「まさか、本当に一日で済ませてしまうなんて・・・」(呆

「へっへーん!
一回も間違わなければ、これくらいなんともないもんね」(v

「えっ?
一度もですか?」

「ああっ、信じてないわね!!
ちゃんとシルファにも確認してもらっているんだから!
・・・その後、貴明の家に行こうとした時にはもめたけど」

「・・・それで?」

「ひっきーと言い合いになって、瑠璃ちゃんが止めてくれた」

 

『こんな時間に騒ぐんやないー!!
さんちゃんが起きてしまったら、どないすんねん!!
貴明の所でもどこでも行ってきたらええ!!』(激怒

 

「って」

「・・・単に煩かっただけじゃないですか?」

「でも、ちゃんと許可をもらったことでしょ?
シルファも大人しくなったし。
ほら、瑠璃ちゃんから手紙預かってるよ?」

「手紙・・・ですか?」

「うん。
メモくらいの大きさだけど」

「どれどれ?」

 

『好きにさせぇ、うるさくてかなわん。
イルファは朝、帰ってたらええで』

 

「ハア・・・」

「??」

「分かりました。
明日・・・今日ですが、ミルファちゃんに任せます」

「やった!
さすがお姉ちゃん、話せるぅ!」

「話しを聞かないのは誰ですか、全く・・・
それで、ミルファちゃん?」

「なに?」

「写経、本当に一度も間違わずに?」

「お姉ちゃんが普段、どんな眼であたしを見ているのか良く分かった。
でも・・・
確かに自分でも不思議だなって、思うくらいスラスラっと書けたのよね。
こう、身体が覚えていたって言う感じで」

「・・・・・・」

「お姉ちゃん?」

「・・・私は早朝にも戻ります。
貴明さんは眠るのが遅くなってしまったので、起こすのは遅くでいいです。
私は充電しますので、ミルファちゃんもしなさい」

「ちょっと待って、お姉ちゃん!!
まさか、それって『はるみ』の・・・!!」

「ミルファちゃん、貴明さんが起きてしまいますよ?」

「でもっ!!」

「私ではなく貴明さんにお聞きなさい。
貴女もまだ『はるみちゃん』の事を、整理しきれていないことは分かっていました。
ほとんど納得できても、ほんの少し・・・
記憶がないからこそ、心の底で感じるものがあると思います」

「・・・・・・」

「だからこそ、『はるみちゃん』を一番知っている貴明さんに『その何か』を訪ねてみなさい。
きっと最高の答えが返ってきますよ」

「・・・最高の答え?」

「ええ・・・
きっと貴明さんが教えてくれます。
・・・私も今日、教えていただきましたから」

「お姉ちゃん・・・」

「頑張りなさい」

「うん!!」

 


2005・2008 Leaf 『ToHeart2 XRATED&ToHeart2 AnotherDays』

「パニック・ハート」
 第3話・消えないメイドロボ


 

「う・・・」

昨日の深夜には参った。
まさかミルファちゃんが来るなんて・・・
ご近所の皆様には大変ご迷惑を掛けてすみません(謝

「朝・・・か?」

イルファさんは『心配なさらずに貴明さんはお休みください』と、笑顔で言われ従った。
ミルファちゃんの襟首を掴み引きずっていった彼女に逆らうなんて出来ない(汗
心の中で手を合わせ自室に戻った。

「ねむ・・・い」

さすがに夜の騒ぎで眠気が取れない。
昼寝したけど逆効果。
いかん、そのときのことを思い出してしまった(照
別の意味で逆効果だった。

「今、何時だ?」

外が完全に明るくなっているから、普段より長く寝ていたのだろう。
珍しいな・・・
イルファさんが起こしに来ないなんて?
あっ、そうか。
あの騒ぎに気を使ってくれて寝かしてくれていたのか。
イルファさんには感謝。
それでは、もう少しお休みなさい・・・

しかし、その願いは・・・

 

ガチャ!!

 

「たっかあきー!!
おっはよーう!!」

「ぐふぅ!!」

ミルファちゃんのボディプレスによって叶いませんでした(泣

 

「・・・と言うわけなのよ。
お姉ちゃんに代わり、『貴明専属』のあたしことミルファがお世話することになりました!!」

「そ、そうですか・・・」(汗

朝食を食べながらミルファちゃんから事情を聞く。
マンションの話しやイルファさんに『快く』代わってもらった事など。
シルファちゃんが戻ってきた時が怖いな(汗

「それより、どう?
おいしい?」

「うん、美味しいよ」

「やった!」

確かに美味しい。
でも、味がちょっと微妙な感じが・・・

「ミルファちゃん、ちょっと味付け変えた?」

「さっすが貴明、よくわかったね!!
今までも美味しかったはずだけど、そろそろ独自の味付けを目指そうかなって思うの。
これでお姉ちゃんやシルファにも負けないぞー!!」

満面な笑顔にガッツポーズ・・・
これでは否定的な意見を出せる雰囲気じゃない(泣
ああ、これが『はるみちゃん』の独創的な料理の原点なんだ・・・
イルファさんに遠まわしに注意してもらおう。
今は『まだ』美味しいからいいか(現実逃避)

「ご馳走様」

「うん。
それじゃ、さっさと後片付けとお掃除をやっちゃうね」

「何か手伝うことあるかな?
宿題も昨日終わっちゃったから」

「そう?
じゃあ、洗った食器を拭いてもらおうかな?」

イルファさんには止められたからダメ元で訊いてみたが、あっさりOKが出た。
『メイドロボのあり方』はイルファさんだけなのだろうか?

「もちろんいいよ。
元々自分の分くらいは洗わないと思ってたし」

「そういうのは気にしなくていいのに。
これはあたしのお仕事なんだし。
確かに、前はお掃除とか細かいのは苦手だったんだけど・・・
い、今はお姉ちゃんにも認められているんだからね!」

「わ、分かってるよ。
イルファさんも信用して今日代わってくれたんだし」

「わ、分かってくれていればいいんだ。
それで、なんだっけ・・・
そうそう!
貴明は気にしなくていいの。
あたしがしてあげたいから、してるだけ。
『メイドロボ』じゃなくて『ミルファ』として・・・ね」

「ミルファちゃん・・・」

やっぱりミルファちゃんは、いやこの姉妹は確かに心を持っている。
身体は機械でも、彼女達は人間だ。
俺ははっきりと言えるだろう。

「それに・・・」

「ん?」

「頑張ってたら、貴明がご褒美くれるかなぁ・・・なんて☆」(照

「プッ」(笑

照れ笑いにウィンクするミルファさんに、思わず噴出してしまう。
本当に彼女達は・・・

「うん、わかったよ。
何がいい?」

「ホント!?
で、でも、さっきのことは冗談なんだから気にしなくてもいいよ?」

「もちろんだよ。
ミルファちゃんのセリフを借りるわけじゃないけど、俺がしてあげたいんだ」

「・・・たっかあきー!!
ありがとー!!」

「うわっ!」

ギュッと抱きついてきて、頬を摺り寄せてきた!
ちょっ、こういうのは勘弁してください!

「ミ、ミルファちゃん、は、離れて!!」

「えー?
あたしは感謝の気持ちを表してるだけなのにー」

「も、もう充分だから、ね!!」

「ざんねーん」

渋々といった感じにゆっくり離れるミルファちゃん。
俺はバクバクする心臓を落ち着かせるために、深呼吸を繰り返す。

「そ、それで何がいいかな?」

笑顔を浮かべながら(多少引きつってる)伺う俺に、
ミルファちゃんは両手を上げ(珊瑚ちゃんやるーこの『るー』のポーズ)で・・・

「貴明とデート!!」

などと仰った(汗
俺の表情は完全に引き攣ってしまっただろう。

「でー・・・と?」

「うん!
デート!!」

そのままのポーズでピョンピョン跳ねる。
その拍子に揺れる胸に眼が行かないように逸らす。
俺だって男なんだよ・・・

「いいでしょ〜
ねぇ〜
ねぇったら、ねぇ〜」

上げていた両手を下ろし、胸の前でグッと両手を組んでズズイっと近づいてくる。

「いや、でも・・・」

「ねぇ〜」

「ほら・・・」

「ねぇ〜」

「ミルファちゃん・・・」

「ねぇ〜」

「ミル・・・」

「ねぇ〜」

「・・・・・・・」

「ねぇ〜」

「・・・分かりました」(泣

「やったー!!」

やっぱり、君たちは姉妹だよ。
イルファさんに続き、ミルファちゃんも同じ手を使ってくるなんて・・・
シルファちゃんは違う・・・よな?

「ほらほら!
そうと決まったらさっさとお掃除しちゃわないと!
貴明も手伝うって言ってくれたんだから、早く!!」

「わ、分かってるから背中を押さないで」

そんな俺の考えは何のその、ミルファちゃんは上機嫌。
確かに、御礼もしたいとは思っていたから良いタイミング・・・かな?
そう自分を納得させて久しぶりの掃除に向かう。

 

ちなみに手伝ってもらう理由は・・・

「なにか、こう・・・
新婚さんの共同作業みたいじゃない?」

「ブッ!!」

でした(汗

 

 

2人掛りで掃除を終わらせ(対比に言えばミルファちゃんが7で俺が3)さっそく外へ出た。
役立たずですみません(汗
ミルファちゃんは目的地を決めているらしく、真っ直ぐな足取りで進む。
恥ずかしいことに腕を組んで(汗
最初は断ったけどミルファちゃん的に『デートは腕を組むもの』らしく押し切られた。
・・・ヘタレとか言うな!
それと、てっきり手ぶらと思ったけどミルファちゃんは何かカバンを持参してきた(昼食済なのに)
中身は何と訊いても、『ひ・み・つ☆』の一点張り。
何だろうかと首を捻っている間に最初の目的に着いた。
そこは・・・

「映画館?」

「そう!!
まずはデートの定番、映画でしょ!?
あっ、貴明は見たい映画とかある?」

「俺のことはいいから、ミルファちゃんが好きに選んでいいよ?」

一応ちらっと見たけど特に惹かれるものはない。
もしあったとしても、ここはミルファちゃんに譲るべきだろう。

「それじゃ、これがいい!
もうすぐ開演時間だし、早く行こ!」

「はいはい」

やっぱり元々決めてあったのだろう。
周りを見ずに一直線に入り口に向かう。
さて、ミルファちゃんが見たい映画は何だろうなっと・・・

『100匹のクマとサッカーボール』

・・・(汗
な、何だこれ?
このつっこみ満載なタイトル?
確かにミルファちゃん的には刺激されるところがあるのだろう・・・多分(困
いや、タイトルだけでバカにするのは良くない!
内容が面白ければ!!
ミルファちゃんを信じよう!!

 

「うーん!
面白かった ー!
貴明も面白かったよね?」

「う、うん、もちろん」

「だよねー!」

映画が終わって気分転換に、るーこがバイトしている喫茶店に寄っている。
もちろん話のネタはさっきの映画だけど・・・

「クマがチームを組んでサッカーが迫力満点だったよねー
それに、試合の後のお互いを褒め称えることろがサイッコー!!」

「は、はは・・・
そうだね」(汗

映画というより、サーカスの内容でした。
もちろん全てCGだけど、これでもかってくらいこってました。

「おまちどう様だ、うー、うーみる」

「ありがとう、るーこ」

この日、るーこが働いていたので自然に彼女が対応してくれる。

「礼はいらない。
これは仕事だ。
でも、ありがたく受け取っておこう」

営業スマイルではない、本当の笑顔を覗かせるるーこ。
彼女も今が一番楽しいのだろう。

「うーみるはオレンジジュースでいいのだな?」

「うん。
でも、ゴメンね。
注文しておいて飲めないんだもん」

「それは仕方が無いぞ、うーみる。
飲めないのは当然だし、うーが食べてうーみるが水というわけにはいくまい。
ここは妥協すべきだろう」

ミルファちゃん達を知っているから、るーこが融通を利かせてくれるというのはありがたい。
今度、イルファさんやシルファちゃんも連れてこようかな?

「でも、もったいない・・・」

「気にするな・・・とは言えないが、途中でうーに飲んでもらえ」

「うん、そうするー」

前言撤回、シルファちゃんはともかくイルファさんは連れてきません。
お腹を壊す気ですか、あなた達は?(汗

「で、うーはこれだ」

うん。
無理矢理見ないようにしていた物体(大きいので見えるけど)をドスンとテーブルの上に置かれた。

「あの・・・
るーこさん、これは?」(汗

「この店の人気メニュー『ドキドキパフェ』だ。
もちろん名の通りスプーンは2つ、よく言う『あーん』だな。
さらに量は2.5倍。
さすがだな、うー。
これを外のテラスで食べるチャレンジャーは今までいなかった。
この武勇伝は長く語り継がれるであろう」

やめてください(土下座
ただでさえ学園で大変なのに、これ以上変な噂を立てないでください(泣

「そんなぁー、照れちゃうよー
でも、それもいいかも・・・」(嬉

その相方は照れると言いながら、やる気満々。
スプーンでパフェを掬ってお約束の一言。

「はい、あーん!」

断られるなんて微塵も思わなく、ニコニコと差し出すミルファちゃん。
一瞬、断ろうとも考えたがその笑顔を見て消えてしまった。

「パクッ」

「やーん☆」

食べた俺に、妙な声を出して嬉しそうなミルファちゃん。
るーこはそんな俺達を見やり・・・

「ご馳走様・・・だな」

ニヤリと笑い、店の奥に戻っていく。
それが戻ってきて、俺の耳元に少し赤くした顔を寄せて来る。

「今度は私も・・・いや、私達も頼もう」

「っ!!」

 

ちゅ!

 

頬にキスをされ固まった隙に、今度こそ戻っていくるーこ。
ミルファちゃんはそのことは何も言わず、次のパフェを運んでくる。

「はい、どーぞ!!」

・・・・・・
このパフェは色んな意味で甘かったです・・・(泣

 

 

「だ、大丈夫?」(汗

「ちょ、ちょっと辛い・・・かな?」

ご存知の通り、ミルファちゃんは食べられるわけがない。
全部俺が食べなくてはならなく、時間は掛かったが何とか食べきった。
ミルファちゃんも途中で気づいてくれて『無理して食べなくても』と言われたが、意地で食べきった。
しばらく甘いものは要りません(切実

「ごめんね、貴明。
あたしが勝手にパフェを注文しちゃったから・・・」

「ミルファちゃんに悪気はなかったんだし、気にしないで」

「でも・・・」

さすがに休憩したくて公園で一休み。
ベンチに座って落ち着かせる。

「膝枕してあげようか?」(期待

「遠慮します」(即答

「ぶー」

お願いですから、これ以上追い詰めないでください。
イルファさんとのことがバレてたら無理矢理でもやらされていただろう。
イルファさん、感謝します。

「でも、本当に大丈夫?
何か飲み物でも買って来ようか?」

「いいよ。
正直、今は何も入らないから。
少し落ち着かせたら大丈夫」

「そう・・・?」

背中を摩ってくれるミルファちゃんに感謝。
そのおかげか気分は随分マシになってきた。
せっかくのデー・・・いやいや、出掛けなのに。
これで終わりにしてしまうのは納得しないだろう。
そろそろ移動しようかと、ミルファちゃんに声を掛けようとするが・・・

「あっ」

その彼女が何かに気づき視線の先に向くと、
子供たちがサッカーボールで遊んでいた。
公園は狭いのでサッカー自体は出来ないんだろう。
サッカーボールで蹴り合いしたり、子供なりのテクニックを披露して楽しそうだ。

「・・・・・・」(じー

何処かウズウズソワソワして子供達を見つめている。
それだけでミルファちゃんの心境が手に取るように分かる。

「ミルファちゃん」

「っ!!」

ビクッと大げさに反応して、驚いた表情で振り向く。

「俺のことは気にせずに行っておいで」

「えっ!?
でも・・・」

「ミルファちゃんも子供達と遊びたいんだろ?
いいから」

「貴明は?」

「さすがに気分は落ち着いたけど、運動は無理だからここで見てるよ」

動けば絶対大変なことになってしまう。
最低限のプライドは守りたい。

「・・・いいの?」

「いいよ」

パッと顔を輝かせ子供達へ一直線。

「みんなー、あたしもまぜてー!!」

突然の乱入に驚いた様子だったけど、ミルファちゃんのサッカーテクニックに興奮気味。
様々なリクエストに答えていく彼女もヒートアップ。
それからは時間を忘れ、彼女達はサッカーに夢中になっていった。
でも、ミルファちゃん。
ミニスカートじゃないけど、ちょっとその辺りを考えてほしい(照

 

「うーん!!
楽しかったー!!」

気づけば夕方。
子供達は夕食や見たいテレビの時間、『お姉ちゃん、またねー』『今度はもっと教えてねー』などなど。
手を振りながら帰って行った。
ミルファちゃんも『約束するよー!』 と手を振り返していた。

「本当に楽しそうだったね、ミルファちゃん」

「だぁってー
サッカーは久しぶりだったし、映画を見た後だから燃えちゃった」(喜

「そ、そう・・・」

ミルファちゃんってカンフー映画とか見た後に、身体を動かすタイプなのかな?

「そうだ!
これからさ、時々さんちゃん達皆集めて何かやろうよ。
サッカーじゃなくても、野球でも鬼ごっこでもいいからさ!」

確かに皆と出掛けて水族館や遊園地とかもいいけど、そういうのもいいかもしれない。
でも・・・

「この話しを訊きつけたまーりゃん先輩がなぁ・・・
変に捻じ曲がった解釈して、我慢大会とかトンでもないことを仕出かしそうだし」

『我慢大会』でまーりゃん先輩が絡むと、セクハラ一歩手前みたいなものが浮かぶ俺が間違っているのだろうか?

「とりあえず、その話しは今度皆に話してみようか?
考え自体は良いものだし」

「さすが貴明!
はっなせるー!!」

ピョンと抱きついてくる彼女を引き剥がして、ベンチから立ち上がる。

「さて、俺達もそろそろ家に帰ろうか?」

「えっ?
あっ、うん・・・」

「??」

何故か急に落ち込むというか気まずい雰囲気に首を傾げる。
今、家に帰ったらいけないのだろうか?

「ミルファちゃん?」

「・・・・・・」

目線は持ってきたカバンにいき、ただジッとしている。
しばらくし、一つ頷き顔を上げると何かを決意したミルファちゃんが言う。

「貴明・・・
まだ・・・時間ある?」

 

 

ミルファちゃんの希望でベンチからブランコに移動して腰掛ける。
彼女は軽く揺らしながら黙っている。
俺も慌てずにミルファちゃんが話し始めるのを、無言で待つ。

「ねぇ、貴明・・・」

「うん?」

足元に置いてあったカバンに手を延ばし、中から『何か』を取り出す。

「これ・・・」

「あっ・・・」

『それ』は懐かしくて少し胸の奥が痛む・・・、それ以上に『忘れられた彼女』を思い出すもの。

「クマ吉・・・」

「確か、貴明がそんな名前をつけたんだっけ・・・」

見た目はクマのぬいぐるみ、ミルファちゃんの・・・いや、『はるみちゃん』の仮ボディ。
それを見た瞬間、『クマ吉』から『はるみちゃん』、『ミルファちゃん』を思い出していく。

「教えてほしいの・・・
『はるみ』のことを」

「ミルファちゃん・・・」

本当はまだ彼女は立ち直っていなかったのだろうか?
もしそうなら、俺は今まで何をしていた!
単なる自己満足にもならないじゃないか!

「その・・・勘違いしないでね?
あたしは納得してるよ。
『あたしはあたし』ってね。
それを教えてくれたのは貴明、貴方よ。
本当に感謝してるし、好きと言う気持ちも変わらない」

それならいいんだけど・・・
最後の言葉はちょっと恥ずかしいけどさ。

「あの頃・・・
あたしの感覚では貴明に初めて会った時は不安定だった、記憶と心が。
だって、あたしは知らないあたしのしてきた話して、どうとか言われても困るというのが正直な感想だった。
勝手に『ご主人様登録』もされてるし、ぜんぜん知らない人なんだもん」

「・・・・・・」

それもそうだ。
自分は知らないのに周りは覚えていて、それを押し付けている。
俺も『はるみちゃん』と『ミルファちゃん』の違いを本当の意味で理解するのは、
しばらく後だし(それで彼女を傷つけてしまった)

「あたしは『ミルファ』、『はるみ』じゃないって。
でもね、今でも心の底で『何か』を感じるの。
決して嫌なものじゃない。
でも何なのか分からない。
たぶん・・・」

『はるみ』ちゃんの『何か』・・・か

「記憶は完全に消えたって珊瑚ちゃんは・・・」

「確かにそのはずだし、今も消えたまま。
でも心の中に感じるものがあるのはホントなの」

記憶や記録は消されても、心にはほんの少しだけ残っているのだろうか?

「改めて考えると、あたしは『はるみ』を否定してばっかりで何も知ろうとしなかった。
何をしてきたかは教えくれたけど、その時の想いや気持ちは・・・
だからこそ、『はるみ』を良く知っていて好きだった貴明に教えてほしいの。
あの子に会った時から消えるまでの間を全部。
それで分かると思うの、この気持ちの正体が・・・
大丈夫、今は取り乱したりしないし癇癪も起こさない。
貴明の話しが終わるまで、黙って聴き続ける」

取り出したクマ吉を抱きしめ、懇願するミルファちゃん。
その時、クマ吉が頷いたように見えたのは都合が良すぎる願望だろうか・・・

「分かった。
まず、クマ吉に出会った時・・・」

 

クマ吉と出会いとやりとり、バス停での別れと約束・・・
『はるみちゃん』との出会い(学園の転校生として)・・・
良くも悪くも俺に真っ直ぐな好意を寄せてくれていた・・・
お弁当の失敗や落ちたときに助けてくれたこと・・・
そのお礼にデートして、無理にパフェを食べて倒れてしまったとき・・・
捨て猫を生徒会室で飼っていたが抜け出して、探し回った苦労と飼いたいと言ってくれた少女達・・・
交換日記を雄二に代筆を頼んで、傷つけてしまった本当の怒り・・・
日記に今の本当の気持ちを書き彼女の机の中に入れて、ウチの前で嬉しそうに笑ってくれた彼女・・・
そして・・・
前兆はあったのに隠していた秘密(自分がメイドロボであること)がバレてしまった。
逃げだした時に階段から落ちたときがトドメとなり、記憶が消されてしまった・・・

 

「そっか・・・
『はるみ』は本当に貴明が好きだったんだね。
レベル3なんて軽く超えちゃっているくらい」

全てを話し終った時、ミルファちゃんは色んな想いが詰まった感想を返した。
俺も話している間に、とても大切で大事なことが分かった。

「ミルファちゃん、今から言うことは君にとって侮辱になるかもしれない。
それで俺を嫌いになってしまったら、それも仕方がないと思う。
それでも言わせてほしい」

「いいよ、何?」

そんな前置きをしたにもかかわらず、ミルファちゃんは微笑み続きを促した。

「ミルファちゃんはミルファちゃん・・・
それは変わらないし、俺もそう思ってる。
でも、それじゃ消えてしまった『はるみちゃん』が可愛そうすぎる。
ミルファちゃんの俺への想いも、記憶が失ってから始まった君自身の想い。
クマ吉から始まって階段から落ちた『はるみちゃん』の想いは・・・存在は、確かにあったし生きていた。
お願いだミルファちゃん、君が彼女の存在を否定しないでほしい。
『はるみちゃん』をいなかったことにしないでくれ・・・」

俯いて手を組んだ拳に額をつけ、懇願するように言葉を振り絞る。
本当に自分がイヤになる。
目の前にいるミルファちゃんばかりに気にして、消えてしまった『はるみちゃん』を蔑ろにしていた。
俺は覚えている。
リベンジしたお弁当を美味いと言った時の嬉しそうな顔、猫を送り出した時の寂しそうで見送った彼女の決意・・・
『ミルファちゃん』が『はるみちゃん』でないように、『はるみちゃん』も今の『ミルファちゃん』ではない。
その時の想い・気持ち・感情ははるみちゃんのモノなんだ。
当たり前なことを今更気付くなんて最低だ。
『2人』とも侮辱していた。
そんな俺にミルファちゃんは・・・

「貴明・・・」

 

スッ・・・

 

「えっ?」

俯いたままの俺に背後からギュッと抱きしめてくれた。

「ありがとう」

「な、何で・・・?」

何故かお礼を言いながら、さらに強く力を込めてくる。
痛みはなく優しい抱擁だった。

「今ね、心が暖かいんだ。
分かったの・・・
心のあった『何か』が・・・
しこりや意地、ましてや罪悪感とか恨むなんてものじゃない。
これは、はるみの貴明への想いだったんだ。
記憶は消えても想いだけは消えなかった。
本当に凄いと思う。
メイドロボのあたしが・・・はるみがこんなに強いなんて」

「ミル・・・ファ・・・ちゃん」

「嫌いになんてなるわけないじゃない。
そんな不器用で真っ直ぐで優しい貴明が好きになったんだから。
・・・バカよねぇ、あたしって。
自分自身に拘ったり、あたしより『はるみ』の方が良かったんじゃないとか、いらないことばかり考えてた」

「そんなことはないよ。
俺は偉そうに言っているだけで、ミルファちゃんしかその気持ちは分からないと思う」

ミルファちゃんの場合じゃなくて、大抵は同じ立場になってみないと気持ちの共有なんて出来ない。
知っているように慰めることこそ、相手にとって最大の侮辱と思う。

「・・・ありがとう、貴明。
今、本当に『はるみ』を受け入れることが出来たわ。
だからこそ、あたしも言いたいことがあるの。
聞いてくれる?」

「もちろんだよ」

了解を受け取ったミルファちゃんは前に回り、俺も顔を上げる。
その瞬間・・・

 

ちゅっ・・・

 

「ん・・・」

「っ!」

ミルファちゃんにキスをされた。
ごく自然に、当たり前のように・・・

「今のは『はるみ』の気持ち。
あの子は貴明のことが好きで幸せだった。
それは間違いないよ。
これだけは貴明にも否定させない」

彼女の笑顔に『はるみちゃん』と重なって見えた。
もう、見間違いでもいい・・・
『はるみちゃん』は『ミルファちゃん』の中に生きていると思えたんだから。

「そしてこれが・・・」

 

ちゅっ!

 

「ん・・・」

「っっ!」

今度はクマ吉を俺の膝の上に置いて、抱きつくようにキスをされた。
しかもさっきと時間が長い。

「これはあたしの気持ち。
大好きだよ、貴明。
ううん、愛してる。
だから、これからも末永く可愛がってね。
ご・しゅ・じ・ん・さ・ま☆」

唇がくっつきそうな(実際キスしたんだけど)距離で、ニコニコと笑うミルファちゃん。
チラッとクマ吉を見ると、苦笑しているような気がした・・・

「あたしと『はるみ』・・・
愛情も全部2倍なんだから、絶対貴明を幸せにするよ!!」

もう、何も言えない(苦笑
参ったね、どうも・・・
彼女が良いならそれでいいかと思ってしまうのは、負けなのだろうか・・・

 

 

おまけ

すっかり外は真っ暗になり、腕を組んで(やっぱり断れなかった)家に帰る。
ミルファちゃんは終始ご機嫌で、時々ギュッと腕に抱きついてくる力を込める。
ニコニコするミルファちゃんに顔を真っ赤にさせている俺。
そんな嬉し恥ずかの時間も終わり、家に着くとそこには・・・

「おそかったれすね、ご主人様」

「シルファちゃん?」

「シルファ?」

む〜っと顔を顰めているシルファちゃんが玄関の前で出迎えてくれた(汗
ミルファちゃんを見ると、首をブンブン横に振って意思表示をしてる。
一体どういうこと?

「シルファちゃん、貴明さんが帰ってきましたか?」

「はいれす、腕なんか組んでバカップルやってるれす」

「いいじゃない、それくらい。
あたし達は恋人同士なんだから」

「ぴっ!!
ど、どういうことれすか!?」

姉妹2人で言い合う状況についていけず、玄関から出てきたイルファさんに説明を求める。

「実はシルファちゃん、貴明さんが恋しくなってしまいまして・・・
いわゆるホームシックみたいなものです」

それはさすがに違うんじゃ・・・(汗

「ゲンジ丸との散歩後、ずっと待っていたんですよ。
まるでご主人様を待つ子犬みたいです。
いえ、ご主人様を待っているという所はそのままですね」

「そ、そこはいいですから、何でイルファさんも?」

「実は散歩は瑠璃様と珊瑚様もご一緒していたのですが・・・
シルファちゃんがこうなってしまったら、瑠璃様が・・・」

 

『こらあかんわ。
イルファもココ(貴明の家)に居ればええ。
ミルファのことも気になるやろし。
どうせ、明日の朝にはココの集合なんやし。
久しぶりにさんちゃんと2人でおるわ』

『みっちゃんは貴明に任せたら大丈夫や。
いっちゃんも後で連絡頼むなー』

 

「・・・というわけでして」

「そ、それじゃ、今晩は・・・」(汗

「はい☆
私たち姉妹がご主人様に尽くして差し上げます」

癒しの笑顔でとんでもないことを言わないでください(困
少なくともイルファさんは違います。

「あら、つれないですね。
そう思いでしたら、本当に登録しちゃいますか?」

「ごめんなさい。
それと心を読まないでください」

「いえいえ、貴明さんが分かりやすいんですよ。
ほら、2人もいつまで喧嘩しているんですか?
いい加減にしなさい」

「だって、ひっきーが・・・」

「このあーぱーが・・・」

「それなら、いつまでもやってなさい。
私は貴明さんのお背中を流してきます」

「ダメー!!
それはあたしの役目なのー!!」

「そもそも、そんな仕事なんてないれすー!!」

どうやら今日も静かな夜とはいかないようです・・・(泣

 

 

第4話へ続く

 


第3話、ミルファです。
AnotherDaysで一番期待して、初めに攻略したキャラなんですが・・・
あのストーリーはないでしょう(汗
悪い意味で反則しましたよ、あれは・・・
クマ吉から気に入っていたユーザーを否定しましたよ。
他のレビューサイト様でも厳しい意見ばかりですね。
ミルファが悪いんじゃなく、シナリオが悪いんです!!
いくらでも言いたいことはありますが、これ以上は止めておきます。
SSですが、やはり『はるみ』は外せませんでした。
はるみ云々は私が思ったことです。
共感していただければ幸いです。
何処かのSSサイト様が書いてそうなネタですね(怖
もうシリアスは勘弁です。
最初から最後までほのぼのラブコメを書きたいです。
ちなみにるーこの頬へのキスは、当初予定していませんでした。
こうりさんへのご返信の時に『このSSはハーレムなんだ』と書き込んだのを思い出し、入れました。
流れ的に『ヒロインエンド後SS』になってしまいそうなので・・・
これからも出来るだけ導入していきます。
次回は想像通り、末っ子のシルファです。
投稿ペースは2週間おきなのでお楽しみに。
最後にラングさん・ノネムさん・こうりさん、ご感想ありがとうございました!!