちは嬉しい。
でもこの衝動に従うわけには行かない。

「だ、ダメよ・・・ジェイル」

「何でだよ!!
このままじゃ、オマエが死んじまうんだぞ!!」

『ほう・・・
そこまで理解しておるのか、さすがだ』

「まだ何かあるのかよ!!」

『今の吸血衝動は並大抵ではない。
一度、喰らえばその者の命が尽きるまで吸い続けるであろう』

アイザックの言うとおり。
ジェイルの命が失うのは耐えられない。
それに・・・

「わ、私は・・・に、人間になったのよ・・・クッ。
だ、だから、絶対・・・も、もう2度と・・・ハアッ・・・血を吸わない!!」

これは私の誓い。
人間になった時からの・・・
たとえ自分の命を失おうとも絶対の・・・

「ジジイ!! ミラを人間に戻しやがれー!!!」

私から離れてアイザックに斬りかかるジェイル。
ところが、アイザックは避けるようともせずに大剣に横切りされる。

「なっ?」

『クックック・・・
例えワシを斬ろうとも止まる事はない。
一方通行よ。
残念だったな』

斬られたアイザックの身体が霧となって消えていく。

「クソー!!」

ジェイルが消えた場所に剣を突き立てて絶叫する。

「ジェ、ジェイル・・・」

「ミラ!!」

ジェイルを呼び戻して、
何とか顔を上げる。

「ジェイル、お、お願いがあるの・・・」

「な、何だ、俺に出来る事は何でもする!!
だから死ぬな!!」

ありがとう。
誰よりも貴方にそう言われればそれだけで充分よ。
だから・・・

「お願い・・・私を斬って」

「なっ!!」

「このままじゃ、吸血衝動に耐え切れなくなってジェイルを襲ってしまうわ。
その前に・・・」

「だから、オレの血を吸え!!
それでミラが助かるなら・・・!!」

その気持ちは嬉しい。
でも貴方がそう思うように私も・・・

「私はジェイルを犠牲にしたくない。
それに吸血鬼として死ぬのも嫌・・・
だから今のうちに、『人間』として死にたい・・・
誰でもない、貴方の手で・・・」

「ミラ・・・」

ジェイルがギュッと抱きしめてくれる。
あまりの悲しさと愛おしさなのに、私は口元にあるジェイルの首に牙を突き立てようとするのを止めるので必死だった。

「お願い」

キスをして私から離れてまっすぐ立ち上がって目を閉じる。
見なくても解る。
ジェイルが泣きながらも剣を振りかぶっているのを・・・

「愛しているわ、ジェイル・・・」

「・・・オレもだ」

その一瞬後・・・

「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」

ジェイルは全ての感情を込めて絶叫 し、剣が振り落とす!!

 

 

―瑞穂・疑いし者―

「・・・ここは?

少し呆然としていたのか記憶が曖昧になっている。
周りを眺めると湖を小船で渡っているようです。

『瑞穂様、どうかなさいましたか?』

後ろを振り向くと小船を漕いでいる男性を見る。
確かに見覚えがあるような・・・

『やはり、母上様の敵討ちに瑞穂様でも緊張なさっておられるのですか?』

敵討ち?
お母さんの・・・?

「あの・・・
今はドコに向かっているのですか?」

『?
瑞穂様が手がかりを見つけてきたじゃありませんか。
「魔法学園の教師に刺青がある者が敵」だと。
ですから私めが魔法学園に入学する瑞穂様お送りしているのですよ』

思い出した!
幼少の頃に無残に殺されたお母さんの敵を討つために魔法学園に入学するのではないか!
なぜ、このような時に意識が曖昧となっているのか!

「ごめんなさい。
ようやく敵が討てると思うと、
今までのことを思い出して思考に沈んでいました」

『いいえ。
瑞穂様の決意は私達がよく知っています。
では、もう少しで到着しますので・・・』

「わかりました」

思わず突いている刀に力が篭もる。
お母さん、見ていてください!

 

『では、私めはここで失礼します』

「ご苦労様」

『いいえ、ご武運を』

少し強行に出たけど、お昼前に着いたのはよかった。
さて、確か予定では入学式があると・・・
取りあえず、中に入りましょう。
踵を返して階段を上がろうとすると・・・

『こんにちは』

「?」

声をかけられてその方のほうを向くと・・・

制服を着た見知らぬ『女性』が立っていた。

 

彼女達・・・モニカさんとリサさんも入学生だという事で集まり場所まで案内してもらい、
すぐに別れた。
私には仲間など必要ないと考えていたから・・・

 

それからは様々な出来事があった・・・

ルームメイトであるフィリスさんからも事情を聞き私も話した。
でも、それだけでお互い自分しか頼らなかったから・・・

自然魔法のアーウィン先生はとても真面目で教え方がうまく、
誰でも学べる知識に驚きを隠せなかった。

ある時、龍道先生が時々ご自分の部屋にあるお風呂ではなく、
大浴場に入っている事を知り、夜に見張る事にした。
だが、やはり行動がマズかったのか(疑問に思う程度)『誰かがお風呂を覗いている』という噂が出回ってしまった。
もちろんその中で唯一男性ハンターであるジャスティンさんが疑われ、彼とパーティーを組んでいるモニカさん・リサさん・フィリスさんに見つかってしまった。
さすがに申し訳ないと思い事情を話し、モニカさん達も協力を約束してくれて私もパーティーに加わった。

龍道先生をお風呂に入らせ、ギルバード先生には水をかけ、マリオン先生には彼から聞き、
ロレッタ先生はフィリスさんから聞き、学長先生には失礼と思いながらシャワーの所で確認させてもらった。

もちろん、夜の冒険(?)も力を入れた。
ジェイルさんと出会って何度も戦ったり、外に出て町で皆さんと遊んだ事もありました。

実際、皆さんと共にいると仲間がどれほど大切かを痛感させられました。
今まで肩肘張って一人でやってきたことに苦痛と思うようになるほど・・・

 

けど、そんな楽しい時も突然終わりを告げました。

学園にあった『賢者の石』を狙っていたジェイルさんとミラさんと戦い、
からくも勝利をつかんだ時、強力な魔法でその場一帯が吹き飛ばされる危機にあった。
その時、アーウィン先生が新種の魔法で助かったけど見てしまった・・・
彼の背中に『刺青』があったのを・・・

私はアーウィン先生に敵討ちを申し込み、
後一歩の所で斬る覚悟が出来なくて逃げてしまった。
湖の畔で後悔していると、突然敵に・・・お母さんの真の敵であるアイザックが現れました。
応戦したけど、一人では歯が立たなくもうダメだと思いましたがモニカさん達が助けに来てくれた。

姿を消したアイザックを追いかけ、今度は皆さんと一緒に戦った。
私は一人じゃない、皆がいてくれる!!
皆さんのフォローもあり、ついに私の一太刀がアイザックにトドメを刺してようやく全てが終わりました。

その後は、平穏な日々を送れました。
ミラさんも念願の人間になることが出来、お互いに高めあいました。

そして、ついに魔法学園卒業試験に挑む時がきました。
それも通常ではなく、『特別』試験を・・・
でも、私は挑む。
私は心身共に強くなった。
だからこそ、今度も絶対大丈夫!

「参る!!」

改めて誓い、私はゲートに飛び込んだ・・・

 

 

「はっ!?」

気が付くと周り全ての空間が暗闇に閉ざされている場所で立っていた。

「今のは・・・?」

今までの事を思い浮かべようと様々な事を思い出す。
私の記憶の中には確かにライルさんの存在を覚えている。
なら、先程のイメージは幻想?
あの中にはライルさんは出てこなかった。
いや、あの幻想の中でも確かに私の意思はあった。

「・・・ッ!」

それなのに私はライルさんのいないことに、
何の疑問も違和感も感じなかった・・・?

「どうして・・・」

それどころかとても充実していた。
ライルさんがいなかったのに・・・

「私は・・・」

私はライルさんが好き・・・
愛している・・・
なら、どうしてライルさんがいない事を無理やり流れを作った幻想に『満足』しているの・・・

 

『クスクスクス』

 

「何者!?」

突然聞こえた笑い声に咄嗟に刀に手をかける。

『私が何者かなんて関係ないわ』

「なら、私に何の用ですか?」

姿を見せなく暗闇の中、人をからかう声だけが聞こえる。
だが、隙を見せないように柄を握る手に力が篭もる。

『ちょっと、親切に勘違いしている貴女に教えてやろうと思ったのよ』

「・・・?」

その言葉の意味が何を指しているのかが解らず警戒を続ける。

『ただ、ちょっと気を許した男に恋だの愛だと勘違いしているのをね』

「!!」

その瞬間、冷たい悪寒が全身を駆け巡った・・・

「な、何を世迷言を!!
私は・・・!!」

『彼を愛している・・・と言える?』

「・・・・・・ッ!!」

『言えないわよねぇー。
彼がいなかったことにも気づかない幻影に満足している貴女に』

身体が震えるのを止める事が出来ない・・・
それ以上に心が痛い・・・

『ほら、よく言うじゃない?
「戦争や闘いで芽生えた恋はうまくいかない」って』

「ち、違う!!
私はそんな出鱈目やいい加減な・・・」

力強く否定しようにも、声が震えている・・・

『なら、はっきりと言ってあげる』

今までの口調と変わって、感情のない冷たい声が暗闇の中に響き渡る。

『貴女自身は強がっているけど、実際は寂しがりやの一人の女。
そんな貴女が彼の優しさに触れて縋りたかっただけ』

「ち、違っ・・・」

『いいえ、違わない。
さっきの幻想がその証拠。
例えば彼じゃなくても、他のある程度優しい男が現れれば結果は同じ。
魔法学園には男が少なかったからそういう幻想は見せられなかったけど、予想通り仲間に縋った。
今以上に』

「・・・・・・」

これ以上聞きたくない!!
その場から走り去っても、耳を塞いでも『声』は消えてくれない。

『違うと思うなら逃げずに証明してみなさいよ?
ま、無理だと思うけどね。
本当に愛しているなら、彼の返事をいつまでも待ってるの?』

「ハア・・・ハア・・・!!」

『どうして全てを捨ててでも彼を手に入れないの?
なぜ他の女達と一緒に待ってるの?』

解らない・・・
もう・・・全てが解らない・・・

『なら、私が教えてあげる』

えっ?
本当・・・?

『ええ。
貴女は彼を愛してなんかいない。
弱い貴女が縋っただけ。
そして、彼も貴女を決して愛してくれない』

ライルさんは・・・私を・・・愛してくれない・・・?

『さあ・・・
全てを忘れて闇に全てを委ねなさい。
そうすればその苦しみから救われるわ』

そして・・・

私は・・・

闇に全てを・・・

・・・委ねた

 

 

―フィリス・穢れし者―

 

「貴女は誰?」

『貴女は誰?』

気が付けば暗闇の中に立っていて、
後ろに気配を感じて振り向くと『私』がいました。

「・・・もう一度聞きます、貴女は誰?」

『・・・もう一度聞きます、貴女は誰?』

咄嗟に離れて弓矢を構えると、
相手も私と同じ行動をし、弓矢を構えてきます。

「・・・」

『・・・』

これが『試験』ですか・・・
本当に鏡の前に立ったように、同じ動作・同じ言葉を返してきます。
このままでは埒があきませんので、警戒しながら『彼女』に話します。

「私はフィリス、フィリス・サイホン。
魔法学園の生徒で、ライルさんを愛する女の子です」

何故か言わなくてもいい事まで出てきましたが、
『彼女』は気にもせず答えてきました・・・

『私はフィリス、フィリス・サイホン。
呪われしサキュバスの血を引きし、ライルさんの身体を求める卑しき女』

「っ!!」

それも最悪な答えで・・・
なるほど、これが『試験』ですか。
けど、私は負けません。

サキュバスの血の事は吹っ切ったんですから。

「訂正してください。
私の姿で想いを侮辱しないでください」

弓矢に力が込めて要求します。
これ以上言うなら、戸惑わなく打つつもりです。

『違わない。
それが真実だから』

「・・・もういいです。
消えなさい」

彼女・・・『敵』に狙いを定め手を離す瞬間、動きを止められた。
違う、動かないの?
なぜ?

『私は貴女、貴女は私』

「どういう意味ですか?」

弦から手を離せば矢が飛ぶのに、それどころか話を聞いているの?

『貴女は表の存在。
理性や嘘を持ち、曖昧な存在。
私は裏の存在。
本性や何も偽らない、はっきりとした存在』

「裏の・・・存在・・・?」

心の奥底に住むもう一人の私?

『ええ。
表の貴女はライルさんを愛していると思っているけどそれは間違い。
本当は身体だけを求めて、その理由がほしかっただけ』

『ち、違う!!
私は本当にライルさんを愛してる!!』

彼を愛し・愛され、結婚し子供を産む事が私の夢。
初めこそサキュバスの衝動でライルさんを襲ったけど、今は・・・!!

『貴女は彼を愛していない』

「いいえ!
愛してる!!」

『なら、どうしていつも貴女から求めているの?
しかも、衝動が始まった時だけ。
本当に愛しているなら、普段の自分で「抱いて」もらわないの?』

「そ、それは・・・」

考えてみれば、ライルさんとの行為を抱いてもらっていると言えるのだろうか?
衝動を抑えるだけの自慰行為・・・

『別にライルさんじゃなくてもよかったのよ。
貴女も言ったじゃない「近くに男の人が・・・貴方がいるから」って』

な、何ですって?

「違うわ!
私はライルさんしか身体を許さない!!
例え、自慰行為でも愛してもらわなくてもライルさんしか・・・!!」

『認めたわね、ライルさんとの行為を自慰と』

咄嗟に出た言葉に自分自身に驚きを隠せない。
咄嗟でも・・・いいえ、咄嗟だからこそ考えずに出たその言葉が信じられない・・・信じたくない。

「わ、私は・・・」

『まだ本当には認めていないようですね。
なら見せてあげる。
ちょっとした事で有り得たかもしれないイフの未来を』

「えっ?」

『さあ、見なさい!
そして自分自身を認めるのよ!!』

急に周りが真っ白になり、弓矢も放して顔を覆う。
顔を上げると、様々な幻想が流れた・・・

 

ライルさんが瑞穂さんを選び、
相手をしてもらえなくなり彼女を襲っている私・・・

人間にしてやるとライルさんを裏切り、アイザックに賢者の石を渡してしまった。
それどころかアイザックの弟子として皆さんと戦い、死掛けのライルさんと快楽の為の性交を交わしている私・・・

最後には・・・・・・
アイザックと交わり、腰を振りながら悦んでいる私・・・

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

幻想が途切れ、元の暗闇に戻ったけど、
あまりのショックで頭を抱え膝を折ってしまう。

『どう、わかりましたか?
貴方は誰でもいいのよ、その快楽を抑えてくれるなら。
そのサキュバスの血だけじゃない、貴方の本性よ』

「ち、違・・・」

全身の振るえと涙が止まらない・・・
その事実に悪寒が纏わり付く。
でも・・・一部分だけ熱くなっている。

『ここまで来て否定するのですか?
なら、どうして下着が濡れているのですか?』

「ヒッ・・・」

知られたくなかった事が知られて、悲鳴を上げてしまう。
触らなくてもわかる。
お腹の芯から熱く、濡れていると・・・

『興奮したんでしょう?
自分の情事を見て・・・
他の男と交わっている所を見て。
それが淫らな証拠よ』

わ、私は・・・

『さて・・・
認めた事ですし、どうします?』

「えっ?」

顔を上げ、認めたもう一人の私の言葉を待つ。

『これからもサキュバスの血に振り回され、男を憂さぼるか・・・
それとも・・・』

目線が私から外れ、同じ方を見ると落ちている弓矢があった。

『ここで全てに決着をつけます?』

甘い口調でいうその言葉に私は・・・
ワラッた・・・

「ええ、もちろん」

矢を拾い上げ、先を首元へ持ってくる。

『さあ、そのまま貫きなさい。
そうすれば貴方はサキュバスの血から離れるわ』

「はい・・・」

さようなら、ライルさん。
貴方に会えただけで私は幸せでした・・・

『さあ!』

「っ!!」

力を込めて矢を首へ・・・!!

 

 

―モニカ・過ちを犯す者―

 

「あれ?
私は・・・」

記憶が曖昧になっている頭を振りながら周りを見渡すと、
私が住んでいる山奥の村の外れに立っていた。

「どうしてこんな所に・・・?」

『オーイ、モニカ!!』

首を傾げているとライルが走って来るのが見える。
村で何かあったのかしら?

『ハア、ハア、ハア・・・』

「どうしたのよ?
そんなに息を切らして」

私の前で膝に手を当てて息を切らしているライルになおさら首を傾げる。

『ど、どうしたのって・・・
村のお祭りの準備が出来たのに、モニカがいないから探したんじゃないか!』

お祭り?
えーっと・・・

「アアー!!」

思い出した!
今日は年に一度の村のお祭りの日じゃない!!
どうして私はこんな所で突っ立ってんのよ!!

「アーン!
早く戻らなくちゃ、料理がなくなっちゃう!!」

こうしちゃいられないわ!!
ダッシュよ!!

『アッ、オイ、モニカ!!
置いていくなー!!』

ごめんね、ライル。
おいしい料理が私を待っているのよ!

 

広場に着いて私は早速、料理を味わった。
ライルは私の前に来たとき以上に息が切れて怒っていたけど、最後には許してくれたわ。
さすがライル!

けど、その平和な時間もすぐに残酷な時に変わるとは私は少しも思わなかった・・・
それは走りこんできた村人の一言から始まった。

 

『オーイ、大変だー!!
モ、モンスターが山から下りてきた!!』

 

「『っ!』」

モ、モンスター!?
どうしてこんな頃に?

「ラ、ライル、どうしよう!?」

頭がパニックになりながら、隣にいるライルに振る。

『ど、どうしようって・・・
モンスターはハンターしか倒せないし・・・』

もちろんそんな都合よく、ハンターがいるわけがないわ。

 

『来たぞー!!
逃げろー!!』

 

ゲッ!
も、もう襲ってきたの!?

『モニカ!
俺達も逃げるぞ!!』

「え、ええ・・・」

ライルに手を掴まれ逃げようとするけど 、
私はある事に気が付いてしまった。

「ちょ、ちょっと待って!
せっかくのお料理が・・・」

『こんな時まで、食いもんの心配かよ!!(汗
そんなことはいいから逃げるぞ!!』

でも、どうしても諦め切れない。

「せめてリンゴだけでも!!」

『あっ、モニカー!!』

ライルの手を振り解いて喧騒の中に飛び込んでいく。
この事が後悔することも知らずに・・・

 

「あったあった」

下に落ちているリンゴを片っ端から拾っていく。
やっぱりモンスターなんかに食べられるなんて勿体無いじゃない。
リンゴ拾い(名前通りのホノボノさはないけど)に夢中になっていて、
私を狙って近づいてくるモンスターに気が付かなかった。

『モニカー!
危ない!!』

「へっ?」

顔を上げるとモンスターがすぐ側にいて、
ナイフを振り下ろそうとしていた。

「キャァァァァ!!」

 

・・・・?

目を瞑って来るべき衝撃に備えていたけど、
何も起こらない事が不思議で再度顔を上げると・・・

『モニカから離れろ!!』

「ライル!!」

ライルが拾ったナイフでモンスターを刺していた。
でも・・・

 

『グワアアアアア!!』

 

『チッ!!』

刺されたモンスターは倒れる事なく、逆上して暴れる。
よく考えてみれば当たり前。
モンスターを倒せるのはハンターだけ。
普通の人が銃を撃っても効果がない。
ただでさえハンターの資質を持つ人は少ないのに、
噂だと男性のハンターはそのさらに100分の1の確立らしい。
こんな都合よくライルがモンスターを倒せるはずがない。

『モニカ、逃げろ!!』

「で、でも・・・」

逃げろと言われてもそんな簡単に逃げれるはずがないじゃない!
私の責任なんだから!!

「っ!
ライル、後ろ!!」

『何!?』

私に呼びかけている隙にモンスターがライルの背後に回った!

そして・・・

見てしまった・・・

モンスターのナイフが・・・

振り向いたライルの心臓を・・・

刺した

『グフッ!』

「いやぁぁぁぁぁ!!
ライルー!!」

ナイフが抜かれ、ライルの胸から血が飛び出す・・・
私はライルにの所へ駆け込もうとするけど、心配した村の人達が私を掴まえて走る。

「離して!!
ライルが、ライルが!!!」

『アイツはもう駄目だ!!
逃げるぞ!!』

そんな・・・
駄目よ!!
ライルが死んじゃうのよ!!

「今から助ければ・・・!!」

『どうやって助けるんだよ!
俺達はハンターじゃないんだ!!
モンスターを倒す事は出来ない!!
せめて生き残るために逃げるしかないじゃないか!!』

「で、でも・・・!!」

あまりの正論に言い返す事が出来ず、
倒れたライルを見る事しか出来ない

『ライルだってそれを望んでいるはずだ!!』

違うわ!!
私が・・・私がこんな事をしなければ・・・!!

『逃げるぞ!!』

男の人に担がれてその場から離されていく。
ライルが遠くなり、涙でその光景が見えなくなってくる。
そして段々暗闇に閉ざされていく

ライルは私の心の支えなのよ!

そのライルが死んじゃったら・・・

それも私のせいで・・・

それなら私も・・・

死ぬしかないじゃない!!

 

 

―ライル・見とどける者―

 

「何だよ、これ・・・?」

ゲートに飛び込んだかと思えば周りが真っ暗だし、
目の前に6枚の大きな鏡があり、見せる内容もトンデモナイ。

 

ミラが力を封じられ、モンスターに襲われる・・・

ジャスティンは実は女の子だったというのも驚きだけど、父親にすら拒絶される・・・

ミラがアイザックのせいで吸血化してジェイルに斬られようとする・・・

瑞穂はオレへ想いに疑問を感じ全てを投げ出す・・・

フィリスはサキュバスの血に振り回され自害しようとする・・・

モニカはオレが殺され、心を閉ざす・・・

 

どれをとっても生半可な事じゃない。
もちろんそれぞれに声をかけても聴こえないのか、効果がない!
これが『試験』っていうのかよ・・・

「こんな・・・こんな事ってあるかよ」

皆が絶望しているのをオレは・・・

オレは見ている事しか出来ないのかー!?

 

 

後篇へ続く