「へえ・・・
そういうことがあったの?
愛されているわね、その彼」

「ああ。
そして、まー達は資金を没収され無一文だ」

「フフフフ・・・
自業自得という事ね。
それで、ご褒美っていうのは結局どうなったの?」

「うーなな(菜々子)の希望は昨日叶えた。
ああいう純真な子を見ると、こちらが微笑ましくなる」

「そっか・・・
それとルーシーちゃんはどうするの?
確か4人で話し合って決めると言ってなかった?」

「それか。
うーさらとうーゆきは辞退した。
喧嘩両成敗ということらしい。
うーいるは後でという事で、先にるーに回ってきた。
今度の週末にうーとデートだ」

「よかったわね、ルーシーちゃん。
それじゃ、年上としてアドバイスしてあげよう。
これでも元々の職業は記者なんだから、人の機敏さを良く分かるわよ」

「それは助かる。
うーは甲斐性なく、デートの流れも満足に決めれないからな」

「・・・そう。
どこかの子を思い出すわね・・・
ならば、私がしっかりとアピールできるスケジュールを組んであげましょう!!
まずは・・・」

「ふむ・・・」

「次にこうして・・・」

「ほう・・・」

「・・・して、最後はばっちり決める!!
わかった?」

「しっかりと理解した。
さすがだ。
やはり、経験ある者から聞いておくべきだな」

「・・・
所詮、私は未だに彼氏もいない仕事漬けの女よ!!
うわーん!!」(泣

「ど、どうした、うーゆう(悠)?
突然泣き出して?」

「編集長のバカー!!
詩織先輩も彼氏いるからいいですよねー!!
私だって・・・!!」

「落ち着け、うーゆう。
今は仕事中だぞ」

 


2005・2008 Leaf 『ToHeart2 XRATED&ToHeart2 AnotherDays』

「パニック・ハート」
 第10話・常識と想い


 

菜々子ちゃんとの約束を果たした翌朝、俺は熟睡していた。
彼女の都合(年齢的に)早めに帰宅したが、皆と行くと楽しかったが疲れも倍増。
だからそのまま眠っていても、罰は当たらないよな。
でも、何かあったような・・・

「起きろ、うー」

「ぐはっ!?」

前触れなしに突然の一撃。
何事と慌てて起き上がると、すぐ側にるーこが腕組をして見下ろしていた。

「な、な・・・」

「目が覚めたか、うー?
まだ寝ぼけているなら、今度は手刀をしてやろう。
確かそう叩けば直ると聞いたが」

「俺は壊れかけのテレビか!?」

そんな扱いをされてはたまらないし、朝早くから苦痛を感じたくない。
そんな心の絶叫に、るーこは頷き組んでいた両手を解き・・・

「るー」

「・・・」(汗

いつものポーズで挨拶(?)をする。
最近は、『おはよう』から2人だけの場合『るー』と返してやろうかと思うこの頃。

「そ、それで?
こんなに朝早くから来た理由は何だ?」

「やはりまだ寝ぼけているな。
まずは時間を確かめてみろ」

「へ?」

時計を見てみると時間は9時。
確かに早朝という時間じゃない。
でも、どうしてシルファちゃんが起こしてくれなかった?

「うーしるは、昨日の帰りにメンテナンスで研究所に行ったではないか。
るーを含め皆が世話をしようかと言ったのに、うーは一人にさせてくれと断ったではないか?」

「あっ・・・」

「そして、るーは前回の報酬を受け取りに来た。
それも知らせておいたはずだが?」

「えっと・・・」

確かに。
帰りしなに話を聞いていたし、るーこからも『明日はよろしく頼む』 と言われていたけど。
それに付き添い(イルファさん達)を断ったのも、確かだ。
ああ・・・
罰が当たったな・・・

「朝食も用意しておいたぞ。
まだ勉強中とはいえ、この世界での料理だ。
不満はあるまい?」

いつもどおりの表情だけど、微かに不安が見える。
彼女の料理を受け入れられるか不安のだろう。
もちろん俺の答えは決まっている。

「もちろん。
それじゃ、着替えるから準備をよろしく」

「う、うむ・・・
すぐに降りてくるのだぞ」

その言葉に安心したようで、口元を綻ばせて早足に退室していく。
まあ、ミルファちゃんみたいなモノは出てこないだろう・・・たぶん(汗

 

「ご馳走様。
美味しかったよ」

「そ、そうか。
と、当然だ。
るーも日々成長しているのだ」(照

実際に美味しかった。
タマ姉に教わっていたのか、和食だったのが驚きだったけど。

「るーが洗い物を済ませるから、出る準備をしておけ」

「い、いいよ。
それくらい自分でするから」

「そういう台詞は昨夜の自分の行動を思い出してから、言ってほしいぞ」

「・・・」(汗

夕食は帰りに買った久しぶりのカップラーメン(ホントに久しぶりで美味しかった)、
お風呂も入った後はやりっぱなし。
洗濯もしてない。
・・・すんません。

「やれやれ。
うーも分かったら、早く準備しろ」

「・・・了解」

自室に戻ろうとして、不意に気になって彼女を見る。
るーこは食器などを台所へ運んでいる最中だった。
ふと知り合った頃のやり取りを思い出して、苦笑が浮かぶ。
狩りとか随分と勘違いばかりだった女の子が、ここまで常識人になったことに。

「何だ、うー?」

「う、ううん、なんでもないよ!」

「??」

首を傾げるるーこに誤魔化しながら、部屋へ戻った。
そして準備は終わり(週末の恒例行事の為慣れた)、向こうも準備万端な彼女と共に自宅を出る。
さて・・・
予定は聞いてないけど、何処に行くつもりなのだろうか・・・

 

 

そして、最初の目的地は意外な場所から始まった。

「これはどうだ、うー?」

「それはホラーだぞ。
それでもいいのか?」

「・・・やめておこう。
るーはそんな無意味な争いはしない。
誇りをもって戦う」

るーこにしたら尤もらしい事を言って、棚に戻しに行く。

来た場所はレンタルショップ。
昨日は遊園地に行ったから、同じような所は・・・考えていたら余りにも盲点を突かれた。
彼女曰く・・・

『映画というのもいいが、るーはそれほど見た事はない。
なら、昔の良作を見てみたい』

らしい。
最近はCGとかに凝って、『これぞ良作!』というのも少なくなったし時間も短い。
昔のモノを見るというのは意外と悪くないな。

「これはどうだ?
SFアクションだけど、こういうのはるーこも大丈夫だと思うよ」

「うむ。
うーがそういうなら任せる。
後は感動するものがいいぞ」

「了解っと。
それはこっちだな」

あっちこっちと移動して、一通り見回って気に入りそうなものをチョイスする。
俺も久しぶりに来たので、見たいものがいくつかあった。

「こうして見ると本当にたくさんあるな。
この中ではるー一人だけでは迷うだけだっただろう。
感謝するぞ、うー」

「それくらいで感謝しなくても・・・
これくらいならいつでも付き合うさ」

「それは良い事を聞いた。
次回に返却するときは皆で来るとしよう」

「それもいいな」

「その皆には悪いが、今はるーを見てくれ。
その分、後で礼をしよう」

「は、恥ずかしい事を人前で言うんじゃない!
それに礼なんていらないから!!」

直球なるーこの言葉に真っ赤になってしまう。
こういうストレートな告白は勘弁して欲しい(湾曲すると気づかない男が何を言う)

「今日はとりあえず5本でいいか?
いきなりそれ以上見ると疲れるぞ」

「そうだな。
今回はうーの奨めだからな、任せる」

5本まとめ借りの方が得なので、今日はこれくらいでいいだろう。
さて、『ある事』に気づかれないうちに店を出よう。
しかし・・・

「うー、アレは何だ?
あそこにもあるのではないか?」

「おおう」(汗

気づかれてしまった・・・
るーこが指す先は、いわゆる『お子様お断り』なコーナー。
これこれ、るーこさん。
女の子がそんなものを指差すものじゃありませんよ(若干現実逃避)

「あ、あれは、その・・・
るーこには関係ないから!!
もう借りるものも決まった事だし、早く行こう!!」

「何をそんなに慌てている?
まだ時間はあるぞ?
昼食には良い時間だが、うーは遅く朝食を食べたばかりだろう?」

冷静に判断しないでくれ!!
というより、敷居に書いてある注意文を見て察してくれ!!
前言撤回、るーこはまだ世間知らずだ!!(ある意味純粋か?)

「で、でもさ!!
俺もお腹減っちゃったなー!!
実はさ!!
おかわりしたかったんだけど待たせるのも悪いと思って、我慢したんだ!!」

本当は減ってないけど、咄嗟にはこれくらいしか出てこない。
その言葉を聞いたるーこは少しムッとする。
あっ・・・
言い方が不味かったかな?(汗

「そうなのか?
そんな遠慮などするな。
るーは食べてくれる方が嬉しいぞ」

不機嫌になったのは、気を使われたにことらしい。
ちょっと悪い気もするけど、このまま通させてもらう。
こんなことでいつまでも、問答したくないし。

「ゴメンゴメン。
るーこは食べていなかったようだし、昼食にしようか?」

「仕方がない。
今度から遠慮するな。
では、食事に行こう」

「そうだな!!」

よかった・・・
まあ、昼食も寮を控えめにすれば食えないこともないだろう。
今回の選択は自分でも褒めてやりたいくらいだ。

 

ゴメン・・・
前言撤回します・・・
これはまさに予想外だった。

昼食もるーこが決めていたらしく、案内された場所は彼女のバイト先。
もちろん反対したけど覆らず(バイトのツテで前もって席を取っていてば断れないだろ?)
お互いに注文している間、彼女は平然としていたが俺は居心地が悪かった。
この店でるーこは看板娘らしく、彼女狙いで来る客も多いらしい。
本人はそんなことにはお構いなく、客として俺と2人っきり(しかも外ですよ?)
周りの視線が痛いです(泣
さらに注文した料理が届いても・・・

「どうした、うー?
ほら、あーんだ」

「そ、その・・・
やっぱり、恥ずかしいよ」

「何を言う、うー?
うーみるにはやっていたではないか?
それに約束したはずだ。
今度はるーの番だ」

「わ、分かった。
あ、あーん」

「ふふ・・・」

それを言われると断れない。
というよりも良く覚えていたよ・・・
と、いうことで『あーん』をやってます(交互に)
そこのお兄さん、そんな血涙流さなくてもこっちも辛いんです。
ふっ・・・
モテる男は大変なんだよ!!(ヤケクソ)

「ご馳走様」

「るーもご馳走様だ。
ではデザートを頼む」

「はいー♪」

デザート?
るーこが食べ終わると、すぐにデザートを注文をする。
嫌な予感が・・・(汗
返事をした黒髪のウェイトレスさんのものすっごい笑顔が気になる。
それにメニューの確認もしていないし。
いくら友人といっても『デザート』で通じるはずが・・・
そんな嫌な予感は的中する事は言うまでも無い。

「おまたせしましたー♪
『ドキドキパフェ』でございまーす!
前に『とある』カップルの注文以来、このテラスではいませんでした。
それが今、ウチの看板娘がチャレンジです!
憎いわねぇ、このこの!!
これは武勇伝を超えて、伝説になるでしょう!!」

ドンッとテーブルに置かれた見覚えあるかなりでかいパフェ。
顔が引きつっているのが自分でも分かるよ。
それと店員さん?
テンション高いのは自由ですが、大きな声で演説みたいな事しないでください。
伝説にならなくていいですから!
むしろ、ならないでください!

「それでは、ごゆっくりー♪」

るーこにウィンク一つして、仕事に戻る店員さん。
ごゆっくり出来るはずないでしょう!

「るーこ、あの人は?」

「うん?
うーはうーゆうに興味があるのか?
これ以上は駄目だぞ。
それに大人だからな、相手にもされないだろう」

「違うって!!
あの人と親しそうだったからさ」

チラッと見て、彼女はしっかりとお客さんの対応している。
視線に気づいたのか、こちらを向いて軽く手を振ってくる。
さすがに手を振り返すのは恥ずかしいので、頭を下げる程度にしておいた。

「そうか?
彼女は最近入ってきた新人だ。
働き者で性格もしっかりしている。
最近は恋人が居ないことで焦っているようだ。
惜しむなら、短期間の採用だったことだ。
彼女もその方が良いらしく、あと数日で終わってしまうけどな。
るーも、もう少し彼女と教わりたい事もあった」

「へ?
何を教えてもらったんだ?」

「今回のデートのアドバイスを貰った。
予定も彼女の言葉を参考にして考えた。
全く・・・
デートの予定は男が考えるものだぞ、うー」

「・・・ごめんなさい」

そう言われても・・・
結構、皆と出かける機会が多いからネタ切れなんだよ。

「分かればいい。
今はパフェを食べるとしよう。
いくら大きくても溶けてしまう」

「そ、そうだね」(汗

いきなりピンチに戻され、冷や汗が流れる。
こんな予定は無かったからもう満腹。
ミルファちゃんの時とは違って、るーこも食べてくれるだろうけど・・・

「ほら、あーんだ」

やっぱり(泣
これ以上は・・・

「うーは空腹といっていたが、あまり食べなかったではないか?
これを予想していたのだろう?」

予想していませんでした(汗
ここで自分が言った言葉で首を絞めるとは・・・

「それとも・・・
食事でならともかく、これは私では嫌か?」

「そ、そんな事はないぞ!
あ、あーん!」

「そうか・・・
よかった」

そう言われて断れるはずがない。
表情も曇ってしまったのが一番の理由だけど。
決して、チラッと見えたあのお姉さんの笑顔が怖かったわけじゃないぞ。

「なら、私はフルーツを貰うとしよう」

「・・・はい、あーん」

「あーん」

そして結局、これも交互に食べさせて完食(俺が7割担当)
苦しい中、レジの会計で悠さんが対応。

「フフフ・・・
大変ね、君は」

笑顔で同情されても嬉しくありませんよ。

「そう思うなら、るーこをけしかけないでくださいよ」

「あら?
私は彼女にどうアピールしたらいいか、ちょっとアドバイスをしただけよ?」

「デートの予定まで組んだのは、ちょっととは言えませんが・・・」

「それは確かにお節介が過ぎたかもね。
でもね、彼女の話を聞いた限り、君は予定を立てることは出来たかな?」

「それは・・・」

「私はね」

言い返せない俺に、悠さんは真剣な表情で語る。

「元々は・・・と言っても、今も記者なんだけど貴方と同じような男の子もいたわ。
かなり面白い子だったけど、それでも皆を大切にしていたわよ」

「・・・・・・」

「だから、貴方も彼女達を悲しませたら駄目よ。
ね?」

「・・・はい」

それはずっと心に決めている。
それに俺も彼女達が好きという気持ちに変わりない。

「頑張りなさい、男の子♪」

「あたっ」

軽いデコピンされ、思わず声が出てしまう。
当てられた場所を摩っていると、悠さんはニッコリと笑う。

「ほら、大切なお姫様が拗ねているわよ。
早く行ってあげなさい」

「は、はい」

さよならを言い(もちろんお金は払ったぞ)、外で待っていたるーこと合流する。

「おそかったな、うー。
うーゆうと何か話していたようだが?」

「ごめん。
ちょっと話し込んじゃって。
俺も少しアドバイスもらってたから」

「そうか。
うーゆうの言葉は為になるだろう?」

「ああ。
とっても」

今でも時々悩む今の関係。
いい加減さと優柔不断さに自分でも呆れる時もある。
それでも、今の気持ちに嘘はない。
あのお姉さんに感謝だな。
もし出来たら、俺と同じ男の子というのに会ってみたいな・・・

「どうした、うー?」

「なんでもないよ。
それじゃ、次に行こうか」

「うむ。
それでは着いてくれるがいい」

「りょーかい」

そう言いながら、るーこが腕を組んでくる。
俺も受け入れて、そのまま歩き始める。
今は彼女をあるがままに受け入れよう・・・

 

 

悠さん・・・
やっぱり俺は貴女を恨みますよ・・・
てっきり、まだどこかに周ると思っていた。
それがさ・・・

「いくらうーでも、女の部屋をキョロキョロとするのはよくないぞ?」

「ご、ごめん」

「飲み物はコーヒーでいいか、うー?」

「な、なんでもいいから!」

「??
何をどもっている?」

「そ、そうかな?
アハハハ!!」

「変なうーだ」

案内された場所はるーこの自宅。
珊瑚ちゃんたちと同じマンションを利用している。
いきなり、こんな場所に連れて行かれるとは思っても見なかった。
珊瑚ちゃん達やこのみ・タマ姉の家はお邪魔した事はあるが、一人暮らしの部屋には入った事はない。
この緊張感、皆さんには理解していただけるだろうか?

「そ、そういえばさ、るーこは一人暮らしで大変じゃないか?
俺も一時は同じだったけど、苦労したし」

「みくびるな、うー。
大変とは感じるが、るーは今はそれが幸せなんだ。
食事はうーいるが差し入れてくれたり、共にするときもあるが。
それより、うーは少しうーしるに任せきりではないか?
いくらそれが彼女の仕事でも、頼り切りは怠け者になるぞ」

「・・・仰るとおりで」

手伝おうにもシルファちゃんがなあ・・・
褒めて貰おうと頑張っているのが分かるし、止めにくい・・・

「今はるーを見てほしいからこれ以上言わないが、心に留めておくがいい」

「う、うん」

だから、そういうことを軽く言うんじゃない!
それとさり気なく隣に座らないでくれ!!
ソファだから余裕はあるからそんなに密着しないでくれ!!

「あ、あの、るーこさん?」

「どうした?
ああ、お茶菓子を忘れていたな。
食いしん坊だな、うーは」

勝手な解釈され、再度立ち上がって台所を漁っている。
その間に、少しでも落ち着こうと深呼吸する。
・・・別に、部屋の匂いを嗅いでいるわけじゃないぞ?

「持ってきたぞ、うー。
これで用意は済んだな。
では、さっそくビデオを見るとしよう」

お菓子をテーブルに置いて(クッキーだった)、借りてきた映画をセットする。
DVDにも対応していて、さり気なく家のより最新だった(泣
リモコン片手に操作するるーこから、知り合った頃の野生(ちょっと違う?)が想像できない。
それでも『狩り』がしたいと疼いている時もあるらしい。
どっちだよ?

「まずは・・・」

やっぱりすぐ側に座るのか・・・
しかも今度はもたれ掛かってきますよ、奥さん!?(奥さんって誰だよ?)
これは受け入れるべきなのか!?
それとも『それはちょっと・・・』とか言って、さり気なく断るべきなのか!?(全然さり気なくない)

「それでは、ゆっくりと見るとしよう。
お菓子は好きなときに食べてくれ」

「・・・りょーかい」

結局、この体勢のままになってしまった。
だから流されているって言われるんだろうな・・・
もういいよ、それで・・・

 

体勢がもたれ掛っている状態から、
腕を抱きしめている状態になって(胸の感触にドキドキした)パニックになるも顔には出さずに、3本が見終わった。
それからは夕食となるが、怠け者の俺を更正の意味で手伝う事になった。

「た、玉ねぎが目に沁みる・・・」(泣

「耐えろ、うー。
誰もが通る道だ」

た、確かにささらさんにお弁当を作ったときも、こうだったな・・・
久しぶりだから、包丁も恐々と使う。

「でもさ、ソース作るのも大変だな」

「その手間をかけた分、料理は旨くなる。
さすがにパスタまでは作れないがな」

夕食はスパゲティにサラダ。
ミートソースは手作りから始めたのだが、慣れないので苦労も当然。

「シルファちゃんが来る前は、スパゲティも作った事はあったけどソースはレトルトだったからなぁ・・・」

「それでは、煮込めば終わりではないか?
栄養も取ってない」

「でもさ・・・
パスタは日持ちするし、ソースは次の日にご飯にかけてチーズを乗せて焼くとドリアになるから便利なんだよ」

「・・・この手抜き魔め」

「・・・すみません」

美味しいんだよ、ドリアも。
一人暮らしじゃ、どれだけ楽に出来るかだし。

「まあ、ソースはそういう風に利用できるのは認めるが・・・」

「これも生活の知恵さ」

「絶対違う」(きっぱり

きっぱり言われて、少しヘコむ。
そして・・・

「あいたっ!!」

「っ!!」

会話しながら包丁を持っているのがいけなかった。
玉ねぎを切っている最中に、ミスって指まで切ってしまった。
るーこが慌てて自分の作業を放って、側にくる。

「だ、大丈夫か、うー!?」

「へ、平気平気。
これくらい舐めて止まるさ」

実際、軽い程度で血は流れているがすぐに止まりそうだし。
けど、るーこは予想外(予想内?)の行動に移った。

「ならば・・・(パクッ)」

「うわっ!?」

手を掴まれ、切った指はるーこの口の中。
しかも舐められている感触が生々しく伝わってくるんですけど!?

「ちゅる・・・ぴちゃ・・・」

「あ、あああ、あの・・・!!」

うわー!!
音もヤバイんですけど!!

「んぅ?
らいぼうひゅか、るー?」

「だ、大丈夫だから、もう離してくれ!!」

「うむ・・・」

最後に『チュポン』と音がして、あらゆる意味で解放される。

「絆創膏を持ってくるから、うーはソファに座っていてくれ」

声を掛ける暇もなく、るーこは救急箱を取りに行った。
俺って、本当に役立たず?

 

「それじゃ、いただきます」

「いただきます」

結局、治療された後はるーこが一人で作ってしまった。

「ごめん、るーこ。
何の役に立たないで」

「悪いのはるーもだ。
うーが包丁を使っているのに、話しかけていたからな。
今度は注意しながら、やっていこう」

「そうだね」

出来上がったスパゲティを一口。
麺の固さも、ソースの味も最高だった。

「美味しいよ!
すっごく!!」

「口にあって何よりだ。
しかし、これはまだ満足はしていない。
だが、朝に続き夜もうーが気に入ってれて嬉しい」

「るーこ・・・」

自信に溢れる笑いではなく、本当に嬉しそうな笑顔をみて真っ赤になる。
俯いてチビチビ食べてると、るーこはクスクスと別の意味で笑う。
るーこもタマ姉の様になってしまってた・・・
皆して俺をからかう事がどうしてそんなに面白い?

「謝るから、そんな目でるーを見るな。
スパゲティは無理そうだがサラダはいけるだろう。
ほら、あーん」

ここでもですか!?(絶叫
今回は免除されると思っていたのに・・・(泣

「あ、あーん・・・」(泣

「うむ。
今度はるーにもやってくれ。
あーん」

「・・・あーん」(泣

ここまでくれば最後までやるさ。
ああ、やってやるとも!!

「美味しいな、うー」

「そ、そうだね」

でも、これ以上は勘弁してしてください(土下座

 

食べ終わって、洗い物を済ませて(怪我を理由に断られた)いい時間になっていた。

「それじゃ、るーこ。
俺もそろそろ帰るよ。
料理、ご馳走様」

「待て」

お礼を言って玄関に行こうとすると、服の裾を掴まれた。
当然、止めたのはるーこだ。

「どうした?
さすがにこれ以上は、シルファちゃんのご機嫌や常識的に危ないんだけど」

先にシルファちゃんが出てくるけど他意はないぞ。

「今日はここで泊まれ、うー」

「・・・・・・」

あっれー?
耳がおかしくなったかな?
幻聴が・・・

「アハハ。
それじゃ、失礼するよ!!」

シュバッと手を上げて去ろうとするけど、彼女はそんなに甘くはなかった。
上げた手を掴んで、グイっと引っ張れリビングへ戻される。

「だから待て。
今晩は泊まっていけと言っている」

「そ、そんなこと出来るわけないだろ!!」

「声が大きいぞ、うー」

本人はあっさりと再度お願いを口にし、現実逃避もここまで。
心からの言葉を絶叫するけど、彼女はあくまでもクールだった。

「そ、それはさすがに駄目だよ!!」

「何故だ?」

そこで不思議そうに首を傾げないでくれ。
ここは彼女にきっちり教え込まなくては。

「そこに座りなさい」

「??」

よく分からない表情で言われたとおり座るるーこ。
俺もその前にドスンと座る。

「あのな・・・
女の子の一人暮らしに、男が泊まれるわけないだろう?
常識以前の問題だぞ。
るーこも、もう少し警戒心を持った方がいいぞ」

俺の言葉は間違っていない。
でも、るーこは逆に言い返してきた。
それも驚く言葉で。

「馬鹿にするな、うー。
こういう言葉をうー以外に言うと思うか?」

「えっ?」

「るーはうーが・・・『貴明』が好きだ。
愛しているんだぞ」

「っ!!」

俺を『うー』ではなく『貴明』と言い、真っ直ぐに告白する。
先程までとは逆に俺の方が居心地が悪い。

「だからこそ、ずっと側にいたい。
いて欲しいと言うのはそんなに悪い事か?
この気持ちを抑えなくてはならないほどなのか、この世界の常識とは?」

「・・・・・・」

何も言い返せない。
いや、言い返すことが出来ない。
るーこの言葉は『想い』そのもの。
それを『常識』の一言で否定することなんて出来ない。

「間違っているのはどちらだ、貴明?」

「それは・・・俺だ。
ごめん、るーこ。
俺もるーこ・・・皆の事が好きなのに常識なんて気にして。
一番の常識はずれは俺なのにな!!」

皆が好きで誰も一番を選べない俺こそが、優柔不断で常識はずれなのだろう。
でも、強引に誰かを選んだり、選べなくて全員に断ることが出来ない。
だったら、最後は・・・

「その意気だ、貴明。
ならば、私も言葉だけでなく行動でも想いを伝えよう」

「へっ?」

元々、向かいながら座っていたため(距離も近い)にるーこがさらに近づくと・・・

「ん・・・」

「っ!!」

両頬を掴まれ、き、キスをしてくる(絶叫
ま、まさか、るーこまでこういう行動をしてくるとは・・・

「ハア・・・」

当然、俺からは動けないので、るーこから離れてるのを待つしかない。
ちょっと、るーこさん!
そんな、悩ましい声を出さないでください!!

「るーこ・・・」

「ん?
どうした、貴明?
今更、キスで混乱するな。
もう、何人ともしているだろう?」

ぎゃおー!!
事実だけに、言い返せない!!
でも、恥ずかしいものは恥ずかしいんだ!!!

「そうだ、忘れる所だった。
問題を戻すが泊まっていってくれるか?」

それもしっかり覚えていたわけね!!

「それは・・・
でも、シルファちゃんがなんていうか・・・」

「大丈夫だ。
事前に許可は得てある」

だから、そういうことは本人に先に言ってくれ(汗

「泊まっていってくれるな」

「・・・はい」

えっと・・・
説得・・・するはずだったんだよな?

 

 

結局、断りきれず泊まる事になった(汗
着替えをどうするのかと聞けば、一着の男用のパジャマ(下着込み)を持ってきた。
彼女曰く、皆の家に用意済みらしい(サイズはシルファちゃんに聞いたらしい)
お互い風呂に入って、残りのビデオを見て就寝する事になる。
だが、寝る場所についてお互い一歩も譲らない

「俺はソファーで十分だから」

「駄目だ、うー。
客にそのような所を提供するわけにはいかない」

「だからって同じベッドで眠るわけにはいかないだろう!!」

「何故だ?
これも『常識』か?」

「それもそうだけど、一番の理由は俺が困る!!」

「だが、うーいるの話しでは共にしたとか言っていたが?」

「それは同じ部屋でも、ベッドと布団に別れてたよ!
さすがに一緒は無理!!」

だから、そこで首を傾げないでくれ!!
もし、そんなことになってしまったら自分がどうなってしまうか・・・
想像するだけでも、恐ろしい。

「・・・わかった。
ここは貴明の意を汲もう」

「ならっ!」

「同じ部屋までならいいのだな?
予備の布団を持ってこよう」

「やっぱりそういう展開かー!!」

予想していたさ、こんちくしょう!!

「うーいるは了解したのに、るーでは断るのか?」

「ぐっ・・・」

「るーはそれほど魅力はないか?」

「も、もちろん、あるさ」

あるからこそ、困ってるんだよ!!
気づいていくれよ!!

「貴明・・・」

「うおっ」

ズズイと顔を寄せてくるるーこに後ろに逃げるも、すぐに壁に当たる。
あれー?
こういう展開、前にもあったような・・・

「貴明」

「えっと・・・」

「貴明」

「そ、その・・・」

「貴明」

「だ、だから・・・」

「貴明」

「・・・・・・」

「貴明」

「・・・分かりました」

「うむ♪」

このやり方って、皆の間に広まっているのだろうか・・・
だったら、やだなぁ・・・

 

だけど、事態はるーこの思うがままだった(汗

「そんな端にいってどうする?」

「い、いいって、これで」

何故か同じベッドで眠る事になってしまった・・・
理由は一つ。
予備の布団が使えなかったのだ。
しばらく干していなかったらしく、匂いが凄かった。
その辺りは、るーこも気づかなかったらしい。
さすがに使えなくて、さらに言い合った結果・・・
こうなってしまった(汗
少しでも離れる為に端っこによる。

「ならば、こちらから寄らせてもらうぞ」

「ちょっ!!」

背中にピトッと抱きつかれ、逃げ場がない。
寝静まった頃に逃げるか?

「やはり、貴明は暖かいな・・・
ずっとこうしていたいくらいだ」

「るーこ・・・」

「おやすみ・・・だ。
良い夢を・・・」

彼女の寝息が聞こえて、抱きつかれた感触にドキドキする。
これは今夜も眠れないな・・・

「すー・・・すー・・・」

それでも、今回はそれでもいいな・・・
全く・・・
今日はるーこに振り回されてばかりだったな・・・
それでもいいかと思いはじめる自分に不思議に思いながら、これから朝まで様々なモノに耐えるとしますか・・・

 

 

おまけ

 

「「るー☆」」

「いつものことやけど、この挨拶はうちにはよう分からん」(汗

あれ?
いつの間にか眠ってしまったか・・・
でも、まだ眠い・・・

「それで、貴明は何処におるん?
てっきりソファーで寝てるんやと思ってたんやけど?」

「貴明はまだ寝ているぞ?」

「そうなんか・・・
いつまで寝とるんや、あのアホ・・・
あれ?
るーこさんは、いつからあいつを名前で呼ぶようになったん?」

「昨夜からな」

「・・・あのアホは何処におるんですか?
ちょっと聞きたいことが出来まして」

「アイツはベッドの中だ。
るーは先程目覚めたばかりだが、貴明の温もりでよく眠れた」

「ぬ、温もり!?
ま、まさか・・・い、一緒に!?」

「ああ、共にしたぞ」

「羨ましいなぁ・・・
ウチらも頼んでみよか、瑠璃ちゃん?」

「あ・・・あのアホ!!」

何か騒がしいな。
それにドタドタする音が・・・

 

バタン!!

 

「何しとんのや、このごうかんまー!!」

「ぐはっ!!」

『常識』的に見ればそう見えるよな(泣
俺が悪いのかなぁ・・・?

 

第11話へ続く

 


パニハー第10話・るーこです。
難産でした(汗
るーこの不思議キャラをどうラブコメにもっていくか、かなり苦労しました。
るーこ自身は気に入っているんですよ?
流れのイメージは出来ていたのですが・・・いざ、SSを書こうとすると進まない進まない(汗
不完全燃焼です、すみません(ペコ
機会があれば書き直したいくらいです。
挙句の果てに、私のオリジナルキャラ・悠の登場です。
最初はイルファが手伝ってサブヒロイン扱いする予定だったのですが、何故か彼女が登場。
自分が生み出したキャラなのに、半分イメージを忘れている悲惨さ。
今回は謝るしかありません、ごめんなさい(土下座
ドリア云々は、自分が良くする料理です。
気になる方は一度どうぞ。
ソースはスパゲティ用なので、少し辛いです。
かける量は半分くらいがちょうどいいです。
さて、次回は珊瑚・瑠璃の予定です。
今度こそ気合を入れて頑張っていきます!!
ラングさん・こうりさん・風車さん、ご感想ありがとうございました!!