「このみー
ちょっと、こっちへいらっしゃい」
「なーに?
お母さん、どうかしたの?」
「タカくんのことだけど・・・」
「タカくん?
何かあったの?」
「最近、どうなの?」
「どうって?」
「タカくんが今の状況になって、しばらく経つじゃない?
さすがに遠慮して、私は最低限しか手伝っていなかったわ」
「そっかー
それでお母さん、最近タカくんを家に呼ばなかったんだね」
「シルファちゃんのお仕事、盗るわけにはいかないでしょ?
あの子は意地っ張り以上に寂しがり屋だもの」
「そうだね」
「寂しがりやはここにも、一人いるけど」
「お、お母さん!」
「このみも、もっとアピールしなくちゃ駄目よ!
お母さんがこのみのぐらいの時は、もっと積極的だったわ!!」
「そ、そうなの?」
「確かにタカくんは差別しないから、貴女が除け者にはされないわ。
でも、それとこれとは話しが別よ。
貴女も私の娘なら、押して押して押しまくりなさい!」
「お、お母さんが燃えてる・・・」(汗
「ああ・・・
思い出すわ・・・
あの人との青春時代・・・」
「お、お母さーん!
戻ってきてよー!!」
2005・2008 Leaf 『ToHeart2 XRATED&ToHeart2 AnotherDays』
「パニック・ハート」
第13話・恋人と幼馴染の差
「こんな朝早くどうしたんですか、春夏さん?
このみもおはよう」
「ゴメンね、タカくん。
ちょっと、気になることがあったのよ」
「おはようであります!」
「お茶なのれす」
「あら、ありがとう。
・・・うん、美味しいわ」
「美味しいよ、シルファさん」
「あ、ありがとうれす」(照
祝日の休みの日、朝はゆっくりしていた(シルファちゃんに足蹴りで起こされたけど)
朝食を美味しくいただいて、明日にちょっとしたテストがあるから勉強しようと思っていた。
けど、その矢先に春夏さんとこのみが訪ねてきたのだ。
予定にはなかったので首を傾げるが、とにかくリビングへ通す。
「実はね・・・」
「はい」
真面目な表情になり、俺も姿勢を正す。
よく考えれば、保護者代わりの春夏さんが態々来たのだ。
良い話じゃないかもしれない。
もしかしたら、俺の態度(煮え切らない態度や今の状況)に我慢できなくなったとか?
自分の娘も入っているのだから、ついに『もう会わせません!!』と絶縁状態になるかも・・・
そんなことになったら・・・
「単なる主婦の興味と暇つぶし♪」
「だぁー!!」
真面目な表情から意地悪そうな笑顔に変えて、予想外すぎる答えにイスから滑り落ちる。
シルファちゃんが抱き起こしてくれて、このみは暢気に出されたお菓子を頬張っていた。
止めろよ、実の娘。
「あらあら。
タカくんは別の考えをしていたみたいね。
心配しなくてもこのみのお婿さんはタカ君、貴方。
そして私にとっても息子と同然。
引き離すなんてことはしないわ」
母性溢れる笑顔でそう断言してくれるのは恥ずかしいけど、それ以上に嬉しい。
でも・・・
「紛らわしいことしないでください。
心臓が止まるかと思いましたよ・・・」
「それは、タカくんが勝手に思っている不安が出てきただけよ。
私にしたら、信じてくれてないことの方がショックだわー」
「うっ・・・
すみません」
「うふふ・・・
私も意地が悪かったから、お互い様よ」
「「??」」
シルファちゃんとこのみが首をかしげている。
このみには気付いて欲しいと思うのは、俺のワガママなのだろうか?
「私はタカくんの保護者代わりでしょ?」
「そうですね」
申し訳ないが、確かにそうだ。
というより、両親から連絡一つもないというのは何故だろう?
もう肌寒い時期になってきているのに・・・
実際に掛かってこられたら、どう話して言いか困るけど・・・
「タカくんのご両親には私の方から、報告しているわ。
心配しないでも、お元気でやっているわ」
「・・・取りあえずお礼を言いますが、そんなに分かりやすいですか?」
「ええ、とっても♪」
「このみ、シルファちゃん?」
「えっとー・・・
このみも、そう思うよ」
「今までそう思っていたのれすか、ご主人様?
ミルミルより、分かりやすいれす」
み、ミルファちゃん以上か(汗
決して、ミルファちゃんを貶している訳じゃない。
良くも悪くも正直で真っ直ぐな・・・言い方を替えると『分かりやすい』のだ。
そのミルファちゃん以上・・・
もっと隠せるように、努力しようかな?
「隠そう隠そうと思っているから、逆に顔に出るのよ」
「タカくん・・・」
「なに百面相してるれすか?」
・・・泣いて良いですか?
「あら・・・
ついついイジメ甲斐があったから、時間が進んでいたわね。
反省反省」
俺を弄くっていた反省は?
「はいはい、そこで恨みがましい視線を向けない。
私が来たのは、ちょっとした確認とお手伝いよ。
どっちかというと、シルファちゃんね」
「へ?」
「シルファれすか?」
俺じゃないことに、シルファちゃんと揃って首を傾げる。
全く話しが見えない。
「シルファちゃん、お掃除のことなんだけど・・・」
「な、何か、気になることがあるれすか?」
何か不躾やトラブルがあったのではないかと、シルファちゃんが不安いっぱいになっている。
俺も迷惑どころか、言葉で言い表せないくらい感謝しているのだ。
春夏さんが何を言ってもフォローするつもりだ。
「春夏さん!」
「だから、最後まで話を聞いてちょうだい。
彼女に感謝しているのは理解しているけど、その分早とちりが多いわよ」
「うっ・・・」
耳が痛いです。
「タカくんのご両親のお部屋なんだけど、最低限しかしていないじゃない?
事前に止めていたから、当然なんだけど」
「はいれす。
言われたことしか手を付けていないれす」
「昨日ね、ご両親から許可をもらったの。
私も一緒に手伝うという条件付だけどね。
どうかしら?」
「えっと・・・」
シルファちゃんはチラチラと俺の方を見てくる。
勝手に返事をするわけにはいかないと、思ったのだろう。
「春夏さんなら安心して任せられるよ。
お願いします」
「・・・ご主人様がそういうなら」
「それじゃ、ついでだから大掃除しちゃいましょう!
というわけで、タカくん!」
「もちろん手伝いますよ」
言われなくても、その気だった。
シルファちゃんだけでも申し訳ないのに、春夏さんまで手伝ってもらって何もしないという訳にはいかない。
でも・・・
「このみと一緒に家で時間を潰してちょうだい。
夕方には終わると思うから」
「何故に!?」
あっさりと戦力外追放を受けてしまった(汗
「いいから。
タカくんは日頃から、皆のことで疲れているんですもの。
家事くらいは女の仕事よ。
ね、シルファちゃん?」
「はいれす!
これはご主人様にも譲れませんれす!!」
む、むぅ・・・
そこまで言われると、嬉しいような悲しいような(俺が居ても変わらないという所が)
「タカくん、行くよー」
「ちょ、このみ!?」
いつの間にか、このみが俺の袖を掴んで引っ張っていく。
リビングから離れていく俺達を、シルファちゃんはハタキを片手に気合をいれ、春夏さんは笑って手を振っていた。
あれー?
ここって、俺の家だよなー?
「結局、春夏さんのお節介かー」
「ゴメンね、タカ君」
「いいって。
俺だってこういうのも悪くはないさ。
それに、このみと一緒というのも歓迎だよ」
「わーい!」
少し遅くなったゲンジ丸の散歩に付き合いながら、春夏さんの行動(暴走?)の意味を聞いて力が抜ける。
簡単に言えば、娘へのちょっとした手助けだ。
このみも俺をその・・・好きだと告白してくれているし、以前は想いに気付いてくれないことにモヤモヤしていたらしい。
今の状況になって、元々純粋なこのみだ。
俺が側にいて、皆と仲良く楽しくやっていけることに満足気味だったらしい(そこの辺りは俺と似ている)
そこで春夏さんが発破というか、後押して2人っきりの状況を作ったというわけだ。
「お母さんの言いたいことも分かるけど、そんなに気にすることかな?
タカ君はもう、皆と離れないでしょ?」
「ま、まぁな・・・」
タマ姉に続き、このみまで俺の考えが分かっているみたいだ。
決心も早めに決めた方がいいかもな。
「それより、せっかく春夏さんが気を利かせてくれたんだ。
今は楽しもうじゃないか?」
「了解であります!」
ニコッと笑って、ゲンジ丸を引っ張るこのみ。
俺も続くが、一番遅いのは何故か主役のはずのゲンジ丸。
「バゥ・・・」
「・・・相変わらず体力ないな、お前」(汗
「ダメだよ、ゲンジ丸。
そんな休憩ばかりじゃ、運動にならないよ」
息切れはするは、すぐ立ち止まるお前は老人か?
普通、連れて行かなかったらストレスを感じるほどで、散歩は元気になるらしいけど・・・
サボリ気味の性格だからなぁ・・・
仕方がないな。
「ほれ」
ココに取り出すは一つの魚肉ソーセージ。
後は予想できるでしょう。
「バウッ!!」
「わっ!?」
「甘い!!」
逆にこのみを引っ張り、俺(ソーセージ)へ一直線。
だが、俺もダテに何年もゲンジ丸の相手をしていない。
シルファちゃんは苦手意識があるが、その程度の突進に怯えるか!!
「クゥーン」
あっさりと避けられ、ゲンジ丸は物欲しそうにソーセージを見ている。
「ちゃんとしたらやるから、しっかり散歩しろ」
「バウ!!」
そう言うと、元気よく返事し元気に歩き始める。
それは同一人(犬?)物かと、疑うくらいさっきまでとはぜんぜん違う。
ふと思う。
何となくだけど、俺達と意思疎通しているコイツは実は賢いのでは?(汗
「ダメだよ、タカくん。
そうやって食べ物で釣っちゃー
散歩の意味がなくなっちゃうよー!」
「あっ・・・」
しまった・・・
カロリー分運動しても、元以上を取ったら意味ないじゃないか!
俺って、アホ・・・
「いい、ゲンジ丸?
今日はタカくんだから上げるけど、今度もあると思わないでよ」
「くぅーん」
少し落ち込みながらも俺達は散歩を続ける。
そしてこのみが俺達の学園に入学する前から、遊んでいた階段のある場所に着く。
「ねえ、タカくん」
「ダメだぞ、もう手摺に上ったら」
「もうしないよー
ただ、改めて思うと懐かしいなーって」
「そうだな・・・」
あの時は俺も本当にこのみを妹としか見ていなかった。
でも、このみは昔からずっと俺を想ってくれていた。
そう思うと申し訳なさとか感じてしまう。
「このみ」
「どうしたの?」
「手でも繋ぐか?」
「どうしたの、急に?
変な物でも食べた?」
このみまでそこまで言うか(泣
俺って・・・
「それは無いけど、ふとそう思っただけだよ。
イヤならいいけど・・・」
「もちろんイヤじゃないよ!
でも、それなら腕を組む方がいいなぁ・・・」
くっ・・・
さらにランクを上げたご希望か・・・
言い出しは俺の方だから、断るわけにはいかないな。
「い、いいぞ」
「やったであります!」
ピョンと抱きつくように俺の腕にしがみ付いてくる。
組むというより抱きしめるというのに近いけど、まあいいか。
「それじゃ行こうか?」
「えへへ、了解であります!!」
「バウバウ!!」
ご機嫌なこのみを連れて、散歩の続きをする。
肌寒い風が吹き、もう冬だな・・・
「くぅーん」
なおさらサボるんだろうな、お前は・・・(汗
「はい、タカくん。
あーん!」
「おっと、すまん(パクッ)
うん、美味しい」
「エッヘン!
お母さんの料理は、いつでも美味しいんだから」
「このみが自慢することじゃないだろ?
まあ、したい気持ちは分かるけどな」
ゲンジ丸の散歩が終わって(ちゃんとソーセージは上げたぞ)、そのまま庭で相手をしていた。
時々、隣家(俺の家)から聞こえる悲鳴らしきものは無視ということで(汗
そうしている間に昼になり、昼食をこっちで頂くことになった。
「それにしても丸一日か・・・
そんなに時間が掛かるものかな?」
「さあ・・・
よく知らないけど、おじさん達の部屋は慎重に時間を掛けないといけないって言ってたよ」
ウチの母親の趣味はアレだったからなぁ・・・
衣装とかもあるし・・・
シルファちゃん、大丈夫かな?
「それなら、やっぱり手伝った方がよくないか?
このみとの時間はちゃんと取るから、今日は・・・」
「うーん・・・」
箸を口元に当てて、首を捻るこのみ。
その目には疑問が見え隠れする。
でも、行儀が悪いから止めなさい。
「タカくんさ・・・」
「ん?」
春夏さんではなく、俺か?
「シルファちゃんが来てから、自分のお家に何が何処にあるって分かってる?
服とかそういうのじゃなくて、小物とか色んな物だよ?」
「・・・・・・」
えっと・・・
そういえば、以前爪切りを探しても見つからなくてシルファちゃんに訊いたっけ。
あれ?
ちょっと待て?
「・・・タカくん」(呆
「・・・すまん」
「私に謝られても・・・
もう少し頑張ろうね」
「分かってるって」
本当に一度一人暮らしに戻ろうかな?
でもなぁ・・・
そんなこと言ったらシルファちゃんが、落ち込むだろうし・・・
少しだけでも自分でするようにしないと。
「ほらほら、タカくん。
ご飯冷めちゃうよ?」
「おっと、そうだった。
おっ!
これも美味しいな。
ほれ」
「あむっ。
美味しいであります!
もうちょっとちょうだい、タカくん」
「しょうがないな」
「わーい!」
ご指名の皿をこのみに渡し、食事を再開する。
シルファちゃんには悪い気もするけど、誰かと一緒に食べるのもいいな。
彼女が食べられないと分かってはいるんだけど、気を使っちゃうし。
「晩御飯は私が用意してあるからね」
「カレーか?」
「うん☆」
必殺カレーか。
今は充分美味しいから、期待大だな。
「期待しているよ、このみ」
「えへへ。
頑張るであります!!
実はもう作ってあるんだけどね」
テヘッとペロッとしたを出すこのみ。
ちょっとドキッとしてしまった。
「あれ?
タカくん、顔が赤いよ?」
「な、なんでもないよ!
早く食べよう!!」
「??」
そんなこと言えるか!
誤魔化すように食べるペースを上げる。
今までと違って咽ることはないぞ。
でも、舌噛んでしまった(泣
「えーと・・・
うーんと・・・」
「おーい、まだか?」
「も、もうちょっと、待ってー!」
「・・・まあ、時間があるからいいけどさ」
昼食後に、このみの部屋でトランプなどで遊ぶことになった。
俺としては居間でもよかったんだが、このみがココが良いと言われた。
本人曰く自室の方が色んな物が揃っているらしい。
よっちゃん達の時もよく遊んでいるらしく、納得。
よっちゃんの勝負熱さは由真に引けをとらないだろう。
一瞬、『由真VSよっちゃん無制限一本勝負』という怖すぎるフレーズが浮かんだ(汗
「こういう時は、迷わずにビシッと決めるのもいいぞ」
「・・・タカくんには言われたくないよ」
「ぐはっ!」
こ、このみまでに言われてしまった・・・
お、俺って奴は・・・
「それじゃ、これ!!」
今やっているのはババ抜き。
二人だけではすぐに3枚になるまで進む。
今はこのみが引く番で、俺のカードは床に置いてある。
シャッフルして見ずに置いたから、俺も知らない(最近の皆は俺の表情を読むのがうまいし)
俺のある意味、自爆発言が効いたのか気合を入れて選びとる。
が・・・
「あぁ〜」(泣
どうやらババを引いたらしい。
すぐに気を取り直して、このみもシャッフルして、同じように2枚並べる。
「はい、タカくんの番だよ♪」
「これ」
「あ、あっさりと選んだね・・・」
これくらいじゃ悩むほどじゃないから(ペナルティーもない) 、すぐに手に取る。
「はい、上がり」
「ええー!!」
パサッと組み合ったカードを出して終了宣言する。
このみが慌てて残ったカードを取ると、もちろんババ。
これ以上ない勝者と敗者だ。
こういう時は運が良いんだよな。
肝心な時は全く逆だよ・・・
「つ、次はこれだよ!」
続いて取り出したのは、ボードゲーム。
それも『人生ゲーム』。
懐かしい物を持ってきたな。
「今度こそ、タカくんに勝つんだから!
私は大金持ちで、タカくんはビンボーで脱落するんだもん!!」
「そこまでならん!!」
俺の財布の中身はいつも貧乏だけどさ(汗
バイト・・・どうしようかな?
「タカくん、準備手伝ってよー」
「おっと、すまん」
催促され箱から取り出したパーツを組み始める。
懐かしいな、これ。
昔、よくやったよな・・・
「このみの先行で良いぞ」
「よーし!
えい!」
ルーレットを回してゲームが始まる。
こういうのもいいなぁ・・・
前言撤回、これは恐ろしいモノだ。
「た、タカくん、凄いね・・・」
「・・・」(汗
勝負自体はこのみが先にゴールした。
けど、俺のコマの状況がその・・・凄いとしか言いようがない。
「結婚のマスを行ったり来たりで、15回・・・」
『何マス戻る』とか『振り出しに戻る』とかで、15人と結婚してしまった。
ちょうど皆と同じ人数・・・
「前にゲームセンターの占いでは励まされ、今回はコレか・・・
俺の人生って・・・」
この先の将来に不安を感じても、仕方が無いと思う。
このみもどうしていいか、オロオロしている。
「そ、そうだ!
占いの勉強もしてたんだ!
タカくんも占ってあげるよ!」
「そ、そうか・・・
頼むよ」
必死に励まそうとしているこのみに、俺もうなずく。
でも、何か嫌な予感しかしないのは何故だろう?
それからトランプ占い、雑誌など様々なジャンルに挑戦してみたけど・・・
「あ、あはは・・・」(汗
「・・・」(固
どれもこれも同じような結果になる。
最悪(最高?)のものでは、『高校の卒業時に結婚式をひらくのが吉』という、
ありがたくないものもあった。
「た、タカくん!
私はいつでもOKだからね!!
タカくんが卒業時期だったら私はもう一年あるけど、高校中退するよ!」
このみさん・・・
それ、かなりの問題発言です(汗
春夏さんもさすがに許さないでしょう。
『そんなことないわよ。
タカくんが、ずっとこのみと一緒にいてくれるなら♪』
幻聴だよな、幻聴(汗
「ねえ、タカくん。
最後に、このみ達の相性を占っても良いかな?」
「うん?
でも、前に・・・」
「今の事も知って占いたいんだ。
ダメ?」
「そ、そんなことないよ。
もちろんいいぞ」
このみの想いを知る切欠となった相性占い。
想い合っても(それは認めている)、今の状況で改めて占ってみたいらしい。
このみは若干緊張しつつ、雑誌で調べてみる。
すると、すぐに満面な笑顔に変わって飛び付いてくる。
「うわっ!?」
「タカくんタカくん!
このみ達の相性は抜群だって!
少しの不安もないから、一直線だって!」
「そ、そうか。
よかったな、このみ。
俺も嬉しいよ」
「タカくーん!!」
俺の正直な言葉に、このみはさらに抱きつく力を込めてくる。
ちょっと痛いけど、それぐらい俺を想ってくれていると思えば苦にもならない。
「ターカーくーん♪」
訂正、少し痛いです(汗
「はい、お待ちどうさま。
このみ特製・必殺カレー・ヴァージョンアップ!!」
長いな、タイトル(苦笑
でも、言うだけあって美味しそうだ。
カレーも久しぶりだな。
「今日は昨日に作って寝かせたから、コクも出てるよ。
ほら、早く早く!」
「せ、急かさないでくれって。
いただきます」
煽られるようにスプーンで掬って一口。
ゆっくりと味わうように食べる。
「ドキドキ」
自信作でも、やっぱり緊張するんだな(味見もしていると思う)
鼓動の音すらも声に出し、今か今かと感想を待っている。
焦らしても可愛そうなので、このみが望んでいる答えを上げる。
「美味しいぞ、このみ。
前の時も美味しかったけど、今回はそれ以上だよ」
「わーい!!」
イスに座ったまま、両手を上げて満面の笑顔で喜ぶこのみ。
間にテーブルが無ければまた飛びついて来たかもしれない。
「たくさんあるから、しっかり食べてね」
「おう。
これは遠慮する方が勿体無いからな。
言われなくても」
「そ、そう?
えへへ・・・
あっ、でもサラダも食べてよ?」
「分かってますって。
シルファちゃんも栄養には注意しているし」
「タカくんにいつでも健康にいて欲しいんだよ。
悪く思っちゃダメだよ?」
メッとするが、似合わないとは言わない。
俺でも注意しているんだぞ(肝心な時は働かないけど)
「それは充分理解しているよ。
シルファちゃんが来た頃からね」
「話しは聞いてるよ。
あの時のタカくん、凄かったよ」
「あの焼肉の味は忘れられない」(しみじみ
「でも天罰は降りたね」
「・・・悪いことは出来ないものだぞ、このみ」
「肝に銘じておくよ」
どちらかと言うと、まーりゃん先輩に下ってほしい。
後、雄二にも。
「そういえば、雄二はどうしてるだろう?
まーりゃん先輩に誘われて、海外に行ったらしいけど?」
「そうらしいね。
このみもよく知らないけど、今は行方不明らしいよ」
さり気なく重大なことを言ったような・・・
「ゆ、行方不明?」
「タマお姉ちゃんが言うにはまだ帰ってきてなくて、
何処行ったかもよく分からないんだって」
「だ、大丈夫なのか?」
「『まーりゃん先輩がいるから、トラブルに巻き込まれたんでしょ』って。
もう少し様子を見るらしいよ」
「そ、そうか・・・」(汗
脳裏に無人島に漂着して、サバイバルしている3人の姿が浮かんだ。
何故か人事とは思えなくて(もっと言えば身代わりになったような気がする)、無事を祈る。
(雄二、無事に帰って来いよ。
3人協力し合うのは当然だけど、変な方向に行くなよ)
「むぅ・・・
タカくん、早く食べないと冷めちゃうよ」
「おっと、悪い」
「はい、あーん」
「自分の分があるから、いいって。
・・・うん、美味しい」
「えへへ♪」
カレーに夢中になって、雄二の事はすぐに忘れてしまった・・・
プルルル・・・
「はい、柚原です。
あっ、お母さん?」
そろそろお暇しようかと思っていた所へ、春夏さんからの電話らしい。
終わったなら、帰ってくればいいのに。
わざわざ電話だなんて・・・
「タカくん?
もちろんいるよ。
・・・ちょっと待ってね。
タカくーん!
お母さんから話しがあるってー!」
何かあったのか?
そう思いつつ、電話を受け取る。
「はいはいっと。
代わりましたよ、春夏さん」
『ゴメンね、タカくん。
連絡一つもしないで。
このみのカレー、美味しかった?』
「それはもう。
こちらこそすみません。
本当は俺か、両親がしないといけないのに」
『そんな事はいいのよ。
それで本題なんだけど、今日はこのまま私達の家へ泊まってくれないかしら?』
「へっ?」
電話だから聞き間違いしたかな?
念を入れてもう一度聞こう。
「春夏さん、今何と?」
『だから、今晩はそっちで泊まって欲しいのよ』
「え、ええー!?」
いきなりそう言われても!?
何で!?
「ど、どうしてですか!?
何かあったんですか!?」
『大した事ないのよ。
予定まで進まなくて、まだ片付いていないのよ』
「え?」
シルファちゃんが手伝っても?
なんか怪しいな。
「春夏さん、何か隠していませんか?」
『あら?
タカくんは私を疑うの?』
「だってシルファちゃんがいるじゃないですか?
几帳面なあの娘が、それほど遅れるとは思わないんですけど」
『あらあら♪
タカくんはシルファちゃんを信用しているのね』
「誤魔化さないでください」
『じ、実はね・・・』
いったん言葉を切って、思いっきり言いにくそうに話す。
『衣装・・・分かるわよね?』
「・・・はい。
我が親ながら恥ずかしい限りで」
母親の昔の趣味がコスプレだったなんて・・・
子供としては恥ずかしすぎる!
『それを見て、色々燃えちゃった♪』
「な、何やってるんですか!?
し、シルファちゃんは!?」
『大丈夫よ。
さすがの私も、人前でそんなことしないわよ』
「・・・本当に、何やっているんですか?」
『コ、コホン!
それで、荷物を取りあえずタカくんの部屋に移動したまま。
とても寝られる状況じゃないのよ』
「リビングでも構いませんよ。
むしろ、それでいいですから!!」
『それはダメよ。
私の不手際で、タカくんをそんな所へ寝かせられないわ。
いいから、泊まりなさい。
このみには後で言っておいてね。
嫌がらないだろうし。
あの人(旦那さん)も今日はいないから、2人っきりね』
「着、着替えは!?
取りに行くなら、もうそこで!」
『もちろん用意しているわよ♪
彼女達も貴方の着替えがあったでしょ?
ウチも一緒』
「グ・・・」
『それじゃ、このみによろしくね』
「ま、待って・・・」
き、切れてしまった・・・(汗
ど、どうしよう?
「タカくーん。
お母さん、何だって?」
ありのまま全て話すか、ココは強行で家に戻るか・・・
悩む事数分、一応このみに話すと大歓迎された。
春夏さんの詳しい事情は避けたけど。
シルファちゃんは大丈夫かな?
お風呂をいただき、このみとテレビを見たり会話していると夜更けに近い時間になる。
もう就寝した方がいいだろうと居間に布団を敷いて、『おやすみ』というだけだった。
だけど、このみから予想外な言葉が飛び出した。
「ねえ、タカくん・・・
一緒に、寝てもいい?」
「ええっ!?」
枕を抱きしめて上目遣いに頬を赤くし、恥ずかしげにも『お願い』するこのみ。
一瞬、見惚れるがブンブン首を横に振る。
「ダ、ダメなの?」
その行動がこのみは拒否と受けとってしまい、悲しそうにもう一度お願いしてくる。
ダメというか、何というか・・・
「あ、あのな、このみ。
女の子が軽・・・いや、昔とは色々違うんだからさ。
無理だよ」
るーこの時を教訓に、『軽々しく』とは言わない。
でも、このみはさらにカウンターで返して来た。
「それって、このみを『女の娘』として見てくれていることだよね?」
「うっ」(汗
だからこそ困っているんです。
このみは抱きしめていた枕を置いて、真っ直ぐに俺を見つめる。
その真剣な表情の中に、今までなかった『女』をこのみに感じる。
「このみを、一人の女の娘と見てくれるのは嬉しいよ。
ずっと、願っていたんだから」
「このみ・・・」
「幼馴染の頃とは、確かに違うよ。
だからこそ、もっとタカくんを感じたいの」
「・・・・・・」
「このみは昔からずっとタカくんが大好きだよ。
タカくんがこのみを幼馴染しか見ていない時から、ずっと。
ワガママだって分かってるの。
でも、どうしてかな?
もっともっとタカくんの側にいたい、感じたい、そして・・・」
「あっ・・・」
両手を付いて、一瞬キスをされる。
そのまま、布団に座ったままの俺の胸元に抱き付く。
「キスも交わしたい。
このみは・・・私は貴明くんを愛しているから」
「このみ・・・」
真っ直ぐな想いに、俺は彼女を抱きしめ返す。
ここで誤魔化したり、有耶無耶にすることが失礼だ。
「俺も大好きだよ、このみ。
もう少ししたら『答え』の決心もつくし、もう少し待ってくれ」
「うん、もちろんだよ。
でも、今日は一緒に寝ようね」
「う・・・
わ、分かった」
「わーい!」
その夜、俺達は一つの布団で共にする。
言い方が誤解されそうだけど、手は出さなかったぞ!!
胸元に抱きついたまま寝たので、肩を抱き寄せたけど・・・
結局、テスト勉強できず結果は散々だったけど、後悔は無い・・・よ?
おまけ
「今頃、このみはタカくんとニャンニャンやっているかしら?」
「ニャンニャン?
猫れすか?」
「な、何でもないわよ、シルファちゃん。
お夜食、ご馳走様。
美味しかったわ」
「い、いえ、そんな・・・」
「さすがタカくんの面倒を見ている事はあるわ。
これからもタカくんをお願いね」
「は、はいれす!!」
「それじゃ・・・
後は私がやっておくから、シルファちゃんはもういいわよ」
「シルファはまら、らいじょうぶれす!」
「充電しなくちゃいけないんでしょ?
無理しちゃダ・メ」
「このママは平気なんれすか?」
「これでも主婦よ。
若い人にも負けないし、粘り強いんだから。
はいはい、オヤスミなさい」
「え、ちょっと・・・
押さないれほしいれすー!!」
「ふう・・・
さすがに衣装を見て、舞い上がっちゃう所なんて見られたくないわよね。
何着か、譲ってもらおうかしら?
さて、気合入れるわよー!!」
次の日の朝、貴明はメイド服を着た春夏に起こされる事を知らない・・・
パニハー第13話、このみです。
彼女は暴走やラブラブメインより、ホノボノ路線の方が似合うと思ったのでこういう話になりました。
思い出巡りとも考えたのですが、少し出す程度に抑えました。
当初、気を抜くと春夏さんが押してくるので、途中退場となりました。
タイトルに『春夏さんの抜き打ちテスト』というくらい、貴明の家をチェックする方向に流れそうだったので(汗
雄二は予想通り、行方不明です(笑
彼とまーりゃん達がどうなったか・・・
それは最終話かエピローグで出てくるでしょう。
次回は、これまた流れ的にちゃる&よっちです。
ラングさん・こうりさん・風車さん、ご感想ありがとうございました!!