「うーん・・・
どうしようかなぁ?」

「何だ、よっち?」

「先輩ってさー
もう少し積極的になってくれてもいいと思うんっすよ。
はむ・・・美味しい♪」

「今更、それを求めるのも酷なような気もするが・・・
もう少し焼いた方が香ばしいぞ、よっち」

「はいはいー
でもー、もう冬っすよ?
今の状況になって、どれほど経ってると思う?」

「半年近くだな。
そろそろ、店の年末年始の予定を考えなくてはならないな」

「そうっすねー
クリスマスは意表を付いて、お好み焼きパーティも悪くないっすねー
って、違うっすよ!!」

「良い意見だ。
今度、皆と相談してみよう」

「うがー!!」

「半分冗談だ、先輩の事だろう?」

「半分なんだ・・・」(汗

「相談はするつもり。
私から意見を言わせてもらえればだ、諦めた方が良い」

「即答!?」

「悪い意味ではない。
先輩はあのままでいいのではないかと、私は思うようになってきた。
鈍感と普段のヘタレさにヤキモキするのは分かる。
しかし、先輩はそれだけの男ではない。
やるべきことや、本当に助けて欲しい時は手を差し出してくれる。
あれほどの男は他にいないぞ」

「・・・そうっすけど」

「先輩も『答え』を理解している。
後は決意が固まるのを待て」

「・・・うん」

 

「ちょっと、アンタ。
なに考えてるんだい?」

「い、いやぁ。
な、何でもねぇよ」

「??」

 


2005・2008 Leaf 『ToHeart2 XRATED&ToHeart2 AnotherDays』

「パニック・ハート」
 第14話・トライアングル・パニック


 

もう12月、外はかなり寒い。
期末テストが近づいているので、皆とお出かけは終わるまでお預け。
それなら、皆集まって勉強すればいいと思うだろう?
でも、ちょっと考えてみて欲しい。
タマ姉やささらさん、優季さんと愛佳は大丈夫だろう。
だが、勉強どころか妨害の可能性が高い人物はそれ以上に多い(例:ミルファちゃん)
だから俺の所には誰も集まらないことに決定する。
俺としても、今までは一人で乗り切っていたのでその方がいい。
・・・・・・
雄二はどうするのだろうか?
今も帰ってこないんだけど・・・
まあ、いいか。
自分の心配だ。

「これをこうして・・・」

家の中には俺の他には、当然シルファちゃんしかいない。
イルファさんもそこの辺りをきつく言い聞かせいるので、いつも以上にフォローしてくれる。
当初、イルファさんが交代する案も出たが、彼女自身が断った。
失礼ながら意外すぎる返事に理由を訊ねると・・・

『貴明さんは自力でお勉強なさっても大丈夫ですが、ウチにはおバカさんがいますので・・・
みっちり教え込まなくてはいけませんから』

視線の先はミルファちゃんだったのは言うまでもない。

「くはっ・・・
休日の朝から勉強は辛いなぁ・・・」

平日はどうなんだという突っ込みは無しで(汗
試験は明日からで追試は勘弁したい。
もしそうなってタマ姉にバレたら・・・(怖

「よし!
気合入れますか」

自ら発破を掛けて勉強を続ける。
その時・・・

 

ピンポーン

 

ん?
お客さん?

「はいれすー」

シルファちゃんが対応してくれるみたいだし、何かあれば呼んでくれるだろう。
もしかしたら、イルファさんかタマ姉が様子を見に来てくれたかもしれないし。

「ぴひゃー!!」

「っ!!」

しかしそんな考えもシルファちゃんの悲鳴で消し飛ぶ。
慌てて玄関に行くと、シルファちゃんが抱きついてきた。

「ご、ご主人様ー!!」

何かお化けにでも遭遇したような反応に、玄関を見ると・・・

「おいおい。
俺は何もしちゃいねぇぞ」

「ロクさん?」

いつもの服装(寒くないのだろうか?)に、軽く両手を上げているロクさんがいた・・・

 

「お、お茶なのれす」

「わりぃな」

一先ずリビングに移動する。
シルファちゃんがロクさんにお茶を出すと俺の後ろに・・・正確に言えば、背中に隠れる。

「すみません。
彼女は人見知りが激しくて・・・
シルファちゃん」

「・・・ろめんなさい」

「気にしなさんなって。
怖がれているのは慣れてるからよ。
こっちこそすまねぇな」

実に男気ある笑顔を出すロクさん。
出されたお茶を啜ってから、本題に入る。

「実はな、お前さんに訊きたい事があってよ」

「訊きたい事?」

ロクさんが睨むように俺の方を見る。
シルファちゃんは離れて、見守るしかない。
そしてついにロクさんが口を開く。

「アンタは本当にヘタレなのか!?」

「うえっ!?」

予想斜め上の質問に、素っ頓狂な声が出てしまう。
ロ、ロクさん、あなたも俺をそう見ているんですか?(泣

「し、質問に意味が分かりませんよ!
最初から話してください」

「おっと、こいつはすまねぇ。
昨日よ、お嬢とそのダチが店に来てたんだよ。
そこでちょいと小耳に挟んでよ。
それで、どうなんだ?」

「ど、どうって・・・
その・・・」

自分でもそう思っている(もう諦めた)けど、さすがに自分からの口ではっきり言えるはずがない。
その思いが通じたのか、珍しくロクさんは勘違いせず理解してくれた。

「その様子じゃ、本当らしいな。
よし!!
ここは俺が一肌脱いでやろうじゃねーか!!」

「え?
ど、どういうことですか?」

当然の疑問だけど、ロクさんは一人突っ走る。
俺の手を掴んで引っ張る。

「どうも、こうもねぇ!
俺がお嬢と釣り合うよう、扱いてやるぜ!」

「で、でも、明日試験なんですけど・・・」

「そんなもん放っとけ!!」

「ええー!!」

そんな無茶苦茶な!!
今度は俺の魂の叫びを理解してくれず、玄関へ一直線。

「まずは川原で走り込みだ!!」

「いやー!!」

シルファちゃんはオロオロしているだけで、止められないだろう。
フ・・・
明日は風邪を引くかな・・・
出来たら試験を受けれるくらいの体力は残したいなー(諦
しかし、天は俺を見捨てなかった。

「ロク」

「お、お嬢・・・」(汗

玄関を開けると、ちゃるとよっちゃんが待ち構えていた。
ちゃるに無言で厳しい視線を浴びて、ロクさんはタジタジ。

「やっぱりっすねー
ハナさんからロクさんが怪しいって報告があったんすっよ。
もしやと思って先輩の家に来てみたら、案の定というわけっす」

腕はもう離されているので、その箇所を摩りながらよっちゃんの説明を受ける。
シルファちゃんも追いかけてきたので、一緒に。
いつの間にか説教が始まり、ロクさんは正座している。

「ロク。
罰として、走って町内10周。
その後は、『山家』以外の店を周って手伝い」

「うえっ!?
そんな殺生な!!」

「行け」

「・・・うっす」

立ち上がりつつも、肩を落としながらロクさんは走っていく(あの服装のままでいいのだろうか?)
ちゃるは俺を見て頭を下げる。

「先輩、すまない。
ロクが迷惑を掛けた」

「そ、それはいいから頭を上げてくれ。
あの人も、ちゃるの為と思っての行動なんだろ?
もう少し・・・」

「先輩は優しいな。
でも、悪いことしたら罰を受ける。
これは常識」

「悪いこと?」

「自分勝手に行動して、先輩に迷惑を掛けた。
充分悪いことだ」

「それじゃ、その本人の俺が言うよ。
ロクさんを許してあげてほしい」

「・・・わかった。
本当に先輩はお人よしだな」

「それが先輩っす」

「ご主人様・・・」

よかった。
やっぱロクさんも善意(たぶん)の行動だと思うし、その気持ちは感謝したい。
ちゃるが携帯でおそらくロクさんに連絡しているのだろう。

「ロクに連絡しておいた。
10周は取りやめたが、店の見回り兼手伝いくらいはいいだろう?」

「うーん・・・
まあ、それくらいなら」

普段している事みたいだし、これくらいならいいかな。
『一件落着し、せっかくだからお茶でも・・・』という前に、ちゃるが俺の腕を抱きかかえる。

「お詫び」

「は?」

「それなら私も!!」

「うわっ!?」

何故かよっちゃんも反対の腕を抱きかかえてしまう。
うわー!
む、胸の感触と温もりがー!!(絶叫

「どうだ、先輩?
私たちの温もりは?
先輩が望むなら、これ以上のこともしてあげるぞ」

「そうっすよー
うりうり」

ちょっ・・・!
そんな大胆な事を言わないで、ちゃる!!
よっちゃん、なおさら身体(胸)を摺り寄せないで!!

「お、お願いだから、離れてくれ!!」

「これは侘びだ。
思う存分、堪能してくれ 」

「私は逆に先輩の温もりを堪能中っす!
そ・れ・と・も♪
胸の感触が気になるっすかー?
いいですよ、先輩♪
この胸は先輩のモノっすから、いつでも触ってもいいんっすよ?」

「だー!!
離れなさい!!」

「わっ」

「きゃう」

このままでは振り回されるのが目に見えていたので、
悪いと思いつつ強引に引き離す。
横にいるシルファちゃんが怖かったわけじゃないぞ、念のために。
よっちゃん達もよろけるが、倒れる事もなく不満そうな視線を向ける。

「やはり私たちでは、色気が足りない」

「違うっすよ、ちゃる!
先輩がヘッキーなだけっす!!
ほらほら、私の全ては先輩のモノっすよー」

腕を組んで胸を強調しないで!!
女の子がそんなはしたないことしちゃだめでしょー!!

「ら、らめれす!!
ご、ご主人様はえろえろご主人様れすから、危険れすよー!!」

あ、あの・・・シルファちゃん?
手を広げて庇ってくれるのは嬉しいんだけど、言っている事に矛盾してないかい?

「ごめんね、シルファちゃん。
ちょっと、行き過ぎたっすね」

「すまない」

「い、いえ・・・
わかってくれたらいいんれす」

反省した2人を見て、シルファちゃんも手を下ろす。
いつまでも玄関にいても寒いだけなので、再度リビングに上がってというつもりだった。
しかし・・・

「先輩。
お詫びに『山家』で昼食はどうだ?
無論、奢りだ」

「えっ・・・
でも・・・」

チラッとシルファちゃんを見る。
食事関係はシルファちゃんが握っているから(他もだけど)

「・・・いいれすよ」

「ほ、本当に?」

い、意外だ・・・
最近はタマ姉達に付き合って(ほとんどが休日)、家で食事は減ったのに。
だから、今回も反対すると思っていた。
ま、まさか、愛想つかれたとか!?

「ご主人様は最近、お勉強れ疲れているれす。
少しきらなしに、外に行くのもいいれす」

「し、シルファちゃん・・・」

逆に俺の事を気遣ってくれていた。
前までは拗ねたり、泣き叫んでいたのに・・・

「・・・ありがとう、シルファちゃん」

「ぷ、ぷん!
その代わりテストら終わったら、一日シルファの相手をするれるよ」

「も、もちろん!!」

それくらいお安い御用だよ。
シルファちゃんも成長したよ、お兄ちゃんは嬉しいよ。

「それじゃ、シルファちゃんのお許しが出た事で!
張り切っていきましょー!!」

「よっちは自腹だからな」

「うえぇー!!
そんな殺生なー!!」

よっちゃんがロクさんと同じ台詞を叫び声を背に、俺は準備と後片付けに部屋へ戻る。
気分転換にちょうどいいかな?

 

 

「いつ見ても上手だね」

「・・・そうでもない。
私もまだまだだ」

「あれー?
ちゃる、照れてるっしょ?」

「・・・・・・」

「じょ、冗談っすよー!!
私のお好み焼きー!!」

案内された『山家』でさっそく、ちゃるが腕を披露してくれる。
よっちゃんも許されて、テコ片手に待ち状態。
これこれ、よっちゃん?
そうやってからかうから、ちゃるに自分の分を持っていかれるぞ。

「焼けた。
どうぞ、先輩」

「ありがとう」

「あのー
ちゃる、私の分は?」

「・・・」

「謝るっすからー!!
ちゃるー!!」

「・・・仕方ないな」

「感謝感激っす!!
やっぱ親友っすねー!!」

「調子がいいな」

よっちゃんにも配られて、ちゃる特製のお好みを一口。
うん、美味しい。

「美味しいよ、ちゃる」

「あ、ありがとう。
先輩にそう言ってもらえると、嬉しい」

「昨日も食べたっすけど、美味しいっすよねー」

「君達、勉強は?」

「問題ない」

「えへへ」

ちゃるはいつも通りで、よっちゃんは気まずそうにしている。
寺女も試験が近いから、頑張らないとタマ姉に大目玉だぞ?

「でもさ・・・」

「どうした、先輩?」

「??」

「どうして俺の左右に囲むようにいるの?」

そう。
向かい側には誰も席に着かず、『ごく自然』にと俺の左右に彼女達が座っているのだ。
よっちゃんのお好み焼きを取り上げられた時は、俺の目の前を行ったり来たりしていた。
これってどうよ?

「何いってるんすかー?
愛する人と少しでも側に居たいっていう乙女心じゃないっすかー」

「ダメか、先輩?」

「・・・ダメじゃないよ」

そこできっぱり断れたらなぁ。
でも、2人が嬉しそうに笑うからいっか・・・(諦めがついてきたこの男)

「はい、せんぱい♪
あーん」

「次は私の番」

「え、えっと・・・」

やっぱりそうなるわけね(汗
自分で一口食べたんだから、このままでいいじゃなかな?

「先輩、早く食べてくれないと焦げてしまう」

今回は心の準備をする時間すらもないらしい。
仕方なく(?)口を開ける。

「アチッ」

「熱いっすから、気をつけるっすよー」

少し多めに入れすぎだよ、よっちゃん。
口の中が火傷しかけたよ汗

「よっち。
その量では食べにくい。
はい、先輩」

「う、うん」

今度はちゃるから、差し出され一口。
量的にもちょうどよく、食べやすい。

「フムフム・・・
これくらいっすねー
再度トライ♪
先輩、あーん」

「どうっすか?
ちゃる特製のお好み焼きに、私の恋と愛情を凝縮した一口は?」

「ぶほっ!?」

「ああー!!
咽るなんて、ヒドイっすよー!!」

突然そんなこと言うからじゃないか!!
水を一気飲みして、落ち着かせる。

「勝手に込めるな。
私もよっち以上に念入りに込めているのだから、不味くなる」

「げほっ!?」

ちゃるのお言葉にもうう一度咽てしまい、飲んでいた水もちょっと零れる。

「大丈夫か、先輩?」

「大変っす」

甲斐がえしく拭いてくれるのはいいんだけどさ、顔が近いって!!

「お、俺は大丈夫だから!
それに、お好み焼きが焦げちゃうぞ?」

「そんな事より先輩のほうが大事」

「そうっすよ。
ちゃるにはちょっと悪いっすけど、先輩より優先するものなんてないっすから」

「っ!?」

至極当然のように言われて、もう何度も驚かせられる。
しかも今度は意地悪でも冗談でもなく、本当にそう思っているのだ。
一番効いた・・・

「およ?
先輩? せんぱーい?」

「先輩?」

そんな無自覚の2人は、人差し指で俺の頬を突付く。
鈍感は2人もあるんじゃないかな?(汗

「おやおや。
お嬢達もすっかり乙女だねぇ」

ハナさん・・・
そんな一歩引いたところで、コロコロ笑わないでください(懇願

 

 

「も、もう無理っす〜」

「ダメだよ、よっちゃん。
これくらいでダウンしちゃ。
ちゃるは平然としてるのに」

「よっち、耐久力ないな」

「うう・・・」

そこ、変な勘違いしないように。
昼食が終わった後に、俺の家へ戻って勉強会を開いたのだ。
ルール違反になるだろうけど、よっちゃんが全く勉強していないようなので招いたのだ。

「もう休憩しようよー」

「まだ始めて一時間も経ってないよ」(汗

「堪え性がない」

「ここには私の味方がいないんっすかー!?」

「「いないよ」」

「うわーん!!」(泣

泣いてないで、勉強を続けないと本当に皆から怒られるよ?

「でも、私的に勉強の気力はそんなにもたないんっすよー
休憩しましょうよー
休憩ー!!」

ねっころがって手足をバタバタさせない!!
スカートなんだから見えちゃうよ!!

「わ、分かったから暴れないで!!」

「やたー!♪」

現金に喜ぶよっちゃんと視線を逸らしながら承諾する俺。

「先輩・・・
よっちを甘やかすと、図に乗るぞ」

「ちゃるー!!
私はそんな女じゃないっすよー!!」

「はは・・・
それじゃ、シルファちゃんに飲み物とか頼んでくるから。
ちょっと待っててね」

「お構いなくー
でも、出来たらクッキーがあれば・・・」

「・・・探してみるよ」

「やはり図に乗る」

うん。
ちゃるの言うとおりだったよ。

 

それから3人囲んでお茶タイム。
というより、寛ぎタイム。
そんな中、またもやよっちゃんから問題発言を出す。

「先輩先輩。
ちょっとお願いがあるんすけど・・・」

「何だい?
もうクッキーの御代わりはないよ 」

「それは残念ー
じゃないっすよ!!
先輩は私のことをどう思っているんすか!? 」

「ワガママで食い意地がある女」

「ちゃるには聞いてないっしょー!!」

「そ、それで?
お願いってなに?」

仲が良いのはよく分かった(汗

「ちょっとでいいっすから、先輩のベッドに入たいんっす。
いいっすか?」

「ベッド?」

「はい♪」

「私も一緒」

「ちゃるも?」

「うん」

自然と自分のベッドを見る。
特に何の変哲もない普通のベッドだろう?
シルファちゃんがベッドメイキングしてくれているので、綺麗だけど。

「服にシワが付いちゃうよ?」

「そんなのはいいんっすよ!!
この誘惑の前には!!」

ググッと拳を握って、力説するよっちゃん(汗
それに誘惑って、なにさ?

「先輩には分からないか?
この耐え難い誘惑が」

ゴメン、どう考えても分からないんだけど・・・
ま、まあ、いいか。

「いいけど、少しだけだよ。
勉強も続けなくちゃいけないんだから」

「やたー!
先輩のお許しが出た事で、突撃ー♪」

「おー」

まさにダイブという感じで、飛び込む2人。
そして布団を取り合うように、暴れる。

「ちょっと、ちゃる!
それは取りすぎっしょ!」

「今回は一切手加減しない。
奪ったもの勝ちだ」

「なら、私もー!!」

うわ、うわー!!
俺のベッドの上で暴れるのはいいだけど(よくないか?)、
2人ともスカートや服の乱れも気にしていないからこっちの眼のやり場が困る。
注意する以前に、2人に背中を向けて落ち着くのを待つしかない。

「うわー
先輩の匂いでいっぱいっすー」

「ああ。
落ち着くな・・・」

静まったと思えば、このお言葉。
今度は自分の顔が真っ赤になっているだろうから、背を向けたまま。
しばらくして落ちついたのか、小声で何を言っているかは聞こえない。
それから少しして・・・

「・・・先輩」

「えっ?」

よっちゃんの今までない穏やかな声色に思わず振り向く。
ちゃるを後ろから抱きしめるように腕を回して、枕に乗せているよっちゃん。
よっちゃんの前に布団を口元まで上げて、まっすぐに見つめてくるちゃる。
表情もいつもとは違い、頬を染めつつ優しげに微笑んでいる。

「よっちゃん、ちゃる?」

「先輩、ありがとうっす」

「な、何が?」

突然お礼を言われても、こっちに身の覚えがないので戸惑う。
2人は一瞬視線を交差し、よっちゃんから想いを語る。

「ずっと抱えていた悩みを聞いてくれて、私自身を肯定してくれて。
『お姫様』に憧れていた私にも、なる事が出来るって言ってくれて・・・
私の想いにも応えてくれて・・・
大好きです、貴明先輩。
愛しています」

「よっちゃん・・・」

よっちゃんの告白を受けて頭が動かない間に、今度はちゃるが想いを伝える。

「私は家のしがらみに抵抗はなかったし、する気もなかった。
でも、先輩に少しずつ惹かれていった。
そして私を救ってくれたし、想いも応えてくれた。
貴明先輩、愛している」

「ちゃる・・・」

交互に想いを伝えられて動揺するけど、そのままというわけには行かない。
俺も精一杯返事をするべきだ。

「2人とも、ありがとう。
俺は正直言って、今でもこんな関係になるなんて思ってもみなかった。
少しでもいいから、皆の力になりたかっただけなんだ」

「分かってるっす。
先輩は優しいから」

「逆に下心などあれば失望しているし、私たちも気付かない愚か者じゃない。
先輩は助けたい一心で、救ってくれた」

「でも、俺も君達が好きだ。
それは自分でも分かっている。
ここまで引っ張って誰も選べないからって、全員振るなんて最低な事はしない。
決意するまでもう少しだけ待ってほしい。
・・・ダメかな?」

「そんなことにないっすよ、先輩。
私たちはいつまでも待てるっす」

「ああ。
その『答え』を選ぶには、何大抵の決意では無理だ。
固まるまで待てる」

「・・・ありがとう」

精一杯の言葉に彼女達は、本当に嬉しそうに微笑む。
そして2人は片方の手を俺の方へ伸ばす。

「その代わり、皆で昼寝しましょう。
先輩の温もりを私たちにも堪能させてほしいっす」

「それが待つ条件」

恥ずかしいお願いをしてくるちゃるとよっちゃん。
普段なら慌てるけど、今の雰囲気では正直になれる。

「・・・分かった」

「どうぞ」

「私たちの間に入ってくれ」

言われたとおり、2人の間に寝転ぶ。
布団を被って、狭いけど3人一緒になる。
2人の温もりが伝わってきて、慌てるどころかとても落ち着く。
普段もこうならなぁ・・・

「寝る前に、先輩。
もう一つやる事があるんすよ」

「なんだい?」

「ちゃる、私からでいいっすよね?」

「ああ」

「それじゃ失礼して・・・」

なにやら2人だけで意思疎通して、よっちゃんが俺に覆いかぶさるように上に乗る。
そして・・・

「ん・・・」

「んっ!?」

首に手を回して、キスをしてくる。
さっきまでの落ち着きも吹き飛び、硬直する。

「ハア・・・
ご馳走さまっす♪」

「今度は私だ」

交代して、ちゃるも上に乗って・・・

「「ん・・・」」

彼女ともキスを交わす。
不意打ちではなくとも、驚きで目を瞑ることが精一杯。

「普通なら好きな人と他の女の子のキスシーンを見ると、腹が立つものっすけどならないっすね」

「ハア・・・
私もだ。
私たちも今の状態に満足しているのだろう。
世間的には異常だがな」

「アハハ
私たちは私たちの幸せがあるっす。
それで充分♪」

「そうだな。
それじゃ先輩、おやすみ」

「おやすみっすー」

キスしても照れる様子もなく、満足げに眠る2人。
詰まった息を吐いて、彼女らの頭をゆっくりと撫でる。

「ありがとう、2人とも。
そして、これからもよろしく」

いつまでも・・・

 

 

おまけ

 

そんな雰囲気に一時間くらい経った頃、
無粋だけどそろそろテスト勉強を始めないといけないので起こそうとする。
その時・・・

 

ピンポーン♪

 

「お嬢ー!!
見回り終わりましたぜー!!
お土産を持ってきたんでさー!!」

「ぴひゃ!?」

「おっと、悪ぃ。
お嬢たちは何処だ?」

「み、皆なら2階にいるれす」

「そうかい。
ちょいと上がらせてもらうぜ」

ろ、ロクさん!?
ま、拙い!!
今の光景を見られたら・・・(汗

「ちゃ、ちゃる、よっちゃん!!
起きてくれ!!」

「うーん・・・
もうちょっと・・・」

「あと、5分・・・」

起きてくれないよー!!

 

ドンドン

 

「お嬢、入りますぜ」

「ちょっ、待っ・・・!!」

 

ガチャ

 

それからどうなったかは、ノーコメントで(汗
結果から言わせてもらえば、ロクさんに殴られた頬をよっちゃんとシルファちゃんに冷やされて、
ちゃるはここ一番の雷を落とした。
こればかりは勘違いされても仕方ないよなぁ・・・

 

 

第15話へ続く

 


パニハー第14話、ちゃる&よっちです。
実は先週から『またもや』体調を崩してしまいました(泣
しかも一週間以上です。
気が滅入りますし、最悪です・・・
ですが、今年中に完結を目指しているので何とか書き上げました。
最初から最後まで悪いまま・・・
誰か、助けて(泣
2人分としては短めですが、これが限界なので勘弁してください(ペコリ
さて、内容ですが・・・
熱でぼんやりしたり気持ち悪さの中で書いたのですが、どうでしたか?
自分の中では、よっちがボケでちゃるがツッコミなので・・・
そんな中でも、貴明を振り回すサマを楽しんでいただければ幸いです。
次回は最後のキャラ、由真です。
まさか最後に彼女とは思いもしませんでした。
今はとりあえず、身体を休めます。
では・・・