せめて、人生のオークスくらいをねらってみたらどうです?
そう言いながら、私は酒場を出た。
外は、こぬかのような雨が降っているのであった。
−−−寺山修司『山河ありき』
火打山・妙高山
2003年8月28〜30日
オールフィクションエッセイ「山頂で逢おう」B
妙高山は、海坊主のような無骨な風貌をしている。
それを眺めながら「妙高山は助平な社長と言う感じがするな」と、バーテンの千田が言った。
なぜかとたずねると、「自分の周りに女をはべらしてるじゃないか」と言うのである。
たしかに火打山という正妻を差し置いて、自分の周りに外輪山という愛人を囲っている。
だが所詮は2000メートル級。せいぜい小さな町工場のタコ社長といったこところだろう。
眼前に北アルプスという大企業のエリートたちを眺めながら、「いつか俺もでっかくなってやる」と、
酒に酔うたびに口にする。そんな情けなさが漂う山である。
それに比べて火打山は、清楚な感じの美しい山である。
浮気な旦那の妙高に黙って従うのは、人生こんなものよと諦めたのか、
それともバカな男を許すのが、優しい女の甲斐性なのか。
裏町人生を歩む二人にも、いつか日の当たる日もあるだろう。
ただ幸あれ、と願うだけである。
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