あいさつ
 レンデルのファンは多いと思います。当然、こんなものを作って、おまえは何様だ、と思う方もいらっしゃる でしょう。そこで、あいさつにかえて、自己紹介をば。
 私は今までに、パラパラと期間をあけ、すべてのレンデル作品を読んでいました。そして今回、 この館を開設するにあたり、それらをすべてもう一度読み返しました(横浜市立図書館に感謝)。つまりレンデルの 翻訳本を2回ずつ読んでいる読者、ということになります。
 もちろん、それでレンデル作品の権威だと名乗るつもりはありません。原作ですべての作品に目を通されている 方もいらっしゃるでしょうし、ご自分の本棚にレンデルの翻訳本をすべて所蔵し、すでに数えきれないほど何度も読み 返している方もいらっしゃるでしょう。そういう方々に比べれば、私など、しろうとに毛が生えた程度のものです。 ですから皆様も、毛が生えた程度の愛読者がレンデルを紹介している、という程度に受けとっていただけたら、 充分かと思います。
 自分たちなりには一生懸命作りましたが、間違いも多々あるかもしれません。私たちと同じレンデルが好きな 読者の方々のために、なるべくこの館の精度を上げていきたいと思っておりますので、なにか間違いに気づかれましたら、 掲示板等でお知らせいただけるとありがたいです。よろしくお願いします。                      (にえ)

 

レンデル作品の特徴
<1> なんと言っても心理描写の巧みさ、細やかさ。その細部にわたる描写の緻密さは上品で知的な女性から粗野な肉体労働者、はては異常心理者にいたるまで 完璧に表現され、読むものを圧倒します。

<2> ストーリー展開の上手さ。二つのまったく関係なさそうな事件を絡ませたり、 解決までに二回、三回とどんでん返しを繰り返させたりと、読者の推理を追いつかせない展開で 結末まで縺れこませる手腕。しかも、それだけの大業を繰り返しながらも無理を感じさせない。 多作でありながら、練りこまれたそのストーリー作りの上手さには脱帽させられます。

<3> 設定の面白さ。レンデルは読むたびに違う、と語る愛読者は多い。登場人物から場面の設定まで、 けっしてワンパターンにはまることなく、あらゆる設定で楽しませてくれます。

<4> 皮肉と余裕。レンデルの小説には、偏見に満ちている人、金ですべてを解決しようとする成金根性の持ち主、 などなど鼻持ちならない登場人物たちが皮肉たっぷりに描写され、時には胸がすくほどひどい目に遭わされています。 そうして読書を喜ばせながら、レンデルはいつもずっと後に控え、にやりと笑っているのです。けっして感情をむき出しにして、 読者をうんざりさせるような思い入れたっぷりには書き方をしない。その余裕と、読者を喜ばせようとするサービス精神がレンデル作品を 面白く、質高くしています。

<5> 登場人物の厚み。レンデル作品の登場人物は、悪には善が含まれ、強さには弱さの含まれる複雑な人たちばかりです。 レンデル自身、薄っぺらな人物像なんて大嫌いと宣言するとおり、複雑な精神構造を持った人物たちが物語をよりリアルにしています。

<6> 豊富な知識。週に5冊、分野を問わずあらゆる本を読むというレンデルらしく、知識の豊富さには驚かされます。 ミステリ作家に不可欠な医学、薬学の知識はもちろん、芸術全般、文学の古典から最新に至までの幅広い知識から若者文化まで、あらゆる知識が作品に盛り込まれ、 より豊かな読み応えに仕上げています。

<7> 独自の美意識。レンデルは何事にも揺るがない強靱な美意識を持つ作家です。この精神が貫かれているため、作品の振幅がなく、 安心して読める作品群が形成されています。

 

補足と蛇足
 今回、ルース・レンデル館を作るにあたり、いくつかのサイトで、レンデル本の書評を拝見させていただきました。その中で驚かされたのは、各作品の評価が、 読む人によってまったく違うということ。ある人が「期待通りの作品、レンデルの代表作と呼んでさしさわりない傑作」と評している作品を、別の人は、 「まったくの期待はずれ、レンデルらしさがまったく見られなかった」と評しているのです。

 私はそれこそが、まさにレンデルの魅力だと思います。 レンデルの魅力は一面ではない、多面である。そして作品によってその多面性を鮮やかに使い分けているのです。だから、読者によってレンデルに期待するものが違い、 作品ごとの評価が違ってくるのも当然の結果なのです。

 読むものの期待によって評価が180度違う、つまり、レンデルは書評がまったくあてにならない作家なのかもしれません。 できれば、何も期待せずに読むことが望ましいのでしょう。いらぬ期待さえしなければ、多種にわたる小説のタイプの完璧な形をレンデルに与えてもらうことができます。

 しかし、人には好みがあり、最初に読んだ作品の印象はどうしても残るものだし、無意識のうちになんらかの期待をしてしまいます。だから、自分の目で、自分の好きな レンデル作品を探すしかないのかもしれません。ひとつも好きな作品がないかもしれないし、全部好きになるかもしれない、たまらなく面白い作品と悲しくなるほど 退屈な作品の繰り返しに悩むかもしれません。

 ただ、これだけは確信を持って言えます。あなたがどう思おうと、レンデルの作品に駄作や失敗作はひとつとしてない、レンデルは類い希なる才能を持った 特別な作家です。