「今のアスランに、俺らの良く知るアスランを重ねることに、恐怖を感じることはないって思うぜ。俺らもそうだもん。あいつにさ、お前の父親はこうだったんだぜって話すことが出来るのは、俺らだけじゃん。俺らにとっては思い出でも、あいつにとっては父親の姿だ。共有って出来るんじゃないのなか。重ねるっていうか、共有だよな」
別れ際の友人の科白が、キラの胸に落ちる。そういう考えもあるのかと思う。
重ねることは、決して怖いということではなくて。
一方的に彼の人の影を追うのではなく。
共に語れる想いがあってもいいはずだ。
彼の人が、生きていた証。
君に伝えよう。
君に―――。
伝えたいんだ。





執務室の座り心地の良い応接セットのソファに、すっかり腰を落ち着かせ、食堂のおばちゃんに貰ってきたと主張をしているモンブランとチョコレートのケーキをテーブルに並べたディアッカを、この部屋の主であるイザークは半目で睨んでいた。
「で、イザークはモンブランとチョコ、どっち食う?」
「・・・どっちもいらん」
「えっ!いらないの!もったいないなぁ。じゃあ俺、食うかんね。あっ、それと、俺は紅茶ね。砂糖なくていいからヨロシク」
実に爽やかに白い歯を見せるディアッカに、イザークの眉間の皺が、いつもより二本増えた。
三日間の連休を終えた男は、その間にあった出来事を話したくてうずうずしているようだ。休んだ分以上の仕事をしろと言いたいところだが、イザークも幼子の様子が気になっているのは確かで。午後の優雅なティータイムとはいかないが、暫く仕事の手を休めることにした。
椅子から立ち上がり、部屋に備わっているポットからプラスチックのカップに湯を注ぐ。インスタントではあるが、コーヒーと紅茶ならいつでも飲めるようになっているのは、なかなか便利だ。時折、そこに甘い菓子が増えていたりもするのは、イザークの有能な部下である女性が、疲れたときにどうぞ、と言って置いていくものだ。
実は昨日、彼女がお気に入りの店から買って来たと、イザークに渡したクッキーがある。いくつかの種類のクッキーが、可愛らしい缶に入っているのだが、まだ彼はそれに手をつけてはいない。空腹感はないが、大小ある缶のうち小さい方を手に持ち、テーブルへと置いた。
「ん?何、これ?」
目の前に置かれた小さな缶に、ディアッカが問う。
「あぁ、シホからの差し入れだ」
「シホ・・・?へぇ〜、気が強くても、やっぱ女の子だよねぇ。ムフ・・・実はお前に惚れてたりして」
「アホか。何でもかんでも、男と女の話にするな」
「え〜!!だって清く正しい上司と部下じゃ、面白くないじゃん。人生てか、軍生活には刺激がないとね」
「お前の刺激は、お前一人で勝手に浸っていろ」
インスタントの紅茶を入れたプラスチックのカップから、暖かな湯気が立つ。ほんのりと甘い香りは、たとえインスタントであっても、日々の忙しなさを一時忘れさせてくれる。しかも今日は、ディアッカのおしゃべり付だ。イザークはこれから語られる幼子を想い、口の端を上げた。
「ほら、俺が入れた紅茶だ。ありがたく飲め」
「サンキュー。やっぱ休み明けって疲れるよなぁ。まだ頭が働かない感じ」
「休みでボケすぎたんだろ。しっかり働けよ」
「はいはい。分かってますって。んじゃ、いただきまぁ〜す」
満面の笑みを浮かべケーキを頬張る二十四歳の男に、イザークは軽い眩暈を覚えた。ケーキを食べるな、とは言わない。言わないが。
一体どんな手を使って、食堂のおばちゃんからケーキを貰って来たのかとか、小さな子供ではなのだから、そんなに嬉しそうに食べなくてもいいのではないかとか。喉まで出掛かった声を呑み込んで、イザークは休暇の様子を聞いた。
「・・・アスランは元気だったか?」
イザークの問いに、ディアッカがにまりと笑う。待ってました、と言わんばかりにきらりんと光る眼の中に、この休日の様子が全て凝縮されているようだ。イザークは多少の頬の引き攣りを感じながらも、話しを聞く体勢になった。
「うちらのアスランは、それはそれは可愛いよなぁ。白いほっぺにスリスリしちゃったもんね。子供ってさ、少し見ないうちに、すぐ大きくなるじゃん。アスランもそうでさ、背が伸びて、ちょっと前は立ってるのも危なっかしかったのに、もう幼年学校だもん。子供の成長って早いよなぁ〜」
まるで父親が漏らすような科白を続けるディアッカの頭の中は、その子供のことで溢れている。正に幸せいっぱいの笑みだ。
「幼年学校も楽しいってさ。勉強も好きだって言ってたけど、あの細っかいこと好きは、父親に似すぎだね。マイクロユニットを土産にしたら、スゲー喜んでさ。ホント、そっくりな」
「まぁ、今は似ていると思うところが目立つんだろうが、これからは分からんさ。父親とは全く違う一面が出るかもしれんぞ」
「だよねぇ〜。一体、どんな風に成長するのか、楽しみだよ」
幼子のアスランと、その父親であるアスラン。イザークたちの親友であるアスランは、自分の子供を一度も腕に抱くことなく逝ってしまった。もし彼が生きていたとしたら、やはり自分によく似ていると思っただろうか。彼の言葉で語っただろうか。彼のことだ、そんなに似ていないよ、とはにかみながら答えたかもしれない。
考えたところで、考えた範囲の中でのこと。
彼は―――もういない。
だからイザークたちは、アスランが自分の子供に与えられなかった愛情を、沢山沢山注いでいる。初めての出会いは、生まれて間もない頃。あれから五年が過ぎようとしている。
「・・・学校が楽しいってのはいいことだな。友達のことも話していたか?」
「あぁ、学校での様子は良く話すってラクスも言ってた。友達は男が多いようだけどな」
「お前じゃないんだ。四歳の子供が女好きじゃあ、将来が不安だ」
「・・・さり気なく酷いこと言われた気がするんですけど。俺は女好きだけど、タラシじゃないかんな」
「似たようなもんだろ。気にするな」
「違う、違う!全然ちがぁ〜う!」
大声を出してはみたものの、イザークには見事に無視をされた。しかし、これが自分達の日常会話であり、互いに楽しんでいるところがるから、相手を本気で傷つけてなどいない。テンポの良すぎる言葉のキャッチボールだ。
けれど。
子供同士の会話はどうだろう。
彼らの日常会話の中に、ディアッカやイザークの互いに楽しみ会話は、当てはまらない。そこにあるのは、常に直球だ。己の感情をそのまま声に出す。子供にとっては、当たり前のこと。が、その当たり前さが、突然凶器にもなる。
ディアッカから溜息が出る。小さなアスランが、自分達を踏み込ませようとはしない、何かを抱えている。一体どうしたのだろうと考えても、底が見えない分厄介だ。
「・・・どうした?お前にしては珍しく、眉間に皺が寄ってるぞ」
「ん・・・?」
イザークの指摘に、ディアッカは慌てて眉と眉の間を指で擦る。眉間の皺がトレードマークとなっている男に言われてしまうと、少なからずショックだ。
「俺・・・ここに皺寄ってた?」
「ああ、立派な皺が生息中だったぞ。女好きとタラシの差でも考えていたのか?」
「ち・・・違うっつーの!お前、さり気なくっていうより、あからさまに酷いよな」
「あからさまだから、いいんじゃないか」
「へーへー、そうですか、そうですね。こういう時は。アスランの可愛さに癒されたいよ」
わざとらしく語尾を弱々しく言ってみても、相手は全く動じない。動じて欲しいわけでもない。だからこれは、自分達の日常会話なのだ。
ディアッカは。
そのアスランなんだけれど、と小さな子供に生じている、小さくはないであろう問題を語り始めた。





カタカタカタ・・・。
コクピットに座り、膝の上に置いたキーボードを、忙しなく叩く。小型の端末に映し出される文字を眼で追っていたヴィーノは、暫くしてEnterキーを軽やかに押した。 「良し、調整終わりっと」
コクピットから聞こえてきた声に、ハッチの上で両足を宙に出し寝そべっていたシン・アスカは、むくりと上体を起こす。体を休めるには不適切な場所だけに、背中が痛い。少しだけ顔を顰めてから、ヴィーノを眼に映した。
「終わったのか?」
「終わったよぉ〜。てかさ、自分の機体なんだから、ちょっとは自分でやろうとか思わないわけ?」
小型のパソコンを右手に持ち、コクピットから出てきた親友に、シンは実にあっさりとした返事をする。
「こういうのはプロに任せるのが一番だろ」
「まぁそうなんだろうけど、自分の機体のこと分かっておいた方が、いいんじゃない?」
「俺は苦手なんだよ。調整とか良く分かんねぇし。お前みたいなプロが分かってるのが一番!」
「・・・単に面倒でやらないってことか」
「だーかーらぁー!苦手なんだって!」
ジロリと睨まれたところで付き合いの長い分、怖くもなければ迫力も感じない。ヴィーノは苦笑した。
「変わんないねぇ。相変わらず工学系に弱いとこ」
「うっせーよ。だからプロに任せるって言ってんじゃん」
「ははは・・・。そうでした。しっかし明日の訓練って、随分大掛かりなのな。定期訓練とは違うの?」
「来月の会議の前に、どかんと一発やっておこうってヤツだよ。ちっくしょぉー!ペイント弾、撃ちまくってやるぅ――!」
少々発狂ぎみのシンに溜息を一つ零すと、ヴィーノは彼の横に座る。シンの発狂ぎみの原因は大いに分かりきっていたので、それについて尋ねてみた。
「ディアッカさんって、昨日まで休日だったんだよな。今日、あの人と会った?」
なにげない問いではあったのだが、シンには違ったようだ。勢い良く顔をヴィーノに向けたのも束の間、直ぐに項垂れた。
「それがさぁ〜。いろんなところに気配はあるのに、俺はまだ会えてないんだよなぁ。何でだ?何でなんだ?ちっくしょぉぉ――!ディアッカ・エルスマンにペイント弾撃ち込みてぇぇ――!」
ついに発狂した、とヴィーノは思った。 ディアッカが休暇を取っていた昨日までの三日間、シンはイザークの下僕と化していた。シュール隊に所属しているのだ。上官であるイザークの指示に従うのは、当然といえば当然なのだが。それが、訓練であったり護衛であったりというのであれば、分かりました、の一言で済んだのだ。しかし、である。
イザークの指示は雑用だった。雑用も大切な仕事の一つであるが、量が多すぎた。朝から晩までイザークの下僕であった。結果、シンはキレっぱなしで今日に至ったわけである。
ディアッカが休暇を取ったから、シンがイザークの下僕化したわけではない。ないが、ディアッカが行うことになっていただろう仕事が、シンに与えられたのは事実だ。なのでシンは、ディアッカに怒りを向けている。にもかかわらず、怒りを向けている本人とは、未だに会えていない。これでは発狂したくもなるというものだ。
「まぁまぁ、ペイント弾なんだし、そんなに熱くなんないでほどほどにしろよ」
「何言ってんだよ!戦いにほどほどはないんだよ!」
怒りの声を張り上げるシンは、青筋まで浮き立たせている。加えて訓練を戦いと言い換えてしまうあたり、血管が切れるのも間近かもしれない。ヴィーノはメンテナンスの終わった機体を仰ぎ見る。ブツブツと文句の垂れ流し状態の親友をなだめるには、どうしたら良いものか。物言わぬ機体を縋るように見つめたところで、首が痛くなるだけだ。こういう場合は食べ物で釣ってみるかな、と考え始めた時、隣で短く声が漏れた。
「あっ・・・!居た・・・!」
シンの眼が真下を向いている。ヴィーノも彼の視線の先を追ってみると、そこには―――。
捜し求めた男が、右手を振りながら立っていた。

「「ディアッカ・エルスマン!」」

二人同時に、男の名前を叫んでいた。



紅い眼が怒りで、その色をさらに濃くしている。両足を肩幅に広げ両腕を組み睨んでくる姿は、どことなくイザークに似ているような気がしないでもない。部下は上司に似てくるらしいというが、どうやら全くの嘘ではないようだ。
「・・・ははは、そんな怒んなよ。顔がコワイって」
「別に怒ってませんけど!俺に言うことはないんですか?」
「・・・やっぱ、怒ってるじゃん。・・・ごめん!」
「だから、怒ってません!つーか、謝る前に俺に言うことがありますよね!あぁ、でも、謝るんだから、謝らなければならない理由は分かっているってことですね」
ゆっくりと細められる紅い色に、ディアッカはやはりイザークに似てきたかもと思っていた。シンの直ぐ後ろでは、ヴィーノが肩を竦め、適当に頑張って下さいという表情だ。既に最初から降参である。ディアッカはパチンと音を響かせて両手を合わせた。
「三日間、休暇を貰いまして、ありがとうございました。その間のお勤め、ご苦労様です!」
「・・・で、今日は朝から今まで、どこに行ってたんですか?」
「今日・・・?あぁ、今日はね、三日間会えなかった人たちへの挨拶回り。いやぁ〜、食堂のおばちゃんにはケーキ貰っちゃってさ。ケーキ貰ったら、お茶にしなきゃじゃん。で、イザークのとことでお茶だ、お茶。いいねぇ〜。執務室での優雅な午後ティ〜」
素直に本日の行動を、ディアッカは語る。事実は事実。嘘ではなく本当のこと。
だが―――。
少々おふざけ調子で言ったのが悪かったようだ。シンの怒りの沸点が、ポロッと超えてしまった。この三日間の出来事が脳裏を駆け巡り、肩が小刻みに震える。

「・・・この・・・ドアホォォォ―――!!」

シン・アスカ。ディアッカ・エルスマンをアホ呼ばわりした瞬間である。


定例会議の打ち合わせの時間が迫っていたシンは、捨て台詞のように「俺は負けないからな」と叫んで、格納庫から走り去って行った。言いたいことも怒りも、半分以下しか出せていないであろう彼が、多少哀れでもあるが、それはそれ。後輩のキレる姿は面白くもある。
「・・・なんか、楽しそうですね」
「なんかじゃなくて、マジ楽しい。いいねぇ〜、キレっぷり」
完全に遊ばれている親友に同情しつつ、ヴィーノは第三者視点で言う。
「ディアッカさんが休みの間、アイツはジュール隊長の下僕化してましたよ」
「そう?まぁ、たまにはいいんじゃない?俺は下僕じゃないけど、イザークの八つ当たりはこっちに来るしさぁ。だから、いいんだよ。たまには俺の大変さを体験させなきゃデショ」
「じゃあやっぱり下僕なんですね。オレ、下僕ツアーには参加したくないですよ」
「だから、下僕じゃないっつーの!確かに似たり寄ったりではあるけどぉ〜」
情けない声音が笑いを誘う。ジュール隊の副隊長を相手に、下僕発言は言語道断であるはずなのだが、ディアッカの気さくさがそれを許している。
「シンには後で飯を奢っておくよ」
「そうですね。豪華ディナーでお願いします」
了解、と答えるディアッカから、視線をシンの愛機へと移す。首を上げて見る機体を前に、気持ちを切り替えた。
「・・・明日の訓練、規模が大きいですね。やっぱり定例会議の前だからですか?」
「ん・・・?あぁ、そうだなぁ。地球からお偉いさんが沢山来るかんね。念には念の訓練ってことだよ」
「念には念か・・・。やっぱ地球と宇宙の代表者会議ですもんね。過激派への牽制の意味合いもあるんですか?」
親友の機体から眼を逸らさないまま問われて、考えねばならないことがディアッカの脳裏を過ぎる。訓練規模が大きいと彼は言うが、元々予定されていた定期訓練に加えて、テロ対策として定例会議場となるホテル周辺と、エアポートも訓練の場になったのだ。驚くほどの軍事訓練の大きさではないが、緊張感はいつも以上である。
定例会議。
二度目の終戦後に始められた、地球と宇宙、ナチュラルとコーディネーターの歩みの場。互いの未来のために、各国代表者たちが集う場所。過去二回は、オーブでの開催だった。三度目の今回は、初めて舞台を宇宙へ移す。
その定例会議直前での軍事訓練。
ヴィーノの言うように、過激派、特にブルーコスモスへの牽制目的は大きい。
ギルバート・デュランダルは、ブルーコスモスと彼らの母体といっても過言ではないロゴスを、壊滅的な状態にした。が、それは組織的な面であって、地下深くに潜み続ける個々は存在する。ディアッカは、やっかいなのはロゴスよりブルーコスモスだと思っている。彼らは組織ではなく、たった一人でも行動を起こす。組織ではなく、小さな集団はあるのだ。プラント政府が恐れる牙である。
そして、プラント内においても、旧ザラ派と呼ばれる者たちがいる。現在、彼らに目立った動きがないのは、政府としても地球との宥和政策だけではなく、主張すべきところは主張をし、主導権を握るところはちゃんと握っている結果であろう。しかし、火種は火種だ。
プラント政府はこの定例会議の主催国であり、今回は会議だけではなく、地球側との共同出資コロニーの視察もある。ブルーコスモスと旧ザラ派が、初めてプラントで開催される定例会議に、何らかの狙いを定めてくる可能性は否定出来ない。が、動くとしても、会議場を狙ってとは言い切れない。警備の強化された会議場ではなく、全く違った場所で、何かを起こすことも考えられる。
ブルーコスモスも旧ザラ派も、相手の存在を認めていないのだ。政府が何を言おうと、何をしようと関係ないから怖い。その彼らを牽制する目的も含んだ軍事訓練。市民の中にも、やはり定例会議直前でもあり、何かしら起きるのではないかと不安を持つ者もいるだろう。プラント市民に不安を抱かせているようでは、軍に身を置く者として情けない。ザフトはプラントを護る鉄壁の盾なのだ。ディアッカはヴィーノへ笑みを向けた。
「そりゃあ、お前さんの言う意味もあるさ。訓練だもん。過激派ってのは、時と場所を選ばない。だからって不安になってんなよ。俺ら軍人の不安ってのは、市民に伝わるもんだし」
「別に不安とかじゃないですよ。ただ、今回はプラント開催だし、これからも定例会議が続けばいいなって・・・」
少々頬を膨らませるヴィーノが、シンと重なる。ディアッカから見れば、彼らは可愛い弟であり、そんな彼らを安心させるのは兄の役目だ。
「何言ってんの。んなのは、続けるってのが大前提にあるんだぜ。そのためのお偉いサンたちなんだから、大丈夫だよ。俺らの役目はプラントの平和を護ること。よろしいですか?」
「分かってます。俺も定例会議に期待してるんです。戦争、二度とごめんですからね」
「そうさ。誰だって三度目の戦争は嫌だからな。地球もプラントも、もう愚かな過ちは繰り返さねぇよ」
ニカッと笑みを見せれば、ヴィーノは深く息を吐き頷く。
まだ三度目の定例会議だが、そこに期待を寄せる人々は多い。民間レベルでの交流と、政治レベルでの交流。どの天秤が常に水平であればあるほど、コーディネーターとナチュラルの溝が小さくなる、と誰もが思っている。戦争の傷は、どちらか一方の傷ではない。みんなの傷だ。その痛みを忘れることなく、共有することが大事。
定例会議の開催を宣言した後に行われる祈り。
決してパフォーマンスではない黙祷の意味は重い。
ディアッカはヴィーノの肩に、腕を回した。
「てなわけでさぁ、今度、シンも一緒に飲みに行かね?」
「・・・お・・・オレもですかぁ?てか、話しの展開が急なんですけど・・・」
「駄目だなぁ。小さいことは気にしちゃイカンよ」
「・・・小さいことっすかねぇ」
「そうそう、んじゃ、決まりな。明日の訓練終わったら、日程決めようぜ」
「・・・はぁ・・・」
困惑と呆れともとれる応えにもう一度、決めるからな、と言う。
無事に会議が終わり、地球と宇宙の結びつきが、また一つ大きくなればいい。そこに伴う少しの不安と緊張を和らげるために、ディアッカは大丈夫だと笑む。
未来を繋ぐ定例会議は、目前に迫っていた。





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