【いつでもそこにある奇跡】(翼将!ラブ) P3
 


 俺は、郭に向かってスローインをした。
思ったとおり、アフリカン野郎は、そのボールを奪おうと嫌みな程に長い足を伸ばしてきた。
 してやったりと、俺はほくそ笑む。
その向こうから真っ直ぐに飛び込んでくる、小さな影を視線の端に捕らえていたから。

 将のタックルを、奴はジャンプして躱した。
だけど甘い。きっちり目が覚めた今の俺は、似非アフリカンなんかに負けやしないぜ。
だって、天使が味方してくれてるんだから、当然だろ?

 将を躱した時に浮いた球を、今度は俺が大きくオーバークリア!
作戦成功!後は前方の奴らの仕事だ。

 本来はその前方のいるべき将は、タックルで勢いよくコロコロ転がった体をひょこっと起こして、嬉しそうに瞳を輝かせて俺を見てる。
 そんな姿に、ぴょこんとたった耳と、ブンブン振られる尻尾の幻影が見えるのは、きっと俺だけじゃないはずだ。

 さあ、なんて声をかけようかな。
 やっぱりゴメンと謝るべきかな?
それとも、サンキューと礼を言う方がいいだろうか?
 俺にしては珍しく、殊勝なコトを考えていたのだが、やはりコレまで培ってきた性格は、そうそう変えられるものではない。

「ちぇっ。途中までは読み通りだったのに、最後のはキーパーの飛び出しが良かったか。…こういう瞬間があるから止められないんだよね。サッカーはさ!」
 前半は、怯みはじめた敵へ、精神的な追い打ちをかけるために。
そして後半の言葉は、満面の笑みでこっちに向かって子犬みたいに駆けてくる大事な奴に、俺はもう大丈夫だと教えるために・・・。
「翼さん!」
 嬉しそうな将の声に、こっちまで嬉しくなってしまう。思わず弛みそうな頬を、俺は何とか保ってみせた。

 そのまま素直に感謝を述べられたら良かったんだけど、やっぱり俺の性格ってちょっとひん曲がっているらしい。(ちょっとか?(黒川談))
「お前のディフェンスど下手!おマヌケすぎて見てらんない」
 駆け寄ってきた将に、俺はビシッとチョップを食らわせてしまった。もちろん、藤代や鳴海を成敗する時とは違って、ちゃーんと力加減はしてたけど。
───あーあ、折角のチャンスが台無し。やっぱこういうトコ、俺もまだまだ子供なんだよね。

 例えば、これが渋沢だったとしたら、きっと素直に謝罪と感謝の言葉を述べただろう。将専用のキャプスマでも浮かべてさ。(これがまたメチャクチャ胡散くせーのに天然な将には爽やかに見えるらしい)
 
───でも、他人の二番煎じなんて、それこそ俺のガラじゃないからね。俺はやっぱ、俺流にいかないと。

「将」
 俺は、叱られた犬みたいにシュンとなっている将の顔を上げさせるために呼びかけた。
 たぶん、人の目を見て話をしましょうと、幼い頃に躾られているのだろう。
(それを今でも素直に守り続けてるあたりが、将の将たる所以って気もするけどね)
彼は呼びかけると、いつでも真っ直ぐに視線を合わせてくるのだ。
 その大きな瞳を捕らえて、俺はニッと笑ってやった。俺流の、怒ってないという合図。
「ディフェンスの見本、見せてやるよ!」
「はいっ!」
 将はいつも通り元気な返事をして、俺の横を嬉しそうに駆けだした。

───ほらな。コイツを喜ばせるのなんて、すっごい簡単。サッカーさえあれば、幸せって奴だからな。
 でも、そんなコイツとサッカーするのが、実は今の俺の『1番の幸せ』なんだって、きっとコイツは分かってないんだろーな。鈍感だから。
───いつか絶対、分からせてみせるけどさ。

 とりあえずは、この試合だ。
まずは名誉挽回してやろう。最高にカッコいい俺を、見せてやる。
ちょうどいいトコロで、アッチも何か仕掛けてくるつもりみたいだし。
 チャーンス!今の俺は、負ける気なんて、全然しないね。
横で将が駆けてるんだから、そんな気、するわけないっての。

「さっきのお返し、させてもらうぜ。将」
 俺の言葉に少しキョトッとしてから、将は嬉しそうに笑った。彼らしい、素直な喜びの表情。
 コレ見ると、俄然、やる気になっちまうんだよな。男ってやっぱ、単純なんだ。

 仕掛けは完璧。後はタイミングだけだ。
俺の勘じゃ、ボールは絶対、11番に戻ってくるはず。
だから、俺がチェックするのは奴だけでいい。後は、頼もしい仲間達が抑えてくれるはずだ。
 こんな風に、誰かを信じられる自分に戻れたのは、将のおかげ。
ホント、スゴイ力だよね。まさに、ミラクルパワーって奴?
 奇跡は、いつでも俺達の身近にある。風祭将という存在こそが、俺達の奇跡。

 諦めるな、と背中を押してくれる、彼の想いに、応えなきゃ男が廃るよ。
そんな気持ちが、俺達の1番の原動力なんだろうなぁ、きっと・・・。

 思った通り、戻ってきたボールをカットして、俺はそのまま駆けだした。
俺達の奇跡を従えて、いざ出陣。
このボール、絶対に決めてやるぜ!

end   




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