【愛しさと切なさと】 P2 (啓X拓) すっごく書きたいシーンがあるのさ。…ふふふ
シャァァァ───
冷たい水を頭の上から浴びながら、啓介はもう1度深く嘆息した。
体の中にこもった熱を吐き出して、心を鎮めるコトに勤める。
これも今や、啓介の日課だった。
啓介は今までこんな苦しい想いを抱えたことはないと自分で断言できる。恋はもっと単純で、甘やかで、そして薄っぺらい感情だった。たとえば相手に『私と車とどっちが好きなの?』と尋ねられて迷いもなく車と答えられるくらいには・・・。
友だちも恋人も、いつだって簡単に転がり込んできた。特にこれといった努力をしなくても、人好きする性格と容姿のおかげで全部手に入れてきた。
───たった一人の例外を除いて。
そのたった一人を思い浮かべて、啓介は苦い笑みを浮かべた。
初めて出会ったのは、暑い夏の夜。
兄のゲームの一環で走ることになった秋名の峠だった。
意気揚々と乗り込んだわりには、相手のチームはカスばかりだし、コースもそれほど難しいとは思えない。期待はずれもいいところだ。
ああ、つまんねぇ…と思ってた矢先に、彼に出会った。
後ろから迫りくるヘッドライトの灯りを受けて、チリチリと肌で相手の速さを感じた。
仕掛けられる予感に肌が泡立つ。同時に身をつつむ不可思議な高揚感。
面白そうな獲物が来たと余裕ぶっていられたのは、本当に一瞬だけだった。
並んだコーナーで与えられた驚愕。
振り返ったそこに見たものは、もう何年も昔のボロい車だった。性能で言えば自分の車とは比べものにならないものだろう。
「───っ!!…ふざけんなっ!」
思わず口をついて出た罵声は、一体誰に向けたものだったのだろう?
相手?それとも自分なのだろうか?
自覚もないまま吐き捨てて、ストレートに入った途端、強くアクセルを踏み込んだ。
───奴の方が速い!
それは直感だった。冷たい汗が全身にドッと吹き出したのが分かった。
直線で後ろに突き放した車のライトに晒されながら、啓介は悟っていた。
相手の実力が、自分をはるかに上回っていることを・・・。
決して認めたくないその事実は、あっさりと結果で結論づけられてしまった。
目の前で披露された、鮮やかな4輪ドリフト。
不覚にも、その見事さと美しさに瞳を奪われた。ハンドルを一瞬取られてしまうほど。
悔しいけど、腹が立つけど、今の自分には決して出来ない見事な走り。
一体、何処にこんな化け物のような車が潜んでいたのだろう。
初めて出会ったその車に、啓介はいたく興味を持った。
───これが最初の出会いだった。
去っていく甲高い音を聞きながら、次はいつあの車と会うだろうと考えていた。会うのが困難だなんて思いもしなかった。
走りを見れば一目瞭然。絶対に地元の奴だ。そうでなければ、あんな風には走れない。
ならばそのうち会えるだろうという安易な啓介の考えは見事にアテが外れてしまっていた。
身の内に残る興奮のまま、帰宅後、叩き起こした兄相手にまくしたてれば、あの情報を集めるのが趣味と言っても過言ではない男が『そんな車は知らない』と言う。
と、なれば当然のこと、赤城の誰も知らない。
それとなく秋名の者に声をかけても、何だか糠に釘のような手ごたえの無さ。
結局、ほんの少しの情報も手に入らず、再び会うことも叶わなかった。
一体どうなってんだ!…と憤らずにはおられず、啓介はムキになって秋名の峠を連日攻めた。ハチロクとの再戦を願って・・・。
───あの出逢いを幻になんかしたくなかった。
そうして、何とか果たせた再会は、バトル当日の夜だった。
そこに現れたのは、余りに静かな印象の、少年と言っても差し支えない年若い男だった。思わず口をポカンと開けてしまったのは、絶対自分だけじゃないはずだ。
ひょろっと細長い体と、そこから伸びる若木のような手足。
降り立った足元の白いスニーカーが、やけに彼の若さを強調していた。
ふんわりと頭を被っている色素の薄い柔らかそうな髪。自分のようにわざと色を抜いたのではなく、きっと生来の色なのだろう。
優しいその色に触れてみたい、という衝動が胸の奥に生まれた事を、まだ自覚してはいなかった。
全体的にぼんやりとした印象は、余りにも走りとはかけ離れていて、ちょっと信じられなかった。
でも車は確かにあの夜出逢った幽霊パンダ。絶対に間違いない。
───こっち向かねぇかな〜?
言葉には出来なかったけど、そんな事を思いながらジッと啓介は彼に視線を投げ続けていた。
少年は、仲間としばらく揉めた後、啓介に向き直った。
眠たげな表情の中に、ひときわ目立つ男にしては大きな瞳。
薄く墨を溶かしたような瞳が、透明な眼差しで啓介を捕らえた。
その瞳の中に見つけた不思議な煌めきに一瞬言葉を失って、己で望んだことなのに、自ら視線を外してしまった。
ワケもなく、胸が騒いだ。理由は考えても解らなかった。
でも多分それが、・・・この苦しい恋のはじまりだったのだ。
気を取り直して、啓介は何でもないフリをしながら、簡単な自己紹介をして、相手の名を尋ねた。この時、心の中で警鐘が鳴っている事に気づいていたのに、啓介は気づかないフリをしたのだ。
自分の心をごまかそうとしたなんて・・・今思えば、本当にバカな足掻きだった。
熱く血がたぎり、高揚する気分のまま、啓介は全力で走った。
あの時、彼の走りに釘付けにされたように、今度は自分が彼の興味をひきたかった。
あの夜、確かに出会ったはずなのに、まるで見知らぬ相手のように自分を見ていた透明な瞳。それが無性に悔しくて・・・。
でも結果は啓介の惨敗だった。
去っていくハチロクの後ろ姿を見ながら感じていたのは、悔しさや驚きだけではなく、不思議なもの悲しさも含まれていた。
体はとても疲れていたのに、その夜はどうしても眠ることが出来なかった。
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何じゃこりゃー!どうして前置きが長いかな、私は…(T_T)ウウッ
でも次は拓海が登場だもんねぇ。ふふふ、何しゃべらそうかなぁ。
楽しみだなぁ。←既に拓海ビジョンらしい…
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