【恋の予感】 P1 (啓X拓)・・・いつものノリの話(笑)
(SCENE 1 啓介の失態)
「あー、畜生・・・なんで、こうなるかな・・・」
早朝、まだ陽も昇りきっていない町を、愛車FDでかっ飛ばしながら高橋啓介は一人ごちていた。
───あんな風に言うハズじゃなかった。
ケンカするつもりなんて、毛頭無かったのだ。
ただ、逢いたかった。逢って、話をしたかっただけなのだ。
だから、今度のバトルを口実に話をしようと、こんな朝っぱらから秋名までやって来たのに…
「ちくしょー、失敗した。・・・サイテーだぜ。」
ちぇっと舌打ちして、溜息をつくと、啓介は車を路肩に寄せて止めた。
まだ頭に血が上っている自分の気持ちを少しでも落ち着かせようと、外の空気を吸いに出る為だ。
───空を見上げる。広くて遠い、青い空。
なんだか、自分とアイツを隔てているモノに似ているような気がして、また気分が落ち込んできた。
アイツ・・・藤原拓海。
それしか知らない。後は、車がハチロクで、ガキのくせして、めっちゃくちゃ速いってコトだけ。余りにも何も知らなくて、もどかしくなる。
まだ、数えるくらいしか顔を合わせていない、あんな子供が何故こんなに気になるのか、啓介は自分でも不思議だった。
速い走りをするから・・・?
確かにそれもある……が、それだけでもない自分に、啓介はもう気がついていた。
「う───、こんなトコで凹んでてもしょーがねぇ!」
凭れていた車から、勢いを付けて起き直ると、そのままFDに乗り込んで家路を急ぐ啓介だった。
「何だよ、あの人・・・」
啓介が走り去った道路を見つめながら、拓海はボソッと呟いた。
・・・カンケーない人なのに・・・何であんなに一生懸命なんだろう。
『オレは走り屋じゃない』と言った自分に、彼は本気で怒っていた。
「何であの人が怒んだよ!ったく・・・何かムカつく。」
・・・違う。オレ・・・ムカついているワケじゃない?
ムカついているワケじゃないけど、何だか胸の中がモヤモヤしている。
───走ることが好きに決まってんだよっ
彼の残したこのセリフのせいだろうか?
「・・・?」
しばらく考えてみたが、やっぱり良く分からなくて拓海は首を傾げてみる。
その途端に時計が目に入り、思ったより時間が経っている事に気が付いた。
「やべ・・・遅れちまうっ」
拓海は急いでハチロクに乗り込んで、再び秋名の山を走りはじめた。
───高橋家
「コラー!なーにやってんのよ、あんたは!」
高橋家の母親の声が家中に響きわたる。
年の割には気の若い、カワイイモノが超好みで、いつも「どっちか1人でも女の子だったらよかったのに…もしくは、もう少し可愛い男の子がよかったわ〜」なんてハタチを過ぎた息子に恐ろしいセリフをぼやくような母親だ。
その母の怒鳴り声につられて、涼介はリビングを覗き込んだ。
やはりというか、何というか、怒鳴られていたのは啓介だった。
「うっせーな、たまにはいーじゃねーか!」
さっさと病院行けよ・・・とぶーたれて呟いている。(母親は看護婦ってコトでヨロシク(-_-;) )
その啓介の手に握られているのはウイスキーグラスだ。
「おいおい、啓介。どうした?…朝っぱらから酒なんて・・・それに」
涼しげな顔に人の悪そうな笑顔を浮かべて、涼介は言葉を止めた。
啓介は上目遣いで兄の言葉を促した。
───先は聞かなくても判るよーな気がしたが。
「…まるで、フラれた男みたいな顔してるぞ、お前。」
クスクスと笑いながら、涼介はからかい口調でそう言った。
───予感的中。やはりろくでもないコトを言ってくれた。
「うっせーよ、アニキ。…そんなんじゃねー!」
言いつつ、涼介からぷいっと顔を逸らす。
こういう言動はいつまでも子供じみている弟だ。涼介はますます笑みを深めた。
───コレはおもしろい。当たらずとも遠からずってトコだな。
何でもすぐ顔に出るこの弟は、小さい頃から涼介の格好のおもちゃであった。
(いやーん、FANの方、ひらにひらにご容赦を〜(T_T) )
「ははぁ〜ん、何だ、そういうコトなの?…なーら、いくらでも飲みなさい!
私は理解ある母親よー!」
にやにやと笑いながら、母親が追い打ちをかけるようにからかってくる。
理解があるというか、何というか、我が母ながら、つくづく変わり者である。
(後で原作でお母さんが出てきても気にしないで下さい)
「違うっつってんだろ?…もー、ほっといてくれよ!」
そのまま、ウイスキーの瓶とコップを持って啓介は部屋を出た。
ここにいては、兄と母の格好の『エサ』になってしまう事を、身をもって知っているのだ。
「何かしら。アレ…。ねぇ、ホントにあの子フラれたの?」
貴方、何か知ってる?と母親は涼介に尋ねた。おもしろいモノを見つけた子供のように、その瞳はキラキラと輝いている。
「さあ?」
涼しい顔で涼介は肩を竦めた。
「…全く、貴方はホントにお父さん似ね。ポーカーフェイスで隠しちゃって。
読めないったら無いわよ。何よ。母さん、除け者にして!」
拗ねてぷいっと顔を逸らすその仕草が啓介に似ていて涼介はおかしくなった。
「それはすいませんね。」
クスクスと笑いながら涼介は申し訳程度に謝る。
「〜〜ホントにヤな子ね。…あーもう、やっぱりもうちょっと可愛げのある子が欲しかったわ。」
いつもの母の口癖に、涼介は軽く肩を竦めてみせるのだった。
今、啓介の頭の中を占めているアイツなら、この母の好みにぴったりかもな…
涼介はすっかり拗ねている母を見ながらそんな事を考えていた。
NEXT >>
|