堅実な人生で失ったロマンを、逃げ馬に賭けつづける高橋さんに、
私は人生という長いレースの
第三コーナーのカーブを見る思いがしたのであった。
   
                  −−−寺山修司『旅路の果て』


蔵王(熊野岳・刈田岳)
2004年10月24日


オールフィクションエッセイ「山頂で逢おう」J


バーテンの千田の兄貴に、子供が生まれた。
聞けば兄貴は大企業のエリートサラリーマンで、奥さんもものすごい美人。
何かというと比較されるらしく、兄弟がいるというのも、なかなか苦労があるようだ。


   

山にも兄弟のいる奴といない奴とがいる。
鳳凰山は薬師岳、観音岳、地蔵岳の三兄弟だし、八ヶ岳は名前の通り、八人兄弟の大家族である。
この日登った蔵王山も同様で、熊野岳、刈田岳など複数のピークからなる山である。


   

どの山もたいてい脚光を浴びるのは、長男にあたる最高峰の山ばかりで、
他の弟分の山たちは、素通りされたり、迂回されたりしてしまうことが多い。
蔵王山も、最高峰の熊野岳を訪れて、御釜(五色沼)だけ見て帰ってしまう観光客が圧倒的であろう。
屏風岳・不忘山一帯の南蔵王、雁戸山一帯の北蔵王などは、静かで登る人も少ない。
出来のいい長男ばかりがもてはやされ、出来の悪い弟がぞんざいに扱われるというのは、
山の世界でも人間の世界でも変わらないようだ



   




「また親に『そろそろ定職について身を固めろ』と小言を言われたよ」
と、ぼやく千田の肩を叩いて、「気にするな」と言ってやった。
深田久弥も言っている。「百の頂に百の喜びあり」と。
十人十色、人それぞれの喜びというものがある。
ダメな弟分にだっていい所はたくさんあるんだ、きっとわかってくれる人もいるさ




  
実際の行程

蔵王ロープウェイ・蔵王地蔵山頂駅→ワサ小屋跡→熊野岳→刈田岳
→熊野岳→ワサ小屋跡→イロハ沼→蔵王ロープウェイ・樹氷高原駅


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