女性の甲高い叫び。 子供の泣き声。 何が起きたのか理解さえ出来ずに、呆然と立ち尽くす人。 黒い煙に覆われてしまった日常が、少しずつ少しずつ、これは本当のことだと伝えてくる。 アコーディオンの男が立っていた場所の周辺は。 赤い色で、染まっていた。 ―――あぁ、あの時と同じだ ロックオンの脳裏に、忘れられない過去が甦る。 これが事故などであるものか。 自分だけが取り残されたあの日の記憶に、体が支配される前に、気持ちを落ち着かせるため大きく息を呑む。 そして、気付く。 咄嗟に庇った少年が、じっと赤い事実を見ているということに。 倒れている子供を、瞳の奥に焼き付けるように、視線はまっすぐに伸びている。 命の赤さから眼を逸らさずにいる彼からは、恐怖や憎しみという色は感じられず。ただ、事実だけを見つめていた。 「・・・見るな、ティエリア、見るな・・・!」 ロックオンはティエリアから事実を隠すため、きつく抱き締める。ぴくりとも動かない体の中で何が起きているのか分からなくて。 抱き締める腕に力を込めることしか、出来なかった。 「・・・で、今日の午後一時頃、爆発がありました。自爆テロの可能性が高く、実行犯と思われる男は死亡。その爆発により、死傷者が出ています・・・」 ニュースキャスターが伝える爆発の様子は、ロックオンとティエリアの眼の前で起きたことだ。ソファに沈めた体が重く、ロックオンは暫し瞼を閉じる。 アレルヤと刹那に連絡を入れ、駐車場で待ち合わせをして、屋敷に戻ってきた。 ―――アコーディオンの男 自爆テロの可能性が高いと、警察は認識しているようだ。犯行声明があったわけではないが、事故と判断するにはあまりにも不自然であり、アコーディオンの男自体が爆発をしたと目撃者の多くが語っている。 テロとは、無差別殺人だ。 たまたまそこにいた市民が、巻き込まれ血を流す。絶対に許されることではない。自分達のためだけに、人の命を犠牲にする。 一体何を求めているのか。何のための犠牲者なのか。 ロックオンには理解が出来ない。 今朝は、ピクニック日和だと笑っていた。四人で出かける、嬉しさと楽しさがあったというのに。こんなことが起こるなんて、誰も思っていない。 「・・・テロか。まさかこんな近くで・・・。この街は治安がいいと思っていたのに」 「治安のいい国の人間は、扮装や内戦が続く国と自分の国とは、無縁の世界にあると思っている。だから今日のようなことが起きて、初めてテロを意識するし、理不尽な命の奪い合いに恐怖と憎しみを覚える」 アレルヤに続いた刹那の科白に、ロックオンは瞼を開ける。少し俯いてはいたが、刹那の表情はいつもと変わらないものだ。 「・・・刹那。お前はテロが憎いか?」 考える前に、声が出ていた。ロックオンの青い眼差しを受けて、刹那は応える。 「俺はテロを生み出す原因を、許しはしない。命と引き換えに、何かを得ようとする奴らを、許さない」 テロというよりは、その背後にあるものを見据えている。ソレスタルビーイングに選ばれた少年だ。それだけの過去を背負っているのだと分かる。 「刹那・・・」 「だからといって、今の俺たちに何も出来ることはない」 ロックオンは、はっとする。刹那の言葉が大きく胸に突き刺した。 目の前で起きた事実に心が揺れても、過去を思い出しても、今の自分たちに出来ることは何一つない。ソレスタルビーイングは、まだ動き出していないのだ。分かりきっていることだけに、ロックオンの中で歯痒さが広がる。 「・・・分かっているさ。今の俺たちは無力だよ。情けないのか悔しいのか、良く分かんねぇ」 ガンダムマイスターではあっても、今はまだその名の通りに動ける存在ではなくて。ブラウン管の向こう側を、見ていることしか出来ない第三者だ。 「でも、今は確かに無力かもしれないけど、僕たちは動き始めるんだ。世界を変えるために。違うかい?」 同意を求めるのではなく、確認するようにアレルヤは言う。 情けないとか、悔しいとか。 きっと自分達が第三者から当事者に代わっても、それらは纏わり付いてくる。けれど、世界を変えるために選んだ道は、間違ってはいないはず。 「・・・違わねぇよ。この悔しさを体に染み込ませて、俺たちは動き始めるんだ。なんか弱気になってるよな。すまねぇ」 「弱気じゃないですよ。世界が実際にどう変わるか、変わって行くのか、僕には分からない。不安な気持ちがないといったら、嘘になります。特に今日のようなことが起こると・・・」 賑やかで笑いに満ちていた場所から、一瞬にして日常を奪う。逃げ惑う人々の叫びは、アレルヤの耳に残っている。 紛争もテロも、繰り返す者は繰り返してばかりだ。 ソレスタルビーイングは二百年も前から、それらの行為を愁い嘆いている。たった一人の男の愁いから始まった、大きくでも秘めやかな祈り。 男の理念でもあり祈りでもあるソレスタルビーイングは、もうすぐ歴史を変える。たとえ武力行使という矛盾を抱えていても。 そして、矛盾があるから不安もある。アレルヤに限ったことではなく、誰もが表立って言わないだけだ。 ソレスタルビーイングに対する、世界の答えがどう示されるのか―――。 二百年前の男も、分かりはしなかったであろう。 しかし、分からないからといって諦めたら、そこで終わりだ。望むことは一つ、世界と向き合い、世界の意識を変えること。 「俺だって不安はあるさ。だから弱気にもなる。恥ずかしいことじゃねぇよ、本当のことだ。でもよ。お前らがいるからな。こうやって言い合うだけでも、気持ちが違う」 微かに頬を緩めるロックオンに、アレルヤも不自然に方に入ってしまった力を抜く。屋敷に戻ってきてからも緊張していたようだ。ロックオンの言うように、不安や弱気は恥ずかしいことではないが、切り捨てられるものでは決してない。 ―――自爆テロ アレルヤと刹那は、その時、その場にはいなかった。だが、ロックオンとティエリアは違う。己の眼で、壊された日常を見ているのだ。 ティエリアは。 テロが起きた場所に何かを置いてきてしまったのではないか、と思うような虚ろさを漂わせていた。アレルヤが気付いたほどだ。ロックオンは当然、刹那もきっと気付いている。ただ、本人に自覚はないのだろう。誰かに支えてもらわなければ立てないわけではなくて、ちゃんと自分の足で立ってはいても、どこか危うい。 ロックオンは車を運転しながらも、助手席のティエリアをしきりに気にしていた。大丈夫かと訊かない代わりに、何度となく視線を向けて。 屋敷に戻ったティエリアは、無言のまま与えられている部屋に、閉じこもってしまった。こういう時は、独りでいるより誰かと一緒にいた方が、沈みがちになる気持ちを和らげてくれるように思うのだが、ティエリアは独りを選ぶ。 不安は。 ソレスタルビーイングが求める未来にもあるが、仲間に対してもある。 例えば、ティエリアのように。 何も言ってはくれないから、不安にもなるし心配にもなる。蒼白い顔をそのままにしたくはないのに、誰も近寄らせてはくれない。同時に、自爆を起こした男の位置が、もっと二人に近い場所だったらと思うと、怖くなる。 様子を見に行こう。そう思いアレルヤが口を開きかけたところで、声が落とされた。 「ティエリア・アーデ・・・」 言ったのは刹那だ。フルネームを出され、ロックオンとアレルヤは彼を見る。 「・・・アイツを一人にしておいていいのか?」 刹那の問いは、ロックオンに向けられたものだ。不安定さのあるティエリアを気にしているにも拘らず、独りきりにしている男。誰かと話しをすることで気持ちが違う、といったのはロックオン・ストラトスだというのに、ティエリアを追いかけはしなかった。 「僕が様子を見てくるよ」 「いや、いい。俺が行く」 立ち上がろうとしたアレルヤを制して、ロックオンがゆっくりソファから腰を浮かせる。 「・・・別に刹那に言われたから行くんじゃねぇぞ。俺だって、本当は独りにさせるのは嫌なんだ。でもよ、なんつーのかな。まぁ上手く言えねぇんだけど、俺も気持ちを落ち着かせたかったっていうのもあるんだ。うん、言い訳だな」 アレルヤや刹那には、ロックオンが何を言いたいのか半分も分かりはしなかったが、そんな二人にはお構いもなく、彼は居間を後にした。きっとロックオンは肝心なことを口に出してはいない。上手く言えない、というのは本当のことなのだろうが。 「・・・ティエリアは大丈夫かな」 ティエリアの虚ろさは、自爆テロが原因だ。もしかしたら巻き込まれていた可能性もあるのだ。精神的に参ってしまうことだってあるかもしれない。 「どうだろうな。俺たちに判断は出来ないが、アイツのことはロックオンに任せた方がいい。アイツもロックオンになら、素直になるんじゃないのか」 「・・・そうだね。こういう時くらい、素直になって欲しいよね」 ティエリアへの心配を滲ませる、アレルヤの呟きは低い。 ガンダムマイスターである前に、一人の人間だ。心が弱くなる時だってある。けれど、明日にはいつもと変わらぬ、強い光を宿す瞳になってくれるといい。アレルヤも刹那も、そう思っていた。 二階へ上がると、廊下は真っ直ぐに伸びるものと、右側に折れるものとに分かれる。ロックオンは右に曲がり、三つ目の扉の前で足を止めた。厚みのある木製の扉を、軽く二度叩く。 「ティエリア、俺だ。部屋に入っていいか?」 自爆テロが起きた公園から戻るなり、ティエリアは二階への階段を無言で登ってしまった。この扉の中で、独りきりだ。 「ティエリア、入るぞ」 部屋の主からの応えはなく、ロックオンは再度呼びかけてから、ノブへと手を掛ける。銀色をしたそれを下へ押せば、扉は抵抗もなく開いた。 「ティエリア・・・」 ロックオンが部屋の中へ入ると、目的の少年は正面にある大きな出窓に浅く座り、ガラスを通して見える木々の緑へ顔を向けていた。細い体に近づいても、ティエリアはロックオンへ視線を移すことはしない。ガラス越しに映る、ティエリアの唇が動いた。 「・・・何か用ですか?俺はあなたに用はありません」 「そう言うなよ。俺はお前を独りにさせたくなくて、ここに来たんだ」 ティエリアのすぐ傍に立ち、ロックオンが白い頬を見下ろせば、ガラスの中で眼と眼が合った。ティエリアが不思議そうに首を傾げる。濃い紫の髪が、さらりと流れた。 「・・・何故?俺がどこで何をしていようと、あなたには関係ない」 「関係ないってことはないさ。自爆テロを見ちまったんだ。こういう時に独りだと、気分が滅入るだろ」 「・・・気分が・・・滅入る・・・?」 ティエリアがロックオンの言葉をなぞる。紅い瞳が、ようやく青い瞳を見上げた。そこには意味が分からない、といった怪訝さが浮き出している。 「ティエリア?」 「自爆テロは、確かに俺たちの眼の前でありました。でも、それだけのことです。俺が感傷的になったとでも思いましたか?」 「ティエリア・・・!」 感情の読めない淡々とした口調に、自然ときつい眼差しになってしまう。 屋敷に戻ってからティエリアを一人きりにさせてしまったのは、もちろんロックオン自身が混乱と動揺をしていたこともある。しかし、理由は他にある。 あの赤い光景を見ていた紅い双眸に、感情と呼べるものは一つもなかった。人間として感じるであろうものが、何もなくて。アコーディオンの男だったモノと、赤い赤い血の海と。現実に起きてしまった悲劇を、単に瞳に映している。ロックオンには、そう見えた。悲劇と共にある、人々の想いも涙も、ティエリアには届いていない。届かない。 事実しか見ず、その裏側にある沢山の小さな物語は、この少年にとって不必要なものと認識されているのではないか。不必要というよりは、関係のないものかもしれない。屋敷への道すがら、そればかりが気になった。 怖いのは。 人の死を目の当たりにしても、それだけしか見ないこと。 どうしようもない感情のうねりが、この少年に欠けていること。 自爆テロを、それだけのことと言い切ってしまう少年は、人の心を知らなさすぎる。一体どんな環境で育てば、こんな哀しいことを言う人間となってしまうというのか。 公園で見せた虚ろさは、影を潜めている。が、潜めているだけであって、完全に消えてはいない微粒子がある。 本当のティエリアを知る、いい機会だ。ロックオンは、部屋に備わっている一人用のソファに座ると、小さく息を吐いた。 「なぁ、ティエリア。俺たちがこれからしようとしていることは、紛争やテロで失われる命が、一人でも少なくなることを願ってのことだよな」 「願うというのは、違います。そうなるように世界を変えるのが、ソレスタルビーイングです」 「あぁ、そうだな。だったらさ、今日のようなテロが・・・・・眼の前で起きたテロなんだ。お前には、怒りや哀しさがないのか?」 ティエリアの胸の内を引き出すように、ロックオンは言う。ガンダムマイスターは、必要以上の感傷を持つべきではないのかもしれない。そうでなければ、モビルスーツになど乗れはしない。人の命を奪うのも、ガンダムマイスターだ。 けれど―――。 世界に対しての、行き場のない憎しみを抱き続けているから、引き金を引く覚悟がある。まして手の届く場所で起きたテロに、心が痛みを訴えないはずはないではないか。 ティエリアの眼が伏せられる。白い頬に、影が落ちた。 「・・・あなたがどんな答えを望んでいるのか知りませんが、俺には怒りも哀しみもありません。事実があるだけです」 「事実って・・・」 「人は簡単に人を殺す。一方で、紛争やテロがなくならないと嘆く。矛盾だらけの人間は、愚かで嫌いです・・・」 まだその後に続けたい言葉があるのか、余韻を感じさせながらもティエリアの唇は結ばれた。ロックオンは暫し彼を見つめる。 ―――矛盾だらけの人間は愚かで嫌い 確かに人の心に、矛盾は存在する。憎い相手がいるからといって、銃を向けていいはずはなく。ティエリアの言いたいことは、分からないわけではない。 しかしだ。 矛盾を抱えているから人間なのだ、とも言える。矛盾とは、処理することの出来ない感情だ。ロックオンは、それを抱えている。抱えながら生きている。だから、ソレスタルビーイングに入った。 世界を変えたい、変えるきっかけを作りたい。眼に見える形で、世界が答えをくれるのなら、もういいじゃないかと自分自身に言える気がして。 刹那もアレルヤも、己だけが知る何かと戦い、答えを見つけるためにここにいるのだろう。世界への、想いと共に。 ならば、ティエリアは―――。 違和感があるのだ。今の短い会話を通しても、そう感じるものがある。 人の成長の過程で養われる、心の発達が未成熟のように思う。テロに対して、怒りも哀しみもないと言ってしまうのも、矛盾だらけの人間は愚かで嫌いだと言ってしまうのも、人との交わりが極端に少なかったから、いともあっさりと声に乗せてしまうのではないか。憶測ではあるが、多分正しい。 ロックオンたちとティエリアでは、生きてきた世界が違うのだ。同じガンダムマイスターでも、同じ理想を求めていても、根っこの部分が違う。ティエリアが幸せな過去を持っているのか知らないが、人の心の痛みが分からないのは、可哀想なことだ。感情の欠けた子供。 「・・・ティエリア、人は許したくはない、許せない憎しみを抱くことがあるんだ。今日のテロで犠牲になった人たちの肉親や友達は、怒りと哀しみと憎しみを、どこにぶつけたらいいのか分からないまま、長い時間を過ごす。決して消えない痛みを持ち続けて、それでも同じ悲劇が起こらないよう、平和を祈る。これは矛盾したことじゃない。人の強さだ。分かるか?」 「・・・何故そんなことを聞くのです?俺には関係ない」 「関係ないって言うなよ。人として、人間としての心だ」 「そんなもの・・・」 浅く腰を下ろしていた出窓から、ティエリアが立ち上がる。二人の視線が重なった。 「ティエリア・・・?」 「そんなもの、人間の心など分かりたくもないし、知りたくもない。知ったところで、今日、俺たちの前で死んでしまった人間に、何が出来るというのです。事実は変わらない。哀しんだところで、生き返りはしない。赤い・・・赤い血は、止まらない・・・」 ロックオンを見て話しているティエリアの瞳が、少しずつ少しずつ焦点を失って行く。テロ直後の虚ろさが、再び現れたような危うい色。 「ティエリア・・・お前・・・」 「俺はソレスタルビーイングの理念を受け継ぐため、ここにいる。それ以外のものは、何もいらない。心など、眼に見えない不透明なものに、振り回されたくない。余計なものなどいらない・・・」 紡がれたティエリアの言葉に、ロックオンは暫し声が出せないでいた。 ―――余計なものなどいらない それはきっと、心であり感情だ。人が人であるために、持っているもの。けれど、心などいらないと言う。それが正しいことだと信じている、と言っても過言ではない。否、信じているというよりは、信じることで自分を護っているのかもしれない。自分の殻の中で、精一杯自分を保とうとしているのではないか。 揺れる二つの赤い色を前にして、ロックオンは少年のことを考える。二年近く一緒にいても、互いのことはほとんど知らない。初めましてから始まった関係は、ガンダムマイスターとしての接点でしかなく。少年の表面の部分しか触れてはいなかったが、今は内面へと近づいている。 近づいている分、気付く。 少年―――ティエリア・アーデは、これから成長する小さな子供と同じだ、ということを。 体は成長していても、人への想いや心が本当に欠けたままなのだ。もしかしたら、それらに触れることを、恐れているのではないか。だから、いらないと、知りたくないと言うのだ。マイスターとしての実力は充分でも、精神的な不安定さを持っているようで。 もしもティエリア自身が、心の底から怖いと思うことに襲われたとしたら。 知らないから、何もいらないと言えるのだ。知ってしまったら、ティエリアにとって未知の恐怖にしかならない。この虚ろさが、それを物語っているようにも見える。 動かないティエリアへ、ロックオンは足を向ける。そっと近づいて、彼の背に腕を回す。細い体は、大人しくロックオンの胸に収まった。 「・・・ティエリア、人は人と関わって生きて行く。誰も一人じゃ生きられないだろ。他人を知ると、感情が生まれる。お前はいらないと言ったけれど、とても大切なものなんだ」 「大切だろうが何だろうが、俺はいらない」 「そうか・・・。でもいつか、人の痛みや哀しみが、お前にも分かればいいなって思うよ。ソレスタルビーイングは、世界の愁いのために存在している。紛争を無くすだけじゃない。そこにある、沢山の傷のために俺たちがいるんだ」 傷を負う者として、ロックオンは語る。今は伝えきれない想いも、いつかティエリアに届くと信じている。やはり、もっと沢山、共にいる時間を持った方がいいのかもしれない。そうすれば、ティエリアのことが今より知ることが出来る。 ロックオンは抱き締めいていた腕を緩めて、少年の顔を覗き込んだ。未だぼんやりとした双眸に、胸がチクリと痛みを覚える。 「ごめんな。お前を問い詰めたいわけじゃなかったんだ」 「・・・・・たい・・・」 「ん・・・?」 「・・・帰りたい・・・。宇宙へ帰りたい・・・」 小さな呟きに、ロックオンは紫の髪をくしゃっと撫でる。 「分かった。お前さんのお望み通り、トレミーに戻るか」 これ以上、地上で休暇を消費するより、ティエリアが安心感を得られる宇宙へ、戻った方がいい。何より本人が望むのなら、それを優先したい。 地上よりも静かな宇宙へ。 四人がトレミーに戻ったのは、それから三日後のことだ。 |