『ジムカタ』…この珍なる語感のタイトルを目にしたのは札幌市内の今は亡き中古ビデオ専門店にて。ナニゲなく手にとって見ると、ジャケには体操選手のような白いタイツを履いた青年が、カマ、日本刀、手裏剣、そしてマシンガンを持ったインチキの香り高いニンジャをバキバキお蹴りになられている様子が描かれています。正式なタイトルは『カラテNINJA ジムカタ』。いや、ニンジャなのは分かったからジムカタって何?と素朴な疑問が頭に浮かんだところで裏ジャケを見てみますと、
「新手のニュー・アクション・ムービー登場!
アメリカで大人気の"NINJA"モノをさらにスケールアップ、それに新手のアイディアをおりまぜたニュー・アクション。『ジムカタ』とはジムナスティック(体操)とカラテを合わせた言葉。」
おおなるほど!と頭上に豆電球がピッカリ点灯したような気分に。よりにもよって体操とカラテを合体させるたぁまず日本人には思い付かない発想です。これにNINJAとくればもう全米は制したも同然。ショー・コスギなんざメじゃねえぜ!!と作り手の鼻息が荒まったかどうかは知る由もありませんが、その割にジムカタという用語が全然普及してないのが悲しいです。
この稀に見る珍奇さに思わずレジに直行するところでしたが、財布の中身を参照してやや躊躇。がしかし、ふと目に入ったスタッフのクレジットに発見したこの名前。
監督…ロバート・クローズ
‥‥‥‥‥‥‥(黙祷)。そうです。あの不朽の名作『燃えよドラゴン』の監督さんであります。『燃えドラ』以降の人生を消えかけのロウソクのように過ごしていると思われていた彼ですが、こんなところで細々と仕事をされていたのですね!と目頭を押さえたまま思わず身体がレジに向かってしまい、こうして手元にこのビデオが保護されているいう訳でございます。
ではさっそく本編を観てみましょう。体操選手が平行棒でぐるんぐるん演技をするシーンから始まり、未だ見ぬジムカタとやらへの期待が高まりますが、すぐに場面はどこかの荒野のシーンへ。馬に乗った黒装束の人たちがパカランパカランと走り、中世の騎士っぽい風体の人が弓矢片手に右往左往していますが、彼らが追い掛けているのが緑色のジャージを履いた素オヤジだったりするあたり思わずダウトと叫びたくなる衝動にかられます。
このオヤジは谷にかかったロープをエッチラ渡っている途中に弓の的にされ、矢が「ぷすっ」とプリティに刺さって谷底に落下。一方先ほどの体操選手はビシッと演技をキメ、駆け寄る女性ファンを放置したまま某所へ。
某所にはCIAだかFBIだかの偉いヒトが待ち構えており「お国のためにひと肌ぬぎなさい」と無理難題を言い張ります。聞けばアメリカのSDI構想の拠点となるポイントが中央アジアの某国にあり、そこが東側に奪われそうなので先に行って場所取りしてきなさい、というタカ派根性爆発の傲慢なミッションですが、体操選手はなんの疑問も持たずに言いなりに。
ところがこの国が大いにクセモノで、聞けば入国する者は国が開催するとあるゲームに参加しなければならず、それに勝たない限り滞在は許されないという理不尽の極み。ただしゲームを突破した者はどんな望みも叶えられるという特典付きで、アメリカ政府はどうやらそこで「基地作らせてください」とお願いする魂胆の模様。マジですか。
しかしこのゲームも結構なクセモノで「この900年間突破した者はいない」というヨタが大真面目な顔で語られてるあたり、さぞや酸鼻なゲームであると推測されますが、それにしてもそんな酔狂に付き合ってないで真正面から武力行使した方が速ええだろ、という疑問が浮かんでくるような気が。というか浮かんだそばから主人公が全く同じ疑問を口にしますが、偉い人の
「我々は手荒なことは好まんのだよ」
というエレガントな発言でたちまち却下。
そのゲームをなんとか突破すべく主人公は早稲田を目指す予備校生のような意気込みで訓練を開始します。日系トレーナー(何とヤマシタ・タダシ!…過去に東映で数本のカラテ映画に主演した人です‥‥‥‥‥黙祷アゲイン)の元で薪割りや逆立ち階段登りに精を出す主人公ですが、トレーナーが口走る
「ヨシ!ヨクヤッタナ!ダメダダメダ!ヤッタナー!」
という思わずカタカナで表記してしまうヤバい日本語に気を取られてるうちに気がついたらたくましく成長していましたよ。ここまで時間にして約10分。
敵を知れば百戦あやうからず、というわけでゲームの内容を予習すべく、その国から事情通が呼ばれるのはまあいいのですが、それがほかでもないその国のやんごとなき姫君だったりするあたりには何かこう修復不可能な破綻を感じます。まあそれには目をつぶるとしても、その姫の見事なビッチ顔がまた別な破綻を感じさせるので気を抜くことができません。この姫君に鼻の下をストレッチして言い寄る主人公ですが、最初は彼に刃物をあてがったり麻縄で緊縛したりして軽くあしらってた姫君も熱心な口説きについに落城。半裸で男の背中をマッサージするという『燃えよドラゴン』のパロディみたいなシーンも登場し、訓練のヒマをみてはイチャつき合う様子が描かれますが、この時点で映画が始まってまだ15分も経ってないあたり、かりにも一国の姫君とは思えない身持ちの悪さにかの国の将来があやぶまれます。
さて2ヶ月にわたる訓練(映画上では10分)を終え、いよいよかの国に向かう主人公と姫。道中立ち寄った国で姫が悪者にさらわれて大使館に監禁されたりしますが、主人公の立ち回りで見事姫を救出。ここで主人公は道端の物干竿にぶらさがって大回転、襲い掛かる悪漢をけつり倒すという荒技を披露。おおこれが噂のジムカタか!と感心しないでもありませんが、タダの通りすがりの物干竿にたっぷりと滑り止めの粉がはたかれているあたり、何かこうデパートの屋上ウルトラマンショーを見に行ったら舞台ウラでマスクを取ったウルトラマンが仕出し弁当を食っているのを目撃してしまったような時のような興醒め感が残ります。
いろいろありましたが主人公と姫はゴムボートに乗って川から密入国。姫のくせに。国にはすでに各国からこのゲームのために訓練を受けたツワモノたちが到着しています。遺伝の力をモノともしない姫との似なさを誇る王様が自らゲームの解説です。
このゲーム、追っ手の追撃をかわしながら、ロープでガケを登ったり谷を渡ったり平原を駆け抜けたり、キチガイの皆様が隔離されている地区を通り抜けたりして最終的にスタート地点に戻ってくれば勝ち、というものです。なんとなく『風雲!たけし城』を思い出さなくもありません。イヤハヤ80年代もすっかり遠い昔ですね。
このゲームの道中で姫をめぐる奪い合いがあったり、行方不明の主人公の父(なんと冒頭のジャージ男でしたよ)が唐突に現れたりとストーリーは迷走しますがカッタルいので略。主人公は襲い掛かる敵を蹴ったり殴ったりして切り抜けますが、どうみてもタダの格闘シーン。ジムカタは?ねえジムカタは?と3才児のような無垢な上目づかいで口走ってしまいますが、さすが腐ってもジムカタ。例のキチガイ村のシーンで魅せてくれました。
このキチガイ村、ひとたび足を踏み入れるとカマとかクワを持った人たちがゲヒゲヒ笑いながら襲い掛かってくるという、電波媒体に乗せるにはかなりの勇気が要るシロモノ。夏場のカナブンのごとく湧いて出てくる彼等にさしもの主人公も広場で取り囲まれ大ピンチ。すでにライバルは全員血祭りにあげられております。さーどーする!とハラハラする間もなく、唐突に広場の真ん中に存在している鞍馬状の石(見事な取っ手付き)に飛び乗り、コマのよにくるくる回転しながらキチガイさんをなぎ倒す主人公!おおこれこそジムカタ!体操格闘技!と訳もなくなごんでしまいますが、人間なかなか道端に鞍馬が転がっているという状況に出会えるものではありません。
一方悪者の手によって城に軟禁されてた王様はようやく状況を察知。城のなかで姫と一緒に大暴れですが、城のセットが前半に出てきた大使館と同じという点に突っ込むのは空しさがつのるだけなのでやめましょう。バタバタしてるところへ主人公が馬にのってパカランパカランと凱旋し、メデタシメデタシでエンドマーク。ダメ押しに
「1985年 アメリカのSDI地上基地が××国に建設された」
という心ない字幕が出て完。ヘソ上で茶が沸騰します。
こんなデタラメの限界に挑戦したような映画を、天下のMGMが製作してたというのも凄い話です。思えば時代背景は『ベスト・キッド』や『燃えよニンジャ』といった純ハリウッド製マーシャル・アーツ映画が大ヒットしていた時期。あと『ランボー2:怒りの脱出』『デルタ・フォース』といった極右映画が売れに売れていたのもこの時期です。そうした当時の売れ線映画の方程式に乗っ取った作品がコレ、という見方もできますが、そこに新味を狙って体操という味付けをしたらこんな珍品が出来上がってしまったというとこでしょう。
ちなみに、劇中ニンジャと呼ばれる人は誰一人として出てきませんでした。
(2000年)