わたしの村からは
わたしの村からは見える 地上から見えるかぎりの世界が……
だからわたしの村はほかのどこにもおとらず広い
わたしの背丈はわたしの身長でなく
わたしの視界とひとしいのだ……
都会では この丘の上のわたしの家ほど
広く生きることはできない
都会では そこここの大きな家が視野をかたく閉じ込め
地平線をかくし わたしたちの視線を空のなお彼方へと押しやる
それらはわたしたちを小さな存在にかえる 眼が与えてくれるものを奪うからだ
わたしたちを貧しくする 見ることよりほかにわたしたちの富はないからだ
フェルナンド・ペソア詩選「ポルトガルの海」 P54 池上岑夫訳 彩流社
わたしは羊飼
わたしは羊飼
羊はわたしの想念
それはすべてのわたしの知覚したもの
わたしは考える 眼と耳で
手と足で
そして鼻と口で
花を考えるとは花を見ること 香りをかぐこと
果物をたべることがその果物の意味を知ることだ
だから暑い一日
その一日を心ゆくまで楽しんだあまり寂寥におそわれ
草の上に身を横たえて
ほてる眼を閉じると
全身が実在のなかに横たわっているのを感じる
フェルナンド・ペソア詩選「ポルトガルの海」 P55 池上岑夫訳 彩流社