ミオソチス、忘れな草の意。
馬にとって美しいということは迅いということだ。
だから牧場では全力を挙げてこのミオソチスの生む仔へ期待をかけていたのだ。
−−−寺山修司『勇者の故郷』
根子岳・四阿山
2005年6月26日
オールフィクションエッセイ「山頂で逢おう」L
「ネコ岳?」
トルコの奈々ちゃんが、ぴょん、と耳の横に両手を立てて聞き返してきた。
「ほんとにそんな名前の山があるの?」
「ああほんとだよ」と、私は写真を広げながら答えてやる。
根子岳は菅平高原の東にそびえる標高2207mの山である。
東隣にそびえるのは百名山の一つ、標高の四阿山(あずまやさん)。
遠くから四阿山と並べて見た様が猫の耳に似ているので、この名前がついたと言う。
ちなみに根子岳の西隣には、小根子岳という山もくっついている。
根子(ねこ)岳に、小根子(こねこ)岳に、四阿(あずまや)山。
大きな東屋の下で、親猫と、子猫が、寄り添いあって丸くなって眠っている。
山名からそんな情景を想像してみるのも楽しい。
「ふーん、なかなか気持ちよさそうなところね」と、奈々ちゃんは興味をひかれたご様子。
ここはチャンスと、「初夏はツツジがきれいな、いいところだよ。どうだい、一緒にハイキングでも?」
と誘ってみる。その後は温泉にでも浸かってしっぽり、などと下心を抱いていると、
「残念。私、山は登るものじゃなくて、眺めるものって決めてるの」とすげない返事。
そのままひらりとどこかへ行ってしまった。
その身軽な様、さながら猫のようでありました。
![]() 旅行記の部屋 へもどる |