『私達はこの学園で思い出を作り、たくさんの教えをいただきました。
このことを思い返した時には、微笑む事ができるくらいです』

皆に告白してご両親達と一緒に宴会をした日から、一ヶ月近く経った。
親父達は散々飲んで騒いだのに、次の日には旅立っていった。
元気だなぁ・・・

今日は3年生の卒業式。
当然、タマ姉とささらも卒業生として参加している。

『この先に様々な困難もあるでしょう。
それでも私達は挫けずに前へ進む事を誓います』

今は卒業生代表として、ささらが読み上げている。
いつもの凛とした雰囲気を持ちながらも、声は僅かに震えている。

『・・・以上、卒業生代表・久寿川ささら』

卒業証書を受け取り卒業生は拍手の中、退館していく。
もちろん俺も拍手をしている。
だが・・・

「おい、雄二。
お前もちゃんと拍手しろよ」

「うるせー
俺は・・・俺は・・・!!」

「おいおい、こんな所で暴走するなよ?
まあ、色々文句を言いたい気持ちも分からんでもないけど」

「俺はー!!」

そうそう。
ついでに言っておくと、久しぶりに見る雄二も在校生として参加している。
でも、新学期は・・・

「なぜ、俺は留年なんだー!!」(絶叫

そりゃ出席日数の不足やテストを受けていないんだから、当然だよ・・・

 


2005・2008 Leaf 『ToHeart2 XRATED&ToHeart2 AnotherDays』

「パニック・ハート」
 エピローグ・ミラクルズ・ハート


 

「だってよ・・・
俺が悪いわけじゃないだろ?
元はと言えば、姉貴がまーりゃん先輩に俺を預けるから・・・」

「でもー
さらに元を言ったら向坂君達があんなイベントを開いたり、勝負に負けたのが原因だよね?」

「ぐはっ!!
いいんちょー、それはそうだけどさ」

「自業自得だな、うー雄」

「だよねー」

「俺には味方がいないのかー!?」

「でも、賭けは儲かったんだろ?」

「それは、まあ・・・
ウッハウハとはいかなかったけど」

卒業式も無事に終わり、俺達は後片付けを控えているけど一度教室に集まっている。
担任が来るまで俺と雄二、ミルファちゃん・るーこ・愛佳と談話している。
会話のネタは雄二の『留年』とあの賭けの結果。
タマ姉から雄二、ささらからまーりゃん先輩へと告白した事が伝わり、それぞれに配当されたらしい。
一番人気の『全てモノにする』だったが、胴元の3人はそれなりに懐が暖かくなった。
ちなみに、雄二への配当は僅か1割・・・
怒りを通り過ぎて哀れみが出た(汗

「まーりゃん先輩は卒業しているから良いとして・・・」

「ささらから聞いた話、かなり両親に絞られたらしいぞ」

「それも自業自得だな」

「花梨ちゃんも留年だよねー?
新学期から後輩かー
さんちゃん達と同じクラスだったりしてねー」

「はぐっ!?」

「あっ・・・
ダメだよ、ミルファちゃん。
トドメ刺しちゃ」

「い、いいんちょー・・・」(泣

愛佳も大概ひどいと思うぞ(汗
あっ、遠くから花梨の叫びが聞こえたような・・・

「た、貴明・・・
俺はどうしたらいい?」

涙ぐんでこっちを見るな、気持ち悪い。
俺も悪魔じゃないしな、助言くらいしてやるか。

「・・・現実を受け入れろ」

「うがー!!」

あっ、吠えた。

「まーりゃん先輩達に拉致られ、行き先がアメリカと聞いて内心ウキウキだったのに、
着いてみたら何故か無人島!!
そこで始まるのは自給自足の生活!!
内から迸るリビドーで、まーりゃん先輩たちに手を出しそうにもなった!!
それでも、何とか耐え切って戻ってみたら留年勧告!!
俺の幸せは何処にあるんだー!!」

「おーい
魂の絶叫はいいけど、周りを見てみろ」

「へ?」

冷静な突っ込みに雄二は周りを見ると愛佳達はもちろん、
女子達も軽蔑や冷たい視線を向けられていることに気付く。
男子たちは、若干同情的な視線もあるけど。

「う・・・」

「う?」

「うわぁぁぁぁぁ!!
どうして俺ばっかり、こんなことにー!!」

「お、おい、雄二!?」

本心からの絶叫を出しつつ、外へ飛び出して行く。
目の縁に光るモノを出しながら・・・

「もう・・・
向坂君ったら、サボリね」

「ま、愛佳・・・」(汗

「どうしたの、貴明君?」

「う、ううん・・・
何でもないよ」

「そう?
あっ、先生が来たみたいだね。
皆、座らなくちゃ」

「そうだな」

「それじゃ、また後でねー」

愛佳って、さり気なく厳しいところがあるよな・・・
本人は無自覚みたいだけど・・・
さすが郁乃の姉。

 

 

「貴明ー
こっちやでー♪」

「お疲れ様、タカ坊」

体育館の後片付けも終わり、校門前で待ち合わせをしていた。
珊瑚ちゃん達は一年生の為、卒業式には参加できなかったので外でタマ姉達を待っていた。
その間に、俺達は後片付けということ。

「改めて、卒業おめでとう」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「凄い花束だね」

2人は両手に持てないほどの花束を抱え、顔すらも見えにくいくらいだ。
人気があり生徒会長・副会長ということもあって、いろんな人から渡されたんだろう。

「ええ。
さっきまで、玲於奈さん達も来てくれたのよ」

「へえ、あの3人組が・・・」

脳裏に浮かぶ数々のトラブルに少し口元を引き攣りながら、返事をする。
タマ姉を敬愛(でいいよね?)している3人なら卒業祝いに来るのも不自然じゃないけど・・・

「郁乃、それだけ済んだ?」

「そんなわけないじゃない。
別の意味で凄いわね、あの3人。
何度も是非こちらの大学でとか、どれだけ環さんが必要とかそれはもう延々と。
私も環さんは好きだけど、アレはちょっと・・・」

「やっぱり・・・」

「あの3人の半分でもアンタが度胸を持っていたら、もっと早く結果が出たのに・・・」

「・・・ごめんなさい」

それを言われると辛いなー
でも半分もいらないぞ。
それだけあったら、どれだけ積極性になるやら・・・

「くだらないことでも考えているでしょ?」

「そ、そんなことないぞ」

さすが、郁乃。
突っ込みが早いなー

「そう言えばさ・・・
タマ姉とささらは何処の大学にいくの?」

「あら?
言っていなかったかしら? 」

「うん」

『そうだよね?』と、周りを見ると皆視線を逸らす。
ま、まさか、聞いていないのは俺だけ?

「ごめんなさい、タカ坊。
てっきり、言っているものとばかり」

「それに他の人から知らされていると思っていたわ。
決して仲間はずれとか、そういうことじゃないのよ」

「わ、分かってるって」

慌てて懸命に謝らなくても・・・
俺もそんなに疑い深くないし。

「それで?
やっぱり、一流大学?
でも、この辺はないし・・・」

さすがに遠く離れて寮暮らしということはないだろう。
それほど大事な事なら、忘れずに言ってくれるはずだ。

「実はね・・・どこも行かないの♪」

「へ?」

どこにも行かないって・・・どういうこと?

「すなわち、私と環さんは一年大学に行かないという事です」

「え、えっと・・・就職?」

大学に行かないと言われると、次に思い浮かぶのは就職なんだけど・・・

「アルバイトはしたいと思っているわ」

「それなら、私のところへ来るがいい。
店長もうー悠が抜けてから、改めて人手不足を感じたらしい。
募集は以前からやっているのだが、中々店長の希望に適う者がいなくてな。
2人なら大丈夫だろう」

「そう?
私も世間知らずのところがあるから、まずは社会で揉まれてこないといけないと思っていたら好都合ね」

「よろしくお願いします」

「うむ」

「ちょ、ちょっと待った!!」

アルバイト!?
大学も行かないし、就職もしない!?
それって・・・

「そうよ。
私達はタカ坊達が卒業するまで待つの。
そして、一緒の大学に通いたいの」

「もちろん、両親に相談して決めました」

い、いいのだろうか?
でも両親も認めたことだし、俺がどうこう言ったって仕方ないか・・・
あっ!!
一緒の大学という事は、かなりハイレベルな・・・

「気付いたようね、タカ坊。
春休みから勉強漬けだから、覚悟なさい」

「もちろん、由真さん達もですよ」

「「げっ!」」

「うん、頑張ろうね」

「一生懸命頑張れば、大丈夫ですよ」

「うむ。
貴明のみならず、うー由真達もそれくらいは乗り越えないとダメだな」

「「あうー」」(泣

ちなみに悲鳴を上げたのはミルファちゃんと由真。
るーこと優季、愛佳はフォローしている。
いいよね、自信と実績がある人たちは・・・

「出来れば珊瑚ちゃん達とも待ちたかったんだけど、2年はね・・・」

「気にせんでええでー
ウチ等が飛び級したらええんや♪」

「さ、さんちゃーん・・・
そんなん出来るのは、さんちゃんだけやって。
ウチは、その・・・」

「私もパス。
無理無理」

「だよねー」

「出来るはずがないっしょー!!」

「少なくとも、よっちは無理だな」

珊瑚ちゃんの突然の提案に、下級生達はほとんど拒否する。
当然だけど・・・

「さすがに飛び級は無理でも、目標を掲げて貴女達も一緒に頑張るのよ。
いいわね?」

『は〜い』

ある意味、大変だな。
俺たちはすぐに3年生になるから早めの受験勉強と思うことも出来るけど、新2年生からは・・・ね。

「それでは、皆さん。
昼食はお祝いにシルファちゃんと気合を入れて、ご用意しました。
そろそろ戻りましょうか?」

「シルファはいつもらんばってるもん。
でも、今日はお祝いらから・・・」

「ありがとうね、イルファさん、シルファちゃん」

「ありがとうございます」

「いいえ、当然の事です」

「ぷ、ぷん」

話しも一段落したタイミングで、イルファさんが移動を提案する。
シルファちゃんもいつもの照れ隠しに、内心笑いつつ皆を誘う。

「それじゃ、帰ろうか?」

『うん!』

郁乃を引く俺を中心として、皆が集まって坂道を下りる。

 

皆がそれぞれ悩みや苦痛を、俺は出来るだけ力になりたかった。
その中で、俺の愚かなほどの鈍感さでなおさら深みに嵌った事もあった・・・
全てを解決して始まった友達以上、恋人未満な関係。
時間が掛かったけど、奇跡のような絆が生まれた。
この先、色々な苦労も偏見もあるだろう。
それでも、俺たちは先に進む事ができるはず。
俺は皆を愛している。
その気持ちは嘘じゃないし、何よりも強いから・・・
皆、ありがとう・・・
そして、これからもよろしく!!

 

 

『パニック・ハート』終わり♪

 

 

あとがき