【幸せな夜、お寝坊な朝】 P1 涼X拓! 涼子姉ちゃん、6000Hitアリガトウです!
(SCENE 1 幸せな夜)
フンフンフン〜と、珍しいことに鼻歌など口ずさみながら、高橋涼介は愛車FCを走らせていた。
親しい人間が一緒に乗っていたなら、絶対『き…気持ち悪…』と口に出さないまでも心で呻って冷や汗などかいた事だろう。それくらい、今日の涼介はご機嫌だった。
向かう先は、ある大きなレストラン。
今夜はレッドサンズ主催で、近くの峠の走り屋も招いて大きなパーティーを開くのだ。ホントの意味での『交流会』とでも言えばいいだろうか?
クリスマスの時期に、そのレストランを押さえた涼介の手腕は流石と言えるだろう。
実はこんなパーティーを開くのはレッドサンズでも初めてだ。いつもなら仲間内での飲み会ぐらいである。
だが、今年は特別だ。この群馬に、新たなスーパースターが生まれたのだから。
・・・まぁ、本人には自覚がないがな・・・
その新たなスターである人物を思い浮かべて、涼介はクスッと笑った。
ホントは、2人だけでゆっくりと…などと涼介もいろいろ考えていたのだ。
でも先日、拓海と食事に行った時、その店の”クリスマスパーティー承ります”というチラシを見て拓海が楽しそうだなぁ、と零したのを涼介は聞き逃さなかった。
『え?』
『あ…いえ、何でもないです。』
ごまかすように首と手を横に振る拓海に、涼介は優しい表情で微笑んだ。
『何?』
言ってみろよ…と目で促す涼介に、拓海はおずおずと持っていたチラシを差し出した。
『……これ。レストランってこんなんもやってるんですね。俺ん家クリスマスなんて関係ねぇってカンジだから……』
『もしかして…したことないのか?クリスマスパーティー?』
『はぁ…。まぁ、パーティーなんて柄じゃねーし…。涼介さんは?家とか学校でパーティーなんてあるんですか?』
『家は流石にもう無いな。大学のは付き合いで行く事もあるけど…、あんまり楽しいものでもないからな、顔出す程度ですぐに帰る。』
『ふーん、そういうモンっすか。大学生って大変なんすねー?』
と、まぁ、こんな風に会話は終わったのだが、この時既に涼介の頭では、今日のプランが組み立てられていたのだ。
・・・そうだな…他の走り屋達を牽制する為にも、そろそろ拓海の情報をオープンにした方がいいかもな。秋名のハチロクには、この俺が目を付けてるって事も。俺の知らない処で拓海に妙な輩が関わるのは、面白くないしな。
どうせプロジェクトが知れれば、群馬どころかその他の地域の者にまで拓海の事は知れ渡る。その前に群馬だけでも抑えておこうと、ほんの少しの打算も有って涼介はクリスマスパーティーを企画したのだ。
それともう1つ、涼介が何時になく機嫌のいい理由は、後部座席に置いてある『ある荷物』のせいであった。
上品な色合いの赤と緑のリボンでキレイに飾られた、柔らかそうな包み。
言わずもがな、涼介が拓海の為に用意したクリスマスプレゼントである。
───受け取る時、拓海はどんな風に喜んでくれるだろうか?
それを考えると、思わず顔がにやけてしまうのだ。恋する男なんて皆こんなもんだろう。それは赤城の白い彗星と呼ばれる高橋涼介とて、同じなのである。
★☆★☆★
「よう!誘ってくれてサンキュー。遠慮なく、邪魔させて貰うぜ。」
次々と、近辺の代表者を中心に走り屋たちが集まってきた。
欠席者無しどころか、ツテでくっついて来た余計なヤツまで居るほど人の集まりがいい。レッドサンズが声をかけた…という理由も有るのだろうが、皆の目的はただ1つ。
秋名に行っても滅多に出会えない『秋名のハチロク』に会うこと。
───その1つだけだろう。
・・・まあ、気持ちは解るがな。
ふうっと涼介は溜息をついた。
拓海が秋名でバトルしなくなってからこっち、ハチロクのバトルを目にした者は多分ココには居ない。だから尚更、この機会を逃すバカは居ないだろう。
その為には、恋人の1人や2人…と言えるほど、根っから走り屋なヤツらばかりだ。
ブロロ〜っと、また数台のマシンが訪れる音が聞こえて、窓際にいた者達が騒ぎ始めた。
「おいっ!あれ!」
「来たぜ!秋名の奴らだ。ハチロクはどれだ?」
あっと言う間に窓際に鈴なりになった走り屋たちの背を眺めて、涼介は苦笑し、啓介はむすっと顔をしかめた。ホントは自分も駆け寄りたかったが、窓から離れていたため場所が取れなかったのである。
「ちぇっ!」
舌打ちして拗ねる啓介にも苦笑して、涼介は宥めるように言った。
「まあ、そう拗ねるなよ、啓介。もうすぐココに入って来る・・・」
「あれ?居ねぇぜ?ハチロク!向こうのはレビンだし…パンダトレノが居ねぇ!!」
涼介の言葉に重なって、キョロキョロと首を廻しながら叫ばれたそのセリフに、涼介も驚いて首をそちらに向けた。
そんなハズはない。今日は来ると、拓海も言っていたのだ。
涼介が誘った時、確かに拓海は困ったような顔をした。
自分の為に涼介がパーティーを企画してくれたのだろう事はすぐに解ったけど、拓海にはそんなつもりは無かった。それに、目立つのは余り好きではないし、多くの人と上手く話せる自信もない。
「どうしよう…オレ、まだ走り屋ってワケじゃねーし、知り合いもそんなに居ないし。何か行きにくいです…。」
「俺も啓介も居るだろ?アイツ、俺ばかり拓海に会ってずるいってしょっちゅう言ってるんだ。それに、秋名の奴らにも声を掛けるし、前にバトルした奴らもお前に会いたがってる。他の走り屋達と話をする事も良い経験になるぞ?…まぁ、来たくないなら無理にとは言わないが…俺も拓海と一緒に過ごしたかったな。」
有る程度押しながら、最後は少し引く。そして、寂しげな微笑をプラス。
これで勝負は決まりである。余り乗り気でない拓海を、こうして涼介は丸め込んだ…もとい、説得したのだ。
「一体、どういう事なんだ?」
黙り込んでしまった兄に、事前に兄から拓海も来ると聞いていた啓介は呟いた。
「……とにかく、秋名の奴らから事情を聞こう。」
呆然としたのは、ほんの一瞬。
すぐに己を取り戻した涼介は、秋名スピードスターズのメンバーを迎えるべく、レストランの入り口へと足を進めていた。
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