【イツキの不幸な1日】 P3 (涼X拓)がベースのつもり(-_-;)

 瞬間、三人の空間を沈黙が支配した。
「…何をしているのかな?」
涼介の静かな静かな声。しかし、その笑顔の目は決して笑ってはいない。

 イツキはコレまでにかいた事の無いような、冷たい汗をかいていた。
マジで生まれて初めて『殺気』というモノを体感していた。
早く拓海から離れて何か弁解を・・・と思うのに、固まったまま何も出来ない。

 笑顔を崩さずに、ゆっくりと涼介は2人に近づいた。
側のテーブルに持ってきた盆を置くと、振り向きざま、固まっているイツキの腕から拓海の体を自分の腕にさらう。その動きはまるで風のようだ。
そのまま、ボーとしている拓海の服を整えてやる。
「…君たちが仲が良いのは知っているが、こういうのは余り関心出来ないな。」
言い方は穏やかで、その顔には笑みが張り付いているが、イツキを見る目は決して穏やかでは無い。その目には怒りがある。イツキの目には、涼介の体からほとばしる『殺気』のオーラが確かに見えた。

 ・・・こ・・・こ・・・怖えぇぇーーー!!
イツキは震え上がって拓海へとヘルプの視線を投げかける。
だが、やはり彼は何も判っていないらしい。ぼーっとしたまま涼介の顔を見上げていた。

───『涼介さんってスゴイ優しい人なんだぜ』
イツキは以前、拓海が言っていたセリフを思い出していた。
鮮やかに、その時の笑顔までハッキリと脳裏に蘇る。
『ばっかやろー、たくみぃ!…ど…何処が優しい人なんだ!……そ、そ、そんなの…お前にだけだろぉーがぁ〜〜〜!!』
イツキは心の中で思いっきり罵倒をあびせる。
───優しくない。絶対、こっちがこの人の本性だ。
イツキはそう確信していた。
今の自分はヘビに睨まれたカエルなのだと、悲しいくらい正しく理解していた。

 ───しかし、理解したからと言ってこの窮地を逃れられるハズもなくて…
イツキは微動すら出来ず冷たい汗をかき続けた。

「あの・・・涼介さん?」
一向に自分を離さずイツキの方を見ている涼介に、やっと拓海もおかしいと思ったらしい。
待ちに待った助け船!とイツキは目に涙を浮かべて拓海を見た。
『たっくみー、やっぱお前って親友だぁー』イツキは心の中で感謝した。
しかし、世の中とはそんなに甘くはないものである。
「あの…全然、大したことないっすよ?こんなのいつものじゃれ合いですから。」
ニコリと拓海は天使のような笑顔で告げた。
『ば、ば、ばっかやろぉー、おい、たくみぃ!…オマエ、オ・・オレを殺す気かぁー!この大ボケやろーー!』
まるで現状を理解せず火に油を注ぎまくりな発言をした親友に、イツキはまたもや心の中で罵倒を浴びせた。

「ほぅ、いつもの・・・」
ギロリと涼介がイツキを睨み付ける。

ビクリと目に見えて、イツキは震え上がった。ごくりと何度も唾を飲み込む。
こんなに緊張したのは、きっと生まれて初めてだ。
・・・ここで1歩でも間違えると、もう後がない。マジでやべぇ。オレ、明日の朝日は拝めねぇかも───!
かなりピンチな状況でであることくらいは、イツキの足りない頭でも理解出来た。

「あ・・・あ・・・あの、オレ」
どもりながら、何とか声を絞り出す。とにかくここは逃げるしかない。
「何かな?」
「お・・おれ、用事思い出したんで…その…せっかくですが、失礼します。」
「え?おい、イツキ?」
黙り込んだと思ったら、突然帰ると言い出したイツキに拓海は面食らった。
だが、拓海が言葉を続ける前に、涼介がさっさと返事を返す。
「そうか・・・残念だな。また、来るといい。」
ハハハ…とイツキは引きつった笑みを浮かべた。
その言葉通り行動したら最後、自分は地獄への片道切符を手に入れるだろう事は想像に難くない。
「それじゃ・・・おじゃましてすいませんでした。」
何とか逃れられそうだ、と、イツキはさっさと自分の荷物をまとめると、すばやく部屋を後にした。

「・・・アイツ、オレの車で来たのに、どうやって帰るんだろ?」
 どこまでも、拓海は判っていないようだ。
ぼそりとそんな事を言って、首を傾げてイツキが開けっ放しにしていった部屋のドアを見つめていた。

「子供じゃないんだ、何とかするさ。…それより、早く勉強しないと時間が無くなってしまうぞ?」
笑みを含ませた声で涼介はそう告げる。すっかりいつもの、優しい涼介だ。
「あ、ヤベー!」
わたわたと、拓海は放っておいた教科書を開きはじめた。
そんな拓海の向かいに腰掛けると、涼介はさりげなく拓海に声をかける。
「拓海…」
「はい?」
「…あの彼とはいつもあんな風にじゃれてるのか?」
「あんな風にって?」
コトリと首を傾げる拓海に、涼介は苦笑しながら言葉を補足した。
「…オレには服を脱がしてるように見えたんだケドな?」
とたんに拓海は真っ赤になった。涼介に誤解されたと思ったらしい。
「あ…あれは、その…。まったくアイツ、何考えてんだか。」
両手と首をぶんぶん振って拓海は慌てて否定する。
「あんなの、いつもはしないっすよ。抱きついたりとかはいつもだけど。
アイツ、今日は何かおかしーんですよ。」
ここにイツキが居たら、言わなくても良いコトを…!と叫ぶだろう事を拓海は告げる。
  ───この瞬間、高橋涼介のブラックリストに『武内樹』の名が記されたのは言うまでもないであろう。

「そうか。・・・さ、勉強しようか?」
にこりと涼介は拓海に微笑むと、気を取り直すようにそう言った。
「は・・・はい。」
何とか誤解も解けたようだと、拓海はホッと胸をなで下ろし、持ってきた教科書を涼介に差し出したのだった。

藤原拓海、18才。
あまりにも自分の魅力に鈍い彼は、ここに新たな波紋を投じた事に全然気づいていなかった。なんて罪つくりなヤツなのだろう。

───イツキのホントの不幸はこれから始まるのかもしれない。

End.

何とか終わったです(-_-;)先はあんまし考えてなかったので難産だった。
涼介さん、あんまし出番なかったなぁ。マガイものだし(笑)
しかし、イツキをこうまで語ったのは私くらいかもしれない(-_-;)
がんばれイツキ、負けるなイツキ。君の未来は・・・明るくないぞ!
でも、拓ちゃんの親友というめちゃくちゃおいしいポジションに居るんだから、
少しくらいの苦労は甘んじて受けるべし!

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