【ラブリー・エンジェル】 P25 (兄弟X拓…と思う )
「拓海」
ポンと、涼介は泣きじゃくる拓海の頭に手を置いて、優しく何度も撫でた。
手の平を擽る、柔らかい髪の感触。
───ああ、よかった。
死ぬほど心配させられて、戻ってきたらきつく叱ってやらなければと思っていた。
本当にそう思って、ちゃんとそうするつもりだったのに、いざ愛しい弟を目の前にすると出てくるのはこんな感情ばかりだなんて・・・。
涼介は何度かその頭を撫でて、拓海がしゃくりあげるのが収まってから、泣き濡れた瞳と目線を合わせた。
「いらなくない。拓海はいらない子なんかじゃない。俺達の大事な弟なんだから…」
泣きそうになるのを堪えるように言う涼介に、拓海は瞳を瞬いた。その瞳から、大粒のキレイな一雫がポトリと落ちて、後ろから伸ばされている啓介の腕に落ちる。
「…そっ、そうだよ!何でそんなコト言うんだよ、拓海ぃ〜」
啓介はやっと出た声で涼介の言葉に賛同する。語尾は少し震えてしまった。
そしてそのまま強く抱きしめながら、小さな肩に顔を埋める。
我慢しきれなかった涙を隠すように…。拓海の温もりを確かめるように…。
「…っ、だ…って…捨てたって……!…いらない……から?」
拓海は又、ふやっと泣き出した。心に残る、冷たい言葉のナイフ。
大人達にとって『うっかり』程度の言葉でも、それは幼い拓海にとっては痛くて恐くて、どうしようもないほど辛い言葉だったのだろう。
「誰も拓海を捨ててない。絶対に捨てたりしない!」
後ろから抱きしめてる啓介ごと拓海をギュッと抱きしめて体を離すと、涼介は拓海の瞳を見ながら強い口調でそう断言した。
「…でも…おばさんが…捨て…ってぇ…、だって………」
もう何言ってるか、拓海自身だって解っていないだろう。でも、繰り返すその言葉が、深く拓海の心を傷つけていることがわかる。
「違うっ!絶対違うって!俺、拓海と一緒に居たいって言っただろ?」
いらないなんて、言わないで欲しい。誰よりも、何よりも、大切な家族なのだから。
啓介は抱きしめた体を離し、兄と同様その瞳を見つめながら懸命に拓海の言葉を否定した。
───信じて欲しい。他の誰でもなく、自分たちのコトを。
「拓海は俺達よりも、そのおばさんを信じるのか?」
「・・・?」
涼介に言われた言葉は難しくて、拓海は首を傾げた。
それを察して、涼介はもう少し、言葉を砕いてもう1度繰り返した。
「俺達より、そのおばさんの方が好き?」
この言葉には、フルフルと首を横に振る。
「よかった。…じゃあ、おばさんじゃなく、俺達の言葉を聞いて?俺達は拓海が好きだから、ずっと一緒に居たい。拓海が一緒じゃないと、イヤなんだ。」
まだ迷いのある瞳で拓海はジッと見つめてくる。涼介は困ったような笑みを浮かべた。
「拓海も一緒に居たいだろう?・・・それとも、もう俺達のコト、いらないか?」
そう言って離れそうになる長兄の腕を、拓海は小さな手でハシッと掴んだ。
「…ヤッ!」
フルフルと首を横に振りながら、必死でしがみつく拓海の手を涼介は優しく握り返してやる。その温もりに、堰を切ったようにワァワァ泣きながら、拓海は全身で涼介にしがみついてきた。
「拓海…」
やっといつもの調子に戻った末弟を、涼介も抱き返した。深い声で名を呼んで、剥き出しの感情で体当たりしてくる小さな子供の背を、何度もさすってやる。
誰かに己の感情を知られる事も、誰かの感情をぶつけられる事も、本来、涼介は好まない。拓海に出会う前から既に身に付いていた、鉄壁のポーカーフェイス。
───でも、この幼い弟だけは特別なのだ。
泣きたい時は自分の腕の中で泣いてほしいし、癇癪起こして怒ったって構わない。
誰かの前で感情を露わにするということは、その人を信頼してると言うことだから。
無条件に甘えられる相手だと、認めているということだから。
血の繋がらない弟にとって自分がそうであるということは、涼介・啓介にとって、とても嬉しいことなのだ。
★☆★☆★
家に戻ると、ミツが温かい飲み物を用意してくれていた。それを飲んで、お風呂に入って、漸くひと心地ついてから、涼介は拓海に分かりやすいように簡単に事情を話した。
拓海が捨てられたのではないこと。
本当の父親は時々訪れる文太で、ワケがあって拓海と一緒に暮らせないのだということ。
そして、何よりも自分たちが、拓海をとても愛してるのだということを。
「兄弟だよ。誰が何と言っても、拓海は俺達の大切な弟だ。……誰よりもお前を愛してるよ。」
優しく囁かれた言葉は、拓海の知らない言葉だった。
「・・・?・・・あい?」
「すっごく大好きってことだぞ!…なぁ、アニキ!」
啓介が話に割り込んで、物知り顔で拓海に言ってきかせている。
自信満々に言う啓介が本当に分かっているのかは甚だ怪しいが、間違いというわけでもない。
もっとも涼介にとっても、まだ、『愛』は『好き』の延長上の言葉だった。
───3人が『愛』の本当の意味を知る日は、まだまだ遠い未来の事。
「……ま、そうとも言うかな?」
晴れやかな笑顔で相槌を打つと、涼介はチュッと音をたてて拓海の額にキスを落としたのだった。
End.
終わったー…のはSTEP1だけだけど(笑)まあ、無事ENDが付けられて一安心。
この話はホントは大きく3つのステップに分かれています。私は簡単に『赤んぼ編』『お子さま編』『アダルト編』って呼んでるんだけどネ〜(笑)
ココまでがSTEP1で、お届けしたいのは『温もり』です。ほんのちょっとでも天使の温もりを、感じていただけましたでしょーか?o(@_@)o ドキドキ
この後、STEP2『切なさ』 STEP3『恋愛』 と続きますが、こちらはBOOK ONLY(スイマセン)
・・・だってアニキが又壊れてるし(汗)、第一ココは表のお部屋なのよっ!(爆笑)
そんなワケで、ご縁がある方は本の方でもお会いしましょうネ〜(^-^)/
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