えーなんで今更と言われそうな気がしますがムービープラスでやってたのでつい観てしまいましたよ。おととし劇場で観て「もいっかい観たい!」と思った映画の筆頭だったのでこりゃー観なくちゃいくまい、というわけで録画録画。最近ではなかなか無いのですが観終わったあとリワインドしていい場面を何度も何度も繰り返し観てしまいました。ちょっとこの吸引力はなんだろう。ヤバいなこの映画。
徹底的に管理された未来社会。人間は全ての感情を抑制する薬の摂取を義務づけられ、人の感情を昂らせる芸術作品は一切禁制とされて押収のあげくボウボウ焼かれるという世界。その世界で感情違反を取り締まっていた男がなんとなく薬を止めてみたらあら人間の感情ブラボー!まあ芸術ブラボー!と気付いてしまい、こんないいものを取り締まるとは許せん!と巨悪に向かって立ち上がるのであった…というこれまで20世紀のSF作家が繰り返し繰り返し繰り返し描いてきたデストピアもの。一般的にはこの映画、『マトリックス』の系譜に連なるアクション映画っぽい位置づけにありますが、重きはこちらにあります。アクションシーンが実は少ない。数えても十指に足りない。あとはいかにも未来的で無機質な都市の中で、主人公がだんだん感受性を取り戻してゆくプロセスが丹念に描かれます。
この点だけとってもこの映画はいい出来です。なにせ主人公がカタブツを絵に書いたようなクリスチャン・ベールなので「なんか規則に違反しちゃってるけどこの気持ちが止まんなくてどうしよう」といううっかり隠れてビールを飲んでしまい酔っぱらった学級委員的な後ろめたさが良く出ています。彼の感情を呼び覚ますのがショーン・ビーンとエミリー・ワトソンというまた渋いキャスト。ショーン・ビーンは今や裏切り者の役をやらせたら世界一(とわたくしは呼んでいます)の名に恥じず開巻10分できちんと主人公を裏切って死んでゆきますし、エミリー・ワトソンは基本的に厳としてカワイイのですがカワイイとブスカワイイの境界をたゆたう微妙な感じで観る者を落ち着かない感じにさせます。この演技派二人に囲まれてクリスチャン・ベールも刺激されたのでしょう。基本的に感情をほとんど顔に出さない役柄ながら前述の学級委員感が全身からにじみ出ておりスバラです。
こういうドラマが丹念に描かれていて、アクションシーンが意外に少ないのにも関わらずこの映画が活劇として記憶に残るものになったのはひとえにガン・カタという発明のおかげであります。…ガンカタ。ガン(銃)のカタ(型)。思い出されるのが体操(ジムナスティクス )とカラテを融合した85年の脱力珍品『カラテNINJA ジムカタ』ですがああたそんなゆるい映画と一緒にしてもらっちゃ困る。体術とガンさばきの融合という画期的なアイディアは、ガン・アクションをそれまで全くなかった新しいものに生まれ変わらせました。劇中のアクションシーンは主にこのガン・カタが軸になっておりますが、このシーンだけついつい何度も繰り返して観てしまうカッコ良さ。『マトリックス』の後に雨後のタケノコのように出てきた亜流アクションの系譜のなかでは最大の変種であり収穫といっていいでしょう。そのインパクトは映画自体のイメージをかっさらうのに十分過ぎたため、幸か不幸かアクションシーンの少なさにもかかわらず観たもの誰もが『リベリオン』=「ガン・カタ」という図式を抱いてしまいました。
日本公開から2年、続編やスピンオフの話は全く聞きませんが、ガッカリするのは覚悟でもっと激しいガン・カタを観たい!と芯から思う隠れた名作。しかしカルト的な人気はモリモリあるので、これから撮影されるという話の『M-I:3』がガン・カタをしれっとパクったりとかそういう展開がありそうな気がちょっとしてきました。そうならないうちに誰か!正調な!ガン・カタを!早く!
(2005年06月05日)