【君という花】 P18
 


「ちょっ!…ダメです、カガリ!彼は正式な使者なんですよ?」
「煩い、離せ!キサカ」
 突然の乱闘を止めに入った屈強な体格の男は、確か彼女の護衛だったはずだが、見事に鳩尾に少女の肘が入ったのを、イザークはばっちり見てしまった。
 だが、慣れているのだろう。
男は顔色一つかえずに、暴れている少女を掴み、押さえていた。
 そこで、漸く己の仕事を思い出したらしいディアッカが、イザークの斜め前に立つ。
「この役立たずが…。それで護衛をしてるつもりなのか?貴様は…」
 向こうの護衛の方がよっぽど優秀だと呆れた様子で付け足すイザークに、ディアッカは苦笑した。
「悪ぃ。あんまりお姫様の拳と蹴りが見事でさ。思わず見惚れちまったんだよ。……ってゆーか、イザーク!お前なぁ・・・いざこざは起こさねぇって言ったはずだろ?」
 何だよ、あれは…と、ディアッカが顎をしゃくって示したのは、未だラクスにひっついて、グズグズしゃくりあげてるキラだった。

「別にいざこざを起こしたかったワケじゃない。ただ、作り笑顔をひっぺがして、本当の顔を出させてやっただけだ」
 それがイザークなりの誠意から出た行動だと、付き合いの長いディアッカには一応分かっているのだが・・・。
「やり方がマズイって言ってんだよ、やり方が…!…ったく、見ろよ、アレを。じゃじゃ馬姫が、今にも噛みつきそうな顔してんじゃねぇか」
 小声で話していたのだが、人間誰でも自分への悪口ほど、よく聞こえるものである。
 プツンと1本切れたらしいカガリは、キサカの巨体をはねとばし自由を取り戻すと、壁に走り寄って、どういう仕組みなのか、そこに隠されていた古式な刀を取り出した。
 しかも、2本である。

「ええい!そこに直れぃ!金銀コンビ!」
 バンッと1本を前に立つディアッカに投げつけて、カガリは手にした一本をスラリ…と抜くと、刀身を差し込む光に煌めかせながら、挑戦的に翳した。
「おいおいおい〜」
 オーブのお姫様教育ってのはどうなってんだ、とか、なんでこんな古風な刀がココにあんだよ、とか、そもそもなんで俺がイザークと同罪なんだ?それってちょっと酷くないか?…とか。
 色々と言いたいこと満載なディアッカだったが、どうやらその暇は与えられないらしい。
 チャッと鍔を鳴らして刀を構えているカガリを、ディアッカは冷や汗を流しながら見つめた。

 琥珀の目は闘志にギラギラ光っていて、冗談ではないと物語っている。
キラに関しては、アスラン同様、ちょっとイッちゃってるカガリをディアッカは知っているので、彼女がここまで激する理由も、分からないではないのだが・・・。

”・・・だめだ!このままじゃ俺がヤベェじゃん!”
 とは言え、まさか、オーブ代表である彼女相手に、本気で戦うわけにはいかないだろう。
第一、こんなとばっちりで怪我をするのは、絶対にゴメンである。
 まさに進退窮まったディアッカだったが、意外なところから、仲介が入った。

「よせ、カガリ!」
 ガシッと少女の腕を掴んで止めたのは、アスランだった。
流石、腐っても元同僚…と、ディアッカはちょっとだけ彼を見直してみる。
「なんで止めるんだ!アスラン!アイツはキラのコト、虐めたんだぞ!」
 反論するものの、恋する相手には強く出られないのか、金色の猛獣には、先ほどまでの勢いがない。

「虐めたんじゃないぞ。泣かせただけだ」
 冷静にイザークがツッコミを入れるが、それを耳の後ろで聞いたディアッカは心の中で、余計な事を言うんじゃねぇ!と絶叫した。
「同じじゃないか!この銀ごけし!」
 うわぁ、言ってはならない最大の禁句を!…と、ディアッカは再び、心で叫ぶ。
ここでイザークまで切れたら最悪…と、最悪の事態を想定したが、イザークはピクリと反応したものの、何とか堪えたらしい。
 た…助かった…と、ディアッカが安堵したところで、のほほんとした声がその場に割り込む。
───まさに、絶妙のタイミングであった。

「イザーク。お約束の時間も過ぎましたわ。そろそろお部屋へお下がり下さいな。・・・もちろん、他の皆様も…」
 さっさと自分とキラを2人きりにしろ…、という、お願いという態度でデコレーションした命令を、ラクスは下した。

「承知しました。ラクス・クライン」
 ラクスの言葉に綺麗に敬礼して、イザークはあっさり身を翻す。
「行くぞ、ディアッカ」
「え?あ…ああ…」
 慌ててラクスに敬礼して、ディアッカもそれに続いた。
「ラクス!私もなのか?」
 自分もキラの傍にいたいと主張するカガリだったが、ラクスはそれに困ったような微笑を返す。
「キラが落ち着くまで…どうか、お願いしますわ。カガリ」
「う…」
「行くぞ、カガリ」
「アスラン!でも…」
 ぐいっと腕を引かれて、後ろ髪引かれる表情のまま、カガリはズルズルとアスランに引きずられていく。
「失礼します」
 最後にキサカが礼をして、3人はイザーク達の後に続いた。


 扉を潜るその瞬間、イザークはさりげなく振り返り、ちらりとキラの方へ視線を投げた。
 それと同時に、キラもラクスの腕の中から、そっとドアの方へと視線を投げていて、蒼と紫の瞳が、言葉なく視線を交わす。
 それには、1番最初に交わした時とは違って、互いにほんの少し、まだ、言葉にもならないような小さな想いが含まれていたのだが、お互いがそれを理解するのは、まだもう少し先の話だ。

 とりあえず、この出逢いの一幕が、後にディアッカが究極のバカップルと称するイザークとキラの、最初の1ページであった。

 End.

と、いうワケで(どういうワケだ)、君という花─出逢い編 は、ここで終了です。

この続き、PHASE-02 もっと近くに… 以降は、同人誌掲載となります。もし見かける機会などございましたら、お手にとっていただけると嬉しいです。

…ってゆーか、ホントは書いてるウチに妙に長くなって、その都合でタイトルまで代わっちゃっただけなんですけど。
あう Σ( ̄□ ̄)、最後まで読まないと、タイトルの意味がワケわかんないですね…
花っていうのはモチロン、愛すべきキラのことで(力説)イザークが愛でるのはその花だけなのよーっていうのがテーマでしょうか(笑)

1巻では、この続きのPHASE-02 もっと近くに…まで書いてます。2巻以降で、キラはプラントにお持ち帰りされて、エザリアママも登場します。ほんわか幸せムードなジュール家。だけど、そんなある日、キラの身にある異変が…みたいなノリで話が進んでいく予定。うふ、プロット書いてる今は、楽しくて仕方ないッス(笑)
イザークにねー、それでも俺はお前だけが好きなんだ…みたいなセリフを、ズバッと言わせてみたいのです〜\(>_<)/頑張るぞぉ!
なかなか長引きそうなので、全3巻を予定してます。第1巻は6/18大阪のSEEDオンリーで発行予定。お越しの際は、是非スペースを覗いてやって下さいマセ(^-^)


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