人生を馬にたとえると、一日に千里を駆ける駿馬か。
つまらぬ夢ばかり見て年をとっていくんだな。
−−−寺山修司『山河ありき』
高妻山
2003年9月14日〜15日
オールフィクションエッセイ「山頂で逢おう」(4)
休日にそば屋の政と、長野の高妻山に行った。
登山口の戸隠キャンプ場は、家族連れのオートキャンパーに溢れていた。
「この俗物どもめ」と、根っからの山男の政は、さっそく不機嫌な顔になる。
「まあまあ」となだめながら、牧場を経由して登りだす。
だが悪いことに、登るにつれて天気はだんだんと曇ってきた。
政はますます不機嫌になって、言った。
「だいたい『高』『妻』山なんて、名前からしてよくないよ。
いくら高嶺の女でも、他人の女房じゃどうしようもないじゃないか」
なるほど、政の言うことも一理ある。
だが本当にいい女なら、旦那がいるぐらいで諦めることはないだろう。
好きなら寝取るくらいの心意気が欲しいものだ。
人妻だって情熱を失っているとは限らない。
「やっぱりあなたの方がいいわ」とよろめいてくることだってあるのだ。
北アルプスも妙高・火打山も雲に隠れて見ることは出来なかったが、
我らが恋女房の高妻山は、その素晴らしい肢体を見事に晒してくれた。
今日のところは、これでよしとしよう。
「恋における貞節とは欲情の怠惰にすぎない」アンドレ・レニエ