プルルル・・・プルルル・・・

 

「はい、河野なのれす。
ろちら様れすか?」

もう2月・・・
由真とのデートから、もう一ヶ月近く経っている。
いい加減覚悟を固めて、皆に『決意』を告白しなくちゃいけなんだと思いつつ、ずるずる来てしまった・・・
俺って、やっぱヘッキーなんだろうか?
本当に皆を尊敬するよ。
たぶん、彼女らも待ってくれているはず。
タマ姉とささらさんの卒業式までには・・・
うう・・・

「ご主人様れすか?
居ますけろ・・・
あの、ろちら様れすか?」

最近は、一人でウンウン悩んでばかり。
シルファちゃんにも気を使わせてしまっている。
ダメだな、ホント・・・

「え・・・?
ぴひゃ!!」

「何だ!?」

電話の対応をしていたシルファちゃんの悲鳴が聞こえ、慌てて駆け寄る。

「どうしたの、シルファちゃん!?」

「ご、ご主人様〜
あ、あの・・・れ、れんわ・・・」(焦

シルファちゃんも気が動転していて、電話のコードレスに片手に混乱している。
原因はおそらく本人が言っているように、電話だろう。
よし、ここはビシッとした態度で言ってやろう!

「お電話、代わりました。
どちら様で、どういうご用件でしょうか?」

固い口調で対応するが、相手は予想外の人物だった。

『・・・貴方の母親で、ちょっとした連絡があるのよ』

「・・・・・・へ?」

おふくろ!?

『春夏さんから聞いていたけど、良い身分じゃない?
ご主人様?』

「う・・・」

問い詰めるように『ご主人様』の部分を強調するおふくろ。
シルファちゃんが驚くのも、無理もないよね(汗

「それは追々聞きましょう。
実はね・・・」

 


2005・2008 Leaf 『ToHeart2 XRATED&ToHeart2 AnotherDays』

「パニック・ハート」
 最終話・嵐は唐突に訪れる


 

「そう・・・
おじ様達が帰ってくるの」

「うん・・・」

電話の後、慌ててタマ姉に連絡を取る。
内容を伝え、タマ姉の家に全員集合する。
広い一部屋で、テーブルを囲むように座って会議を開く。

おふくろの用件は、三日後の週末に2人とも帰ってくるということ。
もう少しで進級するので、勉学とか成績・その他の色々チェックするというのが目的。
様子見らしく、すぐに戻るらしい。

「貴明さんのご両親ですか。
ぜひとも、お会いしたいです」

「そうだな。
私達も会っておくべきだろう」

「色々ありますしね」

「それは分かっているけど・・・」

「えへへ。
おじさん達も優しいよ」

「そうなんだー」

優季さんとるーこが意見を述べる。
俺の両親を元々知っているタマ姉、このみ。
真面目な優季、ささらさん、るーこ、愛佳は俺の話を聞いてくれる。
それ以外の皆は、唯一会話したシルファちゃんを囲んであれやこれや訊いている。
その光景に、いつぞやの教室で愛佳が女生徒達に埋もれていた時を思い出す。

「どうなのよ、ひっきー!!
まさか、一人だけ『お義母様』にご挨拶したの!?
抜け駆けよー!!」

「何言ってるれすか、あーぱーめいろろぼ!
そんな余裕なんてなかったれすよ!!
つい、悲鳴を・・・」

「シルファちゃん。
貴女は電話の対応を・・・しかも、貴明さんのお母様に失礼をしたのですね。
後でお説教です。
ミルファちゃん、さり気なく『お母様』の部分が別の意味で聞こえましたが?」

「気のせい、気のせい」

「先輩の両親って、よくよく考えたら会ってないっすね」

「うむ。
タイミングが悪かったのだろう。
しっかりとアピールするべきだ」

「アピールねぇ・・・
私はこんなんだし、どうしようかな?」

「いくのんは無理せんでも、お話したらええやん。
それでも喜ぶと思うで。
なあ、瑠璃ちゃん?」

「そうや。
貴明やったら、両親が怖くてちゃんと報告するかどうか分からん。
そこで、ウチ等が全部正直に話したらええねん」

「そうね。
貴明の暴露大会よ!!」

妙に変な方向に流れているような・・・(汗

「はいはい。
皆も、ちゃんと聞いてちょうだい」

『は〜い』

流石、タマ姉・・・
鶴の一声で、皆が元の席へ戻っていく。
俺が言ったところで周りから突っ込みを入れられ、何故か責めらるんだけど。

「とにかく、おじ様達は2泊程度ですぐ戻るらしいわ。
朝早くに着くらしいけど、そのまま学園に向かうから会えるのはその後。
あっ、もちろんタカ坊は駅で出迎えて一緒に行動するわ」

「しつもーん!!」

「なにかしら、ミルファちゃん?」

タマ姉が知っている予定と今後の事を切り出す。
そこでミルファちゃんが片手を上げる。

「その朝に皆で待っていて、一緒に行動するのはダメなの?」

「おじ様達も移動続きで疲れているのに、イキナリ全員押しかけるのもアレでしょ?
それに学園の直接関係ない人もいるから、入る事は出来ないわ」

「そっかー」

まあ・・・
ウチの両親ならその辺りは平気だけど、学園に入れない人もいるしな。
・・・教師達は通してくれそうな気もするが。
だって、まーりゃん先輩主催の賭けに教師達も参加しているんだよ?
賭けってしていいのか、教師が?

「うーん・・・
それだったら、皆一緒じゃなくて別々だったらいいんじゃいかな?」

「どういうこと、愛佳さん?」

「え、えっと・・・」

独り言のように呟いた愛佳の言葉に、タマ姉が反応する。
詳しく話す内に周りが賛同し、それならいいかなとタマ姉も了承する。
そして予定を話しつつ色々決定していく。
俺抜きで(汗

 

 

そして当日の朝、俺は駅前で2人を待っている。
もちろん、早めに来ているのでまだいないようだ。

「ねえねえ、タカくん。
久しぶりだねー」

「そうねぇー
私は特にそう思うわ。
ねえ、タカ坊?」

そうそう。
俺一人というだけではなく、側にタマ姉とこのみもいる。
愛佳の提案は『数人交代で両親と会ってみたらどう?』という意見だった。
トップは唯一顔見知りのタマ姉とこのみと決まっており、その後はジャンケン大会が繰り広げられた。
凄かったよ。
特にミルファちゃんと由真が(汗

「んっ?
来たみたいだよ」

「そのようね」

「おじさーん!
おばさーん!」

正面出入り口を通って、親父とおふくろが出てくる。
このみが大声で手を振っているので、すぐに気付き近づいてくる(ちょっと恥ずかしかった)

「おっ・・・
環ちゃんとこのみちゃんも来てくれたのか」

「あらあら、お久しぶりね」

「はい。
ご無沙汰していました」

「お久しぶりで〜す」

実の息子を放って、タマ姉達と盛り上がる。
・・・いいんだけどさ。

「おい、貴明。
荷物をロッカーに預けて来い。
学園に行くのには邪魔だからな」

「はいはい」

「ついでにタバコを買ってきてくれ」

「・・・今の日本は、タバコの自動販売機はカードがいるんだよ。
コンビニも近くには無いし、あっても断られるだけだぞ」

ほぼ一年、異国の地にいた親父は知らないのも無理もない。

「・・・本当かい、環ちゃん?」

「はい。
未成年の喫煙の予防、という名目で決まりました」

「はぁー
日本は狭苦しいな。
なら、彼女らに飲み物でも買って来い」

「そんな、私達は別に・・・」

「いいのよ、環ちゃん。
私たちを待ってくれてたんだから、それくらいは当然よ」

「えへへ。
ご馳走になりまーす♪」

「こら、このみ!!」

「フフフ。
そうそう、このみちゃんのように喜んで受け取ってくれたらいいの」

「・・・はい」

「という事よ、貴明。
よろしくね」

「分かったよ」

「急げよ。
予定は目白押しなんだぞ」

相変わらず、このみたちには甘いな。
俺もいきなり態度を変わられると怖いから、いつも通りの2人に安心するけど。
数多くある荷物を何とか背負ってロッカーへ向かう。
タマ姉は手伝おうとしてくれるが、これまた親父に止められる。
『こういう仕事は男がするものだ』って。
そりゃそうだ。
俺だって、そう言われたらやるしかない。
気合を入れるか!

 

荷物も預けて、5人で学園に向かう。
その道中、俺以外は会話が盛り上がる。

「貴明の面倒を見てくれてありがとうね、2人とも。
あの子はずぼらで料理もまともに出来ないから、苦労したでしょ?」

「ううん、そんなことないよー
いつもタカくんと一緒で、楽しいし嬉しいもん」

「私もこのみと同じです。
それに今はタカ坊のお世話はシルファちゃんが担当していますから、彼女に言って上げてください」

「電話で少し話したけど、良い子ね。
彼女は家にいるのかしら?」

「はい。
色々と準備をしていますので、ご期待してください」

「まあ」

「それはいい。
それだけでも帰ってきた意味があるよ。
貴明、良い嫁さんになるぞ」

「ぶっ!?」

親父の突然の言葉に、飲んでいたコーヒーを吹き出す。
前には誰もいなかったのが救いだ。

「ゲホッ、ゴホッ!
な、何言ってんだよ、親父!?」

「うん?
俺はただ、環ちゃんらは優しいから良いお嫁になると言っただけじゃないか?
どうしてお前がそんな反応をするんだ?」

「くっ」

ニヤニヤと笑う親父。
絶対確信犯だ。

「アナタ、そのくらいにしなさい。
貴明もそれくらいで動揺しない。
春夏さんから連絡をもらって、どれほど経っていると思ってるの?
もっと、ドシッと構えなさい」

「おば様の言う通りよ、タカ坊。
貴方も、もっと気を強く持ちなさい」

お袋とタマ姉のダブル口撃(誤字に非ず)
俺だって色々考えて来るんだぞ!!

「でも、タカくんがドシッとするなんて想像つかないねー」

「アッハッハッハ!!
本当に変わらんな、お前は!!」

「笑うな!!」

このみが口元に指を当てて、無邪気に止めを刺す。
親父は大爆笑。
いいさ、どうせ俺なんて・・・

「タカくん?」

「このみ・・・
そっとしてあげなさい」

「??」

「全く、情けない子ね・・・」

 

そんなやり取りをしている間に学園に着く。
門の前に、ささらさんと優季さんが出迎える。

「初めまして、久寿川ささらと申します。
貴明さんには色々お世話になっています」

「草壁優季です。
私も貴明さんに助けられています」

ペコリと一礼するささらさん達に、親父達はすぐに『俺達の関係』を察する。

「これはどうも、ご丁寧に。
貴明の父の『河野貴樹』と言います」

「貴明の母『河野春菜』です。
こちらこそ、息子がご迷惑を掛けていませんでしたか?」

「いえ!
それは、私たちの方です。
もし貴明さんに出会っていなかったら・・・」

「今の幸せはありませんでした。
ご迷惑どころか感謝しています」

「・・・そうですか。
貴明、彼女達を泣かせるんじゃないぞ?」

「分かってる」

それは心に決めていることだから、しっかりと頷く。
もう皆を泣かせないと・・・

「それでは、おじ様、おば様。
また後で」

「お母さんも会いたかってたらか、寄ってね」

「おや?
環ちゃん達は来ないのかい?」

「ええ。
大人数で移動するのは、目立ちますから」

「気にしないわよ、私達は」

「おば様、今の目的は三者面談ですから。
その機会は、明日にでも」

「そう?」

ちなみに、駅から現れた親父達はスーツを着ている。
駅から直接学園に向かうとはいえ、大量の荷物とはミスマッチだった。

「それでは来客用の出入り口にご案内します。
ついてきて下さい」

「貴明さんは履きかえて、教室前で待っていてください。
ご両親は私たちに任せてください」

「分かったよ、優季さん。
ささらさんもお願いします」

「はい」

「それじゃ先に行ってるけど・・・
親父、お袋、変な事を聞くんじゃないぞ?」

「貴明・・・
お前は父親の事を信じられないのか?」

「わりと」

「ぐはっ!?」

「母親はどうなの?」

「結構」

「ど、どうして!?」

念の忠告に、親父達はショックを受ける・・・フリをする。
それに見事に騙された2人はフォローに回る。

「貴明さん・・・
その、ご両親の事をそのように言うのは・・・」

「そうですよ」

「ささらさん、優季さん・・・
親父達はこの程度じゃ堪えもしないよ」

「チッ!
軽く流すとは・・・
貴明も成長したな」

「ええ。
昔はよく真に受けて可愛かったのに、残念」

「「・・・・・・」」

「ほらね。
それじゃ、案内をお願いします」

あっさり立ち直り、ブツブツ言っている両親にささらさん達はポカンとしている。
身勝手さはまーりゃん先輩と良い勝負だよ。

ちなみに先に一人で教室前で待っていると、親父達は満足そうでささらさんと優季が真っ赤に俯いて歩いてきた。
もちろん理由を訊ねる。

「親父、何をしたんだよ?」

「何もしていないぞ。
少しお話を聞かせてもらっただけだ」

「そうよ。
貴方の活躍とか、ささらさん達の気持ちとかをちょっと♪」

だー!!
だから変な事を聞くなといったんだよー!!
ささらさん達も正直に話さないでくれー!!

 

 

「・・・以上が、河野君の成績に関するお話です。
成績は特に問題はありません。
一流大学を目指す予定などは?」

「と、とんでもない!!
先生、自分の成績はよく分かってますよ!!」

「それなら大丈夫でしょう。
進級しても今の調子なら心配はありません。
むしろ今から頑張れば、一流とは言いませんが良い大学にも行けますよ」

「そうですか。
いけ、貴明」

「無茶な!!」

「何を弱気な事を言ってるのよ、貴方は。
やってすらもいないのに」

「いや、無茶苦茶だから!!」

成績に関して問題はないと太鼓判を押されたのはいいけど、希望の持ちすぎは良くないよね?
そんな現実を知っている俺を無視して、親父達は強引に進める。

「さて、これからが本題ですが・・・
河野君の友好関係のことです」

「っ!?」

き、来た!!
俺達は学園側にとっては問題の種だ。
担任とはいえ学園側としては、両親に忠告しなくてはいけないだろう。
いや、忠告で済めばいい方だ。
もしかしたら・・・

「お父さん」

「はい」

厳しい表情で親父に向かう担任。
どう言われても、俺は皆を・・・

「誰が勝つと思いますか!?」

「だー!!」

予想外すぎるお言葉に、つい机に額を打ち付けてしまう。

「せ、先生!?
こういう場合は、忠告とか勧告するんじゃ!?」

「何を言う、河野!!
元は、お前が意気地無しだからいけないんだろう!!
俺はミルファの一点買いなんだぞ!!」

「アンタ、本当に教師かよ!?」

この担任もかよ!!
さっきまでの俺の決意は何だったんだよ!?

「先生、オッズ表はどうなっているんですの?」

「『全員モノにする』と『ヘタレの考えであえて全員振る』というのが二分していますね。
個人では、ミルファと生徒会長の久寿川と副会長・・・向坂が僅かに上位ですが、差はほとんどありません」

「おや、まあ。
僅差ですか?」

「ええ。
もっとも、河野が動けば変動しますが」

しかもお袋!!
暢気に状況を訊いてるんじゃない!!

「先生、ちょっと待ってください!!」

「親父!!」

机にバンッと強く手を叩き、腰を上げる親父!!
いいぞ、親父!!
ビシッと言ってやってくれ!!

「その賭けは自分も参加できるでしょうか!?」

「ええー!!?」

親父の言葉は俺をさらに貶めるものだった(汗
こ、この親父は・・・(怒

「もちろんですよ!!
胴元はいませんが、システムや更新は他の者がやっていますので誰でも参加可能です」

「いい加減にしろー!!!」(激怒

責められるよりはマシだろうけど、この展開は間違えているだろう・・・(汗

 

「どうかしましたか、貴明さん?」

「大声で叫んでいましたよね?
何かあったのですか?」

「い、いえ・・・」

ささらさん達に何て言えば良いのだろうか(汗

 

 

理不尽な三者面談も終わり、校門で再び交代。
次は由真、愛佳、郁乃だった。
自己紹介する時、 緊張のあまり愛佳が舌を噛んでしまった(汗
軽いハプニングというか微笑ましいけど・・・

「それでですね、貴明ったら・・・」

「逆に負けたんだろう?」

「そうなんです!!
さすが、よく分かりますね!!」

「アイツほど分かりやすい男も中々いないぞ」

「そうですよねー!!」

由真は親父と意気投合したのか、俺の失敗談で盛り上がり・・・

「いい、愛佳ちゃん?
無理してのダイエットは身体を壊すわよ?」

「で、でも・・・」

「それでも気になってしまうのは分かるわ。
だから・・・」

「へぇー」

「要は工夫よ。
短期間で無理をして、さらにリバウンドを恐れるか・・・
長期的でもいいから、健康で確実に痩せられる。
どっちを選ぶかは、分かるわね」

「は、はい、頑張ります」

おふくろは愛佳へ悩み相談室を開いていた。
それにしても・・・

「なあ、郁乃」

「なに?」

「愛佳って、まだダイエット続けてたの?」

「・・・本人はね。
いつも葛藤しつつ、結局はお菓子を食べるんだもの。
私がいくら言ってもね」

「そ、そうなんだ」

「ちょっと見ものよね。
今から一緒に昼食でしょ?
あの姉が、ご両親を前にして我慢できるかしら?
アドバイスをもらっているとはいえ・・・」

「郁乃、顔が邪悪に歪んでいるぞ」

「・・・邪悪とは何よ?
せめて意地悪と言いなさいよ」

だってさ、そんな『ニヤッ』と笑えば誰だってそう思うよ?
三者面談が時間が掛かった事もあり(成績・進路は2割、その他が8割)、昼食を取る事になった。
場所はもちろん・・・

 

「おまちどうさまだ。
ご注文はこれでいいか、うー?」

「うん、全部揃ってるよ」

るーこがアルバイトしている喫茶店。
人数が多いので、前もって席を取ってもらっていた。
休みだったのだが、今日はあえてバイトの予定を入れた。

「うーパパ、うーママだな。
私はルーシー・マリア・ミソラという。
るーこと呼んでくれ」

「るーこちゃんね。
貴明も良い子ばかり見つけてくるのね」

自己紹介するだけでるーこも『ある一人』だと理解する親父達。
というより、この展開を予想していたのだろう。

「勿体無さ過ぎるなー
るーこちゃん、貴明じゃなくてもっと良い男を紹介してやろうか?」

「せっかくだが断らせてもらう。
るーには貴明しか望まない。
内心では自慢の息子と思っているのに、貶す事もないだろう?」

「それはそれ、これはこれ。
そういうのは分かってても、黙ってほしかったよ」

「すまない」

「はいはい。
ほら、皆さんも暖かいうちに食べましょう」

「「「はい」」」

「るーこさんもよろしければどうかしら?
忙しい?」

「ちょっと待ってくれ。
店長と相談してこよう。
私のことは気にせず、先に食べていてくれ。
冷めてしまうからな」

「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

「ああ、そうしてくれ。
では、ごゆっくり」

まあ、るーこも仕事中だからな。
休憩時間も何時からと決まっているだろうし・・・

「あむっ・・・
美味しい〜」

「それはそうだけど・・・
デザートはどうするの、お姉ちゃん?」

「え、えっと・・・」

「ま、まだ懲りてないのね、アンタ」(汗

「郁乃ちゃん、由真ちゃん。
意地悪なことを言わないの」

「「はーい」」

「は、春菜さ〜ん」(感激

「よしよし」

おふくろが愛佳をナデナデして慰める。
いいのかなぁ、これで?

「店長の許可をもらった。
私も相席をさせてもらっていいだろうか?」

「もちろん。
貴明、イスを持って来い」

「うん」

自分の食事も持って、るーこが戻ってくる。
どうやら、うまくいったらしい。
イスも元々に人数分しかなかったので、隣から一つ失敬する。

「ありがとう、貴明」

「礼はいいんだけど・・・
やっぱり、そのままなんだ」

「食事だけで態々着替えるのも、変だろう?」

「そ、そりゃ、そうだけどさ・・・」

るーこはウェイトレスの姿のまま。
その服装で看板娘が俺達と一緒に食事を取っているんだ。
この店には俺の事で噂(伝説)があるんだけど・・・
さらにレベルが上がりそうだなぁ(汗

食事の後のデザートで、るーこが『ドキドキパフェ』を持ってきた。
今回は人数も多いので、ちょうど良いくらだったけど恥ずかしい・・・
俺達5人と親父達は別々の計2つ。
るーこなりの気遣いで、親父たちは喜んでくれた(見事に完食)
ちなみに、俺達の中で一番食べたのは愛佳だった・・・

 

 

腹ごしらえと、すぐに家へ戻るのではなくてちょっと公園へ寄る。
もちろん、途中で駅に戻って荷物は回収済み。
るーこはもちろん愛佳達とも店で別れ、公園で待っていたのは・・・

「るー☆」

「は、初めまして」(緊張

「初めましてっす♪」

「初めまして」

珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、よっちゃん、ちゃるの4人。
それぞれが親父達に自己紹介してから、寒さなんかなんのそのとばかり、
珊瑚ちゃんは親父と遊びまわり、瑠璃ちゃんは振り回されている。
ちゃるはおふくろと『例の趣味』の話に盛り上がっていた。
俺とよっちゃんは、ベンチで座っているだけ。

「先輩・・・
先輩のご両親って、なんかこう・・・」

「言わないで・・・」(泣

「・・・はいっす」

よっちゃん・・・
それ以上言わないで、辛いから(泣

「でもー
せっかく先輩のご両親と会えたのに、私だけ除け者っす」

「そういうんじゃないと思うけど、流れ的に・・・」

寒さ以上に年齢的に公園で遊ぶというのも・・・

「ちゃるの趣味は知っているっすけど、詳しく語れるほど捨てていませんから」

「だよねー」

というより、親がコスプレしていた(しかも衣装はまだ保存中)過去を知ったときのショックといったら・・・
ご想像できるでしょうか?

「お互い除け者同士、イチャイチャするっすよー!」

「うわっ!!
ちょっと、よっちゃん!?」

いきなりガバチョッと抱きついてくるよっちゃんに慌ててしまう。

「き、今日は親父達もいるんだからさ!
そこの辺りを理解して欲しいんだけどー!!」

「だからこそのアピールっす!!
ほらほら、先輩♪」

抱きついてくるよっちゃん、引き離そうとする俺。
そのやり取りは、すぐにも変化する。

「よっちだけズルイでー!
貴明ー、ウチもー!」

「ええー!?」

正面から珊瑚ちゃんがダッシュで抱きついてきた。
横には当然、よっちゃんも。

「ああー!!
さんちゃんに抱きつくなー!!
離れんかいー!!」

そのさらに後ろから、瑠璃ちゃんが引き離そうと左腕を引っ張る。
でもさ、いつもの事だけど引っ付いているのは珊瑚ちゃんだから。

「先輩、ファイト」

「・・・慰める前に、この状態を何とかして欲しいんだけど?」

「無理」

「即答ですか・・・」

いつの間にか後ろに回っていたちゃるが俺の頭を撫でる。
励ますくらいならと、懇願するがあっさり返されてしまった。

「両手に花・・・いや、周りに花束だな」

「微笑ましくていいじゃないですか?」

親父達はそんな俺達を、子供を見るような目で微笑む。
実際に子供なんだけど、かなりキツイです(泣

 

 

「改めて、うちの息子が大変お世話になりました。
これはお土産です」

「いえいえ・・・
タカくんも私にとっては息子同然ですから、お気になさらず」

「春夏さん、ありがとうね」

最後の場所は柚原家。
用件はもちろん、春夏さんにお礼を言う為。
当の本人である俺もお邪魔している。
隣にはこのみは座ってて、お茶請けをパクパク食べている。

「ですが、こちらが思っていた以上にご迷惑を掛けたでしょう?
特に、友好関係で・・・」

ジロリとおふくろがこちらを睨む。
イルファさん達以外は、全員と会って好印象を持ってくれているのは分かる。
状況と周りと常識を考えたら怒るのは仕方ないだろうな。

「この子ったら、本当に意気地無しで・・・
その手には情けないくらい気弱になるから、アドバイスやフォローも大変だったでしょう?」

そっちかよ!!
実際に色々助言をいただいた身としては、言い返せないけど。

「むしろ面白・・・コホン、大人として当然の事をしたまでよ」

春夏さん!!
貴女、何を言おうとしたんですか!!

「ねえ、タカくん?
お茶菓子食べないの?」

ツンツンとこのみが腕をつつく。
振り向くと、目で『食べていい?』って訴えてる。

「いいよ。
あげる」

「わーい♪」

「このみ!
すみません、この子ったら・・・」

「それこそ可愛いものじゃないですか。
このみちゃん、おじさんの分もどうぞ」

「はい、おばさんのももらってちょうだい」

「・・・お母さん?」

さすがに親父たちまで渡されては、『わーい♪』というわけにはいかないだろう。
春夏さんの顔色を伺うこのみ。
春夏さんは溜息を一つつき、お許しを与える。

「このみ、お礼を言いなさい」

「うん!
ありがとー!
おじさん、おばさん!!」

「うんうん、元気なのはいいことだ」

「春夏さんが貴明を息子と思ってくれるように、私達もこのみちゃんは娘同然。
後数年したら、本当の娘になるのよねー」

「ぶはっ!?」

さり気なく爆弾発言に、俺はまた咽てしまう。

「お、おふくろ!!
そういう話題は止めてくれ!!」

「どうして?」

「どうしてって・・・
春夏さんの前で言う事じゃないし、このみだって、その・・・困るだろ?」

あっ・・・
親父とおふくろは呆れた視線を向け、春夏さんは生暖かい笑顔を浮かべている。
このみにいたっては不思議そうに首をかしげている。
なぜ?

「どうして困るの?
私はタカくんのお嫁さんになるのが困るの?」

「い、いや、そういう意味じゃなくて・・・
恥ずかしくないのか?」

「ううん。
私は昔からタカくんのお嫁さんになるって決めてたら、今さら?」

「うえっ!?」

こ、このみまで爆弾発言を!?

「というより、気付かない貴明の方がおかしいよな?
なあ?」

「そうねぇ。
昔はよく、このみちゃんと環ちゃんのどっちが貴明をもらってくれるか話し合ったわね?」

「そうそう。
いっそのこと、両方もらうってのはどうだって言ってたっけ。
まさか増えに増え、15人になるとはなぁ」

ハッハッハッとフフフと笑いあう親父達。
春夏さんもすぐに話しに加わり、このみは益々首を傾げる。
・・・俺にどうしろと?

 

 

「おっかえりー!
たっかあきー!」

ようやく自宅に戻る事ができ、玄関のドアを開けるとミルファちゃんに抱きつかれた。
両手は荷物を持っているので塞がっているので、受け入れるしかない。
恐る恐る後ろを向くと、親父達はイイ笑顔だった。

「あー!!
ご主人様にらきつくなれす!!」

今度はミルファちゃんの後ろから、シルファちゃんが出てくる。

「いいじゃなーい、これくらい。
私から貴明への愛情表現♪」

「こ、この、あーぱーめいろろぼー!!
はーれーるーれーすー!!」

「ひっきー!!
引っ張らないでよ!!」

シルファちゃんが引き剥がそうとするけど、ミルファちゃんも抵抗する。
というより、俺の首に回した両手でがっちりと。
く、苦しい・・・

「へへーんだ!
私と貴明の繋ぐ糸は、何があっても切れないんだもーん!」

「うきー!!」

親父らも笑ってないで助けてくれ・・・
あっ、意識が・・・

「何をやっているのですか!!」

「「あう!」」

飛ぶ前に、イルファさんが止めてくれた。
昔は注意だけだったのに今はゲンコツ。
そこの辺りで、イルファさんがどれだけ苦労しているか察することができる。

「ゲホッゲホッ・・・」

「大丈夫ですか?」

「う、うん。
助かったよ、イルファさん」

「申し訳ありませんでした、貴明さん。
貴女達は、仮にもご主人様に不躾どころか危害を加えてどうするんです!!」

「仮じゃないもーん!!」

「し、シルファも!!」

「そういうことを言っているんじゃありません!!
貴明さんにご迷惑を掛けた上、お客様・・・いえ、ご家族の方が帰ってきたんですよ!!
それを無視するとはどういうことですか!!」

「う・・・
ごめんなさい」

「ろめんなさいれす」

反省の色無しの2人だったが、イルファさんが怒鳴るとシュンとする。

「私ではなくて、貴明さんとご両親様に謝らないと意味がありません」

「まあまあ・・・
イルファさん・・・でしたね?
それくらいで許してあげてください」

「彼女たちはこの子が好きなだけなんですから」

「・・・分かりました。
ここはご両親に免じて許しますから、ご挨拶しなさい。
まずは私からします」

コホンと咳払いを一つして、イルファさんから自己紹介が始まる。

「お騒がせして申し訳ありません。
私は来栖川エレクトロニクス製・HMX17−a イルファと申します。
以後、お見知りおきのほどを」

「こ、これはどうも、ご丁寧に・・・」

優雅に一礼するイルファさん。
親父もちょっと慌てて返答する。

「河野ミルファでーす!!
お義父様とお義母様、よろしくお願いしまーす!!」

「あらあら、元気のいい子ね」

おふくろ・・・
『河野』の部分に反応は無しですか・・・

「あ、あの、その・・・」

「頑張って、シルファちゃん」

「ファイト!」

最後のシルファちゃんだけど、ある程度は治まった人見知りもぶり返し(プラス緊張)でガチガチしている。
イルファさんはもちろん、なんだかんだ言ってもミルファちゃんも応援している。
親父達も敢えて黙っている。

「ご、ご主人様のめいろろぼのシルファれす!!
よ、よろしくお願いしますれす!!」

「貴女がシルファちゃんね。
電話で少し話したけど、とても良い子ね」

ガバッと頭を下げるシルファちゃんの頭をナデナデするおふくろ。
彼女も気持ちよさそうだ。

「頑張りましたね、シルファちゃん」

「ぶー
シルファったら、ちゃっかりアピールしてるじゃない」

微笑ましく妹を見つめるイルファさん、少し口を尖らして拗ねるミルファちゃん。

「さて、ミルファちゃん、シルファちゃん。
先に行って食事の準備をしてください」

「「はーい」」

イルファさんの指示に従い、ミルファちゃん達は台所へ向かう。
一瞬、2人の間に火花がちっていた。
おそらくどっちが先に出来るか・・・もしかしたら親父達にアピールするか、かもしれない。
イルファさんは溜息を零しながら見送り、改めてこちらを向く。

「それでは、どうぞこちらへ。
あっ、貴方様方にとってはご自宅でした。
とんだご失礼を」

「いいのよ、イルファさん。
確かにこの家は『河野家』だけど、今は住んでいるのは貴女達。
私達は招待された側よ。
ほら、夕食を用意してくれているのでしょ?
案内してくれないかしら?」

「・・・はい、こちらへどうぞ」

自分の言葉が適切じゃなかったと思い謝るが、おふくろがフォロー(本心)のお陰で立ち直る。
おふくろに視線で礼を言い、笑って返してくれる。
その機敏のよさは昔から変わらないなぁ・・・
普段はアレだけど。

 

 

料理をご馳走になった後、この家には俺達3人しかいない。
彼女達は『今日はご家族水入らずでいてください』と言い、帰っていった。
テーブルに集まって、イスに座って改めて今までの話をする(直接彼女達のプライベート以外)

「皆、良い子達だな」

「そうね・・・
この子ったら、どうやって知り合ったのかしら?」

「どうって・・・
その・・・成り行きで・・・」

うん、間違いは言っていない。
由真との出会いなんて、そのものだ。

「それで、貴明。
貴方はこれからどうするの?」

「どうっ・・・て?」

「進路もそうだが、訊きたいのは彼女達のことだ。
なあ、母さん?」

「ええ。
ここまで『答え』を待ってもらっているんだから、もうあるんでしょ?」

「・・・・・・」

確かに『答え』は持っている。
由真とデート以来、言おう言おうと思っていたけどズルズル先延ばしに・・・

「・・・どうやら『答え』はあるようだな。
ここで今も考え中などと言ったら、殴っていたぞ」

「でも、アナタ。
この子ったら、告白する勇気が無いみたいですよ?
全く、それでも私達の息子ですか・・・」

「そうだぞ、貴明。
俺が母さんを口説いたときにはなぁ・・・」

「もう、アナタったら♪」

あ、あの・・・
息子の前で惚気るのは止めてくれませんか?(汗

「おーい?」

「チッ!
こういう時は気を利かせるものだろ?」

舌打ちされましたよ(汗
俺にどうしろと?

「アナタ。
今は貴明のことよ。
後の事は寝室で・・・」

「おお!
気合入るぞ!!」

だから、そういう会話をしないでくれ!!
来年辺りで、かなり離れた弟か妹ができるのは勘弁して欲しいぞ(汗

「貴明。
貴方は『答え』はちゃんと出ているのね?」

「う、うん」

「それを告白する覚悟がない。
そうね?」

「・・・うん」

流石、おふくろ。
全て分かっていらっしゃる。

「私達も予想はつくけど、彼女達を差し置いて先に聞くのも拙いわね」

「このへたれ」

お、親父・・・
ずっぱりきってくれるよなぁ・・・

「仕方ないわね。
少しだけだけど、背中を押してあげましょうか」

「任せろ。
逃げ場が無いセッティングをしてやろう」

「え?」

な、何か話が妙な方向に・・・

「貴方は先にお風呂を済ませて、もう寝なさい。
明日は大忙しなんだから」

「ど、どういうこと?」

「それはお楽しみだ。
俺達も準備があるからな、出て行け」

「うわっ!?」

親父に首をヘッドロックされ、引き摺られて追い出される。
ドアの鍵まで掛けてしまう。
あ、明日、何が起こるんだ・・・?

 

 

「昨日は色々ありがとう、皆さん。
今日は私達から、貴明がお世話になったお礼よ」

「気にせずに食べてくれ」

『はーい!!』

次の日の昼頃、目的地も教えられずに連れられた場所はある料理亭。
事前に予約していたのだろう、案内された部屋にはタマ姉達全員揃っていた。
そしておふくろ達が音頭をとって食事が始まる。

「いいのですか?
このお店って・・・」

「環ちゃん、ヤボなことはなし。
気にしないで」

「・・・はい」

後日、タマ姉から話を聞いたけど、この店は高級料理店で中々予約も取れないくらいの人気らしい。

「たっかあきー♪
あたしは食べる事はできないから、貴明分を補充☆」

「み、ミルファちゃん!?
なんなの、貴明分って?」(汗

「貴明分ってね、貴明から補給できるあたしの元気の元♪」

なに、それ?(汗

「それはいいですね。
では、私も」

「い、イルファさん!?」

いつもは注意する側のイルファさんまで抱きついてくる。
し、シルファちゃん、ヘルプミー!!

「ご、ご主人様・・・
シ、シルファにも」

ええーっ!?
いつもの意地っ張りはどうしたの!?
こういう時こそ、俺に怒って有耶無耶に!!

「それじゃ・・・
俺達はちょっと席を外すから、好きにしていてくれ」

「頑張るのよ」

「お、親父、おふくろ!?」

意味深な言葉を残して、2人は部屋を出て行く。
よ、ようするにこの場で告白しろっていう事ですか?
い、いかん、意識しだすと余計に・・・
って?

「ん?
何だ、これ?」

「お義父様が貴明にって、置いていったわよ」

「へえ・・・」

俺の側に一本のペットボトルが置かれている。
ラベルは剥がしており、中身も透明だ。
水?

「うっ!?」

蓋を開けて匂いを嗅ぐとすぐに分かった。
これって、酒だ!!

「ど、どうしたの!?」

「な、なんでもないよ!!」

「そ、そう?」

「そうそう!!」

ミルファちゃんは飲めないけど、珊瑚ちゃんや由真が興味を持ってしまったら困る。
何とか誤魔化して、親父が酒を置いていった意味を考える。
忘れて行ったという訳ではないはずだし・・・
ま、まさか・・・
酒を飲んで、勢いで告白しろって事?
未成年に酒を勧めるなよ、実の親・・・(呆

「でも、決心がついたよ」

「貴明さん?
何か仰いましたか?」

「いいえ、何でありませんよ。
飲み物をいただけますか、イルファさん?」

「は、はい。
ウーロン茶でよろしいですか?」

「うん」

やっぱり、酒を飲んでの勢いで告白するのも失礼だよな。
今は皆も楽しく食事しているんだ。
食後に一息つけば、伝えよう。
そう決意すると、気が軽くなって自分も食事も進むようになった。
うん、美味い。

 

「皆、聞いてほしい事があるんだ」

「何かしら、タカ坊?」

食事も終わり、親父達が戻ってこないので思い思いに寛いでいる皆に声を掛ける。
タマ姉が聞き返すが、俺の真剣な表情を見て一同を集める。

「まずは皆に謝らなくちゃいけない。
ごめん、今まで『答え』を言わずズルズル来てしまって・・・」

「それは構いません。
私達は何時までもお待ちするつもりでしたので」

「ありがとう、ささらさん。
でも・・・」

「ようやく返事を貰える・・・と、いうことかしら?」

「そうだよ、由真。
『答え』自体は出ていたけど、勇気が無くて今まで掛かってしまった」

「勇気やなくて、根性やで。
貴明はヘッキーやからなぁ」

「それを言われると困るけど・・・」

言葉を切って、改めて皆を見渡す。
皆、笑顔で静かに次の言葉を待っている。

「最初はこれ以上踏み込まないように、全員に断るという考えもあった。
でも、今は最低な返事だと理解している。
それでも、誰か一人を選ぶなんてできない」

「それは、残される人達が可愛そうだから・・・ですか?」

優季さんが質問を投げかけるが、それは違うと言える。

「ううん・・・
違うよ、優季さん。
本当に皆同じくらい好きなんだ。
差なんて全くないって言い切れるほどに」

『・・・・・・』

「だから・・・
俺は皆が好きだ!!
ワガママや情けないかもしれない!!
でも、それでも!!
皆、俺と付き合ってくれ!!」

ガバッと土下座のように頭を下げる。
これが俺の『答え』だ。
呆れたり、罵倒されるのも覚悟の上。
離れてしまうのもあるかもしれない。
でも・・・

「タカ坊。
男が土下座なんてするものじゃないわ。
顔を上げてちょうだい」

「ダメだよ、タマ姉。
これは俺のケジメだし、返事を聞くまではこのままでいさせてくれ」

そう・・・
彼女達が今まで待ってもらった時間や気持ちを考えたら、これくらいは当然の事だ。
すぐに上げるわけにはいかない。

「いいから顔を上げてよ〜。
私たちの返事は決まっていますし、下げたままというのもお互いに失礼だよ〜」

「・・・・・・分かった」

愛佳の言葉で渋々顔を上げる。
俺はそのままでも気にしないけど、彼女達は言いにくいかもしれない。
顔を上げると、予想以上に皆が側にいたから内心驚いた。
けど、表情に出さずにジッと返事を待つ。

「皆も答えは一緒だろうけど、やっぱり一人ずつ言いましょうか?」

「そうですね。
皆さんも言いたいことありますし・・・」

言いたい事・・・
やっぱり、こんなろくでもない答えなんて受け入れられるはずが・・・

「バカ」

「あたっ」

座っている俺の正面にタマ姉も座り込んで、デコピンを浴びせる。

「想像して勝手に決めないで。
私はタカ坊が好きという気持ちは変わらないし、さっきの言葉も嬉しかったんだから」

「えっ?」

それって・・・

「もちろん貴方の告白を受け入れるわ。
だって、私も貴方を愛しているし、皆と一緒に居たいから」

「タマ姉・・・」

タマ姉は返事を言い終わると、キスをしてから立ち上がる。
その後ろにはこのみがいた。

「私もタカくんが大好きだし、愛してるんだよ?
ちゃる達も一緒でもいいと思う。
皆タカくんを中心に集まって、好きになったんだから」

「このみ・・・」

「確かに、皆一緒というのは色々あると思う。
貴明くんの心配するのも分かるよ。
それでも私も貴明くんを愛してるし、皆も同じ決意があるよ」

「愛佳・・・」

「しょうがないじゃない?
私にしたら後から横恋慕したようなものだし、お姉ちゃん達と争うよりはね。
でも、私も譲れないくらい貴明を愛しているんだもの」

「郁乃・・・」

「好きな者同士が惹かれ合うのは当然の事だ。
私はうーを・・・貴明を愛しているし、お前も私達を愛してくれる。
それで充分だ」

「るーこ・・・」

「貴明は難しく考えすぎやー
ウチ達、皆が愛し合ってるんや。
それでええやん?」

「珊瑚ちゃん・・・」

「ウ、ウチもおんなじや。
さんちゃんと争うのはイヤやし、貴明も、その・・・愛してるんや。
今更、断る方が最低やで」

「瑠璃ちゃん・・・」

「周りから見れば、私たちの関係は理解してもらえないかもしれません。
でも、そんな事いいじゃないですか?
私は貴明さんを愛しています。
そして、皆さんが大好きです。
それでいいじゃないですか」

「優季・・・」

「幸せは人それぞれだと思うわ。
私の両親も不仲になっていたんだもの。
要は、私達の幸せというものは貴明さんや皆さんと一緒にいること。
愛してますよ」

「ささら・・・」

「さっすが先輩♪
大胆なお答え、ありがとうございます!
私たちの愛は究極無敵っす!!
何人(なんぴと)にも妨げる事は出来ないっす!!
・・・愛しているっすよ、先輩」

「よっちゃん・・・」

「私も今さら、他の男に元に嫁げと言われても断るぞ。
今の幸せを知ってしまったからな。
手放す気も、無くす気もない。
愛してるぞ、先輩」

「ちゃる・・・」

「私とっては、むしろ望むところです。
瑠璃様はもちろん、他の皆様もいつまでもご一緒に居たいと思っていました。
私も貴明さんを愛していますし、愛されたいです」

「イルファさん・・・」

「もう、仕方ないなー
ま、貴明の事を知っちゃうと離れる事なんて出来ないからねー
あたしも今まで楽しかったし、それでいいんじゃないかな?
で・も、精一杯可愛がってよね?
愛してるんだもん。
それくらいはいいよね?」

「ミルファちゃん・・・」

「ご、ご主人様はヘタレれすから、こうなると思っていたれす。
らけろ、シルファのご主人様は貴方らけなんれす。
そ、それに、皆もその・・・好きらから、今のままがいいれす。
あ、愛しているれすよ」

「シルファちゃん・・・」

他の皆も想いを伝え、キスをしてくる。
俺の頭は一杯一杯になるけど、何とか耐える。
そして皆が笑顔で片腕を俺の前へ伸ばし、同時に改めて返事をする。

『だから・・・
これからも、よろしくね♪』

「・・・こちらこそ」

俺も右腕を差し出して、皆の手を掴む。
もう2度と離さないし、ずっと一緒だ・・・

 

 

おまけ

お互いに改めて想いを確認し合い、その余韻に浸っている頃。
突然、扉が開き親父達が入ってくる。

「ようやく貴明も男を通したか。
全く・・・ヘタレだな」

「そうねぇ・・・
女の子をこんなに長く待たせたんだもの。
意気地なし」

入るやいなや、さっそく俺にありがたい言葉を投げかける(泣
俺だって、散々悩んでありったけの勇気を出してだなぁ!!

「そんな恨みがましい目を向けるな。
次の予定があるんだからな」

予定?
そんなの聞いていないけど?

「実はな・・・
この機にと思ってな、春夏さんを始め彼女達のご両親も別室で呼んである」

『ええー!?』

ちょっ、親父!?
アンタ、なんばしよっと!?(何処の言葉だよ?)

「さすがに連絡を取るのは苦労はしたが、皆さんが2つ返事で了承してくれて助かったぞ」

「貴方も意気地なしって言われたくなかったら、しっかりとご挨拶するのよ。
皆も移動するから、ついて来てちょうだい」

そ、それで、いままで席を外していたのか!!
本当は出迎える為に!?

「腹を括りなさい、貴明」

「・・・うっす」

引き摺られていくように、部屋を移動する俺。
後ろからついて来る皆は、楽しそうだった。
俺・・・大丈夫かなぁ?(泣

 

 

エピローグへ続く

 


貴明の両親は私のオリジナルなのであしからず。
あっ・・・雄二、忘れた。