【勝敗の行方】 P1 (兄弟×拓)→なつきVS高橋兄弟…別名、ちむのリベンジ(笑)
                      1700+1800Hit 雲丹さんリクエスト分

(SCENE 1 意外な誘い)

ピンポーン

 これまで余り活躍する出番のなかった藤原家のチャイムは、最近何だか働き者だ。
その原因は狭い玄関に並び立つ、この2人の男のせいである。

「よぉ!藤原。」
 あいかわらず軽快なリズムで挨拶する男の名前は高橋啓介。
「悪いな・・・休みの日に家まで押し掛けてしまって。」
 優しげな笑みを浮かべつつ断りの台詞を入れる男の名前は高橋涼介。
共に、群馬の走り屋で知らぬ者はいないと言われるほどの有名人である。

「・・・どーしたんですか?2人とも・・・」
 気の抜けたような声で問いかける、彼の名前は藤原拓海。
こちらもかなり有名な走り屋なのだが、如何せん本人に自覚がナイ。
あれだけの走りをしておいて、全く自覚がナイのだから驚きである。

 はて?
拓海はコトリと首を傾げて見せる。
 昨晩会っていた時には、今日来るような話は出てなかったハズだ。
啓介ならまだしも、涼介まで連絡なしで現れるとはめずらしい。
拓海は?マークの飛び散るような表情で、狭い藤原家の玄関を陣取る2人を眺めた。

「んもー、ちょっとちょっと、2人とも!どいてよー!!」
突然、高い声が聞こえたと思ったら、2人の間からもぞもぞと女の子が現れた。
よりにもよって、涼介を押しのけて・・・である。
「こんにちは、拓ちゃん。」
自分を「ちゃん」付けで呼ぶ彼女と、拓海は面識があった。
高橋家に行った時に3度に1度は会う、2人の従姉妹の緒美である。

「今日、緒美がこの券を持って来てな・・・よかったら一緒に行かないかと思って」
涼介がスケート場のチケットを見せながらそう尋ねると、
「行こーゼ?タダ券4人入れるし・・・昨夜はアニキにお前を独占されちまったからな。
今日はオレにもつきあえよ。」
今日も隣に涼介が居るのだが、お構いなしに啓介はそう言った。
涼介は苦笑しながらも何も言わない。恐らく弟のこんな我が儘には慣れているのだろう。

「あの・・・オレ、スケートってしたことナイんですけど。」
 拓海はどちらかというと寒いのが苦手なので、冬の暇な時間はこたつで丸くなって過ごすコトが多い。まるで猫のようである。
 従って、近くにスケート場があるにも係わらず、1度も足を運んだコトがない。
「いーじゃない。涼兄は教えるの上手だよ。・・・あっ!体動かすことだから啓兄でも大丈夫!教えてくれるからヘーキだよ?」
「緒美・・・てめぇ、1言多いんだよ!」
コンと軽く頭をぶつと、思いっきり足を踏まれた啓介だった。

 どうやら、『やられたら5倍返し』が彼女の信条のようである。
さすがは従姉妹・・・啓介とよく似た性格だ。
「ね?行こーよ、拓ちゃん。たまには緒美とも遊ぼうよ!ネ?」
 台詞は先程の啓介と酷似しているが、何故かその言葉に逆らいがたい引力のようなモノを感じる。
この辺りは涼介に似ている緒美であった。

「まぁ・・・暇だし・・・でもホントに俺でイイんですか?」
もう1人女の子を誘えばWデートなのに・・・と拓海は思ったのだが、
「拓ちゃんでなきゃダメなんだもん。」
ふふふ・・・と意味深に笑いながら緒美がそう答えた。
「あの……じゃ、オレ、ホント下手だと思うんですけど、ヨロシクお願いします。」
ペコリと涼介・啓介に頭を下げた拓海に
「もちろん。」
「まかせとけって!」
満足したという顔で、そう答えた高橋兄弟であった。

───というわけで、ココは秋名山の麓にあるスケート場。
 毎度毎度、拓海が鬼のようなスピードでかっ飛ばして通り過ぎる、あのスケート場の駐車場に本日は2台のRX−7でやって来ました。

「いやっほー、着いたゼ!さーて、滑るぞぉー。」
子供か、あんたは・・・と言いたくなるような台詞を大声で言う啓介は、FDのナビに拓海を乗せてきて、何だかご機嫌な様子である。
 冷めーた目つきで自分を見る緒美にも、肩をすくめて呆れている涼介にも関心は無いようだ。
恐らく頭の中では、拓海と遊ぶコトしか考えていないのだろう。

 しかし、今日はそれではダメなのだ!
・・・何故ならある目的をもって、自分たちはココまで来たのだから。
涼介はちろりと啓介に視線を投げた。
その視線に気づいた啓介が「分かってるヨ」と答えるように笑みを返す。
目と目で会話できるとは……世にも稀な兄弟である。
(ウチでは絶対ムリ(笑)姉は私の天敵よー!!)

「早く行こ!拓ちゃん。あの2人は放っといていーから。」
 そんな2人をホントに放って、拓海の腕をぐいっと引いて緒美はゲートへと足を進めた。なかなか、おいしいポジションを奪ってくれる。
 いっつも涼兄たちに独占されてるし、たまにはいーよね〜。チケット持ってきたの、緒美なんだし!
・・・この思考回路…やはり、血は争えないというトコロであろう。

「あの…コレ、どうするんですか?」
スケート靴はめんどくさい。(……かったと思う。突っ込まないで〜(>_<))
履くところまでは分かるのだが、ホックや靴紐の処理に困って拓海は声をかけた。

「ん?・・・ああ、ちょっと待ってな。」
そう言って、何故か啓介は拓海の背後に回った。
「?」
その啓介の動きにつられて、グルリと拓海が首を巡らせていると、不意に周りからざわめきが起こった。…主に女性の声で。
「??」
またしても?マークを巡らせた拓海だったが、すぐにその原因に思い立った。
前を向いた拓海の目に映ったのは、いつもは見えない涼介の頭のてっぺんである。
王子様ヨロシクこの男、跪いて拓海の靴紐を結び始めた。
「り・・涼介さんっ!あの、何か…恥ずかしいんですけど…」
子供じゃないのに靴を履かせてもらうだなんて…と、真っ赤な顔になって拓海は慌てて声をかけたのだが
「別に気にすることナイさ。すぐ終わる。」
涼介は平然としたモノである。

 グイっと強い力で引っ張られてバランスを崩しかけた拓海の体を、当然のように後ろに廻った啓介が支えた。
その様子に、ちらちらと先程からこちらを眺めていた女性陣から、また声が上がる。
まぁ、メンズ雑誌から抜け出たような美形2人と可愛い男の子の組み合わせである。
注目を浴びない方がおかしいというモノだろう。(私なら注目してる!)

「どうも……有り難うございました。」
言葉通り、素早く靴紐を結び終わり立ち上がった涼介を見上げて、拓海は礼を述べた。
しかし、真っ赤な顔で、少し睨みつけながら・・・である。
よほど、恥ずかしかったのだろう。
涼介は困ったように微笑みながら、「どういたしまして。」と答えてやった。
 涼介にそんな顔をされると、意地を張り続けられないのが拓海の弱いトコロで、今度は真っ赤な顔のまま俯いてしまう。

・・・拓ちゃん、ダメだよ〜。この2人は結構イジ悪いんだから。
そんな可愛いカオ見せちゃたら、つけ上がるよ〜しょーがない、助け船出したげよ。

「もうイイ?緒美、滑りたいんだけど…」
 真っ白なフィギアスケート靴を可愛く履きこなして、緒美は腰に手を当てて、もたもたしている男性陣に声をかけた。
突然の女の子の登場に「ちっ、女連れかー」とばかりに集まっていた視線が外れる。
「あ……ごめん。」
慌てて謝る拓海に
「いいよー。別に、拓ちゃんに怒ってナイって。」
『拓ちゃんに』って辺りがポイントであるセリフだろう。
緒美は可愛い笑顔を付けて拓海にそう言った。

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