「うう・・・
何だかんだで、私だけアイツとキ・・・キス、していないんだ・・・」

「でも、貴明君も別に由真が嫌いとかじゃないと思うよ。
タイミングというか、キッカケがなかっただけだよ」

「・・・そういう愛佳は、そのキッカケのダイエットはどうなったのよ?」

「え?
えっと・・・」(困

「言わなくてもいいわよ。
目の前に用意されたお菓子の消費ペースが、答えを教えてくれてるから」

「由真のイジワル〜」(泣

「・・・太ったの?」

「・・・・・・ちょっと」

「自業自得ね」

「うわーん!
由真も郁乃もそればっかりで、私をイジめるー!!」

「・・・郁乃ちゃんにも言われてるんだ」(汗

「そうなのよー
郁乃ったら、ことある事にさ・・・」

 

『全く・・・
そんなに食べるから、お腹が柔らかいのよ。
そのうち三段腹になるんじゃない?』

『お姉ちゃんさ、本当にそれで制限しているつもりなの?
さっきもクレープ食べていたんじゃない。
そのうち、ダルマになるわよ?』

『・・・・・・ハア』(呆

 

「最後は生暖かい視線で見られるんだよー!
ここは、お姉ちゃんとしての威厳を持ってビシッと言わなくちゃ!」

「そんなモノ、最初から無いじゃない。
手にお菓子を持っている姿じゃ、逆に突っ込まれるわよ?」

「はっ!?
何時の間に!?」

「・・・郁乃ちゃんも苦労しているのね」

「そ、そんな事より、由真のキスの事だよー!」

「うえっ!?
そんな話の変え方は卑怯よ、愛佳!!」

「えー?
そんな事無いよー」

「その満面な笑顔で誤魔化さないで!」

「大丈夫、大丈夫。
私に考えがあるんだから。
郁乃も私の考えで、貴明君とキスしたんだから♪」

「・・・ホント?」

「ホントホント。
それでね・・・」

 

 


2005・2008 Leaf 『ToHeart2 XRATED&ToHeart2 AnotherDays』

「パニック・ハート」
 第15話・由真の挑戦状


 

「貴明!!
アンタに勝負を申し込む!!」

「・・・は?」

クリスマスや正月などビックイベントも終わり、3学期が始まるまで残り少ない冬休み。
久しぶりに本屋にでも行こうと外に出ると、店の前で待ち構えていたように由真がいた。

「勝負って、どういうことだ?」

「いいから!!
受けるの? 受けないの!?
どっち!?」

「どっちって・・・
突然言われても、何がなんやら・・・」

ちなみに先日、ようやく連絡のついた雄二からの手紙を読んだ。
タマ姉へ届けられたもので、何処かの無人島で遭難していたらしい(汗
それじゃ今まで連絡が無かったのも仕方が無い。
雄二自身はすぐに帰りたいらしいが、当然まーりゃんらが開放してくれるはずも無い。
一応帰る気らしいが、寄り道が多くて何時になるやら・・・
ちなみに、テストを受けていない以前に出席日数もヤバイので、留年が濃厚となってきた。

「とりあえずさ、寒いし何処かの店でも入らないか?」

「それってナンパ?
ま、まあ、相手がアンタなら考えてあげない事もないけど・・・」

「帰る」

「ちょっ、待ちなさいよー!
ゴメン、冗談よー!!」

全く・・・
何がナンパだよ。
俺だって、そんなことする度胸なんてないぞ。
・・・自分で思っても、情けなくなるだけだな。

「理解してくれて何より。
ほら、行くよ」

「うん!!」

さっきまで威嚇するように『勝負よ!』などと言っていたのに、何も言わずに腕を組んでくる由真。
お互い厚着なので『ある感触』に葛藤しないから、いいんだけどさ。
ニコニコとご機嫌に笑う由真に、デコピン一つしてから歩き出す。
『あうっ!?』などと軽い悲鳴を上げて、少しズレたメガネを直して文句を言いつつも腕を解かなかった。

 

「ふーん・・・
遊園地ね」

「ふ、ふん!
文句あるの!?」

ファーストフード店で飲み物とポテトを購入して席につき、経緯を聞く。
色々と激しいレクチャーもあったが、ようするに遊園地に連れて行けということらしい。

「勝負内容はアトラクションごとに決めるわ。
総合で負けたほうが、なんでも一つ言う事を聞くという条件よ」

「やっぱり、そうくるのか・・・」

「それくらいないと、張り合いが無いじゃない。
それに・・・」

「何か言ったか?」

「な、なんでも無いわよ!
それで、どうするの?」

「そうだなー」

遊園地ならシルファちゃんも誘った方が良いんだろうが・・・
由真曰く『勝負』なのだから、俺達だけで行くつもりなのだろう。
財布の中身も余裕を持たせてきたので、それほど心配は無い。
どうしようかと悩む俺に痺れを切らしたのか、由真が立ち上がる。

「あー、もう!!
アンタも男なら、 『それくらいドンと来い!! 』くらい言えないの!?」

「でもなぁ」

「あっ!
ひょっとして、私と勝負して勝ち目が無いから怖いんだ♪
それなら仕方ないなー
うんうん♪」

や、安い挑発だな(苦笑
でも、軽く返して逆に怒らせるのもアレだし・・・
仕方ないな。

「勝負とかじゃなくて、普通に出かけると言う事で良いじゃないか?」

「しょ、勝負じゃないと意味が無いのよ!!」

「わ、分かったよ。
それほど言うなら、その勝負を受けるよ」

「そうこなくっちゃ!!
ほらほら!
そうと決まれば今すぐ行くわよ!!」

「ちょっと、待ってくれ!
まだ残ってるから!」

「それなら、さっさと食べなさいよ!
時間は減っていくんだから!!」

残っていたポテトを大急ぎで食べて、飲み物はホットなので持参する。
全く、勝負好きの由真らしいと言えば彼女らしいな。

 

 

元々は本屋に行く予定だったのでシルファちゃんに連絡し、遊園地に着いたのはちょっと遅い。
冬休み明け前と言う事もあり、かなり込んでいる。
しかし、由真のテンションは上がる一方。

「ふふん。
貴明なんて、ケチョンケチョンにしてやるんだから!
後の泣き面が楽しみだわー」

「そうですか」

「何よー
テンション低いわねー」

逆に俺は、由真に吸われたかのようにテンションは上がらず。
一番の理由は寒いからなんだけど。

「もしかして、無理やり連れてきたから怒ってる?
ゴメン、貴明・・・」

「う、ううん!!
そんな事無いぞ!
俺も誘ってくれて嬉しいし!!」

由真は俺の態度の原因を勘違いして、大人しくなってしまう。
慌ててフォローする。

「そ、そう?
そうよね!!
なんていったて、この私が誘ってあげたんだから!!
よーし!!
早速勝負よ!!」

「うわっ!」

あっさりと立ち直り、組んでいた腕を引っ張られる。
由真って、天邪鬼以前に単純だなと(苦笑

 

〜コーヒーカップ〜

「最初はこれよ!
最初は私が廻すから、降参したらまずは一勝。
次に交代して、私が降参しなかったら完全な一勝よ!」

「そこで、自分主観で勝てる前提かよ」(汗

目の前には数多くクルクル回るコーヒーカップの乗り物を前に、由真がルールを説明する。
多少身勝手なものだったが、理解した。
最初にコレというのもお約束というかなんというか・・・(苦笑

「それで、先手は由真ということだな?」

「そうよ。
フン、見てらっしゃい!
コレで勝負を決めてやるんだから!!」

何度も思うけどさ、人に指をさすのはやめた方がいいぞ?

「何時までもダラダラと話しても進まないから、行くわよ!」

「はいはい」

ズンズンっと気合充分に歩き出す由真。
さて、俺も気分が悪くならない程度頑張りますか・・・

 

「う〜」(苦

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃな・・・
大丈夫よ〜
つ、次に行くわよ〜」

結果は由真が廻しすぎて、彼女自身がダウンしてしまった(汗
当然、俺の番も無く終了。
外が暖かければベンチに座るのも良かったが、今は冬。
建物の中の休憩場に入って、ベンチで由真を寝かせる。
声を掛けても意地を張るのは由真らしいけど、コーヒーカップは引き分けにしておいた方が良いだろう。

「この勝負は引き分けでいいから、もう少し休んでいろ」

「・・・ふん」

俺と反対側(イス掛け部分)に首を動かし、そっぽを向く由真。
まだ拗ねるのか・・・

「それじゃ、何か飲み物を買ってくるよ。
ちょっと待ってて」

ジュースかコーヒーでも飲んだら、多少マシになるだろう。
そう思い、立ち上がると・・・

「・・・」

「由真?」

いつの間にか俺の方を見て、袖を掴む由真。
睨んでいるようで懇願しているようにも見える視線に、俺はそのままもう一度座る。
それを見て、由真は安心したように袖から俺の手を握る。
しばらくそのままで休憩した。

途中、見回りの警備員さんに『大丈夫ですか?』と声を掛けられ、慌ててしまったけど(汗

 

 

〜アイスハウス〜

元気と共に調子も取り戻した由真が、次に指定したステージ(?)はこれだった。
流石に立て続けにジェットコースターは、彼女も勘弁して欲しいみたいだ。

「勝負内容は、中間くらいで立ち止まっての我慢大会!
当然、先に出た方が負けよ!」

「でもさ・・・
今は冬なんだから、ちょっと薄着して外にいるだけで出来るんじゃないか?」

「うるさい!
遊園地に来て、そんな事やってたらバカみたいじゃない!」

ある意味、勝負自体がバカらしいと思うのは俺だけだろうか・・・
でも、今度の説明は実に分かりやすい。

「コーヒーカップでは加減に失敗しちゃったけど、コレはただジッとしているだけよ!
今度こそ、貴明を指差して笑ってやるんだから!!」

微妙に突っ込みたい気持ちを持ちつつ、俺は由真に忠告する。

「なあ、由真。
一つ言っておくが、トイレは済ませておいたか?」

「なっ!?
何言ってるのよ、女の子に向かって!!
デリカシー以前にマナーの問題よ!!」

怒られてしまったけど(汗
さっきの休憩中に由真が落ち着いたら、手を離して買ってきたコーヒーを飲んだ。
その後、移動する前に俺は済ませてきたけど由真はこの通り。

「そんなバカな事を言ってないで、入るわよ」

「りょーかい」

またもや気合充分な由真の後に続く。
おそらく皆様には、この後の展開は予想できるでしょう・・・

 

「ううぅ〜」

「だから、言ったじゃないか?
済ませたかって?」

案の定、身体が急激に冷えて生理的現象(詳しくはノーコメント)が由真を襲う。
最初の方は隠そうしていたが、最後にはモジモジしだし表情も切羽詰ったものになる。
結果的にトドメになったのが、さすがに見ていられなくて肩を軽く揺すったことだった。
念のために言うけど、俺だってワザとじゃないぞ。
由真はその健脚で全力疾走し、出て行った。
俺も何時までも寒い所にいるのも嫌なので、外へ出てしばらく待つ。
そこへ、唸りながら戻ってきた由真に呆れる。

「卑怯よ!!
アンタ、分かってて飲ませたでしょ!?」

「それは言いがかりだよ。
もしそうなら、最初から忠告しないって」

「ガルル!!」

唸り声が変わったよ(汗
猛犬か、お前は?

「それで?
次はどうするの?」

「ちゃ、ちゃんと考えてあるわよ!!
ついてきなさい!!」

若干大股でズンズンと歩いていく由真。
不機嫌なのか、今度の移動は腕を組まずに先に行く。
置いて行かれることはないだろうが、もっと不機嫌になられても困るのですぐに追いかける。
一応、俺の一勝らしい。

 

 

〜お化け屋敷〜

「ルールは簡単!
先に悲鳴を上げた方が負けよ!!
ただし!
貴明が先に悲鳴をあげたとして、ないと思うけど私も出るまでに悲鳴を上げるとルール変更。
数多く悲鳴を出した方が負け。
質問は?」

「・・・相変わらず、自分主観なご説明だね」(汗

「茶々入れない!
し・つ・も・ん・は!?」

「ありません」

「よろしい」

今度も我慢比べに近い。
『何度か遊園地に来ているから、驚く場所も分かっているのでは?』と思うが、そうでもない。
改装を施しリメイクされ、つい先日オープンしたばかりなのだ。
いくら稼ぎ時だからって、クリスマス前にオープンするのは間違えてると思う。
ちょっと話がそれたけど、要は俺も由真も中を全く知らないというわけだ。

「今度こそ、アンタの泣き面を拝んでやるわ!
それを指差して笑ってあげる!」

グッと拳を握り、更なる気合を入れる由真。
しかし、何でだろうなぁ?
彼女が気合を入れるほど、自滅するパターンが多いような・・・

 

「あ、あんなの卑怯よ!!
詐欺よ!!
やり直しを要求するわ!!」

「あのね・・・
一度入ったら、何処に何があるか分かってるんだから・・・
もう無理だよ」

「うきー!!」

今回は正直良い勝負だった。
お互い悲鳴一つ出さずに、出口手前で行けた。
それは内容がつまらないからというワケでもなく、前回より怖さは増している。
ここまで耐えられた事に、自分自身でも褒めてやりたいくらいだった。
しかし、最後が曲者だった。

「あんなで出口の前で待ち構えて、ドアップで襲い掛かる事ないじゃない!!」

そう・・・
俺はもちろん、由真もギリギリだったのだろう。
出口が見えた途端、彼女的にはさり気なく(俺にとっては置いて行かれるほど速く)スピードを上げた。
そこが運の尽き。
壁が反転してゾンビ(もちろんアトラクションの人)が現れたのだ。
それに驚き、見事に甲高い悲鳴を上げた由真だった(ちなみに悲鳴は『うきゃー』だ)

「それに『コレ』・・・
クックックッ・・・」

「??
何なの、その紙?
写真?」

俺の右手に持っている写真をヒラヒラさせて見えないように振る。
俺の意地悪な表情を感じ取ったのか、由真が奪い取る。
元々渡すつもりだったので、あえて抵抗はしない。

「な、何よ、これー!!」(絶叫

その写真には由真が驚いたタイミングで撮られている。
天井にカメラを仕込んであり、『帰りしなにどうぞ』というわけだ。
せっかくだから一枚購入したのだが・・・

「い、意地が悪いわね、アンタ!!
お、乙女の泣き顔を撮るなんて!!」

「写真を撮るのは、アトラクションの一つだぞ?
購入したのは思い出の証としてだな・・・」

「そんなものいらないわよー!!」

写真を細かく破り、ゴミ箱へ捨てに行く由真。
『その場で破り捨てる』ということをしない程度には理性があったらしい。

「これで勝ったと思うなよー!!」

 

 

〜幕間・昼食〜

「い、今のところは私の2敗だけど、次から逆転してやるんだから!!」

「わ、分かったから落ち着いて食べてよ。
タマ姉に怒られるぞ」

「むっ・・・」

その場にいなくても、マナーにうるさいタマ姉を出され勢いを無くす。
時間的にちょっと遅めの昼食を取りつつ、由真は今までの勝負の結果に危機感を感じているらしい。
食べ方も少し荒い。

「でもさ、どうしてイキナリ勝負なんて行ったんだ?
遊園地に来るのが目的だったのか?
それとも『お願い』でもあるのか?」

「そ、それは・・・」

来る前から思っていた疑問を出し、由真は視線を逸らす。
遊園地に行きたいなら、前もって連絡してくるはずだし・・・
他には負けた時の条件の『何でもいうことを一つきく』としか、思いつかない。

「い、いや、俺の勘違いだったらいいし、言いにくければいいんだ。
ちょっと気になって」

居心地の悪そうに身を捩る由真(それでも頬が赤い様な)に、慌ててフォローする。
俺としても勝負云々は置いても、楽しい事には変わりないんだから。

「ゴメン、貴明。
勝負に勝っても負けても最後には言うから、待ってて」

「・・・分かったよ。
それじゃ、食事を続けようか」

「うん!」

由真は俺と一緒に購入したホットドックを再び食べ始め、俺も安心して一口。

「でも、勝負は勝負よ。
後で吠え面かくといいわ」

「はいはい。
楽しみにしてるよ」

「か、軽く流したわね」

だって・・・ねぇ?
由真は自爆属性があるから、怖くないんだよ。

「それじゃ・・・これはどう?」

「ん?」

何故か由真はテーブルに両手をついて、顔を寄せてくる。
そして・・・

 

チュッ♪

 

「なっ!?」

「こ、これだったらアンタも動揺するでしょ?」(恥

お、俺じゃなくても誰でも動揺するよ!?
頬とはいえキスですよ!?
しかも周りには人がたくさんいるんですよ!?

「うわぁ・・・
な、何やってんのよ、私は・・・」 (激恥

由真・・・
やっぱり、お前は自爆属性があるぞ・・・

 

 

〜ゲームセンター〜

「私たちにはやっぱりコレ!!
まずはガンシューティングよ!!」

「ゲームセンターなら地元にもあるだろ?」

「いいの!!」

食後の勝負はゲームセンターらしい。
ココの遊園地には、結構充実しているので数多くの種類がある。
由真が指し示すのは、ガンシューティング。
それも地元にもあった同機種。
突っ込むけど、由真に一喝される。
・・・いいけどさ。

「さすがにコレ一つじゃ、勝敗決めるのもつまらないわね・・・
他にも色々プレイして、勝ち数が多い方が勝者。
いいわね?」

「OK」

「よし!!
良い返事よ!!
まずは私からいくから」

「どうぞどうぞ」

「私だって、珊瑚ちゃんやるーこと勝負して腕を上げてるんだから!!」

説得力ある言葉を出しつつ、お金を投入。

「さあ、来なさい!!」

 

「まだまだねー、た・か・あ・き♪
まあ、コレが今の私とアンタの差よ!」

「そうですねー」

「おやおや?
拗ねちゃった?」

ニヤニヤと笑う由真に何を言っても無駄だな。
ガンシューティングのみならず、ホッケーやUFOキャッチャー、10円で遊べるレトロゲームまでチャレンジした。
その結果、俺が4勝6敗で由真の勝利。
かなりご機嫌なのはいいが、やはり負けたのは少し悔しいな・・・

「でもさ、総合的には俺の2勝1敗1引き分けだぞ?
まだ俺の方が有利だ」

「それもここまでよ。
あっという間に逆転してやるんだから、覚悟なさい!!」

ダメだ・・・
今の由真は気が乗っているから、何を言っても軽く返される。
これ以上言っても、逆に俺がダメージを受けそうなので軽く流そう。

「よし、次はアレよ!!」

次に由真が指差すのは・・・

 

 

〜ジェットコースター〜

ついに来ましたよ、コレが。
流石に混んでいるので、並びながら由真は少しウンザリしながら説明を始める。

「ルールは悲鳴を上げた回数が多い方が負けよ。
こればっかりは、一つも無しというのは厳しいと思うし」

だよな。
ジェットコースターで悲鳴一つ上げないのは、余程強いのかつまらないかのどっちだし。

「悲鳴の回数は自己申告よ。
嘘は言わないわよね?」

「もちろん。
そんなことするほど俺は卑怯じゃないし、する必要があるほど大事じゃないし」

その程度で嘘をついても何にもならないだろう。
由真のみならず、彼女達に嘘を言いたくないというのが一番の理由だけど。

「それはそれで腹立つわね。
まあ、いいわ。
あっ・・・
やっと、次の番ね」

ようやく次に俺達の番のようだ。
長かった・・・

「私たちで止められたから、最前列ね。
ちょうどいいわ。
勝負にはもってこいじゃない」

確かに俺達はギリギリ入れなかった。
由真の言う通り、次の俺達は一番前だろう。

「貴明。
覚悟はOK?」

「何の覚悟かは知らないけど、とりあえず由真に勝てるくらいの自信はあるよ」

「言うじゃない・・・
私もアンタを踏んで高笑いする準備はOKよ?」

「「フフフフ・・・」」

お互い見つめ合って(決して良い雰囲気はない)、笑う俺達。
後ろの人たちは若干引いているけど、気にしない。

「時間的にコレが最後の勝負よ。
提案なんだけど、これで勝った方が今日の勝者という事にしない?」

「・・・ここまで言ったからには、拒否できないな。
いいよ、それでいこう。
コレで最後なら、由真が勝っても引き分けじゃ面白くない」

「よく分かっているじゃない。
あっ、戻ってきたみたいね。
勝負よ、貴明!!」

「受けて立つぞ」

お互い気合を入れて、ロープを外された通路へ進む。
よし、踏ん張るぞ!!

 

「やったー!!
勝ったー!!」

「クッ・・・」

結果は、俺の負け・・・
俺は悲鳴というか、声を出したのは一度だけ。
由真はなんとゼロ。
彼女曰く『唇噛んで、その上に無理やり両手を持ってきて塞いだ』らしい。
そこまでするとは・・・

「最後の最後でだ・い・ぎゃくてーん!!
コレよコレ!!
あー、気持ちいい!!」

ここで『元々はコレで引き分けだからな』などと、負け犬の遠吠えのような事は言わない。
それ以上は、自分が情けなくなるから。

「何か言いたい事はあるかしら、貴明く・ん?」

「・・・これ以上、何を言っても言い訳にしかならないから黙ってる」

「そうー?
私はちゃんと聞いてあげるくらい、懐は広いわよー?」

それならさ、そのニヤニヤした表情をやめてくれ。
いつまでも、チクチク突付かれるのも嫌なので話題を変えよう。

「それで?
何を言うつもりなんだ?
キツイのは勘弁してくれよ」

「え・・・あ・・・うん・・・
えっと・・・」

ここまで頑張っての『お願い』なんだ。
ちょっとしたことではないだろう。
しかし由真はさっきまでの態度を消して、モジモジする。
何だ?
それほど言い難いモノなのか?

「と、取りあえずさ・・・
最後に乗りたい物があるんだけど、いいかな?」

「うーん・・・
まあ大丈夫だろうし、いいよ」

外はもう暗くなってきているが、時間的に後一つくらいなら少し遅くなる程度で済むだろう。
そう考え、了解する。

「ありがとう、貴明!!
ほら、こっちよ!!」

「うわっと」

最初の時と同じように、腕を抱きかかえられ引っ張られる。
はてさて、何処に案内されるやら・・・

 

 

〜観覧車〜

「観覧車か・・・」

「やっぱり、遊園地の最後の乗り物といったらコレでしょう?」

「その分、かなり混んでたけどな」

「う・・・」

着いた先は観覧車。
由真の言うとおり、目玉ということだけあってかなり混んでいたが。
俺はもちろん、由真もその混みように引いてしまう。
しかしそれも一瞬で、すぐに気を取り直して並び始める。
彼女の何がそこまでさせるのだろう?
周りがカップルばかりで居心地が悪かった。
寒い中、ようやく番が周ってきて乗る事が出来た。

「ねえ、貴明。
手を出して」

「??
こうか?」

「違うわよ。
掌をこっちに向けるように立てるのよ」

「こう?」

「そうそう」

由真は見本のように掌をこちらに向けるように、差し出す。
俺も見よう見まねに同じようにする。

「そして、お互いの掌を合わせて」

「う、うん」

さすがに女の子の掌とはいえ、接触するということに少し緊張しながら合わせる。
合わせ終わると由真は、嬉しそうに照れながら視線を外へ向ける。

「ねえ、貴明。
今の状況って、『あの時』と似てない?」

「あ・・・」

由真の言葉に、何をしたいのかが分かった。
以前、ツインタワーでの由真との事を思い出す。
その為に、これほど乗りたかったんだと・・・

「あの時と違って噂はないけど、私たちの掌を防ぐ物はない。
お互いが触れられる距離にいる」

「由真・・・」

俺達が乗っている観覧車が一番高く昇った時に、由真は想いに誓う。

「改めて誓うわ。
私は貴明が好き。
愛している。
これは誰にも否定させないし、散々悩んだ中で理解した私の真実」

「ゆ・・・」

合わせていた掌を由真は指で絡めるように掴んで、俺の方へ飛び込んでくる。
そして・・・

「「ん・・・」」

由真とキスを交わす。
数秒で離れるが、お互いテレたまま(手は解かず)
その雰囲気を消すように、由真が意地悪なことを言う。

「今のはもちろんファーストキスだけど、貴明は何人としているのかしら?」

「うえっ!?」

「あはは!
分かってるわよ。
でもさ、貴明もそろそろ『決意』してくれてもいいんじゃない?」

「・・・分かってる。
ここまで皆に想いを伝えられて、何時までもこのままじゃいけないと。
近いうちに、皆に伝えるよ」

年も明け、そろそろタイムリミットが近づいてきただろう。
いい加減、言わなくちゃ俺は最低で成長なしだ。

「よし!!
良い返事を期待しているからね!!」

「お、おう」

観覧車が下りるまで、俺達は片手を握ったまま先にある未来を話し合っていた・・・

 

 

〜おまけ〜

「おめでとう、由真!
ついに貴明君とキスをしたんだね?」

「う、うん・・・」(恥

「あれ?
でも、自然にしたんだったら、『お願い』はどうしたの?」

「それは、別の事を頼んだわ」

「何々?」

「ひ、秘密よ」

「気になるよー!
特にそのテレてる態度を見たらさー!!
教えてー!!
私のアドバイスでキス出来たんだからさー!!」

「いやよ!!
それとコレは話が別!」

「由真〜
意地悪しないで〜」

「ちょ、抱きつかないでよ!!
・・・あれ?」

「どうしたの?」

「アンタ・・・
やっぱり太ってるわよね?
微妙にふっくらとしてきたわよ」

「ガーン!!」

「本当にダイエットしたら?
(よし、誤魔化せた) 」

 

 

最終話へ続く

 


パニハー第15話、由真です。
体調もほぼ万全になり、回復しました。
心配を掛けて申し訳ありませんでした(ペコリ
それにしても、彼女が最後に来るとは思っても見ませんでした(汗
特に当初から予定を立てていたわけではないので、偶然です。
さて、内容ですが・・・
やはり彼女は『ツンデレ』『自爆属性』はデフォなので、このようになりました。
自分的には楽しく書けたのですが、いかがでしょうか?
相変わらず、愛佳は弄られ役です(笑
次回はついに最終話です。
長かった・・・
元はリハビリSSとしていたのに、ここまで大変とは想像もつきませんでした(汗
やはり思いつきで大プロジェクトに手を出すものではありませんね。
ここで一つ皆様にご質問があります。
通常通り2週間ペースで最終話を投稿し、次の隔週でエピローグと総合あとがきを投稿する。
もしくは一週間ずらして、3週間後にまとめて投稿か。
どちらがよろしいでしょうか?
出来ればご協力ください。
では・・・